調査依頼 期限 14日
幻の雪プチの村の所在の手掛かりを得たでおじゃる。実際に調査してきてもらいたいでおじゃる。報酬は前金で3万オレンと達成後要相談でおじゃる。
-貴族のタダス
雪プチの村ってなんだ……?
我が拠点では年中無休でもふもふされている謎のうさ耳生物の名前に釣られ、気が付けば依頼主の下へ向かっていた。
「よく来たでおじゃる。そなたには雪プチの村で数日滞在してもらって、プチらがどのような生活を送っていたか報告してもらうでおじゃる。」
顔を合わせ口を開こうとしたや否や、被せるように依頼についての説明があり早々に受託が完了してしまった。パルミアの貴族ってやつはいつもこんな感じなので驚きはないが、もう少し落ち着いて話せないものなのか。
件の雪プチの村の位置が示された地図と潜入用のプチ変容のポーションを手渡され、明日には村へ到着するようせがまれた。
そこまで遠い距離でもない、明日の朝に出れば数時間でたどり着けるだろう。未だ昼下がりの街をぶらぶらして、クロムが不足していたなとテレビを破壊し、本日は休暇とした。
ノースティリスの冬は厳しい。たった一晩を明かしただけで前日までとは打って変わり、街は一面の雪に包まれた。
目的地はパルミアを出て北へ、ちょうど大使館への距離と同じだけを更に進み、森林の中にポツンと広がる盆地に到着した。
ここが、幻の雪プチの村か。おそらくローズウッド製の赤みがかった木の柵と、それに囲まれた小さな犬小屋のような建物が6つ。プチ小屋は村の中央に位置する焚火と鍋を囲うように円形に設置されており、3匹の雪プチがお互いにもふもふしている。
私はバックパックからプチ変容のポーションを取り出し、勢いよく飲み干すと急いで村の中央に向かった。
「(……おお、ここに雪プチ仲間が訪れるとは珍しい。)」
「(……旅プチか? ぜひ今日は泊っていって話を聞かせてくれよ。)」
「(ばぶぅ)」
白い雪プチが丁寧に話しかけてきて、赤い雪プチが空いているプチ小屋に案内してくれた。幼いピンクの雪プチはまだ赤ちゃんのようで、後ろをちょこちょこついてくる。
楽園だ! 私はロドウィンからプチ変容ポーションを大量購入することを決意した。
ここで、一応依頼のことも思い出しておこう。幻といわれつい最近確認された雪プチの村に潜入し、数日調査する。
実際に現地について考えると殆ど内容のない依頼だ。まあ、厳しい冬にもふもふに囲まれて羽を伸ばしていれば任務達成だと思えば役得以外の何物でもない。
赤雪プチにこれまでの旅の話をあくまでプチベースで面白おかしく聞かせ、提供されたクリムを肴に夜を過ごした。
白雪プチの話によればこの村にはあと2匹の雪プチが住んでいるらしい。明日は彼らとも交流してあわよくばもふもふを、そんなことを考えながらカシミアの毛布に身を包んだ。
*ぷちゅ*
……恐ろしい夜が明けた。
新たに会った雪プチと、私を含めた5匹が早朝から談笑していたころ、なかなかプチ小屋から出てこない赤雪プチの様子が気になり、戸を開けた先には凄惨な現場が広がっていた。
周囲に散乱する赤く染色されたカシミアの繊維と、その中心には『赤雪プチ』だったものが。
「(こ、これは一体どうなっているんだ。)」
「(ば、ばぶぅ……)(なんてことを……)」
「ちくしょう、赤雪プチさん……!」
「(グルルルル。)」
同じく赤雪プチの殺害現場跡を目にした他のプチ達もそれぞれ悲壮感に溢れた言葉をこぼす。
白雪プチは狼狽え、ピンク雪プチは寂しそうな鳴き声を上げ、猫耳黄色雪プチは悔しそうにつぶやき、黒雪プチは憤っている。
皆さん落ち着いて下さい、もしかしたら赤雪プチさんをこんなことにした犯人がまだ近くにいるかもしれません。そう私は告げ、一度村の中心へと戻った。
そして、『猫の眼』を自身にかけ、双眼鏡であたりを見渡す。周囲に他のモンスターの気配はない。
ふむ、村の唯一の出入り口であるフェンスゲートが夜間に開閉した痕跡もない。もしかして、この村の中にまだ犯人が残っているのか。
「(なに、まだ殺プチ鬼が村の中にいるかもしれないですと⁉ なんてことだ、いや、しかし……)」
白雪プチに報告をしたら、何か気になることを言い出した。
「(この村は初めから場所を知っている、もしくは同じ雪プチにしか見えず、門も通れないようになっているのです。となれば、これは内部の犯行かもしれない……)」
「確かにそうだったな。 ……おい、お前が昨日この村にきて今日赤雪プチさんが殺られたんだ。こんな偶然ってあるか?」
「(グルルルル。)」
白雪プチの話を聞いた猫耳黄色雪プリから疑いの目を向けられる。黒雪プチも憤っている。
確かに、私が訪れた夜に殺プチが起きたのだから容疑者扱いされるのも頷ける。
いや、しかし私は同じ仲間を手にかけるなんてことは絶対にない。元から持っている雪プチ種への愛情も込め、精いっぱいの弁明を尽くした結果、とりあえず個々の身の安全を図るため各プチ小屋で待機という流れになった。
日が沈み、月が姿を現す。赤雪プチの死体が発見されてから半日ほどたち、青白い月明かりが雪のカーペットに反射する中、一際明るく周囲を照らす焚火の前に我々は集まっていた。
「(いろいろ考えたのだが、やはりこれは内部犯の仕業だと思われる。つまり、この中に殺プチ鬼がいる。こんな環境ではもふもふ過ごすこともままならんし、投票で1匹のプチを追放するのはどうだろうか。)」
プチ狼が始まった。
「(まず、何か犯人の手掛かりがあるプチはいないか?)」
私がうさ耳をピコピコさせる。ちょうど、テレパシーの魔法が使えるのだ。誰か一匹に対して思考を読み取り、プチ狼かどうかを判別できる。
「そうなのか、じゃあどのプチに能力を使ってもらおうか…… いま場を仕切っているのは白雪プチさんだな。ずっと良くしてもらってはいるが、もしもということもありえる。俺は白雪プチさんを占ってもらいたい。」
「(ばぁぶぅ。)(さんせい。)」
「(グルルルル。)」
「(ふむ、確かに私も身の潔白を証明できる機会だな。旅プチさん、よろしく頼む。)」
テレパシーの魔法を唱え、白雪プチからの思念を受け取る。 ……白だ。プチ狼ではないらしい。
「(この通りだ。他に手掛かりのあるプチはいないか。)」
「(ばぶぅ。)(とくにないよ。)」
「ピンク雪プチは相変わらず何言ってるか分からないな。 いや、待て。ちょっと分かるぞ?」
昨日まではただばぶばぶ言っていたピンク雪プチだが、今日は相変わらずのばぶ語の奥に確かな意思疎通の欠片を感じる。赤ちゃん状態から少し、成長したのか。
「(おお、乳も飲んでいないのに言葉を解するようになるとは。 ……乳?)」
「白雪プチさん、俺も同じ答えに至ったぜ。」
まさか、自身の成長のために赤雪プチを殺害して乳を入手したのか。
「(ばぶばぶ!)(やってない!)」
ピンク雪プチは必死に耳をピコピコさせながら否定の言葉を口にするが、他のプチ達の視線は冷ややかだった。
「(もうじきに日が沈んで数刻が経つ。いい加減、追放するプチを決めなければならないだろう。)」
重い空気の中、白雪プチによって追放投票が始まろうとしている。
「(それぞれ、最も怪しいと思うプチにクリムの実を渡すことにしよう。では、私から)」
白雪プチは、ピンク雪プチのそばにそっとクリムを置いた。
それに続き、私こと旅プチ、猫耳黄色雪プチ、黒雪プチもピンク雪プチの方に目を向ける。
「(ば、ばぶぅ! ばぶぅ!)(ほんとうにやってない! しんじて!)」
「ピンク雪プチ、すまないとは言わないぜ。ここ数か月意思疎通を図れなかった赤ちゃんが急に話始めたんだ。」
「(グルルルル。)」
結果として4粒のクリムを毛皮に巻き込んだピンク雪プチは、猫耳黄色雪プチに寂しげに投票をし、とぼとぼと門の方へ向かっていった。
「(赤ちゃんだったあの子には酷だが、同族殺しは御法度。追い出した身ではあるが、目につかないところで好きに生きておいてくれ……)」
「ああ、明日には赤雪プチさんの供養もしないとだな。今日は早いとこ寝ちまおう。」
饒舌だった赤雪プチと、快活だったピンク雪プチのいない静かな雰囲気のまま、プチ達は各々のプチ小屋に戻っていった。
まさか、こんなことになるとは。明日は何事もなければいいが――
*ぷちゅ*
恐ろしい夜が明けた。
目が覚めてすぐ猫耳黄色雪プチと出会い、赤雪プチの埋葬と墓石作りをしようなどと話していた。しかし、その後いつもならば真っ先に焚火の横でもふもふしている白雪プチの姿がないことに気付き、プチ小屋の戸を開ければ、そこに……
「なんてこった。白雪プチさん……」
昨日と同様に散乱した真っ白なカシミアの繊維に、『白雪プチ』だったものがある。
「――とは、ならねえよな。」
何を言い出したのかと聞こえてきた言葉を反芻していると、猫耳黄色雪プチが見覚えのある瓶を取り出したかと思うと、それを飲み干した。
猫耳黄色雪プチだったものの身体がパッと輝き、一瞬の後にヒト型の姿を現す。
「俺は、このプチ狼における狂人だ。あんたらどっちがプチ狼なのかは知らねえが、ここで俺が追放されたら今夜にはプチ狼と雪プチの2匹村になる。へへ、ゲームの開始まで時間はとられたが楽しかったぜ。じゃあ、投票の時間だ。」
なんということだ。もうこの村には目の前の狂人と、おそらくプチ狼である黒雪プチ、そして私しか残っていないらしい。負けたのか、私は……
「(グルルルル。)」
黒雪プチは狂人に、仕方がないので私も狂人に票を集めた。二粒のクリムを受け取った狂人は満足そうな笑みを浮かべ黒雪プチに最後の投票を行う。
「旅プチさん、もしアンタが市民プチなら災難だったな。」
そう言い残した狂人は村の門をくぐり――
くぐろうとしたが謎の力によって弾かれたためもう一度プチ変容のポーションを飲み干し、夜の闇の中へと消えていった。
「(グルルルル。)」
黒雪プチがこちらを見ている。せめてもの抵抗だ、テレパシーの魔法を詠唱する。
「(グルルルル。)(コロスコロスコロスコロス……)」
黒雪プチは、殺戮の餓えに満ちていた。
*リン*
恐ろしい夜が、まだ明けてはいない。
プチ狼陣営とその他陣営の数が同数となった。
「ゲーム終了、冒険者陣営の勝利です。」
「まじかよ! くそ、初日にピンク追放できたときはプチ狼が勝つと思ったんだがな。」
「ふふふ、大穴の冒険者勝利。オッズ12倍でおじゃる……!」
「狂人何やってんねん。」
カジノ、フォーチュン・ベルの片隅、最も厳重に警備されたテレポーターの先にはVIP専用の新たなギャンブルルームが広がっていた。
この催しの名前は『プチ狼』
来年度には常設のギャンブルとして一般開放する算段で、水面下では依頼を受けた冒険者、繁殖させた雪プチ、フォーチュン・ベルの占有するエーテル抗体ポーションを悪用した殺戮プチ狼などを用いテストプレイが行われている。
それで、私も黒雪プチも迷惑なことに巻き込まれたのだろう。
現在位置はカジノの発電ルーム。手なずけて連れてきた黒雪プチと自身にテレパシーの魔法をかけ、依頼主である貴族が入り浸っているというVIPルームの近くで様子を窺っていた。
それにしても、まさか人為的に雪プチにエーテル病を罹患させ娯楽のために消費するとは。どのような仕組みであの村の映像を映し出しているのかは分からないが、一つ言えるのは私も、黒雪プチも少し思うところがあるということ。
私が持つ中でも最高に近しいレベルの神器を黒雪プチに装備させ、VIPルームへと続くテレポーターの前に立つ。
じゃあ、行っておいで。来月には迎えに来るから。
10、数える直前にテレポーターに乗るよう指示し発電ルームに戻る。9、8、7……
2、私は懐から少し大きめの爆弾を取り出し、発電機の横に設置する。
1、少し離れて、炎の矢を爆弾に当てるとともに脱出の魔法の効力が発動し――
*ゴゴゴゴゴゴ*
ゲームスタート、プチ狼は夜の行動を開始してください。
「ついでに、パルミアに赤い花を!」