名前はあとでわかったのだが、おれが食ったのはマゼマゼの実。
その名の通り触れたものを混ぜ合わせる能力。言うなれば“融合人間”ってところか。
実を食べた頃、激しい怒りと不満と飢えで頭がどうにかなりそうだったおれは、瞬く間にこの能力を操れるようになり、どんどん進化していった。
元々の定義はおそらく物質と物質を掛け合わせる、武器を作るような能力だったんだろう。
幼い頃からおれはこの能力を人間に対して使っていた。
ゴミ島に居た頃は、ゴミと人間を混ぜてゴミ人間を作り出し、おれの配下に加えていた。
体の一部だけ武器化すれば人間の意識はしっかりしているのだが、脳の一部に物質を混ぜ込むとある程度の意識が残ったまま、思考力をほぼ失っておれの命令に忠実になるのだ。
どの島に居ようとおれはおれの配下を生み出すことができる。
混ぜる物はゴミじゃなくてもいい。
ただの殴り合いや斬り合いもロックスと行動する内にどんどん強くなってきた。
略奪の有用性も自分の経験で学んでいる。
つまりおれがロックスの傍にいるのは、お飾りじゃなくて戦力だからってことだ。
「兵を増やせイユイ! おれについてこい‼」
新しい島に上陸した。
ロックスはいつものように真っ先に島内へ飛び込んでいく。
真っ先に突進していくのがあいつの常だが、ほっといても死ぬことはない。自ら道を切り開いて敵の気勢を折るのが見慣れた光景だ。
ロックスに続いて上陸したおれは、近くに居た連中を狙った。
この国を守ってる兵たち。武装していて有難い。
おれの能力の発動条件は物質に触れること。鎧を着て剣や盾や槍を持っている連中なんて、扱いやすい材料でしかない。
何も持っていない人間には物質を押し当てて能力を使用するから、手間が省けるのだ。
振り下ろされる剣を避けて兵士の頭に手を触れた。
能力、発動。
着ている鎧と武器を人体に混ぜ込み、脳の一部に鉄を混ぜて思考力を奪う。
右手は剣。左手は盾。全身が鉄の肌になり、もう着たり脱いだりする必要がない。
武器人間の完成だ。
かかった時間は3秒。
腕の武器化だけなら1秒で済むが、全身を変えるとなるとそれだけかかる。これでもずいぶん早くなった方だ。最初は10秒以上かかったから苦労した。
色んな奴を改造した経験でどんどん上達している自覚がある。もっと早くなりそうだ。
「死ぬまで戦え。行け」
命令すると武器人間が元々味方だった連中を襲い始める。
敵からすれば何が起きたかわからないんだろう。悲鳴を上げて腰が引けている。もしかすると悪魔の実の概念を知らないのかもしれない。
敵の方が数が多いが、たった一人放り込むだけで隊列は簡単に崩れた。
その間におれは次の一人を武器人間に変え、命令して攻撃させ、また次の一人を改造する。
そうしてどんどん味方を増やしていけば戦況なんて呆気なく変わる。戦闘訓練を受けている兵士でもおれの武器人間はそう簡単には殺せない。
体その物が武器になっているのもそうだがそれ以上に、自分が死ぬことを一切恐れずに攻撃を続けるのがおれの配下の強み。こいつらは体のどこが壊れようが気にせず戦い続けるのだ。
「待ちなよイユイ~! おれが分捕るソウルが減っちまうだろうが~!」
武器人間を増やすとおれはやることがなくなって眺めているだけでよくなる。
戦わせているとリンリンがおれの頭上を飛び越えて現れた。その傍にはホーミーズのゼウスとプロメテウスが同行している。
「マ~マママハハハハァ! 一発派手にかますよ! プロメテウス!」
「はいママ!」
リンリンが食べたのは“ソルソルの実”。生物の
同行しているマスコットキャラみたいな雲のゼウス、太陽のプロメテウスは、リンリン自身のソウルを分け与えて生み出された彼女の武器であり配下だ。
天高く飛んで敵の集団を見下ろすと、右手で物みたいにプロメテウスを握って振り下ろす。
「
「「「ぎゃあああああああ~っ⁉」」」
プロメテウスが地面に叩きつけられて大爆発を起こした。
武装した兵士たちは焼かれながら吹き飛び、もはや隊列なんて存在しない。
たった一撃で敵陣が崩壊。戦意まで折る。相変わらず天災その物みたいなやつだ。
「マンママンマ! さあてお前ら、簡潔に話をしようじゃないか。ライフ・オア・トリート?」
「ひっ――⁉」
リンリンが敵からソウルを奪おうとしている。
これ以上の戦闘は必要ない。
おれは武器人間を止め、その場に一旦置いといて、周囲の状況を確認した。
ロックスはどこかへ行ってしまった。
後ろから続々と味方が追い付いてきて、町への攻撃を行うやつも少なくない。
略奪だ。民家に火を放って金目の物を奪い取っている。
海賊なんてやってるんだからそりゃこれくらいやる。ただうちの一味じゃ人攫いはしない。白ひげが嫌がるとかではなく、単にその後の扱いが面倒だからだ。
「こんな奴らをいくら殺したって何にもならねぇ……おい! ロックスはどこに行きやがった! あいつに決闘を申し込んでやる!」
イライラした様子のカイドウが歩いてこっちにやってくる。
金棒から血が滴ってるのを見ると、戦闘はしたようだが満足する内容じゃなかったらしい。
「面倒を増やすなよ。そんなもんアジトに帰ってからでもできるだろ」
「つまらねぇっつってんだよ! どいつもこいつも手応えのねぇ……!」
カイドウはうちの一味に入った。だが相変わらず血気盛んで落ち着くことなくロックスに敵愾心を露わにしている。
一度はおれたちに殺されかけたのに全く気にしていない。
退くことを知らないバカではあるが、突き抜けたバカであることもまた事実だった。
「ロックスなら勝手にどっか行った。殺したきゃ自分で探せ」
「てめぇに言われるまでもねぇよ!」
デービーバックファイトの決まりを破ったから殺されかけたものの、その後の関係は悪くない。
少なくともおれやリンリン、白ひげは普通に会話できる程度の関係にはなってる。
他人に興味がないシキや、前に進むことしか考えてないロックス、いつも飲んだくれてるジョンなんかとは違う。
うちの一味に属してる奴はほとんどがデービーバックファイトでロックスが集めた強者。
たまに自分から入ってくる奴も居るが弱い奴はすぐ居なくなる。
だからこそおれたちを相手取って生き残ったカイドウはひそかに認められているのだ。
カイドウは悪魔の実を食べていない。能力者になればもっと強くなるだろう。
本人もそれを望んでいて、見つけ次第ってことになりそうだ。
もうすでに十分過ぎるほど強いのに、フラストレーションを溜めているらしいカイドウは次の獲物を求めてのしのし歩いて進んでいく。おれはその背を見送った。
この国のレベルはもうわかった。おれたちを止められる奴は居ない。
土地として価値があるとも思えないし、いただくものをいただいたらさっさとおさらばしよう。
「こいつらもう戦う気はなさそうだ。無駄に戦わなくていいぞ」
「ぬるいと言ったろ。一度でもこのおれに武器を向けやがったんだ。許してくださいで許してもらえると思ってんのか?」
空中に浮いてるシキが、10メートルくらいありそうな大岩を自分の能力で空に浮かせていた。
シキが食べたのはフワフワの実。能力は触れたものを浮遊させる。
殴るみたいに腕を突き出すと、大きな城に向けてその大岩を銃弾みたいに撃ち出した。
「ごめんで済ませてぇならそれ相応の態度があるだろうが‼」
大岩が直撃して、爆発するみたいに城が壊れた。
試しに周りを見てみると、武装した兵士も、逃げ惑っていた市民も、その光景を見た途端に何をしても無駄だと言うかのようにへたり込んで動かなくなる。
心を折られた人間の様子はわかりやすい。一度そうなれば支配するのは簡単になる。
「ジッハッハッハッハ! これでどうすべきかわかっただろう! おれに従え!」
「おいシキ! てめぇ無暗に被害を増やすんじゃねぇよ!」
「黙れニューゲート! おれに指図するな!」
「宝を運び出すのが面倒になるだろうが!」
「だったらてめぇの能力で全部壊せ! ただの瓦礫だろ!」
「ふざけんな! てめぇの能力で浮かせた方が早いんだ! てめぇがやれ!」
「指図するなと言ったばかりだよなァ! その舌かっ切って二度と喋れなくしてやろうか!」
「おぉ上等だ! やれるもんならやってみやがれ!」
白ひげとシキが言い合いをしてる。別に珍しくもない光景だ。
全員がリーダー気質だとこうしたやり取りは毎日起こるしどっちも反省しない。一応とはいえまだ集団としてまとまってるのは奇跡だろう。
この中じゃおれの存在なんてのはずいぶんマシなんだろうなと思えてくる。
元日本人の気質がそうさせるのか? そんな感性、ゴミ島でとっくに消え失せたと思ってたが。
壊れた城の中を探索していると、地下に続く道を見つけた。
何かあるかもしれないと思って降りてみると広い空間に繋がって、そこにロックスが居た。
どこに行ったのかと思えばこんなところに居たのか。
「何やってんだ?」
「おぉ、来たのか。これを見ろ」
呼ばれたのでそこまで行ってみる。
わざわざそこに行かなくても見えていたのだが、近くで見てみたいという気持ちがあったのだ。
「こいつは
あぁ、聞いたことある。実物を見るのは初めてだ。
おれたちが見上げるほどのでかい石。そこに文字が刻まれている。確かめちゃくちゃ硬い石でどれだけ雨風に晒されても変化せず、後世まで何らかのメッセージを伝えているんだとか。
「この国の近くにあった島にあったらしいんだが、その島にあった国は攻撃を受けてすでに滅んだらしい。その時にこの国の連中が価値も知らずに持ち帰って保管してたんだろう」
「ふぅん。読めるの?」
「んん? どうだろうな。だがこいつが重要なのは間違いない」
はぐらかされたな。
ロックスは秘密主義だ。自分のことをあまり語らない。他人のことも詮索しない。
いずれ世界の王になるという目的は明かしているとはいえ、なぜそうしたいのかは知らない。
まあ、考えるだけ今更だ。どうだっていい。
「こいつはもう必要ねぇ。海にでも沈めとくか」
「持ち帰らないのか?」
「ああ。お前もいらねぇだろ?」
秘密主義ではあるが、行動や言動からなんとなく察することはある。
古代文字が読めるのか、そうでなくてもこの石にあるメッセージを読み取れるみたいだ。
「読めないからいらないな。武器にはできるかもしれないが」
「ヴォハハハハ! ポーネグリフの鈍器か! そりゃおもしれェな!」
ロックスは後腐れもなく振り返って地下から出ていこうとしている。
この国に来た目的はそのポーネグリフだったみたいだが、置き去りにしていた。
おかしな奴だ。おれには何もわからない。
まあ、わかったところでどうするつもりもないが。