依頼 期限 (無期限)
鍛冶にある程度明るく、信用のある者を募集している。詳しい内容はダルフィの鍛冶屋にて。合言葉は『ウワォー』。
-盗賊ギルド
ノースティリスには闇依頼というものがある。殆どはダルフィの盗賊ギルドによる募集で、ある程度信用のある対象に内密な手紙として送られてくる。依頼内容も報酬も明記されていない不審な紙切れではあるが、過去数度請け負ったものはそれほど非合法な内容でもなく、報酬もしっかりとしていた。
特に忙しい時期でもないので、ギルドの信用と金を稼いでやろう。そう思い、私はダルフィに向かった。
「夜分遅くにすまない。『ウワォー』。この言葉に聞き覚えは?」
「……あい、分かった。今回の依頼の仲介人かつ現場指揮を受け持っている、ゴードンだ。」
「よろしく頼む。で、内容は?」
「特段難しいものではない、とある場所で金属の加工と出来上がったブツを運んでもらうだけだ。目安として製造に3日、輸送に2日。報酬は盗賊ギルド経由で30万オレンとギルドへの貢献ポイント。受けるか?」
「ああ。」
これまでは要人の暗殺だったり、非合法な実験の手伝いなどをやらされていたので比較的マイルドな内容で驚いた。期間、報酬共に悪くない。
一つ返事で依頼を受注した後は早かった。
夜が明けるのを待つことなく、ダルフィから南に数十kmほど離れた石造りの建物まで馬車で送り届けられた。現場指揮官だというゴードンも共に来ている。
頑丈な石の柵に囲まれた木製の門が開いた先には、鍛冶、木工、場合によっては錬金術にも分類されるような多様な設備が据え置かれていた。
「ここが裏の製造所の一つだ。主に金属加工を取り扱ってる。」
「これは、凄いな。王族御用達の金属工の机まであるのか。」
「もうじき夜が明ける。こんな時間に連れてきてしまった上で言うのも申し訳ないが、作業は明日からになっている。右手に見えるマホガニーの宿舎ではどの部屋を使っても大丈夫だ。」
その後、珍しい木材で建てられた宿舎に加え、この場所のおおよその設備を説明してもらった。今日は特にやる仕事もないので、暇つぶし程度に見て回ることにしよう。
私の他にも同じ製造を担当する冒険者がいるらしく、別のルートで集められた彼らにも業務の説明をしてくると、ゴードンとは別れることになった。
数時間馬車の中というのは中々に身体が凝る。30階層相当のネフィアで捕獲されたケンタウロスに曳かせていたとしてもそれは変わらないらしい。
淡い赤色で高級感のある宿舎に入り、適当な2段ベットで横になる。軽く身体を休めてからはどこを見て回ろうか、結局何をする依頼なのだろうか、そんなことを考えながら目を閉じた。
4時間ほど経ったのだろうか。日は完全に出ているが、それほど日差しは強くないまさに朝という景色と空模様が目に入る。
カン、と甲高い音が奥の加工所から定期的に鳴り響いており、それを聞きながら2段ベットから足を下ろした。
「お、もう起きたんですか。どうせ今日のところは僕たち冒険者にやることなんてないし、もっと寝ていても良かったんですよ。」
聞こえてきた声に驚き、部屋の中を見渡す。数秒、左右に目をやったところで声が上から聞こえてきたことに気付いた。
探索の技能、言うならば索敵にはそこそこの自信があったのだが。
梯子から少し離れて見上げてみると、黒髪の冒険者がこちらを見つめていた。
……4つのベッドがあるのに、なんでわざわざ私の上に陣取ったのか。
「多分、この作業場に来たのは初めてですよね? 見ない顔だったので少し気になっちゃって上で時間を潰してました。」
ノースティリスの冒険者にしては珍しい丁寧口調の男は、ここにおいては先輩らしい。
「案内しますよ、そんなに見て回るところはないかもしれませんが。」
元からその予定だった上、ガイドまで付くというのなら断る理由もない。
どうぞよろしく、そういって軽い自己紹介を済ませた。
「ここが食堂で、いつでも使えます。海鮮は少ないけど冒険者が集まる都合上、ネフィア産の良い肉が卸されてるので美味しいですよ。食べていきます?」
アジスキと名乗ったその男に連れられるがまま、まずは食堂についた。
思い返せば、先日の夜にダルフィについてから今まで何も口にしていない。軽い空腹を感じた私は、『オーク』の霜降り肉のどんぶりを注文した。
それを見てうんと頷いたアジスキは敗残兵のコロッケを注文し、近くのテーブルの席につく。
思いのほか早く、数分で到着した品々を前に私は微笑みを浮かべた。
「朝だから提供も早いですね。温かいうちに頂いちゃいましょう。」
周りの卓にも数名の冒険者がおり、それぞれ食事をとっている。結構しっかりとした工房なのだろうか、ここは。
まあ、アジスキの言うことはもっともだ。どんぶりの上に被さった蓋をとり、さっそく頂くとする。
目の前では、いただきます、と言葉を発しながら手を合わせているアジスキの姿があった。食事の際に神に祈りをささげるとは珍しい信仰があるものだ。
そのまま懐から黒い液体、おそらく醤油を取り出しコロッケにかけている。
「え、コロッケに醤油はないだろって? いやいや、僕の自慢のぴちぴちアジの醤油なんですよ。それを言ったら貴方だってどんぶりにチーズは無いでしょう。」
しれっと自作の旅糧粉チーズを振りかけていたことを指摘された。
どうにかこうにかして栄養のある調味料を使おうとするのは冒険者の性らしい。
その後は宿舎の外にある井戸や屋外の設備、そして中央に位置する金属加工に関連する石造りの工房などを案内された。
ある程度過去に習熟したとはいえ久々の鍛冶ではあるので、その勘を取り戻すべく軽く鉱石を叩いたり、輝石を溶かしたりする。
アジスキと加工した金属製の装備の品質について競い合ったりして、ほぼ半日の間工房に閉じこもっていたら、すっかり夜になっていた。
「じゃあ、明日からはお仕事ですね。そんなに難しい作業でもないので貴方の腕ならすぐ慣れますよ。」
宿舎に戻った後はそんな言葉を残して、彼は私の上の段に上っていった。
初対面にしては中々話しやすい冒険者だったな。
日中の作業でかなりのスタミナを消費したらしい。横になってすぐ、意識が闇に落ちていくのを感じた。
カンカンカン、と鐘の鳴るような音で目が覚めた。
頭を上げ、窓を見るとカーテンの隙間から見える景色はまだ暗い。
「摘発だ! 逃げるぞ!」
現場指揮官のゴードンが焦った様子で手持ちの金床にハンマーを打ち付け、いかにも非常時といった音を鳴らしている。
それにしても摘発か。確かに、見るからに違法な作業場ではあったがここで何をしていたんだ?
私もここでお縄になるのは避けたいため、一斉に非難している他の冒険者の後を追う。横を見れば、アジスキも並んで走っていた。
「いやー、初めてここにきて、いきなり摘発とはついてませんね。今までは細かく拠点を移動させてたのに、今回はそのままだったから油断しちゃったんですかね。」
闇ギルド側の事情はどうでもいいが、結局ここは何をやっていたのかは気になる。もはや、潰れる職場だからな。
「この工房ですか? それは、途方もない価値の偽物の金塊の製造場ですね。金を溶かして、銅の延べ棒にメッキを施す、ほぼ錬金術の分野でもありますが。」
予定納税の返礼品ってここでできていたのか。ということは大本はミシr……
この件に深く首を突っ込むのはやめておこう。
宿舎の裏口を抜け、脱出路があるという工房に向かう。ちらっと門の方を窺えば、
「パルミアや! はよ開けんかい!」
飛び交う怒号と殴打される門、そしてそれを支える幾名かの冒険者が見えた。
「正面が突破されるのも時間の問題ですね。急ぎましょうか。」
アジスキは、こちらを気遣うかのように振りかえりながら足を速め、妙に落ち着いている。先ほど、既に何回もこの依頼に参加していたであろう発言をしていたが、思ったよりもベテランなのだろうか。
昨日、金床を叩いた工房の戸を抜け、溶鉱炉が設置されている石造りの部屋に入る。すると、前回は物置にされていた棚が綺麗に横にスライドされており、奥に隠し通路が繋がっていた。
「この先、一度地下に降りて洞窟を進みます。そしたら、道が二手に分かれるので、左に進んでください。行き止まりにテレポーターが設置してあって、ダルフィに連絡しています。」
流石はベテランだ、詳しい。
棚の横を通り、明らかに隠し部屋だという雰囲気の場所につき、大きな抜け穴にかけられた梯子に足をかける。
アジスキも同様に降りていったが、不意に先ほどの発言が引っかかる。
この先を左に進んで逃げろと言うが、まるで彼は同行しないような、最後の説明といった感じを覚えた。
一緒にダルフィに向かわないのか?
「ああ、実は右側にもテレポーターがありまして、そっちはルミエストの方に繋がっているんです。貴方はゴードンさんに連れてこられたから、ダルフィから来たって分かるんですよ。」
ああ、そういうことで。何から何まで、親切なやつだなぁ。
その説明の通り、数分ほど地下を進んだ先で、分かれ道に出た。後続はおらず、もたもたしていなければ危険もなさそうだ。
「では、お別れですね。今回は災難でしたが、まあ、こういうこともあります。」
うん、闇ギルドの依頼だし、仕方ない。じゃあ、私はダルフィに戻るから、また会うことがあればよろしく頼む。
「はい。いつ追手が来るかも分かりませんし、急ぐのをおススメします。それでは。」
それから、すぐにテレポーターまでたどりついた。帰るか。
というかこれ報酬はどうなるんだ。まあ、払われないよなぁ......
全く稼ぎにならない二日間を過ごしたという残念さと、それはそうとしてアジスキという良い感じの冒険者と知り合えたという成果を胸に、私は仄かに発行する円盤に足を踏み入れた。
*ギャァァ
なんだ今の声――
===
二つに伸びた地下道の、右側の先。本来ならばそこにあったであろう円盤が見当たらないことに、男は焦っていた。
前回の製造の際には、機械が得意だという黒髪の冒険者と苦労して設置したにも関わらず、結局使うことは無かった抜け道だ。自身で手掛けたのだから、そこに脱出路が無いはずがないのだ。
摘発を受け、施設内にいた近くの数名をつれ先導した先で、結果として行き止まりに案内した形になっている。
こうなっては、一度引き返して左側の転送機を使おうかと男は思案した。
しかし、その矢先に新たな足音が聞こえた。もう追手が来たか、と男は慌てて振り向いた。
「皆さん、お疲れ様です。ですが、どうしてまだ留まっているのですか?」
見覚えのある男だった。黒髪で、やけに丁寧な口調で、しかし顔は微笑を浮かべている。いや、常にニヤニヤしているといってもいい。
「お前か、驚かせるな。 ......いや、そんなことより、テレポーターが無くなっている。」
「ええ? おかしいですね。僕と貴方で上手い具合に調整して、費用も電力も色々大変だったのに。」
「......待て、話している暇はない。皆、一旦手前まで引き返して、別のテレポーターを使う。付いてきてくれ。」
黒髪の冒険者はやけに落ち着いていて、男が口を開かなければ、そのまま転送機設置の苦心を語り続けていたような雰囲気だった。
そして、男は連れてきた冒険者たちを見渡し、来た道へ足を進めようと一歩を踏み出した。
「あ、ダメですよ。」
突如、男は背後から電撃を浴びせられたかのような衝撃を感じ、その場に崩れ落ちた。視線が下に落ち、よく見ると自身の影が正面に伸びている。
「かっ、はっ、ファンネル.....」
視界の中の他の冒険者も、一瞬叫び声をあげた者もいたが、全員が眩く輝く矢に打ち抜かれ、動けなくなっていく。
「く、そっ、やけに摘発が早いと、思ったんだ。よりに、よって、お前かよ.....」
「横着して工房を使いまわすなんて、流石に所在が割れますよ。勾留の間にでも反省しておいて下さい。」
男は徐々に薄れていく意識の中で、闇ギルドからの予算が少ないせいだと悪態をついた。
その後、黒髪の冒険者は倒れている者どもを鋼鉄の手錠などで拘束し、引き返した。
数分後、パルミア勤めのガードがその場に駆け付けるまで、動くものはいなくなった。
「......全く、彼が製造に着手する前で良かった。アレを敵に回して、ロクな目に合う気がしない。」
===
***パルミア・タイムス***
『違法工房摘発!現場には数千Sにのぼる銅の延べ棒も』
先日、パルミア自警団のガードから違法な工房を摘発したとの情報が発表された。内部では、銅の延べ棒を加工することで違法な製品が作られており、専門家は闇ギルドによる常習的で計画的な犯行だと指摘している。市民の皆さんも、怪しげな依頼には気を付けて欲しい。
『謎のエージェントAは実在するのか?』
パルミア自警団の捜査の際に、よく話題に上がる人物としてエージェントAの存在がある。曰く、神経に作用する魔法を用いる、扱いの難しい具象の魔法を得意とする、ニヤニヤしているなど、彼に関する噂は尽きない。しかし、依然としてその殆どが謎に包まれていることも事実である。もし、新たに彼に捕らえられた者がいれば、パルミア・タイムス編集部まで!
☆世論調査☆
好きな飲み物は?
・クリムエール 2
・聖水 1
・ビア 0
・井戸水 0
・体液 0
☆今日の幸運の女神☆
うみみゃぁ!今日の君のラッキー食材は『人肉』だよ!だよ!
無事、ダルフィから我が家に戻った私は、郵便入れに投函されていた雑誌に目を通していた。
相変わらずアホな新聞だ。これを購読している住民には、新たな税金でも負担させてやろうか。
「おかえり、今回の旅はどうだった?」
ああ、はずれ依頼をつかまされたが、善い奴と知り合いになれたよ。
パルミア・タイムス購読税の学習書を願いながら、そう答えた。
(ロミアスはにやりと笑った。)
同じニヤニヤ族ですが、ロミアスとアジスキは別人です。
途中まで半年前に書いていたので、後日、不自然なところがあれば改稿するかもしれません。