この海賊団はロックスを船長として動いている。
今はまだ結成する途中の段階。ドクロのマークすらない。だがロックスの目利きによって着実に仲間を増やしつつあって、その方法は強引だ。
漫画でも読んだことがある“デービーバックファイト”。仲間と旗とプライドの奪い合い。一度始めれば途中で逃げ出せない、海賊としての生き様を賭ける戦い。
それを利用して数々の人間を集めてきた。
海賊やギャング、極道、マフィア、もしくは別の何か。必要な奴を必要なだけ集めてきた。
俺もその戦いに駆り出されることが多々あった。
今日の場合はただシンプルな一騎討ちだが、一応審判の名目で戦いを見守っている。
「マ~ママハハハハッ! どうした小僧! 根性見せてみろ!」
「ハァ、ハァ、黙れ……!」
のちの“四皇”の一人、“ビッグ・マム”ことシャーロット・リンリン。
豪快に笑いながら観戦しているが手を出すことはしない。
戦ってるのはあくまでロックスなのだ。
その相手はうちの船に乗せることに決めたのちの“四皇”、“百獣”のカイドウ。
どうやら年齢はおれが一番近いらしい。
悪魔の実は食べていないようで、そもそも原作で能力者なのかすらおれは知らないが、金棒一本持ってロックスと真正面からやり合っている。
「お前を殺せば、おれが世界最強……! それでいいよなァ!」
「ああ構わねェ! おれの金も船も仲間も全部てめぇにくれてやるよォ!」
ロックスはサーベルを持ってカイドウの金棒と打ち合ってる。
ただ、実力の差は歴然。
一撃繰り出す度に、ロックスからしても見上げなきゃいけないカイドウの巨体を軽々と吹き飛ばして何度も地面に転がしている。
決してカイドウが弱いわけじゃない。むしろうちに属してるその辺のチンピラどもも、カイドウが相手になれば一撃で頭を潰されて終わる。
ただ単純にロックスが強い。それ以外の理由はなかった。
何度もぶっ飛ばされながらカイドウは立ち上がり、何度でもロックスに立ち向かう。
まるで青春不良喧嘩漫画みたいにも思えるが、一応これでも殺し合いだ。
「クソッ! ふざけやがって!」
「頑丈な野郎だ! いい加減諦めても命は取らねぇぞォ!」
「ふざけんなァ‼ 誰が諦めるか!」
ロックスの攻撃には強力な覇気が纏われている。
一緒に行動するようになってから知ったことだが、覇気ってのは結構深いものらしい。おれも概要は知っていたから強くなればいいなと思って意識していたものの、自分の覇気を認識できるようになったのはロックスに出会ってからのこと。
あの強烈な覇気を浴びて意識を保ってられるだけで、カイドウが特別なのがよくわかる。
「あのガキ、タフだな」
「ずいぶん肉体が頑丈らしいな。それだけじゃあのバカには勝てねぇが」
「生まれ持った覇気が強いんだろ。戦闘経験もそれなりにありそうだが、力に頼り過ぎだ。自分より強い奴と戦ったことはなさそうだな」
「もう見るまでもねぇ。ロックスが相手じゃ万が一はない」
おれと同様、ロックスの覇気を浴びても平気な奴らが近くで色々言ってる。
白ひげは多少カイドウを気遣っていそうだけど、シキはあまり興味がなさそうだ。
一方でリンリンはたまにカイドウに声をかけたりして、他とは違って興味を示してた。
「リンリン、あいつ15歳だって言ってたぞ。まさか子供扱いしてるのか?」
「おや珍しいじゃないか~イユイ、自分からおれに話しかけるなんて。別にガキ扱いなんざしちゃいないよ。だが面白そうなやつだろう?」
そうは言うがリンリンは自分が気に入った奴と子供にだけは優しい。
ガキ扱いじゃないにしてもカイドウのことは気に入ってそうだ。まだガキのおれを気に入ってるみたいに。
それにリンリンには野心がある。計算高くもあって組織運営はすでに秀でていて、裏社会の要人との繋がりもあるらしい。
本人も隠そうとしていなくて、この一味の中から何人か引き抜いて自分の部下にしたとしてもおかしくないと思ってる。
そのことはロックスも他の連中も織り込み済み。
というより仲間意識が乏しいから全員が自分の野心をむき出しにしていた。
「あんた元船長だろ。いつか独立するのか?」
「ああもちろんさ。おれはいずれ自分の国を作って、家族たちと幸せに暮らすんだ。お菓子とおいしいものに囲まれて、みんなが同じ目線でテーブルを囲む、そういう国だよ」
「あんたも王を目指すのか……支配者が多いな」
「お前が望むなら住ませてやってもいいよ。来るかい?」
「あんたの顔色を窺いながら暮らすのはごめんだ」
「マ~マハハハハ! まあいいさ。気が変わったんならいつでも来な。歓迎してやるよ」
断ってもこんな程度で済むのはおれがガキだからだ。
長くゴミばっかり食ってたから体があんまり成長してなくて小柄なもんで、余計に子供だと思うんだろう。一応10代の半ばなんだけどそれ以下に見えても不思議じゃない。
そもそもリンリンはでかいからな。俺くらいのサイズじゃガキだと思っても仕方ない。
「ウォオオオオオオオオオッ‼」
「ヴォハハハハハハハツ!」
ロックスがカイドウをぶっ飛ばして海に落とした。
場外負けで勝敗は決した。
そうなるとは思っていたから驚かないが、問題なのはこれからだ。
「ずいぶんかかったね。まあロックスが遊んだからだが」
「あいつ……従うかな? デービーバックファイトの掟」
「いやぁ、まず無理だろうね。血気盛んなガキだったし。でもそうなりゃやることは決まってる」
デービーバックファイトは互いの同意の上で行われる勝負。ルールの上で決闘を行い、敗者は勝者の決定に従わなければならない。海賊の誇りにかけて。
ところがカイドウが律儀に従うかといえば、そんな風には見えない。
色んな奴にデービーバックファイトを吹っかけてると約束を反故にする奴は珍しくなかった。
「お前の負けだカイドウ! 今からおれに従ってもらう!」
「何が負けだ! ふざけんな! おれはまだ戦える!」
「だがあらかじめ説明しておいたはずだ。この円の外は場外だとな。お前は海に落ちたんだ」
「知ったことか! 生きてんのに負けたなんて納得いかねぇ! もう一度戦え!」
こうなることはなんとなくわかってた。
そしてこうなった時、約束を違えればおれたちがやることも決まってる。
「おれには従えねぇってのか? デービーバックファイトは海賊の魂を賭ける戦いだ。断れば海賊として生き恥を晒すぞ」
「生き恥……! お前に負けて従うことがそうじゃねぇとでも思ってんのか!」
力を振るって生きてきた若い男だ。仕方ない。
ただここは旗こそ掲げていないがデービーバックファイトで人を集めた海賊団。
従えないと暴れ出した奴を、はいそうですかと見逃してやるほど優しくない。
「仕方のねぇ野郎だ。よーしわかった、そんなお前にボーナスステージをくれてやろう。おれたちに殺されないでいたらお前を認めてやるよ!」
「あぁ? 何を――」
海から上がってきたカイドウに真っ先に斬りかかったのはシキだった。愛刀の二振りで胸を切り裂きながらカイドウを吹き飛ばす。
頑丈な体みたいだが、流石にこのレベルの覇気があれば無傷じゃいられない。
ロックスはただサーベルで殴るみたいに戦ってただけだ。本気を出せばいつでもああなってた。
「ぐおおおっ……⁉」
「ジハハハハ! 遊んでやるよクソガキ! すぐに死ぬなよ、つまらねぇからなァ!」
簡単に言えばただのリンチだった。
ロックスはあいつを殺さない。だがあまりにも従わないんじゃ問題が出る。それなら思う存分、あいつの現在地を教えてやろうってことなんだろう。
カイドウは強過ぎた。だから知らない。
あいつより強い奴なんて実はそんなに珍しくもないんだって。