夕暮れの街角。鷹嶺ルイは紙袋を下げて買い物帰りだった。ふと視界に入ったのは黒と白のコントラストが鮮やかな二人連れ。黒いケープと月のイヤリングのジープ、ダブルボタンジャケットに太陽イヤリングのシータ――まるで対を描くように歩くその姿に、彼女の理性が蒸発した。
(双子……! しかも男装×女装の姉弟……!? こ、これは……至高の領域ッ!!)
咄嗟に近くの自動販売機の陰に身を潜める。呼吸さえ止めんばかりに息を殺し、観察開始。
「それで、バイトの方はどんな感じなの?」
「相変わらず消されているみたい。本当に厄介よね、あの赤ガヴは」
「うわ~……本当に最悪だわ」
(声が重なる……! 会話のテンポ……! さりげないボディタッチ……ッ!)
心拍数が上がりすぎて耳鳴りがしてきた。スマホに映し出されるリアルタイム画像(彼女のバッグ内蔵カメラ)をスクショし続ける指が震える。
(これだけ距離があっても伝わってくる“同志”としての絆……やはり双子は神話の域を超えてる……)
一方、歩く速度を無意識に早めていた姉弟は困惑していた。
「……ジープ、誰かに見られてる気がしない?」
「そうね……嫌な視線じゃなくて、むしろ陶酔されてるような……?」
「とにかく撒こう」
突如走り出す二人。ヒールを履いているとは思えない加速。普通の人間ならすぐに見失う速さだ。だが――
(素晴らしい……! 高速移動でも左右の歩幅が均等に揃ってる……! 双子の神秘……!)
ルイは風景を読み、障害物を避けながら迷宮のごとく住宅街を最短で追尾する。普段は鈍いのに執念が脚力を超常の域に引き上げていた。息切れもなく姉弟の背後にぴったり張りつく。
「ちょっ、ジープ!どうなっているのさっきから!」
「分からないよ……私たちのスピードについて来れているなんて……!」
壁を蹴って屋根に飛び乗ったジープ。着地した瓦を踏み割ることなく滑るように疾走する。シータも続く。地上数十メートルの景色から地上を探しても、見慣れたジャケットは消えていた。
(流石にここまで来れば……)
ほっとしたのも束の間。
「綺麗な着地フォーム……ッ!! 石畳を砕かない配慮まで完璧……!!」
屋上の縁に立つ鷹嶺ルイ。右手には紙袋、左手は双眼鏡(自作)。顔だけ天井裏から覗かせる“這いずる鷹”スタイルで微笑んでいた。
「「ぎゃあああああ!?」」
「双子とは何か……それは世界の均衡であり摂理であり万物の理。貴女たちはまさに真理そのものッ! 汚れのない純度100%のてぇてぇが眼前にッ!」
恍惚の表情で演説するルイに、姉弟は。
「ヤバいよ!あんな人間がいるなんて聞いていないわ!」
「とっとにかく、逃げるわよ!!」
それと共に、二人はそのまま近くのドアに入る。
ルイはそのまま追跡しようとしたが。
「あれ?いなくなっている?可笑しいな」
そうしながら、ルイは疑問に思いながらも、その場から離れた。
ドアにある紋章に気付かないまま。