オーバーロード 朽ちた大墳墓の超越者   作:金叉の猫

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7 宗教国家の興盛

 モモンガがここ最近で巡っていない人類国家として法国が残っていた。戦場や方々で人類への貢献は見ているが、国家としての法国はあまり見ていない。王国事変の時に立ち寄ったが、本当に一瞬だったために国のことを見ている時間はなかった。

 法国だけ行かないのは話が違うだろうと考え、モモンガは法国に行くことを決める。ドワーフの国は行ってみたら滅んでいたし、評議国はツアーがいる時点で行く理由がない。他の国々は色々と因縁があったり、ナザリックから遠すぎるので行くことをやめた。

 法国は頭痛の種だった王国とエルフ国の問題が解決したことで活気が溢れていた。人類圏で一番文化が発展している国だけあって、治水事業や交通網などは周辺国家の中でも群を抜いている。六百年前にプレイヤーという他文化の叡智を授かり、そこから研究を続けていれば文化も当然発達する。

 マジックアイテムの貯蔵数も確実に一番多い。その上で武具の類はナザリックから借り受けているのだから戦闘集団としても頭がいくつも抜けている。

 エルフ国での首都攻略戦をしっかりと観戦した二人は、漆黒聖典の強さを再認識した。エルフ王と戦う番外席次は人類の中では圧倒的であり、エルフ王の使役する土精霊のレベルはやもすればエルフ王より高かったが、それを抑え込んだ漆黒聖典の面々は称賛されるべき戦いを繰り広げていた。

 明らかにレベルが劣っている集団だというのに、その地力で徹底して時間稼ぎを遂行する。番外席次がエルフ王を倒すことを信頼した上で選ばれた作戦は、結果として誰も脱落者を出さないまま無事にやり遂げていた。

 モモンガは素晴らしいと褒めた上で、ワールドアイテムである傾城傾国を使わなかったことと、その強さではツアーには勝てないとわかって落胆もした。モモンガは現状ツアーを殺すつもりはないが、法国がやってくれるとありがたいと思っていた。

 法国と評議国の仲は悪い。ナザリックへの金銭の奉納を評議国が肩代わりしているためにナザリックにきちんと資金が渡っているのか不透明なこと。そしてツアーが抑止力としてずっと法国を抑え付けていること。

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 それでもスルシャーナとツアーがナザリックへの現地資金の渡し方を決めてしまったことから、法国は今でもその支払い方をしている。そうやって評議国を通った資金は一応問題なくナザリックに渡されている。

 日本語で書かれた契約書もあったために、その支払いは間違いなかったことをモモンガが確認している。そもそもナザリック所属のプレイヤーが現れなかったらその資金は法国へ返す予定で、貯蓄している場所は評議国だったということでもし評議国に何かあったらその金貨は全て消えていた可能性もある。

 たらればの話をしたくないが、そんな諸々が重なって法国は評議国が嫌いだ。評議国は強者が産まれる及びプレイヤーの血が覚醒することを拒絶しており、プレイヤーを崇めている宗教国家とそりが合うわけもなく。

 そうして両国の関係は最悪なままだった。

 プレイヤーを神とする国と、プレイヤーは世界を歪める竜帝の汚物と思っている存在がトップの国だ。主張が交わるわけもない。

 モモンガとクレマンティーヌは冒険者チーム『黒金』とも違う格好で街を歩いていた。耳に幻覚を作り出すカフスをつけて顔も髪の色も変化させて、ただの金持ち旅行者のフリをして偽名も使って街を練り歩いていた。街は宗教国家とはいえ、全員がカソックを着て歩いているわけでもなく、至って普通の街だ。

 異形種殲滅を心掛けていることを除けば。

 

「なあ、クレア。何でスルシャーナがアンデッドだったのに、異形種殲滅を騒いでるんだ?プレイヤーは別ってことか?」

「そういうこと。プレイヤー以外の人間じゃない生物は殲滅対象。やらないとやられるから専守防衛ってことでとにかく殲滅しようとするよ。逃したらそいつが子を産む。その子が強くなっていつか牙を剥いてくる。だから人類圏にいる異形は全て抹殺する。弱い人間の、必死の抵抗ってだけ」

「プレイヤーで純人間はそんなに多くないんじゃないか?エルフとかドワーフとか、ハーフも多かったし。天使も人気があったから結構いたな。それに人間の見た目でも中身が機械みたいなプレイヤーも後期にはかなり増えてたから、見た目だけで判断するのは危険なんだけど」

「プレイヤーは普通に生活していても目立つから。案外見かけるのは難しくないっていうのが上層部の考えなわけ。百年も隠居しているプレイヤーがいるとは思わないよ」

「だよなあ」

 

 異形種殲滅を叫ぶのは、正義の心を持つプレイヤーなら何か理由があると思って接触してくる可能性が高いという考えもあるようだ。六大神を絶対視しすぎている考えで、プレイヤーはそんな連中じゃないぞとモモンガは一言言ってあげたかった。

 そろそろ節目の百年だ。プレイヤーが単体で来るのか、ギルドごと来るのか。一人なのか複数なのか不明だが、プレイヤーが来ることはほぼ確定らしい。そのため法国の女性は自分を磨き、男性は力を磨く。子供達は純粋に楽しみにしている。そんな声がモモンガに届いていた。

 法国が観測できなかったプレイヤーは百年前だけのようだ。それはつまりモモンガのこと。モモンガ以外にも転移して世界のどこかでひっそりと過ごしている者もいるかもしれないし、転移してすぐ死んだかもしれない。本当のところはわからないが、来たとしてもツアーに殺されるのならどちらの方が良いのか。

 ネコさま大王国の跡地と思われる遺跡にも行った。噂には聞くくらいの趣味ギルドで外観も猫用にしているという遺跡には猫の様相など残っておらず、完全に崩れた廃墟だった。ナザリックも見た目的には廃墟と変わらないが、かのギルドの中には階層も何も残っておらず、憩いの場も崩れ去り。

 誰にも覚えられていない伽藍堂だけが残っていた。

 誰も彼もが殺されていく。生き残っているのは無害の海上都市の一人と、モモンガだけ。それ以外は自滅か竜王の怒りによって消されていく。モモンガは幸運な方だが、その幸運はツアーと一対一で善戦できたため。それだけの実力と運がなければ殺されるのがオチだ。

 本当に酷い二度目の人生だ。呼び寄せたのも竜王なのに、その竜王の怒りで殺されるなんて。

 モモンガはそんなことを考えながら歩いていると、クレマンティーヌが突然後ろを向く。彼女が警戒をしたのでモモンガも振り向くと、そこにはメガネをかけてかなりダボついたローブを着た女性がいた。まだ若くクレマンティーヌと同い年くらいの女性だが、その女性が着ているローブがユグドラシル産の魔法使いが使う代物だったためにモモンガも警戒をする。

 モモンガは気配を感じるなどは無理だ。クレマンティーヌはその辺りかなり敏感なので、向けられた視線で判断したのだろう。二人に声をかける前に気付かれた女性は驚きつつも、メガネを外してクレマンティーヌに話しかける。

 

「クレアさん。そちらの男性も。少し話す時間をいただけませんか?」

「クレア、誰?」

「占星千里です。占いで予知のようなことができるためにバレたのかと」

「はー。そんな力もあるのか。タレントかな?見付かるなら一人師団の方だと思ってたのに。話し合いはいいぞ。適当な場所に入って、防音の魔法を使うか」

 

 モモンガはバレてしまったのなら仕方がないと、宿の一室を借りる。会議室のような場所で、レンタルスペースのような場所だった。全員が座った後、占星千里がおずおずとモモンガへ声をかける。

 

「えっと、プレイヤー様、ですよね?オーバーロードの、モモンガ様」

「そこまでわかるのか。凄いな、タレント。君は漆黒聖典とのことだけど、俺たちのことは秘密にしてくれるかな?」

「話せません……。今は百年の揺り返しの直前ですし、明らかに今回降臨された方と間違われます。それに、目立つのが好きではないんですよね?」

「ああ。まだ死にたくないからな。それに法国に祭り上げられるのは嫌だ」

「ナザリックやあなた方への無礼を考えたら、それは当然の感情です。あの、一つ聞きたいことがあって。法国が嫌いなんですよね?評議国の真なる竜王に睨まれるから目立ちたくないのですよね?なのにどうして王国へ手を伸ばしてくださったのですか?それが、わからなくて……」

 

 わざわざ呼び寄せて聞きたいことがそんなことかと、モモンガは肩の力を抜く。

 ただ人間の感性に従っただけだ。リアルのスラム街を思い出して、世界が変わってもこんなどうしようもないものを見続けるのが嫌だっただけ。

 それを素直に伝えると、占星千里は納得してくれたようだった。

 

「やっぱりあなた方は人間なのですね。良い人と悪い人がいるように、良いプレイヤーと悪いプレイヤーもいる。……ありがとうございました。あと、クレマンティーヌに話したいことがあって。二人で話させていただけませんか?危害を加えたら殺しても構いません」

「そこまでしないさ。クレマンティーヌ、近くのお店を冷やかしてくるから、終わったら適当に探してくれ」

「了解〜。いってらっしゃーい」

 

 モモンガが宿から出ていく。それを目視した後に、占星千里はクレマンティーヌへ話を始める。元同僚として、そして数少ない同性の強者として話しておきたいことがあったのだ。

 

「生きてたのね、クレマンティーヌ。まあ、知っていたのだけれど」

「なのに黙ってたんだ?クソ兄貴の証言で生きてるってわかってたんじゃない?」

「ええ。それもあるけど、あの人に記憶操作がされていることもわかった。あなたがわざわざ同行して、神の位階の魔法を使える人なんてプレイヤーの方しかいない。薄々勘付いている人もいるけど、マジックアイテムを使われたと思う人と、鑑定に使ったものの確からしさがないから保留されている感じね」

「若干の時期のズレは前からあったらしいから、そのズレで早く来たと思うか、あたしが現地勢力でかなり強いところに鞍替えしたかを疑ってる感じでしょうね。あのクソトカゲの国ならそんなマジックアイテムくらいありそうだし」

「クソトカゲって……。私たちの宿敵に凄い言い草ね」

「あいつのせいで番外席次の出撃が渋られてるんだから、それもそうでしょ。彼女を投入すれば話は早いじゃない」

 

 すっかり変わってしまったクレマンティーヌの姿に、占星千里は出会いはこんなにも人を変えるのだと感動していた。家からの重圧、国としての指針。国宝を任されるという周囲の期待と自身の想いとの乖離。そんな様々なもので悩んでいたはずなのに、そんな雰囲気は現状一切ない。

 法国の現状も、よくはなってきたところだ。エルフの国との戦争が終わったために本来の人類守護に集中できる。そう変われた理由に目の前の二人の影響はかなり大きいのだが、それを恩着せがましく言うことも、何かの使命に駆られてやったと言うわけではない。

 モモンガの思いと、クレマンティーヌの親友だった少女の影響で王国に変革が巻き起こった。あのままだったらもっと腐り落ちていて、王国を切り落とすために王国民にも法国民にも大きな犠牲を強いることになっていたかもしれない。

 占星千里は未来を予知できるからこそ、そうなってしまう可能性を知っていた。だがその未来を変えた功績を彼女以外誰も知らない。

 

「そういえば兄とか家族への復讐って考えてないの?てっきりそれが理由で戻ってきたんだと思ってたけど」

「クソ兄貴にはちゃんと勝つつもりだけど、他は別に?両親には負けるはずがないし、縁切ったとお互い思ってるはずだからもう他人でしょ。他人を気にするよりは、今の生活を楽しむ方がよっぽど健全じゃない?」

「まあ、神様の恋人だからね。おっと、この言い方はあの人に失礼か。国が神と定めているだけで、本質は普通の人なんだから」

「……宗教国家の、しかも女で同じような教育を受けた奴の発言とは思えないけど?」

「こちとら幼少期からタレントのせいで様々な過去と未来を視てるのよ?神様の実像を知っちゃってて宗教にのめり込めるわけないでしょ」

「それもそうか」

 

 彼女のタレントは不定期に予知を授けたり、過去のことを知らせるというもの。過去のことは確定事項だが、未来のことは割と変動するようだ。そのため、最悪な未来を回避しようと思うものの、どうやったらその未来を回避できるのかがわからないために彼女は上層部に相談するくらいしかできなかった。

 その結果、変えられた未来は数多い。王国が亡国になったり、モモンガとツアーの本気の戦争に巻き込まれて人類国家のほとんどが滅んだり、評議国だけが滅んだりという未来を何度も見てきたが、そのほとんどをここ一年ほど一切確認していない。

 見なくなるということは回避された未来ということ。長年悩まされているからこそ、タレントのことがわかってきた。数ヶ月スパンで見ていなければ基本は回避されたと思っていい。

 だから彼女は、モモンガとツアーによる最悪中の最悪は避けられたと確信していた。

 その要因が元漆黒聖典の同僚だとは思いもしなかったが。

 最悪の未来を見ていた時を思い返してみると、ずっとモモンガは孤独だった。見た未来を回避するために起きた直後に夢で見た内容をメモに書いて共通点などを探るのが習慣になっていた彼女は、モモンガの周囲には仲間と呼べる存在がいなかった。

 世界最強の存在に挑むには孤独はとても辛く、無謀なことだった。いつも最後はモモンガが倒れ、ツアーが勝つか満身創痍になったところを番外席次がトドメを刺して双方倒れるというパターンが多かった。その番外席次さえも仲間ではなく漁夫の利を狙っていただけで、最後に良いところを奪っていくだけでモモンガを利用しているだけだった。

 だが今はクレマンティーヌがいる。最近の予知は幸せな未来ばかりだ。そのため夢見が非常に良い。

 そのお礼ではないが、目の前の少女を揶揄ってみる。

 

「それで、どう?一応あなたは法国の全女性が憧れる、神様の伴侶に選ばれたわけだけど」

「伴侶じゃないよ、まだ。それに憧れるって、結局神様って要素だけを気にして本人を見てないじゃない」

「とても失礼なことよね。まあ、でも時間の問題じゃない?クレマンティーヌ、生理来てないでしょ」

「……」

 

 クレマンティーヌが思ったことは一つ。こいつのタレントはそんなことまでわかるのかよ、だ。

 占星千里は未来と過去を見る時に風景の色が変わって見えて、しかも今の時間からどれだけズレた時間軸の話なのか数字でわかる。その数字から逆算すれば今の状態を引き当てるのも無理はなかった。

 

「神人が生まれにくい理由って簡単で、あちらの世界の人間と私たちという人間が別種族なのよね。しかもモモンガ様の場合、アイテムで人間の姿になっているだけで本質はオーバーロード。人間から離れた異種族だもの。同じ種族同士での妊娠とは話が別だわ。こんなこと、()()()()()()()()()()なあなたに言うまでもないことだと思うけど」

「それこそ当時は側室なんかをかなり当てがったらしいからね。比較的長生きだったスルシャーナ様の子孫が少ないのはやっぱり、唯一の異形種だったから。だからこそ、幼少期は『お前は選ばれし者、特別な血を継ぎし者なのだ』って可愛がられたけど。一瞬でその可愛がりは失望に切り替わったわね」

「ごめんなさい。完全にトラウマを踏み抜いたわ」

 

 ハーフエルフはそれなりにいるが、他の種族との混血児は数少ない。それは法国の研究で種族の違いだと結論が出ていた。相性もかなりあるようで、子供ができにくいことはまだ良くて、相性によってはどれだけ体を重ねても子供ができないことが多かった。

 プレイヤーに当てがった女性の数と比率から統計を取った結果、子供ができる可能性は人間同士と比べると半分以下だった。これがスルシャーナに限ると三割以下になる。

 このことからプレイヤーとの子はまさしく神人と呼ばれ、授かりものとして重宝された。産まれてくる子供全員に才能があるわけではないが、比較的強くなる素養を持った子供であることが多い。血を継いでいるだけでその可能性は引き上がり、戦力を求める法国からすれば産めよ増やせよの精神でプレイヤーとの子を求めた。

 その最新の結果が番外席次なのだから、彼女の誕生経緯を考えるとなんともな話だ。

 クレマンティーヌの今の状況を知られたら、法国を挙げての慶事となるだろう。彼女たちは絶対に知らせないが。

 

「話の雰囲気を変えましょうか。その、夜はとてもお盛んなのね?」

「はぁ⁉︎そんなとこまで見えるの⁉︎アンタのタレントキモすぎ!」

「見えちゃうのよね、困ったことに。しかも心構えとか全く無理なノーガードのところにいきなりぶん投げられるからこっちもどうしようもなくて。結構奉仕体質で、でも嗜虐心も出ちゃうタイプなのね」

「がああああ⁉︎忘れろ、忘れなさい!めっっっっっっっっちゃ恥ずかしいんだけど⁉︎」

「昔の法国って数を求めたからあんな結果になっただけで、実は一点集中すれば出生率は人間同士と変わらなかったのかも……?」

「変な考察出すな!絶対学会とかに発表するなよ⁉︎」

「できないわよ。データが足りなすぎるから」

 

 そんな秘密の会話もそこそこに、彼女たちの会合は程なくして終わった。

 モモンガと合流したクレマンティーヌの顔が赤かったが、それを指摘してもまともな返事が返ってこなかったためにモモンガは旧友と久しぶりに会って盛り上がったのかな、くらいにしか思わなかった。

 その数年後。

 百年の揺り戻しであるプレイヤーが単独でこの世界に転移して。

 所持していた二十の内の一つであるワールドアイテムを軽いノリで使ったことで大惨事が起きた。

 ツァインドルクス=ヴァイシオン、死去。

 

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