Elin 現地主人公 依頼受注もの   作:五位鷺

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実の妹をモンスターボールで捕獲された可哀想な冒険者

 

傭兵求む 期限 至急

火炎耐性に優れた冒険者を探している。報酬は現状用意できる最大の10万オレンだ。

-Bランク冒険者『不遜なる氷』アフーム

 

 そんな依頼を見かけたのはたまたまだった。

 

 

 

「――そうか、依頼を受けてくれて助かる。俺はアフーム、普段は北の方で活動しているがアンタの名前は聞いたことがあるぜ。」

 

 そして、それ以上の偶然として私は非常に優れた火炎耐性を持っていた。わざわざ募集の条件にもしているのだから相手は火を使うのだろう。もはや免疫とも呼べる炎への抵抗力を活かして10万オレンも稼げるなら是が非でも受けたい案件であった。

 

「それで詳しい内容なんだが、単刀直入に言うと攫われた俺の妹の奪還だ。一昨日、一緒に農作業をしていたときに突然知らない奴が現れたと思ったら、木刀で妹を半殺しにしてモンスターボールを投げて捕獲しやがった。」

 

 ……モンスターボールって人間相手にも使えたのか。普通、ダンジョンのモンスターを捕獲する用途でしか聞かないそれのあまりに物騒な話を聞いて少し引いてしまった。

 

「んで、その場でヤツをとっちめてモンスターボールを奪おうとしたんだが、あいつ俺が近づいた瞬間に炎の矢を打ってきてな、この通り左腕をやられた。それで俺が面食らってるうちに逃げられて追いつけなくなっちまった。」

 

 で、先日の負傷も残っており一人では厳しいため傭兵を募集していると。

 

「大切な妹なんだ。どうかよろしく頼む。」

 

 条件も報酬も魅力的だが、それ以上に不憫な目の前の銀髪の冒険者をみて私は可能な限り依頼達成を目指そうと決心した。

 

 

 

 アフームに案内されたのは木造の小さな民家で、彼が言うにはここで妹と暮らしていたらしい。とはいっても彼ははるか北のノイエルを拠点とする冒険者であり、普段は妹が一人で暮らしていたのだろう。久々の里帰りで家族と平穏に過ごしていたら、いきなりその家族がモンスターボールで捕獲されたとは不幸な男だ。

 

 入るなり食事を用意してくれると言われ驚いたが、クミロミ神を信仰している彼の作る手料理は非常に美味しく、ここヨウィンのとれたての野菜で作られたそれを食べていると体中に潜在的な栄養が届いていくのを感じる。

 

「お、良い食いっぷりだな。今日は早いとこ休んでくれ、明日は頼むぜ。」

 

 件の妹を連れ去った犯人の所在はもう知れているらしく、明日になれば討伐に向かうらしい。なんでも、とても小さな氷の粒を具象化し相手の外套に忍ばせたとか。

 

 農村の夜は早く、月が昇ったと思えば周囲の灯りはすでに消え始めている。この分では明日の討伐に向かうのも早朝となるだろう。

 貸し出された|お布団《この耐えがたい世界に残された最後の僅かな良心》に入り込み、眠りについた。

 

 

「よし、準備はいいな。ヤツはこの村から少し離れた森の中で一昨日から留まっていて、今も動きはない。何をしているかは分からんが好都合だ。道案内は俺がするから戦闘になったら頼む。」

 

 農村ヨウィンに別れを告げ、街道から逸れた森林をすすむ。途中、プチやイークのような雑魚が現れたが彼の前にみな瞬く間に氷の彫像となっていった。

 ふと気になったので彼に質問をしてみた。名声も高く戦闘も得意とするBランク冒険者であるのに、何故一介の誘拐犯相手に私のようなものを雇ったのか。

 

「――ああ、俺の体質は少し特殊で文字通り血が滾ってんのさ。そのお陰で身体は高温に保たれ、ノイエルでも低体温症なんてかかったことがない。ただ、逆にびっくりするほど火に弱い。一昨日の炎の矢での負傷も、傷自体は全くの軽傷だが高温に反応した身体の方が悲鳴をあげてる。おまけに耐熱エンチャント装備を付けても体質だからなのか効果が薄い。」

 

 先天性変異か、納得した私はバックパックからオレンジ色のタオルを取り出した。

 

「言っておくが耐熱ブランケットはもう試したからな。蒸し焼きにされかけた。」

 

 私はマダム殺しの耐熱ブランケットをそっとしまった。

 

 

 

 数時間ほど森林、草原を駆け抜け日も頂点に差し掛かってきたころ、アフームが休憩をとるといってテントを広げた。指先でツンツンすると所々ざらつきを感じるものの、つるっとした感触だ。紙製か、羨ましい。

 中に入るとそこにはまな板と調理台、大釜などが設置されており冷蔵庫もあることから通電しているらしい。渡された魚のソテーを食べていると、ちゃぶ台越しに腰かけた彼が口を開いた。

 

「ここから歩いて30分ほど、周囲より植物が密生している森林にヤツがいる。具象から感じられる魔力でおおよその位置は分かるが、都合よく奇襲ができるかも分からない。一旦、流れだけ聞いてくれ。」

 

 いよいよか。私は食後のコフィを息で冷ましながらじっと話に耳を傾けた。

 

「まず、俺の妹がモンスターボールから出されているか、捕獲されたままの状態なのかを確かめる。それまでは気付かれないよう隠密状態のまま待機しておいてくれ。で、もし妹がモンスターボールの中に入ったままなら俺がアイスメテオの魔法を唱える。」

 

 アイスメテオって何だよ。

 

「ああ、そういえばノイエル以北でしか使ってるやつを見たことがなかったな。簡単に言うとメテオの氷版だ。どでかい氷塊をありったけの冷気と一緒に落とすから寒冷耐性だけ最低限整えておいてくれ。もし装備がなければ俺の指輪を貸す。その後は、アンタが相手の炎を前で受け止めながら二人でヤツを殺すだけだ。」

 

 流石に冷気耐性装備くらいはあるが、先に言っておいてくれよ。

 

「そして問題が、妹がモンスターボールから出されて使役されている場合だな。流石にいきなりアイスメテオを打つわけにはいかないから、妹を守りつつ真正面からの戦いになる。この場合、俺が使える魔法は氷の矢と氷の具象くらいだ。早々外すなんてことはないが、光線や球の流れ弾で妹を傷つけることは避けたい。」

 

 まあ打倒な言い分だ。私も光線系や球系の魔法の使用は避けるとしよう。

 

「とは言っても策なんてのもないから、アンタは俺に炎が当たることがないよう戦ってもらえればそれでいい。」

 

 うん、ネフィアに潜っていれば強敵の強襲なんて日常茶飯事だ。ここはお互い冒険者らしく、私は前衛らしく最低限後衛に気を配って好きに戦えば文句はあるまい。

 

 

 

「よし、猫の目を使う。」

 

 討伐対象まで数百メートルといったところで、アフームの目が仄かに光輝いた。そのまま双眼鏡を取り出し、視界を遮る木々の少しの隙間から前方の様子を窺う。

 

「――なんだありゃ。アイツ、ここの土地の権利を取得しやがったのか?」

 

 気になったので私も目を光らせ、双眼鏡を覗いてみる。すると、そこには確かに住民と拠点を管理する掲示板が設置されていた。その横にはスズランの花のような形をしたランプがあり、それを囲うように地面が耕されている。

 少し横を見れば、幼い女の子が緑色の鎌を握って雑草を片付けていた。

 

「……妹だ。横の建物にアイツがいるのか? すまん、先に妹を近くに避難させてからヤツを殺す方針でもいいか。」

 

 悪くない。それならば私は先に建物の方に向かい、討伐対象が出てこないか見張っておこう。

 そんな会話を済ませ行動を開始した。

 

 

 

「あ! おにーちゃん!」

 

「……無事でよかった。いいか、今から誘拐犯をとっちめてくるからこの岩陰に隠れておくんだぞ。」

 

「分かった! おにーちゃんも気を付けてね!」

 

 草刈りをしていた緑髪の子はまさしく彼の妹だったらしく、私に向けていたものとは違ったや柔らかな表情を浮かべた彼が妹へと駆け寄った。

 まだ開拓の序盤も序盤だったのだろう。周囲には人ひとり隠れるには十分な岩や土くれが残っており、妹は建物から離れたそこに身体を隠した。

 

「助かった、後はヤツを殺してモンスターボールの効力を無効化させる。幸い妹も避難できてるし、まずはこのほったて小屋にアイスメテオを落とすぞ。」

 

 別に、脅して捕まえた妹の所有権を放棄させてもいいのではと思ったが、案外彼はちゃんと討伐対象である誘拐犯にキレているらしい。血の滾った彼の体温がそれでも少し底冷えするように低下していくのと同時に、マナが集められていくのを感じる。

 

 数秒の詠唱のあと、一瞬にして冷気が吹き荒れたと思えば頭上にパルミアの大釜くらいの氷塊が数個生成され、目の前の小屋を押しつぶした。

 これ、本当に私必要だったかな。

 

「なにこれ! ……あぁ、僕の農場予定地が!」

 

 ぺしゃんこになった残骸から何かが這い上がってきた。開拓途中に破壊されるのは胸が苦しいよな。

 とりあえず、アフームに攻撃が届くと不味いので誘拐犯の前に立ち魔力の矢を発射する。

 

「いきなりなんだよ! 初対面の人にはまず挨拶からって教わらなかったか?」

 

 全然効いてる感じがしない。なんなら私に向かって炎の光線を打ってきてるしコイツも挨拶くらいしたらどうなんだ。

 

「お前こそいきなり俺の妹を半殺しにした挙句モンスターボール投げやがって! いいからさっさと死ね!」

 

 炎の光線を全身で浴びながら接近し、引き抜いた短剣を振りぬく。喉元を断ち切ろうとしたが寸前で避けられ、炎の矢を乱射される。

 炎に関しては免疫なのでいいが、この魔法の精度で他の属性に切り替えられると面倒だな。

 

 後方ではアフームが誘拐犯の周囲に青白い氷の具象を生み出し、固定砲台のように周囲から氷の矢を放っている。

 

「なかなかしぶとい奴だな。氷どころか魔法そのものに耐性があるのか?」

 

 共感した私は、乱射される炎の矢を自ら受け止めながら鑑定の魔法を使用する。誘拐犯の装備を頭からつま先までじっと見つめ、

 

『それは反魔力粒子を帯びている』

 

 相手の異常な魔法への耐性の原因を突き止めた。左手の中指に付けられた指輪さえ無力化できればすぐに殺せる。

 アフームにテレパシーの魔法をかけ、自身の思考を読み取らせる。一瞬のアイコンタクトの後、私は武装を長剣へと変え誘拐犯との距離を詰めた。

 

『加速』『英雄』

 

 アフームからの魔法を受け入れた瞬間、時が止まったかのような感覚に陥る。なんだあいつ、加速の熟練度が高すぎる。

 スローモーションで私の周囲を流れる炎の矢を手のひらで消火しながら、誘拐犯の左半身を捉えた。

 

 そのまま、長剣を持ちあげ肩から腰の外側へ、思いっきり振りぬく。

 

 誘拐犯の左腕を跳ね飛ばし、ついでに首もどこかへ飛んで行った。なんで?

 

 

 

「ふう、やっぱり依頼を出して正解だったぜ。アンタがいなきゃこんがりと焼けておしまいだったろうな。」

 

 あの、なんで左腕切り落としたら首も切れたんですか?

 

「ああ、妹に貸してたクミロミサイズをちょっと返してもらってきた。」

 

 こいつクミロミ様の第一信徒のくせに妹にアーティファクト持たせてたのか、そりゃ誘拐もされるだろう。

 

 

 

 誘拐犯やアフームの魔法で壊滅した小屋と、一緒に荒れ果てた森林にはすぐミシリアの役人らしき男がやってきた。どうやら土地の権利者がいなくなったことでもう一度国有の土地として綺麗な森林への復帰を目指すらしい。

 

 私たちには特段何も言ってこなかったため、アフームと共にヨウィンへの帰路についた。

 

 

 

「この度は助力頂き本当に助かった。これが報酬の10万オレンと、後はなるべく保存のきく自慢の野菜たちだ。」

 

 ぱっと見でもビタミンの奔流や万色の輝きを有している野菜と、金銭を受け取り依頼が完了した。免疫のある魔法を受け止めて敵を両断するだけのお仕事で破格の報酬をもらいウキウキである。

 

 その後、彼の妹が愛情を込めて作った夕飯を頂きながら他愛のない世間話をし、穏やかな時間を過ごした。

 

「今回はこんなんだったが、炎以外の耐性はまともだし、氷に関しては抜けてると自負している。少ししたらノイエルに戻るから会う機会は少ないと思うが、困ったことがあれば何でも言ってくれ。」

 

「おにーちゃん、おにーちゃんと私を助けてくれてありがとう! またね、おにーちゃん!」

 

 完全に夜が更け、真っ暗になったヨウィンの門の前で最後の会話を交わす。悪くない依頼だった。

 街道にでて振り返ってもまだ手を振ってくれている兄弟に会釈をし、帰還の巻物を取り出す。我が家へ。

 

 

 

「ご無沙汰だったな、今回の旅はどうだった?」

 

 幻の空色のチューリップは流石のヨウィンにも無かったな。

 

 

 

 

 

配達依頼 期限 13日

ノイエルに住む親族に木彫りの熊を届けて欲しいでおじゃる。報酬は2700オレンでおじゃる。

-市民のヨワール

 

 そういえば、アフームとかいう冒険者は健在なのだろうか。たまには雪国旅行も悪くない、そう思い私は木彫りの熊を受け取った。

 

 とにかく、北へ。そう思いパルミアから歩いてきたが、唐突に財布の中の小さなメダルが30枚ほど溜まっているのに気が付いた。ついでに工房ミラル・ガロクで改造用レンチをもらってきてもいいかもしれない。

 

 届け先への到着は遅れるが以来の期限にはまだまだ余裕はある。進行方向をかえ、雪原の中にポツンと構えられた小さな工房を目指した。

 

 

 

「おお、よく来たな。小さなメダルを交換してくれるのか?」

 

 ああ、収納箱とベッド用の改造レンチを頼む。

 

 ふと、アフームのテントには冷蔵庫が設置してあったのを思い出した。彼もここには訪れたことがあるのだろう、ミラルにアフームについて知っているか、所在は分からないか聞いてみた。

 

「アフームか、何度か交換に来たことがあるから知っておるぞ。所在も何も、相変わらずノイエル周辺のネフィアを攻略していると聞いておる。」

 

 確かに、あれほどの氷の使い手なら永久凍土周辺の氷のネフィアの探索も楽だろう。何にせよ、配達先で待機していれば会えそうで良かった。

 ミラルからレンチを受け取り、地雷犬を撫で、工房を後にする。

 

 来るたびに思うのだが、お嬢の日記、妹の秘密の日記とは何なのだろうか。その二冊の横に*売り切れ中*の札がずっと置かれているので同じシリーズの日記を交換した変わり者もいるのかもしれない。もし会う機会があればどういうものなのか聞かせてもらいたいものだ。

 




「妹とは生まれたときから一緒でな。」
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