オーバーロード 朽ちた大墳墓の超越者   作:金叉の猫

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R18版もよろしくです。


4 理性と策略と愚かさと

 モモンガたちは資金集めのために真面目に冒険者稼業を始めた。銅級として比較的に報酬が高い依頼をこなし、クレマンティーヌのためのマジックアイテム代を稼いでいく。報酬の高い依頼とはそのまま危険性の高い依頼なのだが、二人ともこの世界でもトップクラスの人類。むしろアダマンタイト級にも勝てる戦力なので彼らにとってモンスター討伐などは楽勝だった。

 素材集めなどの地味な仕事は知識量が足りなくて苦手だったが。

 冒険者として活躍しつつも、他の国の様子を調べることも怠らない。依頼を受けつつ早く帰りすぎたら怪しまれると思った時にはモモンガの転移魔法で知っているけどあまり行ったことのない危険地帯などを巡った。

 二人は逃亡中でもあり、目立つのは嫌なために闘技場で戦うという選択肢は取らなかった。闘技場のチャンピオンである武王にも勝てるだろうが、勝ってしまったらずっと闘技場の見せ物か、国への士官を求められる。それはごめんだと考えた二人はたとえ賞金が高くても闘技場には参加しなかった。

 たまに賭けに興じて、明らかな強者にだけ賭けて勝つという賭けでもなんでもないただの予想屋として優秀な勘とステータスチェックという反則技で小遣い稼ぎをしたりもした。

 目立つことも嫌だったので依頼を受けるペースもそれなりに考えて調整した。あまりに早く数をこなして昇格するつもりもなく、あくまで目標のための資金集め。計算したところミスリル級くらいまで上がって稼がないと冒険者の安日給ではいつまでも目標に辿り着かないとわかったのでその辺りまでは目指すが、それだって一足飛びの昇格は望んでいない。

 あくまでコツコツと。法国や帝国にバレないようにゆっくりと資金を集めるつもりだった。

 冒険者は基本その日暮らしのお金を稼ぐ者が多い。死なない程度に生活して、食事や宿、回復アイテムなどの依頼に必要なアイテムの補充や武器防具の手入れや新調などをしていたらお金なんて足りないのだ。

 この世界のアイテム類はユグドラシル時代と比べたら質はかなり劣悪だ。ポーションに使用期限があり回復量も悪い、武器防具はユグドラシルでの初心者セットが名工の作った物と思われるほど。そんな状況で稼げるように冒険者として成り上がるというのはかなり難しいことだ。

 ゲーム時代と違って死んだらそこで終わり。一応第五位階魔法で死者を蘇らせられるが、レベルダウンと大量の金貨が必要になるので現実的ではない。人類国家でも現状法国くらいにしか使い手がいないのでリアルのように一度死ねばそこまでだ。

 アイテムが頼れず、死んだら終わり。初心者は武器やアイテムで下駄を履きたいところだが、それをするにはお金がない。冒険者になるような人間のほとんどは農家の人間で、実家の土地を受け継げない三男などが多い。もしくは没落した貴族の行き着く先だったりするので資金なんてないのがほとんどだ。

 ユグドラシル時代はデスペナ自体はあったものの、簡単に死ねた。死んでもやり直せた。その上で最適解を探して、アイテムを集めて、武具を固めて、強くなって、仲間と遊んで。

 そうやって強くなる手段が、ないのだ。彼らの命は一つだけだから。

 弱いモンスターで強くなろうにも、人類圏のすぐそばには人外魔境と呼ばれるトブの大森林にアンデッドが無限湧きするカッツェ平野がある。調子に乗ると、いや乗らなくてもそこから出てきた強者のモンスターに遭遇すればそれだけでお陀仏だ。生き残るのも簡単ではなく、モンスターはユグドラシルより弱いから経験値も少なく。

 三重苦、どころの話ではない。人類を守護しなければ生き残れないと人類守護を標榜とした法国の考えは間違っていないだろう。それだけ人間種は脆弱だった。強くなる道標がなかった。弱肉強食に飲み込まれ、ただただ絶望していくだけの弱者だった。

 そこにレベル100の様々な有用なアイテムを持っているプレイヤーなんて存在は、それは神として崇められるだろう。課金ガチャのハズレアイテムが人間を何人も何十人も救えてしまうのだ。ある程度の良識があれば人類を守ろうとするだろう。

 六大神がどう思ったかは窺い知れないが、とにかく彼らは頑張った。600年前に現れたのが彼らでなければ人類は滅んでいただろう。

 法国は頑張ってるよなと、再確認しつつモモンガたちは今日も今日とてお金を稼ぐために依頼を受ける。最近鉄級に昇格したこともあって冒険者組合から直接オススメされた依頼だ。内容の割に高額だったために二人は即答。日にちはかかってしまうものの、鉄級では本来貰えないくらいの報酬に目が眩み、二人はいくつかの冒険者チームと一緒に遠出をしていた。

 

 行き先は竜王国。そこへ物資を届ける商人の馬車を護衛するというもの。

 竜王国はビーストマンの被害を受けて、国が一丸になって戦っている。そこへ帝国は支援物資を送るという国家的支援を大々的に行なっていた。これは政治の一環で苦しんでいる隣国に手を差し伸べるのは当然ということを喧伝して善意を振り撒くことと国の豊かさを主張するには良い手段だったからだ。

 竜王国はいつか恩を返さないといけないにしても支援を受けられてハッピー、帝国はそこそこの出費で周辺国家へのアピールをしつつ帝国への帰化人を受け入れられて税収の元となる人材を得られてハッピー。双方幸せになる政策だった。

 国が主導して冒険者組合に依頼を出しているために報酬が高いのだ。この依頼はビーストマンの被害があることと、折角の物資を野盗やモンスターに奪われることのないようにとならずもののワーカーも雇ってかなり厳重な警備の下で依頼は遂行される。

 トップ冒険者チームはオリハルコン級の銀糸鳥だ。五人からなる奇抜な冒険者チームで、アダマンタイト級も近いと噂の帝国でもトップクラスの冒険者チーム。彼らがいるために楽ができるだろうと考えたこともモモンガたちが依頼を受けた決め手だった。荒事は任せるつもりだ。

 その他は金級チームが一つに、本人たち曰く白金級だと宣う長刀を背中に背負った人間が一人と奴隷のエルフが二人で構成されたワーカーチーム『天武』に、こっちは逆に謙虚で銀級くらいと言っていた四人組のワーカーチーム。

 この大世帯で『天武』のリーダーがチームメイトのはずの奴隷を叩いたり、格下と思い込んでいる人間を馬鹿にしてきたり完全にトラブルメーカーだったが、モモンガたちは無視して依頼を真面目にこなした。索敵に野営の準備、弱いモンスターの討伐くらいはやった。それでも『天部』のリーダーは鉄級というこの中で最弱のモモンガたちを貶す。

 実力だったら彼など全く及ばないのだが、モモンガたちが探知系から完全に身を隠す指輪を着けているために本来の実力がバレることがなかった。これは戦士特有の相手の強さが肌感覚でなんとなくわかるという特殊技能も無効にできるようで、クレマンティーヌは一部の人間を除いて可愛い女戦士くらいの認識だ。

 モモンガは最初が悪かったのか、完全に没落貴族の坊ちゃん扱いだ。装備が良いことと、肌感覚を無効化してしまったために強いと思われなかったらしい。そういうわけで冒険者チーム『黒金』は没落貴族の坊ちゃんに付き従う可哀想でとても美人な少女剣士の二人組チームだと思われている。

 一部の人間は肌感覚でクレマンティーヌが自分たちの遠く及ばない凄腕剣士だと知っているが、とんでもない偉業をこなしたわけでもなく、事実としてランクが低いままなので初対面の時は何か勘違いしたのだろうと考えを変えた人間もいた。実際クレマンティーヌから肌感覚のことを聞いてからは騎士にスカウトとかされたら面倒だと思ったので指輪を貸している。

 それは一応左手の小指に着けられている。今は、まだ。

 一日目の終わりということで交代制で見張りをする。チームごとに割振られたため、時間ごとに交代だ。ちなみに『天武』は見張りなんてちゃんとやらないだろうと思われていたので銀糸鳥が「おまえさんみたいな強者が見張りなんて雑用をする必要はない。ゆっくり休め」と嫌味を言ったところそれを正直に受け取ったのか本当に見張りをせずに休んだ。

 奴が見張りもせずに眠ってモンスターの強襲を受けた場合、全滅だ。それは全員が拒んだため、彼とエルフは免除される。

 最初の見張りになったモモンガたちは真面目に見張りをしつつ、雑談をする。空からアンデッドによる監視を頼んで何かあったら知らせてくれるように命令を出しておいた。倒すのはモモンガたちの仕事だ。

 

「あいつ、法国出身だよ。法国の田舎の方の訛りがある」

「訛りなあ。俺にはそういうのわかんないから気付かなかった。あいつが『だべ』とか言ってると思うとウケる」

「『だべ』?」

「プレイヤーで有名な訛りだよ。そんな喋り方の奴、現代には一切いなかったのにああいうのって残ってるんだよなあ。ネットの力が強すぎる。俺が知ってる特徴的な訛りってだけ。……法国出身ってなると、あのエルフの奴隷は国から引っ張ってきたって感じか?」

「かもね。帝国でもエルフの奴隷は買えるから詳細はわからないけど。あの程度でイキってるとか、やばすぎ」

「レベルだと20ちょっとくらいだからな。人間にしては強いかもしれないけど、法国出身って言われると……」

「法国でも一応上積みだよ?純戦士なら火滅聖典とかに入れたかもね。戦闘部隊」

「あれが人類守護の一人だったらやだな」

「同感。女としてもあれは最悪の一言」

 

 『天武』のリーダーの話をしつつ、やってくる夜行性のモンスターを片っ端から倒す。モモンガが控えているというのもあってクレマンティーヌは少し遠出をして近くのモンスターを狩り尽くす。『疾風走破』の異名は伊達ではなく、見張りの二時間で周囲のモンスターを全滅させてしまった。

 本人曰くスッキリしたとのこと。

 見張りを他のチームに引き継いでモモンガたちは同じテントの中で休む。冒険者チームは基本チームごとにテントを使うのは他のチームとのあれこれを避けるためだ。実際昔は他のチームの異性を襲って問題になったらしく、冒険者だろうがワーカーだろうが他チームの異性にちょっかいをかけることは無言の掟となっていた。

 ほとんどのチームが片方の性別に寄っているので男女混合のチームの方が珍しいとも言える。複数人ならまだしも、男女二人だけのチームはもれなくそういう仲なのだろうと邪推される。邪推されたところで本当に揶揄ってこなければ本人たちも基本は気にしないものだ。

 次の日からの行程も順調に進んだ。今回のチームが優秀なのか、純粋に敵との遭遇率が低いのか、もっとかかるとされていた日程を大幅にクリアして目的の街に辿り着く。そこにいた竜王国の兵士に物資を渡している時に問題が起きた。

 ビーストマンが少数ながらも襲ってきたのだ。食料を求めたはぐれ部隊だったようで強い個体もいなかったがタイミングが悪かった。辺境の村であり帝国から最も近い場所だったのでそこまでビーストマンが侵攻していると思わず、ほとんどの冒険者が長旅の疲れを癒すために休憩と称して散策に出払っていたのだ。

 モモンガが一応警戒用に上空に放っておいたアンデッドから連絡があり、襲撃に気付いたモモンガとクレマンティーヌがビーストマンを殲滅。それを竜王国の兵士に見られて国を救う戦力だと早馬を出されてしまった。目立つつもりのなかった二人は慌てふためく。

 

「やっば!モモンさんどうしよっ、下手したら陽光聖典とかち合うんだけど⁉︎竜王国の浅瀬なら大丈夫だと思ってたのに徴兵されるのは話が違うんだけど⁉︎」

「俺なんてドラウディンと知り合いなんだよ!この姿では会ったことないけど、アイツ長生きだし竜の血が混じってるからってツアーに仲介されて会ってんの!竜って変に鋭いところがあるから多分バレる!」

「あー、依頼書持ってきてない!なんか徴兵はよくあるとか竜王国の兵士が言ってたけど注意書きにそんなこと書いてあったっけ⁉︎」

「書いてあったぞ、『黒金』のお二人さん」

 

 慌てた二人に近付いてきたのは銀糸鳥のリーダー、フレイヴァルツだった。この依頼も含めたリーダーということもあって依頼書の予備を持っていたらしい。

 それを見たら注意書きのところに小さく、竜王国でビーストマンに襲われた場合依頼請負者の中のチームリーダーが許可し、竜王国が戦力を求めた場合徴兵を許可するという内容だ。依頼書の裏にはしっかりと帝国と竜王国の国璽が刻印されている。裏なんて見ていない二人は詐欺だと声を荒げたが、依頼書を隅々まで読まなかったお前たちが悪いとフレイヴァルツが嗜める。

 本当は組合でモモンガたちが見た依頼書にそんな記述はなく、チームリーダーに持たされた依頼書と組合が隠し持っている依頼書にだけそんな記載がされていた。内容はちゃんと二国間で取り決めたものなので間違いでもない。

 これは将来有望そうな冒険者チームを試す試練だ。ビーストマンを相手に戦えれば上等、ミスリル以上の冒険者が認める人間なら将来的に強くなるだろうから唾をつけておきたいというジルクニフの策略の一種だった。

 たとえ失ったとしてもまだ下級の冒険者やワーカー。少しでもビーストマンを減らしてくれれば同行した上級冒険者のキルスコアとして加算できる。そこで生き残れば次代の英雄だ。健闘を褒め称えて騎士にするもよし、冒険者として大成してもよし。竜王国にも恩が売れるためにジルクニフ的には少ないリスクでリターンがそこそこある取り決めだった。

 冒険者組合に無事に帰れたチームには『本物』の依頼書を組合で見せればいい。大金に釣られるだけのグズは要らず、優秀な者が欲しいジルクニフならではの依頼だった。

 銀糸鳥は当然ながら参戦。ここで名前を売ってアダマンタイト級になりたい彼らが見逃すはずもない。今回の村は帝国に近過ぎたので期待薄だったが、自分たちの番で優秀な冒険者がいる時なのは幸運だと思った。ビーストマン退治こそが本命の依頼であり、その本命にあたれるかどうかは運だった。

 もちろんビーストマン退治という苦境に挑む人間には追加報酬が支払われる。この金額も銀糸鳥にとってはありがたかった。二重報酬が貰えて、名も売れる。運が悪くても楽して大金が手に入る。これほど理想的な依頼もない。

 銀糸鳥とモモンガたちだけで前線に向かい、他のメンバーは物資を運んできた人たちを帝国に帰すことになる。これもしっかりとした依頼なのだが、これに異論を唱えた者がいた。

 

「その者たちは鉄級でしょう?そんな格下が参加して、我々が参加できないというのは公正な判断とは思えませんね」

「『天武』か……。普通の討伐依頼と違って倒した数で報酬は増額しないぞ?どれだけ頑張ろうと報酬は額面に書かれた金額だけだ。得られるのは名誉だけ。それでも行くんだな?」

「愚問でしょう。ここから私の名声が各国に轟くのですから。こんな機会を見逃す訳がありません」

(生贄追加っと)

 

 生き急ぐバカという肉壁を手に入れたフレイヴァルツは喜んで『天武』の参加を了承する。彼らの実力ではビーストマンを数体倒して終わりだろうなと目算して、一方の超級の戦力に目を向ける。

 クレマンティーヌの強さは最初に冒険者組合を訪れた時に見たメンバーがいたので彼女が自分たちより強いことを知っている。その話は半信半疑だったが、今の鮮やかなリザードマン討伐を見たらその話も嘘ではないとわかった。

 あまりにも余裕がありすぎるのだ。リザードマンが複数いるということは難度60くらいの敵が群れているということ。それを倒すにはミスリル級くらいのチームが必要なのだが、彼女はほとんど一人で倒してしまった。もちろんモモンガも倒したが、彼女が倒した数に比べればなんてことない。

 そのモモンガも実力がまるで測れなかったので銀糸鳥としてはそれなりに強いのだろうと考えた。彼もリザードマンが現れたことを気にせず、恐れず淡々と処理をした。そんなことは新人冒険者にできるはずがなく、相当な修羅場を乗り越えた者だけだ。

 生き残ることが最優先とはいえ、どこまでキルスコアを伸ばせるかとフレイヴァルツは舌なめずりをする。敵は倒せば倒すだけ自身が強くなる実感を得られた。ビーストマンはそれなりに歯応えのある敵だ。これでまた英雄への道を歩めると思いながら部隊を分ける指示を出す。

 竜王国の前線に向かう組だけで進んだ日の夜。銀糸鳥の面々のところにモモンガたちは訪れた。そこで密約を交わす。彼らは目立ちたくないのだ。依頼分だけ働くから、精々銀級くらいの仕事をしたと報告してほしいと頼む。その代わりにキルスコアは銀糸鳥にほとんど渡すとまで告げたのだ。

 クレマンティーヌの実力が知られているから、その交渉はすんなりと通った。そして最前線の一つに着いて、ビーストマンの襲撃を帝国の面々で迎撃。

 

「ば、バカな!私がこんな二足歩行を真似た獣に、やられるわけがないんだ!は、早く支援を!魔法を寄越せぇ!」

 

 『天武』のリーダーの悲鳴が森に響いたが、その指示は正確に実行されることなく、彼の胴体と首が永遠に別れを告げた。ご主人様がいなくなったことに二人のエルフは薄暗い笑みを浮かべたが、ここは戦場だ。前衛がいなくなった後衛なんてすぐに蹴散らされてしまう。

 彼女たちに爪が届く前に、銀糸鳥の援護が間に合った。『天武』だけでは防衛網に穴が空きかねないので同じ方面で控えていたら案の定。無理に突っ込んだところに多くの戦士がいて、多勢に無勢となってなぶり殺しにされていた。

 助けられたエルフは戦場ということもあり、銀糸鳥の指示に従って動くことになる。

 別方向を受け持たされたモモンガたちは、鉄級に任せる仕事じゃないだろうと思いつつクレマンティーヌがビーストマンを狩り続ける。モモンガがやっていることはアンデッドによる監視と、人里に向かわないように指揮官のような役割をしていた。

 人里に向かいそうな個体はアンデッドに殺害指示を出し、兵士がいる方向には特に何かをすることなく素通りさせた。竜王国の兵士が戦うのはそれが役目であり、あとアンデッドを人目に晒すつもりもなかったので非戦闘民を守る以上の動きをモモンガはするつもりがなかった。

 これならツアーにバレても戦闘に介入したことにならないと言い訳が効くと思ったからだ。モモンガが大局を変えたわけでもなく、直接ビーストマンを殺したわけでもない。クレマンティーヌがレベル上げのために張り切って殺してしまっているが、陽光聖典だって派手に数を削っているのだから似たようなものだ。

 (元)漆黒聖典のやっていることなのだから、介入度合いとしてはセーフの範疇だろう。そう思いながら一日限定のヘルプが終わり、都市こそ取り戻せなかったものの大部隊を討ち取ったということで王城に呼ばれて褒賞を得られると聞いてモモンガたちは逃げ出したかったが銀糸鳥に首根っこを掴まれてしまった。

 特殊な条件が揃ってしまったために他国で活動したことを国王に説明するのも冒険者の義務と言われてしまっては断れなかったのだ。モモンガはドラウディンに会いたくなかったし、クレマンティーヌも陽光聖典を始めとする法国の関係者がいるかもしれないために王城には行きたくなかったのだが、義務と言われてはここですっぽかした方が後々に響くと考えて結局ついていった。

 案外こいつらちょろいな、と銀糸鳥に思われつつ王城にドナドナされて報告のほとんどは銀糸鳥のメンバーからされた。モモンガたちは後ろの方で立膝を着いているだけだ。それでもドラウディンの目はモモンガに固定されており、話をちゃんと聞きつつも射殺そうとする視線を向けるという器用なことをやっていた。

 説明が終わった後、モモンの偽名の方が呼ばれる。登録名はそちらだったのでドラウディンが配慮してくれたのだろう。そのまま彼女は自分の知り合いの知り合いということで、モモンに実力があることは知っていたと言いつつ助かったと告げられて、モモンガはなんとか返事をするので精一杯だった。

 ツアーには言わないでやる、と釘を刺されつつ実際に助けられたのでこれで手打ちとされたわけだ。

 

 本当ならモモンガ一人でビーストマンを殲滅できる。だがそれをやったら神の再来として確実に注目され、そして竜王国のこれまでの頑張りが全て無に帰す。為政者としてもそれを受け入れられないドラウディンは国民の命を守りたいと思いつつもプレイヤーの手だけは借りないと決めていた。

 その実力が知られ渡ったら、国全てが取り込もうとする。その人物がいるだけで全ての人類圏を統べられる。実際はツアーがいるので不可能だが、逆に言えばツアーさえいなければそれくらい容易くこなせてしまうのがプレイヤーの力だ。

 それは人類の力ではない。全てを神に恭順するしかないディストピアの完成だ。それは人間の血が多いドラウディンは受け入れられなかった。だからツアーの言葉もあるものの、モモンガの力を借りることは金輪際ないと誓う。

 今回の功績的にも、帝国側の主張はほぼ全てを銀糸鳥で殲滅し、モモンガたちは逸れ個体を十体程度倒しただけと言われた。冒険者で取り決められた密約の結果だ。それはドラウディン個人的にも都合が良かったのでそのままのっかかることにする。

 ビーストマンを十体も倒せる鉄級の二人組なんているわけがないのでそちらも昇格できるように冒険者組合に話を通すと伝えつつ、今回の大規模な殲滅はアダマンタイト級でもなければ成し得なかったと、太鼓判を押すことにした。銀糸鳥の活躍をしっかりと帝国に伝えようと話し、また今度ビーストマンを倒しに来てくれと依頼をあらかじめ出しておく。

 こうして銀糸鳥は帝国でも数少ないアダマンタイト級冒険者になり、モモンガたちも一つランクアップの銀級になることができた。

 だが今回の経験からもう竜王国には近付かないことにする。法国の人間に鉢合わせする可能性が高いことと、ランクアップをさせられてしまうこと、そしてあの国民の貧窮具合を目にするのは辛かった。

 だから法国がんばれとエールを送りつつ、二人は本当に竜王国に立ち寄ることはなかった。

 

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