オーバーロード 朽ちた大墳墓の超越者   作:金叉の猫

8 / 8
最終話です。


8 人類守護戦線

 ツァインドルクス=ヴァイシオンが死亡して、世界中の竜王と周辺諸国に激震が走った。

 破れることが予想できない最強。父の不始末を雪ぐための世界の守護者。最強の種族として名高いドラゴンの中でも格別の強さを持った竜王の中の王。

 そんな存在が新たに現れたプレイヤーと接触を測り、そしてワールドアイテムを使われたことで死亡した。

 もちろん接触は遠隔操作の鎧を用いて慎重に行われた。プレイヤーは後期大型アップデートの折に始めた者で、キャンペーン中にやってみたものの既に初心者には厳しい状況だったために一週間程度で見切りをつけた。だがサービス終了を聞いて、お祭りに参加したくて久々にログインしたら転移させられたという、ある意味で運のない人間だ。

 彼が持っていたのは単純な、使い切りの全デメリットを与えるという二十に数えられるアイテムにしては微妙に聞こえるアイテムだが、このデメリットにはレベルダウンも含まれる。しかも効果は永続なのでプレイヤーに用いようものなら折角作り上げたアバターを初期状態にされるという化け物みたいな性能のアイテムだった。

 ユグドラシル最終日、最後だからとこれを使おうとしたプレイヤーに対して不意打ちと窃盗スキルでワールドアイテムを強奪。そのまま逃げ切り、サービス終了になった瞬間にこの世界に飛ばされたのだ。

 わけもわからず世界に一人で放り出された盗賊の彼の前に、なんか傲慢な鎧が現れた。世界を乱す者だとか、持っているアイテムが危険だとか宣われて、たまたま最終日に遊んでいただけの男が意味不明な状況に巻き込まれて素直にはいそうですかと言えるわけもない。

 まだ現実かゲームの中か判断がついていなかったこともあり、彼はワールドアイテムを使用。結果、本体も鎧もレベル1の、赤子レベルまでステータスが弱体化し、男は鎧を一刀両断。

 ここで与えられたデメリットの中に、「遠隔操作をしているものが受けたダメージを本体も受ける」という召喚系の職業にクリティカルなデメリットも植え付けられていたので、ツアーにもダメージが通りそのまま即死。

 ツアーが死ぬと考える者はおらず、旧交を温めようと訪れた十三英雄の死霊術師が本体の元へ嫌味を言いに行こうと考えなければ発見はもっと遅れただろう。それでも死後一ヶ月ほどは経っていたが。

 リグレットの証言から竜王にツアーの死が伝達され、プレイヤーを警戒していたツアーが接触して手に入れた情報をメモとして残っていたために下手人はすぐに見付かる。竜王の捜索によってトブの大森林に隠れていた男は竜王複数によって殺された。

 

 法国の情報だけをツアーによって脅しのように教わっていたため、人間種の国は脅威だと考えてトブの大森林でレベリングをしようとしたのだ。だがレベル60にとってはまともな相手はおらず、レベルも全然上がらないまま、竜王の襲撃に対応できなかった。

 サバイバルなどしたことのなかったプレイヤーは飛行の魔法も使えなかったために大森林を延々と迷っていて食糧も尽きて、精魂尽き果てた状態だった。そんな状態で突如自分よりも格上のドラゴンが十体以上強襲してきたのだ。

 レベル60程度では複数の竜王と戦うにはレベル差がありすぎた。心身ともに万全でもなく、ワールドアイテム以外にまともなアイテムは最終日のお祭りで使い切っており、生活するにも戦闘をするにしても何もない状態だったためにあっという間に惨殺された。

 そんなツアー動乱とも呼べる事態に引き寄せられるように、トブの大森林に封印されていた破滅の竜王が目覚める。竜王が暴れ続けたために大森林の生態系は完全に崩れ、封印も解かれて巨大なトレントが大森林を支配した。

 その破滅の竜王は、レベルだけなら生き残っている竜王よりも上だった。竜王のほとんどはレベル70台。それでも十分にこの世界では天下を取れる強者なのだが、本当の強者には勝てない。レイドボスのような圧倒的なHPを持つ破滅の竜王に恐れ慄いて、かの存在に手を出さなかった。

 生き残っている竜王はほとんどが若い個体だ。そしてレベリングするような相手もおらず、ツアーが脅威のほとんどを担当していた。そのためある程度は種族的な意味で強くなれたが、まともに戦ったことのない木偶の坊ばかり。

 結束すれば倒せたかもしれないが、ツアーのような長もいない状態で竜王は逃げたのだ。竜帝の汚物関連でもなく、自分たちの領土からも遠い。そういう理由で竜王は撤退していった。そうなると立ち上がる国家は一つだけ。法国だ。

 他の人類国家はあまりにも巨大で強大な木の竜王に恐怖するしかなかった。山をも越える大きさのモンスターにちっぽけな人間が何かできるはずもない。この世の終わりを悟った人間も多かった。

 法国は総力を持ってして破滅の竜王を倒そうとする。まずは近隣の住民を撤退させるためにほぼ全ての兵力が投入された。これは人類の防衛戦。一人でも生き長らえさせれば法国の勝利だ。そういう確固なる信念の元、一糸乱れぬまま近隣住民の避難が完了。

 だがこの時間が不味かった。周辺諸国にも伝聞されるほどの災厄。それがトブの大森林に身構えて動かないことを誰もが不審に思った。木の見た目をしているからといって、全く動けなかったらそれこそただの的だ。封印されていたこともあり、それだけで破滅の竜王と予見されるだろうか。事実、占星千里は動けないことを否定した。

 

 彼女が予知を持って事態を説明しても法国は避難を優先した。時間を与えれば与えるほど不味かったのだが、法国にも準備があった。というより占星千里も破滅の竜王が蘇ることは予見していたが、そんなに早くなかった。

 竜王の攻撃によって封印の堰が外れ、早めに復活したことは占星千里以外の有力な巫女やタレント持ちが保証した。紛れもなく竜王がトブの大森林の、封印の地を攻撃し、その中心にプレイヤー基準では弱いがこの世界基準では強者の愚か者が封印のど真ん中で死んだことが原因だった。

 封印が解ける条件は三つ。純粋な時間経過。強すぎる存在が封印の地に近づくこと。これは100レベルを指す。そして最後の条件は、破滅の竜王の眷属よりは強く、破滅の竜王本体よりは弱い存在が封印の地へ()()()()()()()()()()()だ。

 結果、三番目の条件が満たされて破滅の竜王は蘇った。そしてその存在は大森林に根を張り、近隣の生命体の生命力を根こそぎ吸い尽くした。破滅の竜王の特殊スキルである《ドレイン・ワン》という能力で生命力を自身及び眷属の強化に注ぎ込んだ。

 その結果破滅の竜王は最初のレベル85から92まで上昇。眷属もレベル50超えが当たり前で、かなりの数を量産していた。

 そう、破滅の竜王は時間を使って世界を滅ぼす軍団を作ろうとしていたのだ。その準備は着々と進み、大森林は緑を失い、全てが破滅の竜王の眷属の姿に覆い尽くされた。

 ビーストマンどころの騒ぎではない。英雄級は愚か、逸脱者と呼ばれる存在ですらどうにか一体倒せたら大金星という強さの化け物が無数に蔓延っているという、地獄の釜が開かれたかのような光景だった。その強さを観測した各国は迎撃体制を整えたり、避難する準備を始めたり、ツテを使って竜王に援軍要請をしたりした。

 だがどの国もトブの大森林に攻めようとはしない。そこは戦場ではない、ただの死地だ。人間だけを殺す処刑場だ。ゆらゆらと揺れ動く木の化け物がいつ進軍してくるか、どの方向に向かってくるか。自国に来ないことを神に祈るだけだった。

 国の最高戦力も、人類の希望と呼ばれるアダマンタイト級も無力だった。たとえ十三英雄の生き残りであっても、国堕としと呼ばれた古の吸血鬼も、自分たちの無力さを嘆くだけ。

 立ち上がったのは、人類守護を標榜する宗教国家だけだった。

 作戦は徹底した殲滅戦。一体でも逃せば世界に悲しみの雨が降り注ぐ。そのため風花聖典と水明聖典が補給路の確保を。土塵聖典が他聖典の守護を。火力のある火滅聖典と陽光聖典が眷属を倒し、各色を授かった巫女がそれぞれの支援を。

 そして漆黒聖典は本丸たる破滅の竜王への一本道の確保だ。特攻隊とも同義の役目だが、彼らはそれを為す。番外席次という、名実ともに最強の存在になった切り札を災厄にぶつけるためだ。

 

 傾城傾国という神の遺産による服従も考えられたが、有効範囲までワールドアイテムを使える老婆を連れて行くことが困難なこと。そして使ったところで眷属を盾にされてしまえば無意味なことから今回の作戦からは外された。

 決戦は、破滅の竜王が顕現してから四日後に始まった。たったそれだけの時間で戦線を作り上げた法国は優秀としか言いようがない。

 戦線はジリ貧だった。陽光聖典や火滅聖典がいくら優秀といえども、トップでレベル40と少し。レベル自体が負けていたために敵を撃破するには時間がかかった。神の遺物もふんだんに使っているのに押し留めるのがやっとだ。

 むしろレベル差があるのに押し留めているだけよくやっていると言えるくらいだ。眷属は魔法を使うこともスキルを使うこともないためにただただステータスの暴力で進軍するだけ。司令塔もいないためにただ真っ直ぐに順番に飛び出てくるだけ。だからこそレベルが低くてもなんとかなっていた。

 そうして戦線を維持している中、漆黒聖典はとにかく前へ突き進んだ。己が肉体で、スキルで、タレントで、武器で、アイテムで血反吐を吐きながらもとにかく番外席次を無傷で災厄の元に届けるためだけに全てを捧げた。

 神人でもないのに神人に匹敵する剛力を手にした男がその剛腕で眷属を数体纏めて吹き飛ばす。魔力を練り上げて渾身の魔法を使って眷属を燃やし尽くす。スキルを使って絶命の一撃を与える。使用制限があるタレントを使って絶対防御を作り出す。

 魔封じの水晶を一斉に使う。眷属を何度も払い除けられる大天使が、三つ首を持った地獄の番犬が、鎌を持った死神の具現化のようなアンデッドが、英雄たちを超えた活躍を見せる。その異形たちが時間を稼いでいる間に英雄たちは息を整える。

 危機に備えていた回復力の高いユグドラシル産のポーションを惜しみなく使っていく。ここが世界の分水嶺。出し惜しみなく、本当の人類生存への最終戦争と決めて宝物殿に残されていたアイテムを全て解放していた。

 そのため装備もアイテムも史上最高。やりようによってはプレイヤーにも勝てる、神の眷属らしい猛威を奮っていた。

 彼らの戦争は三日三晩続いた。一切の休みもなく全員が戦い続けた。主力メンバーには全員疲労軽減と不眠の装備が貸し与えられて、それ以外のメンバーは休憩と出撃の繰り返しで眷属の三割を削った。

 それで三割だ。人間が攻めてきた時点で貯蓄を辞めて蹂躙を始めたので眷属の数は増えていなかった。アイテムが優秀でも、武具が優れていても、人間は疲労するものだ。そして数が劣る人類では脱落者の穴埋めを完璧にしきれない。

 そこへ援軍が現れた。各国のアダマンタイト級、そして国の中枢部で働く強者たちだ。

 純粋に法国に恩がある者もいた。国の危機を助けられたことがあった。もしくはここで逃げ出したら結局滅ぶと思ったのか、強者だけを送り込んで防衛線の守護をこなしていく。アダマンタイト級ともなればレベル30近い強者の集団だ。彼らの多種多様な戦闘方法は防衛の力となった。

 人類への危険の流出は歯止めできていたが、最前線はあまり事態の変化が起きていない。攻め込んでいる部隊が漆黒聖典しかおらず、その数もたったの十三人。これで山ほどやってくる眷属の群れを倒しているのだから状況は好転しない。

 番外席次は極力戦闘には参加しなかったが、それでも本丸に辿り着くには時間がかかると分かればそれなりに戦闘に参加した。彼女の力なら眷属を倒すのはわけないが、範囲攻撃ができるわけでもないので数体を倒すのが関の山。

 三日進んでも全体の半分も進んでいないことにさしもの漆黒聖典ともいえども心が折れそうだった。本体は無傷で眷属が延々と襲ってくる。空から俯瞰しているわけでもないので敵の数がどれだけ減っているのかもわからず、この倒している眷属も続々と増やされているのではないかと思ってしまうと精神にも負担がのしかかる。

 遅々として進まない状況に、漆黒聖典にも諦めの感情が浮かび始めた。現存していた真なる竜王に次ぐ世界の危機。眷属が一体でも防衛線から逃れればそれだけで人類国家の終焉を意味する。そんな眷属がまだ万を超えて蠢いている。

 たとえ疲労無効の装備をしていても心に来る疲れは別のものだ。一人師団の召喚したモンスターの群れが突破され、陣形が崩された時には一人師団の目の前に眷属の伸ばした触腕が迫っていた。

 

「一人師団っ!」

 

 何人かが対処しようと動くが、物理的に間に合わない。一人師団も手に持っていた棍で防ごうとしたが、触腕の太さからして防ぎきれそうにない。

 もうダメかと思われた時、触腕は根本から綺麗に切断された。それどころか攻撃をしていた眷属がそのまま真っ二つに裂けていた。

 極力待機を言われているこの中での最強である番外席次の手助けではない。二番手の実力者であり漆黒聖典を率いる隊長でもない。

 その女性は漆黒聖典から姿を消して数年。在籍していた過去も消されて、預かった至宝も紛失した裏切り者として法国の歴史に名前を残し、どこかへ逃げ去ったという漆黒聖典に選ばれたことが間違いだったと断言されるほどの大罪人。

 金叉の髪を肩口まで伸ばし、前髪は綺麗に切り揃えられて、彼女の戦闘スタイルから最低限の軽装を纏った妙齢の女性。手には剣と呼ぶには若干短く、だがその刀身の美しさと込められた魔力から漆黒聖典の隊長と番外席次を除く隊員の持つ物よりも高ランクだとわかる双剣を持つ圧倒的強者が立っていた。

 更には腰に全ての武具を超える宝刀まで提げて、彼女に詳しくない者は国が信奉する神が降臨したのではと錯覚したほどだ。

 

「こんな道半ばで脱落とか、数年前からあんまり強くなってないわけ?あたしにイキってたクソ兄貴はどこ行ったのカナ〜?まさかそこでへたり込んでいる情けない男じゃないよね?」

「クレマンティーヌ⁉︎貴様、生きていたのか⁉︎」

「勝手に殺すなっての。番外席次、届け物。これあたしの旦那の、マジの本気で大事な剣。アンタのタレントなら使いこなせるだろうって。折ったら殺す。紛失しても殺す。この戦いが終わったら返せ。以上」

「貸してくれるの?どういう風の吹き回し?」

「あたしの旦那は世界の危機には立ち上がってくれる超良い旦那ってこと。あとクソトカゲがいなくなったから、そのストレス発散であっちで暴れてる」

 

 番外席次に剣を渡しつつ、東を指すとそっちの方では見たこともない魔法が天変地異を起こしていた。巻き上がる大爆発。轟く落雷、どこまでも広がりそうな漆黒の闇。上空から降り注ぐ流星。

 それに巻き込まれて眷属たちは死滅していく。何千もいたはずの眷属が瞬く間に消えていく。そのあまりにもな景色に漆黒聖典は力の違いがわかってクレマンティーヌの言う旦那はすわ魔神か何かかと恐れ慄き、一人番外席次だけはその圧倒的な力に目を輝かせていた。

 占星千里もその正体を知っているから他の人よりはマシだったものの、神様と呼ばれてしまう存在の常識外れな高次元の魔法の数々に畏怖を覚えたのは変わらない。

 クレマンティーヌがここに来るついでに周囲の眷属は倒していたので漆黒聖典が呆けていてもなんとかなっていた。それでも眷属はまだ周囲にたくさんいる。

 番外席次はそのタレントで受け取った剣の能力を完全に把握する。剣の扱いなら問題なく、切り札でさえも行使できそうだった。

 貸すとはいえ今持つスルシャーナの武器よりも格が高い最上級の武器を持っていること。そして東側の眷属が全滅する勢いで減っていることから彼女はクレマンティーヌの旦那の正体を看破する。

 

「疾風走破。旦那を紹介してほしい。私は二番目でいい」

「っざけんな!アンタの性格からそう言うとは思ってたけど絶対に渡すか!あたしと旦那は超ラブラブなんですー!子供だって2人いるんだから!」

「お前、子持ちだったのか⁉︎兄になんの報告もなく⁉︎」

「アンタら家族とは絶縁したっての!報告なんて絶対するか!顔も見せてやらんわ!」

「絶対的強者が嫁を1人しか持てないのは道理がおかしい。王には側室がたくさんいる。私は側室でいい」

「いつまでボケてるんだよ、番外席次っ‼︎旦那はあたしだけの旦那なんだよ!」

 

 一人師団がショックを受けたり、番外席次が猛アピールをしているが、そんなことお構いなしにクレマンティーヌは近寄ってきた眷属を秒殺する。レベル77で装備を全部ユグドラシル産で固めていれば眷属が相手ならいくらでも倒せるだけの実力差があった。

 運び屋のつもりで来たのに、無駄に敵を倒しているクレマンティーヌ。漆黒聖典が休めるだけの時間を稼いで、彼女は一区切りとする。

 

「はい、終わりっ!十分休んだでしょ。あとはあの目立つ樹にレッツゴー。さっさと人類を救って、世界も救って、剣を返して。これじゃ下の子が泣き止まないよ」

「隊長。作戦変更。私が先頭を行く。だから追って来ないように迎撃して。それが唯一の勝ち筋」

「……いいでしょう。このままではジリ貧だ。一点突破に変わりはありませんからね」

「話纏った?じゃあ終わったらまた回収に来るから。バァーイ」

 

 クレマンティーヌは突如としてできた円形の暗闇の中に入り込んでいく。その暗闇が消えた後にクレマンティーヌの姿はなかった。それが高位の転移魔法だとわかり、クレマンティーヌの旦那の力の一端を知って数人がその正体に行き着く。

 時期的にも間違っていない。真なる竜王を殺した愚か者とほぼ同時期に現れたプレイヤーなのだろうと。

 そこからの快進撃はあっという間だった。番外席次が借り受けた剣は眷属を最も容易く真っ二つにし、そこに込められたスキルを使えば百体近くが消し飛ぶ。彼女自身もエルフ王を殺害したことでレベルが90を超えており、そんな彼女にとってレベル50台の眷属では足止めにもならなかった。

 漆黒聖典にできたのはそんな突き進む彼女の足を止めないようにするだけ。ただただ追いかけて、彼女に近寄ろうとする眷属を吹き飛ばすだけのお仕事。それこそが大事だと、勝利の鍵だと彼らは残り少ない気力を振り絞った。

 そしてとうとう、番外席次は破滅の竜王の足元に辿り着く。破滅の竜王は彼女を殺すために暴れ始めたが、彼女は全てを無視して破滅の竜王の体を垂直に駆け上がった。迫り来る枝の触手は全て剣で切り裂き、とにかく上を目指す。

 自分を脅かす、最も近い存在なので破滅の竜王は彼女を弾き飛ばそうとする。だが全長と比べて彼女は小さすぎて、無数に生えた枝を使っても俊敏な彼女を捉えられない。番外席次も当たると思った枝だけを切り落とすので最小限の動きで回避と攻撃を両立していた。

 レイドボス級のHPがあろうと、番外席次が繰り出す攻撃は全てがユグドラシルプレイヤー換算でも最上位の一撃ばかり。それを枝と本体に与えつつ登ってくるのだから全長の3分の2を登り切る時にはかなりのHPが消えていた。

 そこに漆黒聖典の攻撃と、占星千里のバフデバフも入ったために、彼女が頭頂部に辿り着いた頃にはHPが4割を切っていた。

 番外席次には相手のHPを読み取るスキルや魔法は使えない。それでも感覚で彼女は握った手から伝わる剣からの高まりを解き放てば削り切れると確信していた。

 彼女は頭頂部から更に高く飛び上がる。馬鹿でかい巨体を叩き斬るには上からの一撃と相場が決まっている。

 彼女の切り札たるタレントを発動。それと同時に彼女は持てる力を全て、その一撃へと注ぎ込んだ。

 今、天をも裂く一撃が再びこの世界に振るわれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「《次元断絶(ワールドブレイク)》ッッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは戦場になったトブの大森林周辺だけではなく。近隣の元王国、帝国、法国だけに留まらず。

 遠く離れた竜王国や聖王国、評議国までも届いた斬撃。

 世界が救われた福音たる閃光。同族を殺し切った悪魔の先触れ。

 破滅の竜王は2つに分たれた巨体を地面に沈め、眷属は引き摺られるように全てが灰へと消えていく。

 誰ともなく勝鬨が響き渡る。

 滅亡の七日間は過ぎ去れり。

 新たな英雄譚、新たなる神話が産まれた日だと歴史に克明に刻まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「返せ」

「旦那に会わせてくれるなら」

「んなところだと思った。ウチの旦那様はそこまで織り込み済みなのよ」

 

 先程消えた時のように円形の暗闇から現れたクレマンティーヌは番外席次にワールドチャンピオンが使っていた剣を返すように要求したが、予想していた通りの返答をしてくれやがった。

 そのためクレマンティーヌは旦那から預かっていた「味方同士の武器を交換する」という課金ガチャの外れアイテムを使って持っていた小石と剣を交換。相手が味方と思っていなくても使用者が味方と思っていて、使用者が武器だと思っている物と交換できるアイテムにこの世界で変化した有用アイテムを使って剣を取り戻す。

 そのまま《転移門》に入り込んで逃亡成功。英雄が産まれた場所では声にならない断末魔が響き渡ったがクレマンティーヌに聞こえることはなかった。

 クレマンティーヌはそのまま旦那と一緒に我が家へ帰る。帝国の端の街に構えた一軒家で、愛しの旦那と子供たちと、変わらない日常を過ごすのだから。

 これは大墳墓が遺跡へと朽ち果てた物語。

 墓守の超越者が鈴木悟(にんげん)に戻るまでの、物語。

 




たった10日間でしたが、お付き合いありがとうございました。
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