オーバーロード 朽ちた大墳墓の超越者 作:金叉の猫
モモンガとクレマンティーヌは帝国に訪れていた。格好はそれなりに現地民に見えるように整えて、武器だけはナザリックで準備していた。
クレマンティーヌは返した装備よりも強力な短剣を二本渡されたために何でこんな物を貸し与えてくれるのかと聞いたら「ギルメンが作った物は思い出があるけど、そのイベントアイテムは在庫が複数あるからそっちなら壊れても気にしないし」とのこと。
クレマンティーヌは漆黒聖典の時にしていた装備は全て外して、服は帝国製の物で統一。装備は防具を除いて全部ナザリックにあった余り物だが、それすらも国宝級を遥かに超えている。華美ではないのでパッと見はそこそこ程度の装備に見えるだろう。
モモンガも格好としては剣士風だ。腰に魔法で作った片手剣を差して、胸当てなどの装備も全部魔法で作っている。クレマンティーヌはてっきり魔法使いとしての姿をするのかと思っていたので魔法を使ってまで剣士の姿をしているのは驚いたが、「クソトカゲに魔法を全力で使うことを禁止されているんだ」と言っていた。
あとナザリックにずっといたので現地のお金を持っていないのではないかと思ったら、案外お金を持っていた。というか、法国が評議国を通してナザリックに支払っている上納金だったようで、クレマンティーヌが評議国に行った用事で支払いをしていたお金だった。
ナザリックから借りている武具の使用料を評議国に一度支払い、それを評議国がナザリックに納めに行くというシステムを採用している。スルシャーナが竜王とそういう契約にしたようで、それらはきちんとモモンガに支払われていたようだ。
「返礼品としてはワールドアイテムと現地のお金って釣り合ってるのかわからないんだよな。ぶっちゃけ八欲王に奪われた神器級の方が損失としては大きいし……。それが返ってこないならどうでも良いかなって。このワールドアイテムも飲食ができるって意味では今の俺には有用なアイテムだからな。ユグドラシル時代だったら間違いなしのクソアイテムだけど」
モモンガは悪態をつきながらも世界を巡ってみたいということでまずは近場の帝国に来ていた。王国とどっちが先がいいかをクレマンティーヌに聞いて、王国の治安が悪いことを告げたら最初の観光から最悪を引くことはないとして帝国が選ばれた。
ナザリックを無人にするわけもなく、昔旅をしていた時に出会った極悪人をアンデッドにしてそいつらに留守番をさせている。不埒者はここ最近滅法減ったというか、ナザリックに漁る価値がないと誰もが気付いたために訪れる者も減ったが、何かあった時の留守番は必要だ。
帝国は活気のある街が多く、出店などもあった。モモンガは適当に食べ物を買い、歩きながら食べる。うまうまと言いながら笑顔で歩くモモンガの姿は、クレマンティーヌはまだ慣れなかった。
この人一応神様なのよね……?と思いながらも一緒に食べないかと言われて複数買った肉串を渡されて口に運ぶ。タレが少し濃い目に味付けされていたが、出店のものなんてこんなものだろうと彼女は思った。
モモンガは人間の外装を手に入れたことで食事や睡眠をアンデッドながらこなせるようになった。元データとは異なる人間種の外装データを手に入れるというのはユグドラシル基準で考えても実は破格な性能であり、種族変更すらレアアイテムが必要だったために人間種とアンデッドを切り替えられるというのはまさしく
戦闘面では何も役に立たないが、偽装という意味では完璧なアイテムだ。モモンガは試したことはないが、実のところ二十と呼ばれるワールドアイテムを使われでもしない限りモモンガがアンデッドだとバレることはなく、どんなアイテムや魔法を使ってもモモンガは人間種としてしか判断されない。
しかも偽名も登録可能なので本体の姿と名前を隠せるというのは情報戦においてはかなり有用なアイテムだった。
だが戦闘能力が一切変わらず、使える力も本体と何も変わらないのでロールプレイにもあまり使えず、しかもユグドラシル時代だったら装飾品スロットを一つ消費してまで装備できるのがこれというのは中々に産廃アイテムだった。
攻略wikiにもクソワールドアイテムとして堂々と記載されていたアイテムだ。それが異世界で人間性を取り戻させてくれるとは誰が思おうか。
「しっかしクソトカゲとの義務的な旅行じゃなくて今度はこんな美人さんと気の向くままの旅行だもんなー。いやあ、役得役得」
「っ!」
「ん?どうした?ティーヌ」
「……いや?何でもないよ、モモンさん」
「そうか?じゃあ早速冒険者登録をしようか。通行手形としてそんなに便利になったんだな」
二人は一応偽名で旅をする。まずは冒険者組合で冒険者登録をした。モンスター専用の傭兵のようなものでモモンガとしてはツアーと旅した頃からあんまり形態が変わっていなくて残念だったが、他国へ行く際には便利な肩書きのようでとりあえず冒険者になっておくことにした。
冒険者登録をした後に、依頼を受けることもなく組合から出るとモモンガは先程の組合の様子に首を傾げた。
「なんかやたらと注目されてなかったか?」
「多分モモンさんが貴族の三男辺りにでも見えたんでしょう。で、私が護衛。貴族の道楽として良い目で見られなかったんですよ」
「貴族?何で?」
「身なりが良くて、最初から装備が整ってますからね。有名な冒険者の子供でもなければ成金か貴族の子息としか思われませんよ」
「ああ、そうか。ほとんど農家の子供がなるんだったか。最初はグレードの低い武器しか持ってないはずなのに俺たちの装備が揃ってるからそう思われたと。まあ事実、道楽だからな。依頼なんてまともに受けるつもりはないし」
簡単な話が武装していても文句を言われないためだけに冒険者になっていた。それ以上の深い理由はない。
クレマンティーヌにはできるだけタメ口で話すように言っているが、二人きりになると言葉は丁寧になってしまう。プレイヤーがどれだけ強いかは法国では寝物語として散々言い聞かされているし、アンデッドなどを護衛にせず本当に二人旅なのだ。いざとなったら彼女が率先して守らなければならないと意気込んでいた。
強さ的な意味では心配ないが、彼にこの世界の常識があるかと言われたら微妙だ。ある程度のことは知っているが、この世界のことを伝えたのが評議国どころか世界で見ても最強のドラゴンだったために知識がかなり偏っている。本人もほとんどナザリックを出ずに引き篭もっていたので知識は80年前からあまり更新されていない。
モモンガがお上りさんのようにキョロキョロと街を見ながら回っていて気になったのが市民たちの呟く単語だ。騎士が巡回しているので治安は良いのだが、聞こえる言葉が随分と物騒だ。
「鮮血帝?って何だ?」
「最近帝国の皇帝になったジルクニフ陛下の二つ名だよ。皇位継承権を争っていた親族はもちろん無能な貴族を暴力で排除したから付いた名前」
「へえ、物騒だな。でもそれで治安が良くなったのなら悪いことじゃないか。これからの手腕に期待ってところかな?」
「そうだね。となるとモモンさんの没落貴族って設定も良いかも。皇帝に潰されないために庶民落ちして冒険者として頑張ろうとしましたっていう話は納得されやすいかもね」
「そういうものか」
帝国は改変期のようで捕縛されているような貴族の姿もあった。庶民的には良い改革のようだが貴族からは反発を受けるだろう。その鬱憤が溜まった際にクーデターでも起こされないかと思ったが、帝国の武力を持っているのは皇帝側なので武力で押し潰せるのだとか。
貴族も優秀だが、個々人の戦力は高が知れているので武力によるクーデターは意味がないというのが法国の見解らしい。このまま人類のためにジルクニフが国の舵を取ってくれるのが法国的にもありがたいようだ。
それくらい帝国も泥舟に落ちかけていたが、ジルクニフがどうにか盛り返したようだ。そうなっていないのが王国で、王国は今すぐにでも誰かが何とかしなければ腐り果てるだけのようだが、その切り込める人物が王族貴族にいないらしい。
このまま帝国がいっそ王国を併合してくれないかと法国は考えているようだ。それくらいジルクニフが優秀なことと、フールーダの存在が大きいらしい。
「え、あの爺さんまだ生きてるのか?俺が前に旅をしている時も帝国の重鎮とか呼ばれてたぞ?」
「200歳とかなんとかで延命の魔法を使っているとか。だから正確な年齢を知らないんだよね。第六位階魔法を使える人物は世界的に見ても優秀なので長生きしてくれるのは人類守護の観点からはありがたいですよ。この世界では結構そういう延命措置を取った強者は何人かいます」
「何だ……。人類最強もまだその辺りなのか」
「法国を除いて、ですよ。モモンさんのおかげでかなり強くなったみたいですから」
「俺のおかげというよりは、泥棒行為の結果だろ?元を辿れば八欲王のせいだし、500年前に現れたナザリックのせいなんだろうけどさ。俺のおかげとはまた別だろ。黙認しただけだし」
フールーダの話から法国の話になり、法国の戦力についてモモンガは詳しく知ることになる。そもそも神人というのをあまり知らなかったのでクレマンティーヌが年齢の割にレベル40を超えている理由に、プレイヤーの血というレベルキャップ解放があることを初めて知った。
そしてかなりの戦力があるのにエルフ国との戦争が終わらず、人類圏の確保も困難な理由はやはり人間種の中では強者が生まれにくいことと、エルフ王がとんでもなく強いことが原因らしい。エルフ王の子は英雄級の強さの子が多く、戦線の突破が難しいようだ。
状況を知ったからといって、モモンガが直接動くことはない。法国が味方なはずもなく、ツアーに行動を制限されている。人類同士の争いに手を出すなと言われており、ツアーと戦ったら死ぬとわかっているので今の所はツアーの言うことを守っている。
どうしても許せないことがあったらツアーと戦うかもしれないが、80年前の旅で人類に割と失望したので自分から手を貸したりはしない。彼は八欲王と同じ二の轍を踏まないために、そして神とも呼ばれたくないために過干渉はしないことにした。
二人は帝国の街々を巡り、帝都も観光した。闘技場で試合を観戦し、人類のある程度上澄みの試合を観戦して、モモンガは純粋な疑問を問いかける。
「ティーヌ、エンタメとしては面白いんだろうが、出場者的にはお金以外に何か得られるのか?」
「名誉も得られると思いますよ?闘技場は王国でも有名なので、チャンピオンにもなれば他国に名誉を知らしめたり、あとはプロモーターから支援が得られるとか。まあ、たかが知れていますがね」
「ふうん……。騎士へのスカウトとかもあるなら国としては興行と戦力補充の意味でも意義があるのか?何にせよ、帝国には頑張って欲しいんだよな?」
「ですね。人類圏ではまともな国ですから」
帝国は改変期ではあるものの、国民の笑顔が多いためにモモンガとしても悪くない国だと評価した。アンデッドのままだと特に感慨深くもならないが、ワールドアイテムを使用して人間の姿をしていると考えなども人間に近くなる。
飲食に睡眠などもできるために、人間のように過ごせる。アンデッドとしての特性は何も使えなくなるが、異形として残酷な精神を残すよりはよっぽどマシだった。能力的にはオーバーロードのままなのでワールドアイテムとしては本当にゴミのような性能だ。
それがこの世界では有用になって人間のままで生活できるのだから、よくわからないものだ。キャラクターの種族変更などはかなり貴重なアイテムだったので能力がそのままで外装だけ変えられるアイテムというのがワールドアイテム認定をされているのは時期などによっては有り得るとモモンガは推測する。
初期に実装されたアイテムが晩年からすればなんてことのない効果に成り果てているというのは長く続いたゲームではあるあるだ。レアリティも基本変わらないので、このアミュレットもそんな初期のアイテムなんだろうと推測する。数年経った頃には攻略wikiに当然のように載っていた。
ユグドラシルではそのアイテムがいつ実装されたかなんて本当にわからない。実装されていても取得できなかったら情報は行き渡らないのだ。
ただ外装や種族変更にはかなりナーバスな運営だったように思える。最初に作ったキャラを愛してほしかったのか、それともサブ垢のようなものを絶対に許さない潔癖症な人たちだったのか。外装を変える系のアイテムはそもそも数が少ない。
アイテムのレアリティなどが釣り合わないなんて当たり前、かと思ったら本当にぶっ壊れも存在するのだから運営はクソだなと今でも言えた。
ドッペルゲンガーがいるのに人間種の、しかも年齢や姿などが全て固定なためにこのアミュレットはクソアイテム認定を受けていた。モモンガもそこに一票を投じるだろう。今はありがたく使わせてもらっているが、ユグドラシル時代に苦労してワールドアイテムを手に入れたと思ったらこんな性能だったらブチギレている。
スルシャーナのギルドがよく保存していたなと感心するくらいだ。他のワールドアイテムの効果を受けない以外パッとしない能力なために、最終日のお祭りで売りに出されていてもおかしくはない。もしくは逆で、売りに出されていたこの微妙なワールドアイテムを最後の記念で買ったのか。
どちらにせよ、もう真意なんてわかりっこない。
もうそろそろ宿屋でも探そうかと街をぶらついている頃に、一人の人間がトボトボと歩いていた。金髪の少女のようだが、学校の制服のような物を着ている。まだ十歳にもなっていないような幼子だ。迷子かと思って、モモンガは声をかけた。
「お嬢さん。下を向いて歩いていては危ないよ?俺のような危ない人に攫われるかもしれない」
「……あなたが危ない?剣は持ってるみたいだけど、自分の身は自分で守れる。第二位階魔法だって使えるんだから」
「第二位階!その歳でそれは随分と優秀だな。では心配ごとかな?案外悩みごとなんて行きずりの人間に話したら解決するものだぞ。これを言っていたのは誰だったかな……。近頃はそんなことなくなったって言ってたから教授だったあの人かな?」
モモンガの言っていることがほとんどわからないために目の前の人は変な人で、ただ害意がないとわかったのか、少女はポツリポツリと話し始める。
実家が貴族なのだが、今回の鮮血帝の粛清から何とか逃れられたものの、父親が閑職に追いやられたこと。このままでは通っている学校を退学しなければならないかもしれないこと。
どうしたら良いか思いつかず途方にくれていたこと。
モモンガとしては結構ヘビーな内容の悩みだったので、どうしたものかと悩んでしまうが思いつく解決策を出す。
「まあ、まずは父親が現政権に必要とされる人間になることだな。正直これが一番の解決になる。お仕事頑張ってと可愛い娘に言われたらお父さんも頑張るんじゃないか?」
「私、可愛くない……」
「そうか?ううん、帝国ではそうなのか?美醜の基準がわからん……。二つ目の解決策としては、学校で良い成績をとってさっさと就職してしまうことだな。それだけ魔法の才能があるのならば引く手数多だろう。残酷な話をするとだな……。親はいつまでも居てくれないぞ。俺の両親も俺が十歳くらいで死んでしまった。良い親だったが……親がいつまでもいるとは限らない。君には才能があるんだから、一人で生きていく手段を探すべきだ」
「モモンさん、いきなり現実を見せつけすぎでは……?流石にそこまで親の早死にはないですよ」
「でもこの子の親、下手したら鮮血帝に目を付けられてるんだろう?もしかしたら逆賊として処刑されないか?」
「あー……」
モモンガが身の丈話をしたところで、そこまで極端な例は農村でもない限りないとクレマンティーヌが諭そうとしたが、目の前の少女の状況を聞くと両親が処刑されるということは存外可能性としては低くないとわかってしまった。
それだけジルクニフは容赦がない。必要ないとわかったら即座に切り捨てるだろう。
モモンガがやり始めたお節介だったために、クレマンティーヌは関わるつもりはなかったが、ガシガシと頭を掻いてから紙にメモをし始める。
「お嬢ちゃん、第三の手段。これをスレイン法国の神官に渡しなさい。きっと帝国の神殿にも何人か常駐してるはずだから。帝国を捨てて生きていく、という手段もあるはずよ」
「帝国を、捨てる……?」
「そう。今は考えられないだろうけど、故郷を捨てるというのもいつかは考えるかもしれない。その時に助けられるかもしれない、くらいのもの。まあ、スレイン法国に行ったら冒険者が青ざめるほどの激戦区に連れて行かれるるかもしれないけど、それが案外幸せかもしれないし。選択するのはアンタよ。しっかり調べてから選びなさい。衝動的に選ぶと物知らずのおぼっちゃまの護衛をやらされる羽目になるから」
「物知らずのおぼっちゃまは酷くないか?ある程度の常識はあるだろう?」
「ある程度だから困るというか……。認識のズレを直さなかったクソトカゲのせいっていうか……」
法国への推薦状を少女に渡し、モモンガと同行している苦労話をする。
モモンガと同行するのは中途半端に知識があるせいで微妙に大変なのだ。上位者としての知識ばかりで庶民の感覚からはとことんズレている。第二位階魔法を使える少女が天才だと知っているのは珍しいことだった。
一緒の旅自体は面白いが、それでも知識のズレはツアーに愚痴りたくなるくらいには苛立っていた。所詮はドラゴンの思考というやつで、人間ベースでは考えられないのだと、クレマンティーヌは心の中で世界最強のドラゴンに悪態をつく。
「俺たちが考えられるのはこれくらいだな。どれを選ぶかは君次第。君の幸運を願ってるよ」
「……ありがとう、ございます。ちょっと、考えてみます」
少女はぺこりと頭を下げて、家への帰路についた。
二人は宿をとって、ベッドに腰をかけながら先程の少女について話す。盗み聞きされている可能性もあったため、情報系魔法をモモンガが使わない限り普段通りの口調を心掛けていた。
「モモン、あのお節介は何?まさか見かけるたびにあんなお節介を焼くつもり?」
「それはないな。迷子かなと思っただけだ。俺は……変態鳥とは違うから。いや、彼とは親友だった気もするけど……。別に幼女趣味はないからなあ」
「鳥?」
「まあ、昔の仲間だったらあの子を見逃さなかっただろうなと思って。正義感が強い人もいたし、困っていそうだったから。それにあれだけ身なりのいい子が明らかに浮かない顔をしてたら悪いことを考えそうな人もいるだろう。治安は比較的に良さそうだが、それこそ変換期には誰が入り込んでるかわからない。それこそ王国が戦争のためにスパイを送り込んでるなんてこともあるだろうし」
「ないない。王国はそんな殊勝なことしないよ。貴族どもは金稼ぎしか頭にないから」
クレマンティーヌは今回のお節介が特殊だったと知る。そう何度も起きないなら良いかと思うことにした。
モモンガはアンデッドだ。そして優しいだけの人ではないと知っている。
第四・第五の選択肢を言わなかったのは、今は人間のフリをしているからだろう。
本人は自分をアンデッドとして規定している。それが今回のように宿をとると問題になるのだが。
「……やっぱり別部屋にしない?恥ずかしいっていうかさ……」
「俺はすぐに寝るから気にしなくて良いぞ。それに節約しようって言ったのはクレマンティーヌじゃないか。そんなにお金が気になるなら冒険者として依頼でもこなすか?」
「あー、うん……。もうそれで良いや……」
「じゃあ明日は冒険者デビューだな!おやすみ」
モモンガはベッドの奥に行き、言った通りにすぐに寝入ってしまう。それを見てクレマンティーヌは部屋の灯りを決して、しょうがなくダブルベッドの空いているもう片方の隙間へ転がる。
「私もうら若き乙女なんだけどなー……。モモンガ様、こう見ると普通に同い年くらいの男にしか見えないし……。私からすればスルシャーナ様の同族の神様だし?元修道女にこれはひっどい罰だよ……」
クレマンティーヌはその後もしばらくは悶々としながら、それでも少しすれば寝入ってしまった。モモンガとの旅は面白いし、助けになれていることも嬉しいのだが、こういう部分で頭を悩まされたりもする。
その悩みも、漆黒聖典にいた時と比べればかなり心地の良いものに変わっているのは、本人も気付いていた。
これはどうでもいい閑話だが。
その後アルシェという名前の少女は洗礼名を授かり、幼い双子を守るために数々の戦地を飛び回ったという記録が残っている。