オーバーロード 朽ちた大墳墓の超越者 作:金叉の猫
二人が次に訪れたのは聖王国だった。法国とはまた違う宗教体系を持ち、特に北部は亜人との戦争のためにかなり状況が逼迫しているという話でどんなものかと気になったのだ。異形種が500年前の戦争でかなり死滅したので亜人だけとの抗争だからだいぶマシとはクレマンティーヌ談。
南部を先に見て、北部のような危機感もなくのんびり暮らしつつ北部の権威を落とそうと画策する動きが見られた。南部は亜人との戦線を抱えていないので余裕がありつつ危機感がまるでなく、だからこそ政争に割り振る余力があるようだった。
北部に基本聖王が擁立されるようで、今の聖王も北部にいる。そして次代も北部の女性がなりそうだという噂話を聞き、南部としては南部に所縁のある人物を聖王にしたいようだ。
それを聞いたモモンガは一言。
「南部は暇なんだな」
「でしょ?北部の人間は訓練や実際の襲撃があるからそこまで余裕がないんだよ。こっちはモンスターの被害も少ないし、北部に比べればだいぶ余裕があるからね。聖王国統一、なんてことを簡単に考えられちゃうの。その後には亜人による平定しか残ってないのに」
「そこまで先が考えられないんだろ。彼らにとって北部の苦労はまさしく他人事だ」
それが南部を巡ったモモンガの所感だった。見るべきところも少なかったと冒険者として依頼をこなして日銭を稼ぎつつ、北部へ向かった。北部には次期聖王候補の女性が第四位階魔法が使える有望株で、その両脇を固める姉妹も優秀なんだとか。
その三人がいたら亜人との戦争も早く終わるのではないかと期待してモモンガたちは見に行く。
戦争に備えた砦などを見て、戦う気があるのだなと思いつつ、でも人間のレベル的に攻められたら負けそうだなとも思った。クレマンティーヌのような英雄を超えた存在も見当たらず、やはり人類の平均レベルは低そうだ。
法国がレベル違いなだけで聖王国も頑張っているのは見えた。九色と呼ばれる役職持ちの戦士たちは英雄級とまでも言わずとも、レベル20後半はありそうだった。
亜人のレベルがどんなものか知らないが、どれだけ耐えられるかは北部の頑張り次第だろう。
北部は亜人との対応でいっぱいいっぱいなんだなと理解して首都を練り歩いていると、二人に駆け寄ってくる一人の聖騎士の女性がいた。
「そこの二人組!お前たちはこの国の国民か⁉︎」
「ん?俺たちですか?いえ、帝国の冒険者ですが……」
「ならば我が国民になって聖騎士にならないか?お前たちの武器は相当な業物だろう。冒険者としても最下級。だが我が国ならすぐに聖騎士として徴用できるぞ」
女性にしては長身な聖騎士のような人物にいきなりスカウトをされた。された理由がモモンガたちの武器のようだが、それを見抜く審美眼はあるようだ。
あとはモモンガにはよくわからなかったが、戦士には強い戦士を見抜く勘のようなものが発達しているらしい。隠していても強い人物は肌感覚でわかるのだとか。
クレマンティーヌのレベルは40以上。周辺国でも最強レベルの存在なのだから亜人との戦争で疲弊している聖騎士からすれば是が非でも手に入れたい人物だった。だが、今はモモンガとお揃いの指輪で気配を薄くしている。となると本当に武器だけで判断されたのだろう。
クレマンティーヌの武器はそれこそ国宝を上回っている。パッと見ではわからないが、そんなものを持っている人物はよほど強い人間か、よっぽど運のいい人間かのどちらか。聖王国からすれば、もしくは目の前の彼女からすれば亜人を滅ぼせればどうでもいいのだろう。
モモンガがついでに誘われたのは魔法でできた見栄えのいい(実際に性能もかなり良い)武器と、クレマンティーヌの脇にいるのだから弱くはないだろうという判断だろう。他国の人間をいきなりスカウトするのは如何なものかと思ったところに、クレマンティーヌがモモンガへ耳打ちをする。
「モモンさん、彼女が有名なカストディオ姉妹の片割れです。聖騎士の方ですね」
「ああ、彼女が。国を想っての行動か?なんにせよ断るんだが……」
「ですよね」
一つの国家に所属することをモモンガはよしとはしない。ツアーに言われているから、という理由より純粋に面倒だからだ。モモンガの能力が知られれば戦争などに徴用される。好きでもない国のために他国の人間を殺すつもりはないのだ。
もしモモンガが聖王国に転生して一人の人間として産まれていれば国のためにと考えて徴兵にも従っただろうが、モモンガはまさしく世界の部外者だ。与えた影響は大きいかもしれないが、それはモモンガ自身というよりナザリックとそこにあったアイテムだ。
モモンガとしてもこの世界とは一歩引いて過ごしたかったので、カストディオの提案は断った。帝国の人間なので聖騎士になるわけにはいかないと。
だがカストディオはそれに納得しなかった。正当に評価しない冒険者組合よりも聖王国は貴殿らを評価する。この国のために頑張ろう、などと言われても視座が違いすぎて困惑するばかりだ。カストディオはモモンガたちを見ているようで、その実本人たちではなく実力しか見ていないようだった。
困っていたところに、彼女が所属する部隊が来たようで部隊長のような人間が謝ってくれた。他国の人間を強引にスカウトすることになって申し訳ないという謝罪を受け入れて、カストディオにも注意をしていた。
モモンガからすれば護国精神が行き過ぎた結果だろうと思って、彼女の言動を許した。まだ十数年しか生きていない人間の言う事だと、アンデッドとしての精神で乗り切った。
「寡聞にして申し訳ないのだが、亜人との抗争はそこまで逼迫しているのでしょうか?」
「逼迫はしていませんが、徴兵制を敷いて有事に備えるのはずっとやっている事ですから。亜人を殲滅しない限り平和など訪れませんよ」
「そうですか」
部隊長の話も聞きつつ、モモンガたちは首都で宿をとって聖王国の総評を話し合う。
このままでは南北で亀裂が走り、人類が分裂するか、北部が亜人に平定されて南部も飲まれるかのどちらかだと感じた。こういう時に人類の守護者を名乗っている法国は何をしているのかを聞いたら、一応手を打っているという。
「あの城壁の奥のアベリオン丘陵にいる亜人の間引きを行なっているんですよ?私も行ったことがありますし。そうじゃなかったら聖王国なんてとっくの昔に滅びてます」
「そんな危険地帯なのか。手を貸しすぎるのはまずいって考えか?」
「というより、宗教的な対立ですね。法国では六大神信仰ですが聖王国では五大神信仰なので溝が深くて……。スルシャーナ様だけ闇の神だから信じられてないんですよ。それに竜王国のように直接支援も求められていないので、本当にこっそりと援助しているだけです。国が一つ消えたら、人類は百万以上死んでしまうんですから。限られた資源を最大限活かすためにはたとえ溝があっても援助して国を永らえさせることが重要なんですよ」
スレイン法国は戦力が少ないながらかなりの広範囲に戦力を割り振っている。トブの大森林から出てくる強力なモンスターを放置していたら王国の辺境の村が滅びるためにここに駆り出している戦力はそこそこいる。
王国にそれとなくトブの大森林でのモンスター狩りを進言しているが、梨の礫。王国は自国民のためには動かない。帝国側はしっかりと帝国騎士団の修練の場として間引きが行われているためにそちらには戦力を振っていなかった。
そして危険地帯がアベリオン丘陵と竜王国だ。どちらも八欲王が異形種を主に狩ったために亜人が幅を利かせて想定以上の繁殖を起こしていた。そのため法国の戦力も増したが、亜人の戦力も増加したために戦況はあまり大きく変わっていなかった。
戦況が大きく変わったのはエルフの国との戦争だろう。エルフ王が屈強なことは変わらないが、法国の戦力の底が上がり続けているので前線はかなりエルフ国の奥地まで伸ばせている。首都までの道を確保できた時点で番外席次を投入する予定だ。
エルフ王の子供は優秀ながらも、聖典のエースには敵わない。生まれついての強者などまずいなく、まだ幼いままに送り出された子供たちは確実に慎重に狩られ続けて、エルフ国との戦争もあと数年で終わるだろうと言われていた。
それくらい今の漆黒聖典の実力は高い。エルフ王の操る精霊の露払いを任せてもいいと思われるほどだ。だからこそ、成長途中だったクレマンティーヌの離脱は法国にとってはかなりの痛手だった。
レベルこそ40台だが、独自の武技で格上をも喰らえる俊敏性とユグドラシル産の武器による攻撃力の上乗せによって対人戦闘においては漆黒聖典でもトップクラスだった。そのため王国での出来事の後から音信不通になったことは上層部は嘆いた。
レベル40台の強者など滅多に産まれないのだ。神人にしてはまだまだだが、だからこそ伸び代もありそうだと期待していたところにこの離脱。王国での神官の失敗といい、ここのところ良いことは全くなかった。
一夜明けて、モモンガたちは危険地帯とはどの程度のものかを知るためにアベリオン丘陵へ来ていた。モモンガとしてもギルメンのアイテムを早く返して欲しかったために、人類では勝てなさそうなレベル50台の亜人でもいたら片腕くらい奪ってもいいかと考えていた。
人類の手助けをするつもりはないが、それでも元々はナザリックの物を貸し出してるのだ。レンタル料を受け取っていようが優先すべきは武器の回収である。ツアーや法国と契約によって融通を利かせているのだから、返済を手伝ってやるくらいの感覚だった。
クレマンティーヌとしてもそろそろ強者と戦って勝負勘を鈍らせないためにアベリオン丘陵へ忍び込むことに反対しなかった。
姿を隠しつつ見て回ったところ、強さよりも問題は数の多さだった。レベル20超えがゴロゴロといて、それが部族やら種族で纏まっているのだ。強者はきちんとレベル30を超えていそうで、幸いなことに亜人同士で結託していないどころか、亜人同士でも争っているのは人類的にはありがたいことだろう。
要するにアベリオン丘陵を平定したかったり、この辺りで一番になりたかったり、人類の武器やマジックアイテムが欲しくて攻めたりしているようだ。つまり聖王国が襲われているのはたまたまということになる。
「これ、法国が適当に欺瞞情報を流して亜人同士で争わせればすぐに平和になるんじゃないか?」
「姿を変えたりするマジックアイテムは少ないですし、魔法もないですから。その方法は中々難しいと思います」
「ドッペルゲンガーとかこの世界にいないもんなあ。うっ、何故だか頭が……。まあ、姿を変えずとも姿を隠しながら声を偽るマジックアイテムとかで騙せばいいんじゃないか?《伝言》の魔法で国が滅んだんだろう?それと同じことをすればいい」
「それほどの文化が亜人にあるか……。それに結束もしていないので潰せるのは二つの種族くらいじゃないですか?」
「良い案だと思ったんだけどな。軍師のあの人のようにはいかないな。そもそも知性がそこそこある知性体じゃないと軍略も意味ないか」
そんな雑談をしつつ散歩を続けていると、多種多様なモンスターがとある亜人のコロニーが襲撃されていた。ギガント・バジリスクにクリムゾンオウルにレイディアントクロウラーなどが縦横無尽に暴れ回っている。
だがその光景は異様だ。モンスター同士はある程度の利害の一致がなければ徒党を組まない。だというのにモンスター側が統率の取れた動きをして的確に亜人を殲滅しているのだ。まるでそのモンスターが誰かの指示を受けて動いているように、亜人のコロニーは瞬く間に壊滅した。
その様子を木の上から眺めていたモモンガとクレマンティーヌだったが、そのクレマンティーヌの美しいかんばせが憎悪によって歪む。モモンガとしても初めて見る表情だったのでどうかしたのかと様子を見ていたが、そのコロニーの跡地に金髪の一人の優男がやってきた。
その男はモンスターたちに無造作に近寄り、撫でたと思ったら指に付けた指輪にモンスターを収納していた。それを見て一種の召喚術だなとモモンガは見破り、そしてその優男がクレマンティーヌが潜んでいる辺りへ目線を向けて、そのまま彼女を見付けた。
「クレマンティーヌ⁉︎お前、死んだのではなかったのか!」
「……生きてますよーだ、クソ兄貴。今日も今日とてクソつまらない人類への奉仕お疲れ様」
「何故逃走した!お前は漆黒聖典という名誉を授かったのだぞ⁉︎スルシャーナ様が懐く黒だ!そこに配属され、人類のために働くのは我らが至上!それを放棄するなど、家族の風上にも置けん!」
「神様に下駄を履かせてもらって良く言う。アンタもあたしも、ちっぽけな人間なんだよ。人類とか大きいことを言ったって大切な人も守れない。なのにちょっと力があるから人類へ奉仕しろとかさあ、そんなのどこに自分があるの?あたしはあの子を殺すような大義名分のためには、働けない。だから漆黒聖典は辞めた。法国にも帰らない。それだけ」
クレマンティーヌは木から降りて、兄である一人師団の顔を真直ぐ見てそう告げる。
人類が弱いから強い人間が保護をする。これは六大神の教えだ。これを守る法国の人間は多いだろう。
だがクレマンティーヌのように全体よりも個人が大事だという人間だっている。国や部隊の方針が合わない人間だって人数が多ければ現れるだろう。
要するに、主義主張がこの兄妹では悉く合わないというだけの話。これが国絡みだから面倒な話になるだけで、要点だけならとても簡単なことだ。
一人師団はこめかみに青筋を立てながらも、右手を出した。彼はあくまで漆黒聖典としての役目を果たそうとしていた。
「……わかった。お前が漆黒聖典失格だということがよくわかったよ。だが、だからこそお前は最後に為すべきことがある。貸し与えられた至宝を返せ。それは脱落者が持っていていい物ではない。お前が有効活用できないのなら次の者へ渡されるべきだ」
「至宝?あれならちゃんと返したけど?」
「何?そんな情報は受け取っていないぞ」
「何で法国に返さなきゃなんないの。ちゃんと、元あった、ナザリック地下大墳墓に。返したけど?」
「……………………は?」
その、一言一句間違っておらず嘘もないクレマンティーヌの言葉に一人師団は理解ができず、顔の血の気が消えてただでさえ白い肌が真っ白になっていた。
ユグドラシルの武具とは人類が作り出せない強力なアイテムだ。一つでも国宝認定をされるような人類にとってありがたい品物であり、それがきちんと力を発揮すれば戦場をひっくり返せるほどの力を持つ物もある。
八欲王は全く見向きもしなかったナザリックに残された武器だが、趣味で置いていた物や階層のコンセプトに合っているからと設置された物であっても今の人類にとっては過ぎた物。それこそその武器があってある程度の実力の人間がいればトブの大森林を平定できるほど。
そんなアイテムを返した。
元あった、今や誰もいないナザリックに。
「はぁ⁉︎ナザリックに返しただと⁉︎あんな無人の、道標があればどこまでも探索のできる場所に返した⁉︎そんなこと、至宝を盗んでくれと言っているようなものだぞ⁉︎」
「元々盗んだのは法国じゃん。それを返して文句言うのは違くない?」
「借り受けたのだ!あの至宝の短剣はたった二本で人類を混乱の坩堝に叩き落すぞ!それこそ帝国や王国が手に入れたらどうする⁉︎それだけで戦争の趨勢が決まる、人類圏を暴力で終わらせるつもりか⁉︎」
「そんなことにはならないから安心しなよ。誰にも見付からない場所に返したし」
「そんな場所があってたまるか!クレマンティーヌ、貴様の浅慮にはほとほと失望したぞ!」
一人師団がモンスターを召喚する。その数九体。対処が面倒なギガント・バジリスクを含めて一体でも村に放たれれば地図から村が消えるようなモンスターが九体、その場に召喚されていた。
モンスター自体はどうとでもなるが、一人師団のステータスから予想したレベル的にまずいと感じたモモンガも木の上から降りる。ユグドラシルでは10レベルの差があったらまず敵わず、職業による有利不利もない。
同じ人間種で近接もできるビーストテイマー。装備もユグドラシルの物で固めているためにレベル差はそのまま実力の差だ。モモンガはクレマンティーヌに武器こそ貸したが、防具はそこら辺に売っている物だ。
周囲に紛れ込むために防具を妥協したことで、確実に差が出ていた。
もう一人隠れてたことに一人師団は驚いたようだが、二対一でも問題ないと戦闘の構えを解かない。一方クレマンティーヌはモモンガを手で制する。
「あなたは見ていて。ここであなたに助けられたら、あたしはずっとアイツに縛られたままだから」
「クレマンティーヌ……」
「数の差に文句は言わないぞ。こちらの方が明らかに数も質も上だからな」
「はっ!その粋がり癖は変わってねえみたいだな、クソ兄貴!殲滅戦が得意?集団戦なら右に出る者はいない?そりゃあ今回みたいに弱い者いじめばっかしてたら、そう評価されても仕方がないよなあ!テメエの得意ってのは精々隊長やエルフ王、番外席次みたいな強力な個を除いた評価だもんな!後ろでおっかなびっくり指示出してるだけの小心者が調子こいてんじゃねえぞ!」
「お前には本質が見えていない。数多の戦場を経験してきた僕は、お前が相手でも引けを取ることはない!」
クレマンティーヌは一気にモンスターと距離を詰める。ギガント・バジリスクを優先的に潰し、他のモンスターも武技を使って速攻撃破して、一人師団へ短剣よりは少し刃渡りの長いアサシンダガーを差し向ける。
一人師団は最後の指輪を起動させて棍を取り出す。それでクレマンティーヌの刺突を受け止めて、慣れた動きで距離を離す。彼はモンスター主体で戦う人間なために、棍術はあくまで自衛のようなもの。モンスターで制圧する指揮官のような存在なので、クレマンティーヌの攻撃を弾くような動きで時間を稼ぐ。
稼いだ時間で再びモンスターを召喚する。たとえやられたとしても時間を置けば再召喚できる。そうして無限の如く供給できることから一人師団と呼ばれるのだ。
モンスターの能力からほとんどの手段を殲滅できる。たとえ数体やられたとしてもすぐに補充できるので継戦能力もある。英雄級の戦士であってもその数と質で制圧できるために、突出した個でもなければ相手がいないくらいの世界全体を見ても強者が一人師団だった。
数々の状態異常を繰り出すモンスター。モンスターは召喚する個体なのでアンデッドのように疲れがない。状態異常に耐性をつけまくって疲労軽減もつけていなければ英雄と呼ばれる存在でもいつかは力尽きる。
これこそが一人師団。戦争においても個人撃破においても圧倒的な実績を残してきた漆黒聖典のエースにして法国期待の星。そしてクインティアの全てを背負う人間であり、クレマンティーヌが卑屈になった原因の人物。
クレマンティーヌは召喚されるたびにモンスターを撃破していく。ギガント・バジリスクの目を優先して破壊し、毒を浴びる爪は避けるか手首ごと落として、なおかつ召喚者である一人師団にも攻撃を加えていく。武技を重ね掛けしたり、途切れなく掛け直して不利な状況を作らないようにしていた。
手を出すなと言われたモモンガは一人師団の戦力を分析する。指輪はビーストテイマー専用の装備で、簡単な話が指輪一個に一体のモンスターを収納できるというもの。スキルではないのでリスポーンタイムがある以外にデメリットはなく、MPを消費したり回数制限があったりということもなく、使いやすいアイテムの部類ではあった。
あくまで調教できるレベルのモンスターしか入れられないので自分より強いモンスターは入れられなかった。だが見た目で何を入れているのかわからず、数も一気に増やされるので初期は厄介なアイテム
そう、過去形だ。使えたのは正直リリース初期の頃だけで、ある程度情報が集まってくるとゴミアイテムの称号を得ることになる。
なにせ見た目が指輪なために指輪装備の分類だ。指輪は耐性を上昇させたり、それこそ時間魔法対策になったりと優秀な装備を真っ先に着けたいスロットだ。しかも十本全部に指輪を装備するには課金が必要で、そもそも装備のハードルが高い。
そんな貴重な指輪枠を使ってできることが下級のモンスターを召喚するだけとわかり、ビーストテイマー以外使えないことも相まってゴミアイテムと化した。その後に魔法を何でも入れられる魔封じの水晶のようなアイテムが出てきたり、課金ガチャで召喚できるモンスターを引けるようになったら職業に関わらず数体程度なら召喚することもできるようになった。
改修が進んだ結果、初期アイテムが使えなくなるのはゲームあるあるだ。昔はありがたがって使っていたのに最新の環境では無言で換金アイテム行きだったりする。
そんな、インフレに置いていかれたアイテムが一人師団の使っているアイテムだ。唯一武器を仕舞える指輪は武器を2個持てるという意味で近接職には好まれたアイテムだが、それだけ。二重装備などはできなかったので意表を突くためだけに使われた指輪だ。
廃人プレイヤーだったモモンガからすれば、それはゴミアイテムで身を固めている可哀想な青年の図だ。これがこの世界では強者として通じているのであればプレイヤーが神と呼ばれてしまうのも仕方がないことだと諦めた。
八サイクルが終わった頃、クレマンティーヌの精神力が保てなかったのか自慢の『疾風走破』が間に合わずギガント・バジリスクの視界に入ってしまい足の一部が石化してしまった。そこを他のモンスターや一人師団本人に突かれて近くの木に叩き付けられてしまう。
ここまでだなと思ったモモンガは状態異常解除とHP回復が混ざったポーションを取り出してクレマンティーヌに飲ませる。その回復薬が赤い見た目だったためか、一人師団は顎が外れそうになっていた。
「そ、それは神の血⁉︎何故それを貴様が持っている⁉︎妹から盗んだか⁉︎」
「は?人聞きの悪い。ナザリックにあった物を使ってるだけだ」
「神の居城に隠されていたとでも言うのか……⁉︎この、盗人め!貴様らは法国の人間として許せん!妹共々ここで死ね!」
「も、モモンさん……」
「よくやった、クレマンティーヌ。格上にあそこまで戦えたのは素晴らしいことだぞ。だが今は俺に任せておけ。さっきからムカついてるんだよ、人のことをコソ泥扱いすることしか自分を保てない狂信者の相手は疲れるもんな。ちょっと一発絞めてくる」
まだダメージが抜けきらないクレマンティーヌから離れてモモンガは剣を抜く。
いくらモモンガがレベル100とはいえ、魔法詠唱者なため近接職換算だとレベル30くらいの強さしかない。いくら暇で80年ほどデスナイトなどを相手に剣術を磨いていても、ステータスは全く上がらなかった。
ワールドアイテムを使っていてもステータスに変わりがない。レベル40を超えているクレマンティーヌが無理だった相手に接近戦で勝つのは本来なら無理だ。
魔法を使えば一瞬だが、そうすると瀕死にするという手加減ができない。だから彼は一つの魔法を使う。
「『
それは本来であればネタ魔法。魔法詠唱者が少しの間だけ近接職と同じくらいのステータスを得るというあまり使い道がなく、デメリットも多い魔法だ。
その魔法を使ってモモンガは瞬時に召喚されたモンスターを殲滅。一瞬で消えたモンスターたちのことが見えなかった一人師団はそのまま近付くモモンガに対応できず、インパクトの瞬間に魔法が解除されて元の強さに戻ったモモンガによって鳩尾へ思いっきり剣の腹でフルスイングをされて、三半規管を失った一人師団は気を失った。
だがそれではすぐに起きてしまうのでオーバーロードとしての力の『負の接触』で様々なバッドステータスを付与して当分目覚めなくさせた。
「ふん。ステータスは上げられなくても技術は鍛えられるんだよ。それに誰が盗人だ。ナザリックの物を
その後、モモンガは魔法で一人師団の記憶を改竄して、モモンガにやられたのではなく亜人の強者にやられたという風に改変した。クレマンティーヌとの勝負はそのままに、任務を失敗した理由も乱入があったせいということにしておいた。
モモンガ的には人のことを盗人扱いしてきてクレマンティーヌの言うことを全然聞かなかったために許せないが、こんなのでも人類の守護者だ。クレマンティーヌが抜けてしまった状況で彼まで脱落すると人類の平和が遠ざかると思ったためにモモンガもクレマンティーヌも彼を殺す気は無かった。
記憶を操作するついでに後詰めの部隊が近くにいることがわかったので、幻術などを使って相手の印象に残らないように一人師団を抱えて接触。冒険者として依頼で調査をしていたら彼が倒れていたので運んだ、服が似ているので仲間ではないかと無理矢理言葉を繋げて一人師団を預けてモモンガは脱出した。
そのまま聖王国にいるのもマズイと思い、一旦帝国に帰ってきた。適当な街で宿屋を確保してクレマンティーヌをベッドに寝かせた。
倒したいと思っていた兄に負けたのが悔しかったのか、彼女は腕で顔を隠しながら泣いていた。
「次はブッ殺す……!」
「殺しちゃマズイって言ったのはクレマンティーヌだろ?勝つ、くらいにしてくれないと」
「……石化とかの異常耐性の装備を整えないと。結局状態異常のせいで負けたようなもんじゃん……」
「アイテム貸そうか?」
「いい、自力で買う。武器で十分すぎるから、防具と装飾品は自分で揃える」
「向こうは曲がりなりにもユグドラシル産の装備群だが……。クレマンティーヌがそう決めたのなら良いさ。となると本格的に冒険者をやって稼ぐかー」
「ほどほどにしようねー。いきなり目立ってアダマンタイトになって国に縛られるのは面倒だし」
「ええっ、昇格するとそんなことになるのか?めんどくさいなー」
「国の最高戦力も同然だからねぇ。国の威信に関わるんだよ」
彼らは次の日から階級に見合った割りのいい仕事をこなし始める。帝国はワーカーが顔を効かせていたので冒険者の仕事は少なかったが、ないわけではない。
闘技場で一発千金という手段もあったが、一応法国から隠れている身だ。幻術などを使えるマジックアイテムなどもあるが、名前を轟かせるというのが彼らに合わず断念。晒し者になるつもりもなかった。
そうしてコツコツとお金を貯めつつ、人類国家を巡る旅も続ける。次は竜王国だ。
明日はちょっと違う形で投稿予定です。