ライブ会場の裏方は喧騒に包まれていた。ペンライトが山積みの箱、スピーカー調整するエンジニア、スケジュールを確認するスタッフたち――そんな中、一人の青年がヘルメット姿で段ボール箱を運んでいる。
「・・・なんというか、ライブのスタッフが足りなくなったから急いで頼んだって聞いたけど」
「あの子、凄すぎるでしょ」
女性スタッフ2人が喋る。
「あんなに大量の荷物を持って駆け抜けるなんて……あれは何者なのかしら」
ヘルメットの下から覗く笑顔は純粋そのもの。井上ショウマ――人間とグラニュートのハーフは、ライブスタッフに混ざって会場設営を手伝っていた。
「おぉい、ウマショー!そっち終わった〜?」
金色のショートヘアが揺れる。甘根幸果――「はぴぱれ」の代表兼ショウマの雇い主がマイク片手に走ってきた。
「ハイ! 照明台車3台と機材スタンド15本、全部配置済みです!」
ショウマが敬礼しつつ答えると、幸果は目を丸くした。
「相変わらずすごいパワー!本当にウマショーがいるとこういう仕事は楽できるね~!でさぁ、次はお客さんの案内とグッズ配布なんだけど……」
「任せてください!」
笑顔で走り去るショウマ。だが数秒後――
幸果が振り返ると、もう姿はなかった。だが数百メートル先の入り口付近で手を振る黄色い影が見える。
「相変わらずだなぁ」
一方その頃――
「総帥、そろそろ本番ですよ!」
「わかってる!にしても、また大きなライブだなぁ」
控室の扉がバンッと開き、ラプラス・ダークネスが振り返る。そこに立っていたのは――段ボールを抱えたショウマだった。
「すいません!リハーサルがもうそろそろ始まりますので準備、お願いします」
そう、スタッフの1人がラプラス達にリハーサルの連絡をしていた。
「分かりましたぁ、ほら、総帥行きますよ」
「あぁ、分かっている」
「それにしても、さっき凄い噂になっていますよ」
「噂?」
「なんでも、とんでもない量の機材を積んでいても、涼しげな顔で搬入を行った人が居るそうですよ」
「もしかして、グラニュートかしら」
「さぁ」
「あんなに身体能力が高いなんて普通の人間でしかないだろうね。それにこのタイミングに限ってそんな話が出るなんて」
その時だった。ラプラスが顔を上げると、ショウマは既に背を向けて走り去っていた。だがその残像が脳裏に焼き付く。
「……なあルイ」
「はい?」
「今のって……ショウマ……?」
「ショウマ君が?まさかぁ、ショウマ君がこんな所に「あっラプラスちゃん!それに皆も!」いたね」
「おぉ、ショウマ殿!」
ラプラスの言葉を否定しようとしたルイは呟く。
だが、そのタイミングでショウマがラプラスに声をかける。
それと共にいろはも反応し、そのままハイタッチを交わす。
「なっなっ!なんでお前はここにいるんだ!!」
「えっ、なんかスタッフが足りないって、はぴぱれで依頼が来たから来てたんだけど」
「……そんなバカな」
ラプラスは信じられないと言わんばかりに呟く。
「あっ、それじゃ、俺!まだ仕事があるからまたねぇ!」
そう言って、ショウマはその場を去って行った。
「おっおい!このままじゃ、ヤバいんじゃないのか」
そうして、ラプラスは思わず呟く。
「ヤバいと言うと」
「あのショウマが、他の面々と会ったら、どうなるんだ」
『・・・』
ラプラスが発したその一言に対して、全員が否定する事が出来ず、思わず黙ってしまう。