「お前はなんで海賊になったんだ?」
のちの“
若い頃から体がでかくて顔を見上げるだけで首が痛くなりそうだ。
疲れるからおれはあまりそっちを見ずに、樽の上に座って、ナイフを研ぎながら返事をする。
「あんたとあんまり変わんねぇよ。生まれたんだか捨てられたんだか、住んでる島が最悪だった。いい暮らしがしたくて出てきたんだ」
「なんでお前がおれの過去を知ってる」
「ステューシーが教えてくれた。あんたのことなら大抵教えてくれる」
「フン、勝手なことを……」
白ひげは海賊だし、それ相応の暴力性や威厳がある。だけどここに集まってる海賊の中では一番穏健派なのは間違いないだろう。
危ない連中が集まった中で最も話が通じる奴だ。
前世や原作の記憶なんて遠く。おれは海賊として生きるようになった。
ゴミ島にロックスが来たのがきっかけだった。
誰なのかはよく知らないけどカリスマ性はありそうで、まさかの白ひげや“金獅子”を従えて海賊同然の悪党をやってる。この異常性は原作の展開を知ってればよりわかるだろう。
旗揚げすらまだの海賊団だが、自己主張の強い奴らばかりが集まってる。
仲間殺しは日常茶飯事。俺も何人か殺した。集団としては最悪の部類に入る。
「あんたこそなんでこの一味にいるんだ? 仲間を殺すな、指示に従え、報告しろ。海賊らしくないくらいちゃんと生きようとしてるだろ。独り立ちした方が成功するんじゃないか?」
「何をやるにも金はいる。おれだって好き好んでいるわけじゃねぇよ」
「金遣いが荒いんじゃないか? 勘定方でも見つけろよ」
「ここに信用できる奴がいるか? 金が関わりゃなおさらだ」
「ステューシーはどうなんだ」
「下働きが欲しいわけじゃねぇんだ。てめぇのことはてめぇでやってんだよ」
会う前からわかっていたつもりだったし、会ってみてそう感じることが多い。
白ひげは真面目だ。
海賊やってるのがおかしいくらいにまともな人間で、他人へのリスペクトもある。だから後々色んな人に慕われてたんだろうなって、こうして話してると思うことが多かった。
「この一味の体質に嫌気が差してんのは間違いねぇ。いずれは独立するさ、海賊やめるつもりなんてねぇしな。お前おれと一緒に来ねぇか?」
「ふざけんな。息が詰まって嫌になる」
きっともっとまともな環境に転生してたら、白ひげに抱き着きたくなるくらい嬉しい提案だったんだろう。おれも漫画で見た誰かみたいに「親父~!」って喜んで叫んでたかもしれない。
だけど出会うのが遅過ぎた。生まれる時代を間違えた。
今のおれはもう、いくら年上で頼りになっても白ひげを親父だなんて呼べない。
「今でも信用はしちゃいねぇが、おれはロックスに連れられて島を出た。何かあればおれは迷わずロックスにつく」
「信用してねぇって割には、きっちり従ってやがるな」
「どうせあいつはいずれ死ぬんだ。独立するならそのあとでいい」
「情があるんだかねぇんだか。わからねぇやつだ」
ワンピースなら知ってるが、ロックスってキャラクターをおれは知らない。
大海賊といえば“四皇”。白ひげはその一人で、同じクラスの海賊は映画に出てた“金獅子”なんかになるはず。
こいつらを仲間にしてるロックスはすごいと思う一方、原作開始時点では死んでるんだろう。
確かにロックスはカリスマ性があるし、おれを島から出してくれた恩もある。だが原作知識がどうこう言う必要までもなくいつか誰かに殺されるだろうって性格だ。
強いから誰もロックスに勝てないが、ロジャーあたりが最有力。死んだ時が縁の切れ目。
「ロックスにももう言ってある。お前が生きてるうちはお前に従う、お前が死んだら自由にやる。誰かに負けそうでも助けない。おれはおれの身を最優先に守る」
「あぁ、そういうやつだよお前は……環境が人を作るとはよく言ったもんだ」
「むしろあんたの方が異常なんだ。政府非加盟国の生まれならおれみたいなのが普通。他人に期待し過ぎるといつか足元掬われるぞ」
「それでもおれァ、夢を追い求めてぇってだけだ」
「異常なのは両方だろ。海賊やってて生ぬるいこと言ってんじゃねぇよ」
おれたちに声をかけてきたのは、映画の悪役として登場した“金獅子”のシキ。
元々は極道をやってたらしい。
頭に舵輪が刺さっていない、若い頃のシキが葉巻を銜えながらつまらなそうにこっちを見てた。
「旗こそまだねぇとはいえ、おれたちはこの海を股にかけて金を、力を、ナワバリを分捕って我が物にしてきた。海賊ってのは“支配者”だ。仲間だ情だ夢だと甘ったるいんだよ」
「それじゃあ政府と変わらねぇだろうが。この広い海を好きに航海してんだ。何でも自由にやりゃいいじゃねぇか」
一応は同じ船に乗っているとはいえ、形式上は仲間とはいえ、とても仲間とは思えない関係。
俺が誰とも組まないのもこういう光景が日常だからだ。
白ひげとシキが睨み合ったり言い合いするのは珍しくもない。びびる必要なんてなかった。
「支配にゃ限界がある。おれやこいつが故郷を飛び出したみてぇにな」
「政府の甘ちゃんどもとおれを同じにするな。人間を操るには恐怖が一番だ。誰も逆らえねぇ徹底的な支配があれば何もかも思い通りにできる」
「甘ちゃんはお前だろうが……馬鹿馬鹿しい」
「誰もてめぇになんぞ期待しちゃいねぇよ。ロックスのバカにいつまでも付き合う気はねぇがあいつの言う儲け話は悪くねぇ。今におれのナワバリを拠点にこの海全てを支配してやる」
シキはかなりの過激派で、自分が成り上がって支配者になることへの意欲が強い。
白ひげはその真逆。支配に興味はなく、穏やかに過ごせる島と家族が欲しい。
俺はそのどちらでもないし、ロックスの目的を受け継ぐつもりもない。
それなら俺が望むものはなんだ?
「支配か……」
「あ? お前も一枚噛むか?」
「やめとけ。こいつはお前すら支配しようとするぞ」
おれはゴミ島で育った。一時は王みたいに一番強くなってもいた。
島の住民を力で従えていたし、住みやすい環境にもした。
そういうことは元々やってたことになる。
「イユイ! さっさと来い! 戦闘だ!」
ロックスのバカの大声で中断する。
考えるのはあとにして、一旦戦闘に集中することにした。