異界渡りを手に入れた無職がスローライフをするために金稼ぎする物語   作:パラレル・ゲーマー

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第166話

 グランベル王国王都。

 大陸経済の中心地として栄華を極めるこの街の、さらに心臓部とも言えるラングローブ商会本店。

 その最上階にある豪奢な会頭室は、今日も今日とて世界を揺るがす密談(という名の雑談)の場となっていた。

 

 上質な革張りのソファには、この世界の常識を遥かに超えた二人の客人が座っている。

 一人は、いつものTシャツにスウェットというラフな格好をした青年、新田創。

 そしてもう一人は、透き通るような銀髪と深紅の瞳を持つ十歳ほどの愛らしい少女――その正体は、かつて世界を滅ぼしかけた『神星龍(ディバイン・スター・ドラゴン)』、通称シンだ。

 

 シンは目の前に置かれた銀の盆に、山盛りになったプリン(ラングローブ商会特製、王室御用達モデル)を、目にも留まらぬ速さでスプーンですくい、次々とその小さな口へと吸い込ませていた。

 

「……んぐんぐ。……ふむ、悪くない。

 ……日本のコンビニエンス・ストアとやらで食した『なめらかプリン』には及ばぬが、卵のコクとカラメルの苦味が絶妙なハーモニーを奏でておる。

 ……合格じゃ。ゲオルグよ、おかわりを持て」

 

「ははっ! ただいま!」

 

 大陸一の豪商であるゲオルグ・ラングローブが、額に脂汗を浮かべながら給仕のように走り回っている。

 彼は目の前の少女が「魔法使いハジメ様の遠い親戚」という触れ込みであることを聞かされていたが、その身から滲み出る隠しようのない『格』の違い――生物としての圧倒的な上位オーラに、本能的な畏怖を感じていたのだ。

 

「……やれやれ。食い意地が張ってるな」

 

 創は呆れたように苦笑しながら、ティーカップを傾けた。

 

「……で、どうだシン?

 この世界の人間のことだけどさ。

 ……俺が配った魔石やスキルジェムは使えてるみたいなんだけど、彼ら自身が『魔法』を使うことはできないみたいなんだよね。

 ……なんとかならないもんかな?

 日本みたいに、訓練すれば使えるようになるとか」

 

 創の問いかけに、シンは五皿目のプリンを平らげながら、つまらなそうに鼻を鳴らした。

 

「……んぐ。……うーむ、無理じゃな」

 

 即答だった。

 

「……無理?」

 

「……うむ。

 ……さっきからこの街の人間どもを観察しておったが、こやつらの肉体構造は根本的に『魔力回路』が欠落しておる。

 ……日本人のように退化して眠っているわけではない。最初から『無い』のじゃ。

 ……器がない者に水を注いでも溢れるだけよ。

 ……因果律改変能力(魔法)を素で使うのは、遺伝子レベルで改造でも施さぬ限り不可能じゃな」

 

「……なるほどねぇ。

 ……地球人は、たまたま素養があっただけか」

 

 創は納得したように頷いた。

 やはりこの世界の人間(ヒューマン)にとって、魔法は高嶺の花ということか。

 

「……だが、それにしては……」

 

 シンはスプーンを置いて、テーブルの上に転がっていた一つの小さな宝石を手に取った。

 赤く輝く『ファイアボール』のスキルジェムだ。

 彼女はそれを太陽にかざし、その深紅の瞳を細めた。

 

「……『スキルジェム』とは、よく言ったものじゃな。

 ……これを作ったのは誰じゃ?」

 

「……これを武器や防具の穴(ソケット)に嵌め込むか、あるいは直接皮膚に押し当てれば、誰でも魔法が使えるようになる」

 

「……ほう。

 ……これは凄いのう」

 

 シンが感嘆の声を漏らした。

 Tier0の神である彼女を唸らせるとは、相当なものだ。

 

「……魔法の術式そのものが極限まで圧縮され、物理的に結晶化しておる。

 ……しかも使用者の魔力回路を介さず、ジェムそのものが外部演算装置(プロセッサ)として機能し、現象を確定させておるわ。

 ……これならば魔力を持たぬ赤子でも、あるいは猿でも、トリガーさえ引けば魔法が放てる。

 ……因果律改変能力なしで結果だけを引き出すとは……。

 ……壊れてる(チート)のう、これは」

 

「……ははは。やっぱりそう思う?」

 

 創は笑った。

 

「……日本では、これが広まると社会秩序が崩壊するからって配ってないんだ」

 

「……賢明じゃな。

 ……こんな物が市場に出回れば、翌日には世界が燃えるわ」

 

 シンはジェムをテーブルに戻した。

 その会話を聞いていたゲオルグは顔を青ざめさせながらも、必死にメモを取っていた。

 

(……ス、スキルジェムとは、神の視点から見ても『壊れている』代物なのか……!

 ……恐ろしい……。我々は、とんでもないものを扱っているのだな……)

 

 ゲオルグは冷や汗を拭い、恐る恐る会話に割って入った。

 

「……あ、あの、魔法使い様。

 ……魔法が使えないのは残念ですが、我々としてはこのスキルジェムの恩恵だけで十分にございます。

 ……騎士団は一騎当千の精鋭となりましたし、生活面でも魔石のおかげで劇的な変化が起きております」

 

「……ほう?」

 

 創が興味を示す。

 

「……はい。

 ……先日、職人ギルドと魔法研究所が共同で、魔石を動力源とした自律型作業人形……『ゴーレム』の試作に成功いたしました。

 ……まだ動きは緩慢で、単純な力仕事しかできませんが、鉱山での採掘や建築現場での資材運搬に大いに役立っております」

 

「へえ! ゴーレムか!

 ……そいつは凄いな。産業革命、待ったなしじゃん」

 

 創は身を乗り出した。

 自分が与えたリソースを使って、現地の人々が独自の技術を発展させている。

 それは何より嬉しい報告だった。

 

「……それと、もう一つ。

 ……こちらをご覧ください」

 

 ゲオルグは恭しく、一つの小箱を差し出した。

 中には、美しい銀細工のイヤリングが入っていた。

 

「……これは?」

 

「……『翻訳の耳飾り』にございます。

 ……魔法使い様が以前我々に授けてくださった知識……『魔力による思念伝達の原理』を応用し、開発いたしました」

 

 ゲオルグは誇らしげに胸を張った。

 

「……これを身につければ、言葉の通じない異国の民とも、ある程度の意思疎通が可能になります。

 ……まだ精度は完璧ではありませんが、商談や簡単な挨拶程度なら問題ありません。

 ……これが今、周辺諸国の商人や外交官たちの間で大人気商品となっておりまして!

 ……生産が追いつかないほどなのですよ!」

 

「……マジかよ」

 

 創はイヤリングを手に取り、まじまじと見つめた。

 彼が日本政府に与えた『万能翻訳機(神の道具)』に比べれば遥かに劣るだろう。

 だがそれでも、「人間が自力で作った」という意味では快挙だ。

 

「……凄いですね、ラングローブさん。

 ……これ、日本にも教えたいですね。サンプル貰えますか?

 ……向こうの科学者たちに見せたら、腰を抜かすかもしれませんよ」

 

「……はい! 喜んで!

 ……最高級のものを包んでおきますね!」

 

 ゲオルグは満面の笑みで答えた。

 自分の商会の商品が異界の賢者に認められたのだ。

 これ以上の名誉はない。

 

 その様子を見ていたシンが、呆れたように呟いた。

 

「……翻訳魔法なんぞ、基本中の基本じゃがな……」

 

 彼女は六皿目のプリンに手を伸ばしながら、ボソリと言った。

 

「……そうか、日本の奴ら、まだその程度の魔法も自力では使えんのか。

 ……仕方ないのう。

 ……今度帰ったら、あやつら(プロジェクト・キマイラ)の夢枕にでも立って、術式のヒントくらい教えてやるか……」

 

 彼女は、自分がどれほど日本政府に甘いか自覚していなかった。

 あるいは、美味しいスイーツを提供し続ける彼らに対する、神なりの「情け」なのかもしれない。

 

 この間、彼女は驚異的なスピードでプリンを吸い込み続け、テーブルの上には空いた皿の塔が築かれていた。

 

 

 商会での用事を済ませた創とシンは、王都の街へと繰り出した。

 護衛もつけず、お忍びの散歩だ。

 

 王都のメインストリートは、今日も活気に満ち溢れていた。

 道の両側には露店が立ち並び、香ばしい匂いと呼び込みの声が響き渡る。

 

「……ほう。

 ……人間どもめ、なかなか楽しそうな顔をしておるではないか」

 

 シンは人々の笑顔を見て、満足げに頷いた。

 かつて彼女を幽閉していたメザドベアの民たちは、常に何かに追われるような暗く淀んだ目をしていたことを思い出す。

 それに比べれば、この街の空気は遥かに清浄で、そして温かい。

 

「……そりゃあね。

 ……腹いっぱい飯が食えて、平和なんだから。

 ……笑う余裕もあるってもんさ」

 

 創は言いながら、串焼きの屋台で足を止めた。

 

「……おじさん、これ二本ちょうだい。

 ……タレ、たっぷりで」

 

「……へいよ!

 ……おっ、嬢ちゃん可愛いねぇ!

 ……オマケして、肉を一つ多く刺しておいたよ!」

 

 屋台の親父が、巨大な猪肉の串焼きを渡してくれる。

 そこには創が卸した醤油と砂糖、そしてニンニクをベースにした特製ダレがたっぷりと絡まり、炭火で焼かれて香ばしい匂いを放っていた。

 

 シンは串焼きを受け取ると、小さな口を大きく開けてかぶりついた。

 

「……はむっ。

 ……んぐんぐ……」

 

 咀嚼する。

 そして、その瞳が輝いた。

 

「……うむ! 美味い!

 ……この甘辛いタレと肉の脂が混ざり合って……!

 ……それに、ピリリと利いたこの刺激……!

 ……香辛料が利いてて、食欲をそそるのう!」

 

「……だろ?

 ……日本の焼き鳥……じゃなくて焼き豚の味だ」

 

 創も自分の串を齧りながら、ビール(異世界のエール)を飲む。

 最高の組み合わせだ。

 

「……まあ、食文化に関しては、ワシの知ってる他の文明世界と同等……いや、それ以上かもしれん。

 ……やはり『火』と『手』を使った料理には、魂が宿るわ」

 

「……おい、いいこと言うね」

 

「……日本が例外的に変態的なだけじゃな。

 ……あの国の食への執着は、信仰に近いものを感じるぞ」

 

 シンは串を綺麗に平らげると、次なる獲物(屋台)へと目を向けた。

 

「……おかわり!!!

 ……あそこの揚げパンみたいなのも美味そうじゃ!

 ……ハジメよ、金を出せ!」

 

「……はいはい。

 ……今日は、お大尽(スポンサー)になるよ」

 

 二人は食べ歩きを続けた。

 揚げパン、スパイスの利いたスープ、果物のジュース。

 シンは小さな身体のどこにそれが入るのか不思議なほど、次々と食べ物を吸い込んでいく。

 

 そして夜。

 二人は王都で一番の賑わいを見せる酒場『陽気な猪亭』の暖簾をくぐった。

 

 店内は冒険者や商人たちでごった返していた。

 喧騒と熱気、そして酒の匂い。

 

「……いらっしゃい!

 ……おや、子供連れかい?

 ……うちは酒場だが、飯も美味いぞ!」

 

 店主が元気よく声をかける。

 

「……一番高い酒と、一番高い肉料理を持ってこい。

 ……あと、この嬢ちゃんには果実水を」

 

「……ぬかせ。ワシも酒を飲むぞ」

 

 シンが不満げに言った。

 

「……え、お前、未成年……見た目だけど……」

 

「……失礼な。ワシは数万歳じゃ。

 ……酒の一つや二つ嗜んで、何が悪い」

 

「……まあ、そうなんだけどさ……。

 ……絵面的にどうなのよ……」

 

 結局、創は折れて、シンにもエールを注文した。

 運ばれてきたジョッキは、シンの顔よりも大きい。

 

「……くぷっ、くぷっ、くぷっ……。

 ……ぷはーッ!!!」

 

 シンは豪快に飲み干した。

 口の周りに泡の髭を作りながら、彼女は満足げに卓を叩いた。

 

「……うむ! やはり肉には酒じゃな!

 ……この苦味が脂を洗い流してくれるわ!」

 

 彼女は全く酔った様子がない。

 顔色一つ変えずに二杯目、三杯目と飲み干していく。

 神の肉体には、アルコールの毒素など瞬時に分解されてしまうのだろう。

 

「……シン、凄い食べるね……。

 ……お腹、壊さない?」

 

「……愚問じゃ。

 ……ワシの胃袋は亜空間に繋がっておる。

 ……どれだけ食おうが、全てエネルギーに変換されるわ」

 

 最強の燃費の悪さを誇る神様だった。

 

 二人は深夜まで飲み明かした。

 この世界の活気、人々の笑顔、そして美味しい食事。

 それらは、かつて孤独な檻の中にいた龍神の心を確実に癒やしていた。

 

 

 翌日。

 王都での観光を終えた二人は、次なる目的地へと向かうことにした。

 

「……さて。

 ……王都も楽しかったけど、次はもっと『新しい場所』に行ってみようか」

 

 創は街外れにある巨大な建造物――『界穿ゲート』の前で言った。

 そこは王都と、新大陸『ネオ・グランベル』を繋ぐ次元の回廊だ。

 

「……次は新大陸行くよ。

 ……あっちには騎士団員さんたちが常駐してるし、彼らがスキルジェムを使いこなしてるのも見たいだろ?

 ……それに新大陸は魚が美味しいみたいだよ。

 ……刺身とか寿司とかも、あるらしい」

 

「……ほほう!」

 

 シンの目が、またしても輝いた。

 

「……魚か! それは良いのう!

 ……日本の『スシ』はワシも気に入っておる!

 ……新鮮な魚が食えるなら、どこへでも行くぞ!」

 

「……よし、じゃあ行こうか」

 

 二人はゲートの光の中へと足を踏み入れた。

 

 一瞬の浮遊感。

 そして次の瞬間、彼らを包み込んだのは、王都とは全く違う野性的で力強い風だった。

 

「……おお……!」

 

 シンが感嘆の声を上げた。

 

「……空気が美味い!!

 ……それに魔素が濃いのう!

 ……ここは生命力に満ち溢れておるわ!」

 

 目の前には広大な草原と、その向こうに広がる青い海。

 そしてその手前には、活気に満ちた開拓都市が広がっていた。

 

 木造の建物が整然と並び、煙突からは煙が上がり、人々が忙しく行き交っている。

 市場には新大陸特有の珍しい果物や巨大な魚が並べられ、商人たちが大声で取引をしている。

 

「……すっかり街になってるね」

 

 創は懐かしそうに目を細めた。

 

「……1ヶ月前までは、ここに街は無かったんだよ。

 ……俺がゲートを開いて、みんなが移住してきて……。

 ……人間ってのは、本当に逞しいよな」

 

「……ほほう、凄いのう……。

 ……短命種ゆえの爆発的な生命力か。

 ……見ていて飽きんわ」

 

 二人は街を抜け、騎士団の駐屯地へと向かった。

 そこではアステリア王国の宝珠騎士団の精鋭たちが、訓練に励んでいた。

 

「……せいッ! はぁッ!」

 

 掛け声と共に剣撃が交差する。

 彼らの身体は淡い光に包まれ、その動きは常人の域を超えていた。

 スキルジェムによる身体強化だ。

 

「……おや、やってるやってる」

 

 創が近づくと、休憩中の騎士団員の一人が気づいて駆け寄ってきた。

 

「……あ! 魔法使い様!

 ……ようこそお越しくださいました!」

 

「……やあ。調子はどうだい?」

 

「……はい! おかげさまで!

 ……新大陸の魔物は手強いですが、ジェムの力のおかげで、なんとか互角以上に渡り合えています!

 ……最近では森の奥に住む『恐竜』のような魔獣とも、小規模な戦闘を行いました!」

 

「……へえ、恐竜と戦ったのか。凄いな」

 

 創は感心した。

 彼らは確実に強くなっている。

 

「……ですが、やはり強敵に備えて、もっと強い力が必要だと痛感しております。

 ……特に『ボス級』の個体に対しては、今の装備では決定打に欠ける場面もありまして……」

 

 騎士は少し悔しそうに言った。

 より強い敵、より困難なミッション。

 それは冒険者の性(さが)であり、ゲーマー魂を刺激する言葉だった。

 

「……なるほどね。

 ……強い装備、必要だよね!」

 

 創はニヤリと笑った。

 彼は次元ポケットをごそごそと探った。

 

「……じゃあ、これなんかどうかな?」

 

 彼が取り出したのは一本の奇妙な剣だった。

 刀身はねじれたように歪んでおり、その表面には解読不能な古代文字が刻まれている。

 そして何より、その剣からは禍々しくも神々しい、矛盾した(パラドキシカルな)オーラが立ち昇っていた。

 

「……じゃーん!

 ……ユニーク装備・『パラドキシカ』だよ!!」

 

「……ぱ、ぱらどきしか……?」

 

 騎士が目を丸くする。

 

「……これ、俺が向こうの世界で手に入れたレアドロップなんだけどさ。

 ……本来は装備要件(ステータス要求)が厳しくて、普通の人間には扱えない代物なんだ。

 ……でも俺の能力で、ちょこっと『因果律』をいじって誤魔化しておいたから。

 ……今の君なら装備できるはずだよ」

 

 創は剣を騎士に放り投げた。

 騎士は慌ててそれを受け取る。

 

 ズシリ。

 

 重い。

 だがその重さは不快なものではなく、まるで身体の一部になったかのような一体感があった。

 そして柄を握った瞬間、全身に電流が走ったような感覚に襲われた。

 

「……こ、これは……!」

 

 騎士の手が震える。

 

「……持ってるだけで……力が湧いてきます!

 ……魔力が剣から身体へと逆流してくるような……!

 ……なんですか、この剣は!?」

 

「……ふふふ。

 ……それだけじゃないよ」

 

 創は悪魔の囁きのように言った。

 

「……その剣の最大の特徴はね。

 ……『この武器による攻撃ダメージは常に2倍になる』という、シンプルにして最強のプロパティ(特性)なんだ!」

 

「……に、2倍……!?」

 

「……そう。

 ……どんなに硬い装甲も、どんなに強靭な魔物も。

 ……その剣で殴れば、理屈抜きで倍のダメージが入る。

 ……いわば『確定クリティカル』みたいなもんだね」

 

 それはゲームバランスを崩壊させかねないチート装備だった。

 だが現実(リアル)で使う分には、これほど頼もしい武器はない。

 

「……ほら、振ってみて」

 

「……し、失礼します!」

 

 騎士は訓練用の岩に向かって剣を振り下ろした。

 軽く、本当に軽く振ったつもりだった。

 

 ズドンッ!!!

 

 爆音。

 岩が、まるで爆弾が埋め込まれていたかのように粉々に砕け散った。

 斬ったのではない。

 衝撃で「消滅」したのだ。

 

「……ひぃっ……!?」

 

 騎士が腰を抜かす。

 周りで見ていた他の団員たちも、絶句して固まっている。

 

「……あー、ちょっと威力出過ぎたかな?

 ……まあ慣れれば、手加減もできるようになるよ。たぶん」

 

 創は笑って誤魔化した。

 

 その様子を後ろで見ていたシンが、顔を引きつらせていた。

 

「……凄い神気を感じる剣じゃな……。

 ……あれは、この世界の理で作られた物ではない。

 ……『矛盾(パラドックス)』を具現化した概念武装……。

 ……因果を無視して結果を倍増させるなど……。

 ……こわ……」

 

 神様さえもドン引きする性能。

 それが『パラドキシカ』だった。

 

「……こ、これは……凄い物を頂きました……!

 ……感謝します、魔法使い様!

 ……この剣があれば、どんな魔物も恐るるに足りません!

 ……必ずや、この新天地を守り抜いてみせます!」

 

 騎士は剣を掲げ、涙ながらに感謝した。

 彼は知らなかった。

 その剣が後に、「大陸を割る魔剣」として神話に語り継がれることになることを。

 

「……うんうん。大事に使ってね」

 

 創は満足げに頷いた。

 アイテム整理もできたし、喜んでもらえたし、一石二鳥だ。

 

「……さて。

 ……用事も済んだし、次は『魚』だな!」

 

 創はくるりと振り返り、海の方を指差した。

 

「……シン、行こうか!

 ……港の食堂で、獲れたての海鮮丼が俺たちを待っている!」

 

「……おお! 海鮮丼か!

 ……それは楽しみじゃ!

 ……さっさと行くぞ、ハジメ!」

 

 シンは恐怖も忘れて目を輝かせた。

 やはり食欲は全てに勝る。

 

 最強の神と、最恐のチート装備ばら撒き魔の珍道中は、まだまだ続く。

 新大陸の開拓史に、また一つ訳の分からない伝説が刻まれた瞬間だった。

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