異界渡りを手に入れた無職がスローライフをするために金稼ぎする物語   作:パラレル・ゲーマー

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第169話

 日本の地下深く、茨城県筑波研究学園都市の地下要塞『サイト・アスカ』。

 普段は無機質な静寂と、張り詰めた緊張感に支配されているこの場所が、今日に限っては、全く異なる種類の熱気と、そして抗いがたいほどの芳香に包まれていた。

 

 特別応接室。

 その中央には、いつものアンティークテーブルではなく、豪奢な円卓が設えられている。

 部屋の片隅には最新鋭の厨房設備が持ち込まれ、そこでは白い調理服に身を包んだ数人の男たちが、神業のような手際で中華鍋を振るい、炎を操っていた。

 カンカンカン、という小気味よい金属音と、油が爆ぜる音、そして蒸気の噴き出す音が、外交の場とは思えぬ賑やかなBGMを奏でている。

 

 円卓の上座に座るのは、銀髪の幼女――『神星龍(ディバイン・スター・ドラゴン)』ことシン。

 彼女の深紅の瞳は、これまでのどんな会議の時よりも真剣に、そして鋭く輝いていた。

 その視線は、次々と運ばれてくる料理の一皿一皿に釘付けである。

 

 その対面に座すのは、中華人民共和国の特使として来日した、王毅(ワン・イー)政治局常務委員。

 中国共産党の重鎮であり、冷徹な戦略家として知られる彼だが、今日の表情にはいつもの鉄仮面のような厳しさはなく、自国の文化への絶対的な自信と誇りがみなぎっていた。

 

 そして、その様子をハラハラと見守る日本側の代表、宰善茂総理大臣、綾小路俊輔官房長官、そして内閣情報調査室の橘紗英。

 

 これは外交交渉ではない。

 これは食という名の「戦争」であり、神の舌を巡る世紀の「料理対決(バトル)」だった。

 

「……神星龍様」

 

 王毅が流暢な日本語で、恭しく口を開いた。

 その声は穏やかだが、背後に控える料理人たち――中国全土から選抜された特級厨師(とっきゅうちゅうし)たちの気迫を背負い、重厚な響きを持っていた。

 

「……本日は、我が国が誇る五千年の歴史の結晶、中華料理の真髄を、貴方様に献上したく存じます。

 ……日本の方々が用意される洋菓子や和食も、素晴らしいものでしょうが、医食同源、味の深淵においては中華に勝るものなし、と自負しております」

 

『……ほう。大きく出たな』

 

 シンはナプキンを首に巻きながら、不敵に笑った。

 その態度は、挑戦者を迎え撃つ王者のそれだ。

 

『……ワシの舌は肥えているぞ?

 ……日本の「ショートケーキ」や「スシ」、そして「カ・レー」……。

 ……それらを超える感動を、ワシに与えられるかな?』

 

「……ご期待ください。

 ……では、最初の一品を」

 

 王毅が合図を送ると、湯気を立てる巨大な陶器の壺が、うやうやしく運ばれてきた。

 蓋がされたその壺からは、まだ香りは漏れていない。

 だが、その佇まいだけで、中に封じ込められたものの凄まじさを予感させた。

 

「……料理名は、『佛跳牆(ぶっちょうしょう/フォー・ティアオ・チァン)』」

 

 王毅が静かに告げた。

 

「……そのあまりの香りの良さに、修行中の僧侶ですら戒律を忘れて、寺の塀を飛び越えて食べに来る……という逸話を持つ、福建料理の最高峰にございます」

 

『……坊主が壁を飛び越えるか。

 ……面白い名前じゃ』

 

 シンが身を乗り出す。

 料理長が恭しく壺の蓋を開けた。

 

 その瞬間。

 

 ボワァッ……!

 

 白い湯気と共に、爆発的な「香り」が解き放たれた。

 それは単なる良い匂いではない。

 数十種類の極上食材が、数日間にわたる弱火での加熱によって、その魂を溶け合わせ、凝縮し、熟成させた旨味の塊のような芳香だった。

 

 干しアワビ、干しナマコ、フカヒレ、魚の浮袋、干し貝柱、金華ハム、朝鮮人参、クコの実……。

 山海の珍味が複雑に絡み合い、互いを高め合い、一つの小宇宙を形成している。

 

「……っ!?」

 

 同席していた宰善総理たちが、思わず息を呑んだ。

 匂いだけで満腹中枢が刺激され、唾液が溢れ出てくる。

 これは暴力だ。嗅覚に対する、あまりにも甘美な暴力。

 

『……むっ!』

 

 シンの目が、カッ! と見開かれた。

 彼女の龍としての超感覚が、そのスープの中に凝縮されたエネルギーの密度を感知したのだ。

 

『……なんと……濃厚な……!

 ……これは、ただのスープではないな?

 ……食材の命のエキスが、極限まで濃縮されておる……!』

 

「……さあ、どうぞ」

 

 取り分けられた黄金色のスープを、シンは震える手でレンゲにすくった。

 そして一口。

 

 ズズッ……。

 

 静寂。

 全員が固唾をのんで見守る中、シンは目を閉じ、その味わいを反芻した。

 

 そして数秒後。

 

『……………………はぁ』

 

 彼女の口から、深い深い、とろけるような吐息が漏れた。

 

『……美味い……。

 ……いや、これは「美味い」という言葉では足りぬ……。

 ……滋味(じみ)……!

 ……五臓六腑に染み渡るとは、このことか……!

 ……海と大地の恵みが口の中で爆発し、そして優しく溶けていく……!

 ……なんという、なんという深さじゃ……!』

 

 シンは、もはや理性を保つことができなかった。

 レンゲを動かす手が止まらない。

 とろりと煮込まれたアワビの食感、フカヒレの舌触り、そしてスープの底知れぬコク。

 

「……フフフ」

 

 王毅は扇子で口元を隠して(日本の誰かさんの真似ではないが)、満足げに笑った。

 勝負ありだ。

 この佛跳牆を作るために、彼は国宝級の乾物を惜しげもなく投入させたのだ。

 神といえども、この味には抗えまい。

 

「……いかがですか、神星龍様」

 

『……見事じゃ。

 ……日本の料理は素材の味を活かす「引き算」の美学を感じたが……。

 ……これは対極……。

 ……全ての美味を重ね合わせ、高め合う「足し算」の極地……!

 ……料理とは、これほどまでに奥が深いものか……!』

 

 シンはスープを一滴残らず飲み干し、ふう、と満足げな息をついた。

 だが王毅の攻撃は、これで終わりではない。

 

「……お気に召していただき、光栄です。

 ……では、お口直しに甘味はいかがでしょう」

 

「……甘味!?」

 

 その単語に、シンの耳(ないが)がピクリと動いた。

 彼女にとってスイーツこそが主食であり、正義である。

 

「……中華料理における甘味……点心もまた、奥深いものです。

 ……本日は、その中でも特に調理が難しく、幻とまで言われる一品をご用意いたしました」

 

 料理人たちが新たな皿を運んできた。

 そこに乗っていたのは、一見すると、ただの黄色い餅のような丸い物体だった。

 湯気を立て、艶やかに光っている。

 

「……料理名は、『三不粘(サンプーチャン)』」

 

 王毅が紹介する。

 

「……『三つのものにくっつかない』という意味です。

 ……すなわち、皿にくっつかない。箸にくっつかない。そして歯にくっつかない。

 ……材料は、卵黄、砂糖、ラード、そして澱粉のみ。

 ……極めてシンプルですが、これを完成させるには、鍋の中で数千回、絶妙な火加減で叩き続けねばなりません。

 ……熟練の技を持つ特級厨師にしか作れない、まさに幻の菓子です」

 

『……ほう。

 ……見た目は地味じゃが……』

 

 シンは箸(使い方は日本で覚えた)を伸ばし、その黄色い塊をつついた。

 ぷにゅん、とした弾力。

 箸でちぎろうとすると驚くほど伸びる。

 だが王毅の言葉通り、箸には一切ベタつかない。

 

『……不思議な感触じゃな』

 

 一口大にちぎり、口へ運ぶ。

 

 ハムッ。

 

 その瞬間、シンの表情が再び凍りついた。

 そして、とろけるような笑顔へと変わっていく。

 

『…………んんんっ!

 ……甘い! そして優しい!

 ……卵の風味が濃厚で、砂糖の甘さがそれを引き立て……。

 ……何より、この食感!

 ……餅のようでありながら、もっと滑らかで、口の中で儚く消えていく……!

 ……これは……日本の「カスタード」にも似ておるが、それとは違う「温かい」甘味……!』

 

 シンは三不粘を次々と口に運んだ。

 シンプルだからこそ誤魔化しが利かない。

 その純粋な技術の結晶に、彼女は完全に魅了されていた。

 

 皿が空になった時、シンは静かに箸を置いた。

 そして居住まいを正し、王毅と料理人たちに向かって厳かに告げた。

 

『…………ふっ。

 ……負けたわ』

 

 その言葉に、日本側と中国側双方から、どよめきが起こる。

 神が敗北を認めたのだ。

 

『……甘味という分野では、日本の繊細なデザートもなかなかのものだが……。

 ……料理という総合芸術、そして火と鍋を操る技術という分野においては……。

 ……中国料理もまた、素晴らしい高みにあると認めざるを得ん』

 

 シンは心からの敬意を込めて言った。

 

『……見事なり。

 ……たかが食事、されど食事。

 ……これほどの味を生み出すために、どれほどの研鑽と歴史が積み重ねられてきたか……。

 ……その「重み」を、舌で感じたぞ』

 

 王毅は立ち上がり、深々と頭を下げた。

 その顔には外交官としての計算ではない、一人の中国人としての誇りと喜びが満ちていた。

 

「……過分なお褒めの言葉、恐悦至極に存じます。

 ……中華料理は五千年の歴史がありますからな。

 ……食は広州にあり。

 ……味にそこまで真摯に向き合える、貴方様のような方に召し上がっていただけて、料理人冥利に尽きるというものです」

 

 背後の料理人たちも涙ぐみながら抱き合っている。

 神に「美味い」と言わせたのだ。これ以上の栄誉はない。

 

『……うむ。

 ……「美味値千金(うまあたいせんきん)」じゃな……!』

 

「……そこまで褒めていただけるとは、料理人たちも喜ぶでしょう」

 

 シンは満足げに頷いた。

 彼女の中での「中国」の評価ランクが、一気に「要注意国家」から「美食の国」へと書き換えられた瞬間だった。

 

 

 食後の茶(最高級の鉄観音茶)が振る舞われ、場の空気が和んだところで。

 王毅はついに本題を切り出した。

 今回の訪問の真の目的。

 

「……ところで、シン様。

 ……素晴らしいお食事の後に、少しばかり立ち入ったことをお伺いしてもよろしいでしょうか?」

 

『……ん? なんじゃ?

 ……腹も満ちたし、機嫌は良いぞ。何でも聞くがよい』

 

 王毅はタブレット端末を取り出し、そこに一枚の絵を表示させた。

 それは、中国の故宮博物院に所蔵されている古代の「龍」が描かれた掛け軸の画像だった。

 

「……実は我が国の民の間で、ある噂が流れておりまして。

 ……シン様の本当のお姿……あの天を覆う巨大な龍の姿が、中国における伝統的な龍の姿とそっくりだという話がありまして」

 

 彼はシンの顔色を慎重に窺いながら続けた。

 

「……実際のところ、どうなのでしょうか?

 ……貴方様は中国にゆかりのある存在……あるいは我々の祖先が祀っていた神、そのものなのでしょうか?」

 

 その問いに、日本側の宰善総理たちが緊張した。

 これは例の「起源論争」の核心だ。

 もしシンが「うむ、ワシは中国生まれじゃ」などと言えば、外交問題が再燃する。

 

 シンはその画像をしげしげと眺めた。

 そして首を傾げた。

 

『……うーむ。

 ……似てるといえば、似ておるが……』

 

 彼女はあっさりと答えた。

 

『……ワシ、「神星龍(ディバイン・スター・ドラゴン)」という種族なんじゃが。

 ……別に中国由来というわけでもないしのう……』

 

「……そ、そうですか……」

 

 王毅が少し肩を落とす。

 

『……我らは星の海を渡る種族じゃ。

 ……特定の星や特定の国に縛られるものではない。

 ……たまたまこの星に不時着し、たまたまこの島国(日本)の地下に封印されていただけのこと』

 

 それは冷徹な事実だった。

 宇宙的視点から見れば、国境など無意味な線引きに過ぎない。

 

『……だがな』

 

 シンは茶を啜りながら付け加えた。

 

『……宇宙は広いが、同族が中国にいたんじゃないか?

 ……ワシの種族、わりと数がいる方だし……』

 

「……! 同族ですか!?」

 

 王毅が身を乗り出した。

 

『……うむ。

 ……我らは群れで行動することもあるし、単独で旅をすることもある。

 ……数千年前、あるいは数万年前……。

 ……この星のあちこちにワシの仲間が降り立ち、それぞれの土地で人間たちと関わった可能性は十分にあるのう』

 

 彼女は遠い記憶を探るように、天井を見上げた。

 

『……中国の大地は広大で、気の流れ(龍脈)も強いと聞く。

 ……居心地が良くて、そこに住み着いた変わり者の同族がいたとしても不思議ではないわ』

 

「……おお……!

 ……そうでしたか……!

 ……なるほど、やはり伝説には根拠があったということですね!」

 

 王毅の顔がぱあっと輝いた。

 「シン自身が中国の龍ではない」としても、「シンの同族が中国にいた」という言質が取れればそれで十分だった。

 国民に対して「我々の伝説の龍はシン様の同胞であり、やはり中国と龍の縁は深いのだ」と説明できる。

 面子は保たれ、外交的な火種も消える。完璧な落とし所だ。

 

「……なるほど。では国民には、そう説明しますね。

 ……我が国の龍信仰もまた、真実の一端であったと」

 

『……うむ。好きにするがよい』

 

 シンは軽く手を振った。

 そして彼女は少しだけ真面目な顔をして、さらに語り始めた。

 

『……今、ぱっとこの星の気配をスキャンしてみたが……。

 ……残念ながら、今現在は同族の気配はしないのう。

 ……もう星へ帰ったか、あるいは深く眠りについて同化してしまったか……。

 ……だが昔は、いたんじゃろな』

 

「……そうですか。今は不在と……」

 

『……お主たちの世界には、おとぎ話として力ある存在が登場するのは珍しくないじゃろ?

 ……空を飛ぶ仙人とか、山を動かす神々とか』

 

「……そうですね。

 ……中国では仙人や神々として数多くの伝承が残っております。

 ……封神演義や西遊記など……」

 

『……うむ。

 ……まあ大抵そういう輩は「宇宙人」か、ワシのような「神性生物」なんじゃが……』

 

 シンは、とんでもないことをサラリと言った。

 

「…………えっ?」

 

 王毅だけでなく、日本側の面々も固まった。

 宇宙人?

 

「……か、神々は宇宙人ということですか?」

 

『……うむ。

 ……未発達の文明に関与するのは、大体宇宙人じゃな……。

 ……星間航行能力を持つ文明が、現地の原始的な種族に知恵を授けたり、あるいは遺伝子操作で弄ったりするのは、よくあることじゃよ』

 

 彼女は退屈そうに言った。

 

『……まあ「魔法」を極めてるか、「テクノロジー」を極めてるかは違うがのう。

 ……魔法の方が極めるのが楽じゃし、資源もいらないから、魔法よりの神々が多いんじゃな!

 ……科学文明は資源の枯渇や環境汚染という壁にぶち当たるから、発展が遅いんじゃよ。

 ……その点、魔法は個人の資質さえあれば物理法則を無視して結果を出せるからのう』

 

「……なるほど……」

 

 長谷川教授が震える手でメモを取っている。

 これは「フェルミのパラドックス」に対する一つの回答かもしれない。

 高度な文明は、科学ではなく魔法へと進化する傾向がある。

 だから我々は電波望遠鏡で彼らを見つけられないのだ。

 

「……ということは、シン様」

 

 王毅が慎重に問いかけた。

 

「……現在、日本とアメリカが共同で研究している『魔法』……。

 ……あれを極めれば、我々人間も神々に通じる存在になれると?」

 

『……うむ。

 ……理論上はな』

 

 シンは頷いた。

 

『……魔法とは因果律への干渉権限じゃ。

 ……それを極めれば寿命を延ばし、星を渡り、あるいは新たな世界を創ることも可能じゃろう。

 ……まあ、人間の寿命じゃ無理じゃが』

 

 彼女は残酷な事実を突きつけた。

 

『……魔法の習得には時間がかかる。

 ……お主らの短い一生では、基礎を終える前に寿命が尽きるわ』

 

「……そこを、なんとか……」

 

『……そこは最初に「寿命を延長する魔法」を使えば良いんじゃがな!』

 

 シンは、いたずらっぽく笑った。

 

『……不老長寿。

 ……それこそが魔法の道への第一歩じゃよ。

 ……肉体の時間を止め、魂を固定化し、悠久の時をかけて理(ことわり)を学ぶ。

 ……そうすれば、いつかはお主らもワシの隣に立てるかもしれんぞ?』

 

「……寿命を延長ですか……!

 ……素晴らしいですね!

 ……それは始皇帝が求めてやまなかった夢……!」

 

 王毅の目が、野心にギラついた。

 中国が次に目指すべき目標が決まった瞬間だった。

 火星だけではない。

 不老不死の研究。

 それこそが国家の最重要課題となるだろう。

 

『……うむ。

 ……まあ、人間でもがんばれば出来るかもな!

 ……修行じゃよ! 修行!』

 

 シンは他人事のように励ました。

 彼女にとっては、人間の寿命が延びようがどうなろうが、美味しいお菓子さえあればどうでもいいことなのだ。

 

 

 会談は終わった。

 王毅は満面の笑みで席を立った。

 

「……シン様。本日は貴重なお話と、楽しい時間をありがとうございました。

 ……貴方様のお言葉、必ずや本国に持ち帰り、民に伝えます。

 ……龍は我々の友であり、目標であると」

 

『……うむ。達者でな。

 ……次に来る時は、もっと美味い点心を持ってくるのじゃぞ?

 ……小籠包とやらは気に入ったからの』

 

「……ははっ! かしこまりました!」

 

 王毅は深々と頭を下げ、退室していった。

 彼は外交的勝利(面子)と、そして「魔法による不老不死」という新たな情報を手に入れた。

 中国はこれから魔法研究に莫大な予算を投じることになるだろう。

 

 残された日本側も、安堵の息を漏らした。

 

「……ふぅ。なんとかなりましたね」

 

 宰善総理が肩の荷を下ろした。

 

「……中国のガス抜きもできたし、神星龍様の機嫌も損ねなかった。

 ……上出来でしょう」

 

『……おい、橘』

 

 シンが声をかけた。

 テーブルの上には、食べきれなかった料理がまだ残っている。

 

『……この残った料理、勿体ないから、とっておいてくれ。

 ……あとで夜食にする』

 

「……は、はい。冷蔵庫に入れておきます」

 

 神様は、どこまでも食いしん坊だった。

 

 こうして世界を巻き込んだ「龍の帰属問題」は、美味しい中華料理と宇宙人談義によって、あやふやに、しかし平和的に幕を閉じた。

 世界は再び、魔法と科学、そして未知への探求へと突き進んでいく。

 その中心にはいつも、「食」と「気まぐれ」があるのだった。

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