ロックス海賊団、とはまだ銘打っていないが。
船に乗って航海して島を転々として、行く先々で暴れている以上、この集団が海賊であることは疑いようもない。
暇になれば朝も昼も夜もなく酒を飲み、宴になるのもある意味では海賊らしさ。
盛り上がってケンカになったり誰かが死ぬこともあり、それも日常茶飯事。
今夜の宴は珍しく静かだった。
たまたま立ち寄った無人島でサバイバル同然に食料と水を集めて、宝はないがそれ相応の成果。
カイドウが暴れ出さなくて、シキや白ひげも上機嫌に酒を飲むだけ。リンリンはどこかへ消えているし、この一味がここまで穏やかなのは珍しい。
すぐ殺されるようなザコが間引かれて強い奴だけ残ったっていう状況だからだろう。一定の強さがあるから気に入らなくても一定のリスペクトがあるんだと思う。もしくは殺すのに手間がかかるからめんどくさい、もういいやってなるのか。
メンバーは着実に増えているがその分だけ強者だけの集まりになりつつあった。
最近は自発的に入団する奴がすっかり居なくなり、本当に必要な奴だけ船に乗っている。
「お前まだ酒飲んでねぇのか? おれに付き合えよ」
キャプテン・ジョンが酒瓶に直に口を当てて傾けながらおれに声をかけてきた。
かなりの酒好きで常に酒瓶を持っていて、酔ってるんだか酔ってないんだかわからない男だが、少なくとも潰れている姿を見たことがない。
ジョンが言う通り、おれは酒を飲まない。いつも水か、気分によってはジュースで十分。
周りと比べられればガキに見えるだろうが理由は年齢じゃない。
「こんな稼業やってんだ。まさか世の中のルールを守ろうなんてつもりじゃねぇんだろう? いつ死ぬともわからねぇ生き方なんだからよ、好きなもん好きなだけ飲もうぜ」
「おれは好きなもん食って好きなもん飲んでる。ただ酒はおれが嫌いだった連中が好きだったからなんとなく気に入らねぇんだ。あんたのことはなんとも思わないが」
「フヘヘ、そりゃよかった。うっぷ、うぅ~……お前に嫌われた奴は脳をぐちゃぐちゃにされて碌な死に方しねぇもんなぁ」
「ジョン、あんたもきっといい死に方しねぇよ。独立して部下を持ったら優しくしてやることをおすすめするぜ。部下に刺し殺されなきゃいいな」
「フヘヘヘ! あぁ、そうする。いざとなりゃ返り討ちにしてやるがなァ!」
キャプテン・ジョンって名前には覚えがあった。覚えやすいからなんだろう。
確か漫画の中に死体で登場したはず。
こいつの名前を初めて聞いた時は、頭の中で何かがバンッて弾けるみたいにその記憶が蘇って妙に気持ちよかったもんだ。
この一味もようやく形になりつつある。
人数が増えたし、その分だけ減って、メンバーが確立されつつあった。
“海賊教祖”
“密輸海賊”ガンズイ。
元ギャングの
魚人のバーベル。
シキのライバルだった凶。
女ヶ島から出てきたグロリオーサ。
おれより先に参加してた奴も居るし、おれより後に入った奴も居る。
他にも色々居るがおそらく今が歴代で最強のメンバーだろう。
ロックスもやる気になってるみたいだし、そろそろ大仕事を始めてもおかしくない。
「おいイユイ! こっちに来い!」
「おぉ、船長の呼び出しだ。殺されるなよ」
「あんたよりは確率が低いよ」
宴の時にロックスがおれを呼び出すのは珍しい。
ロックスはよくおれに呼びかけるが大抵は何か用事があって、おれを使うためだ。お互いに仲間として強く信頼しているとかそういうのとはまた違う。だがお互いに利用価値があるのもわかっているのか死なせないようにするくらいの助け合いはあった。
「まあ座れ」
「どうした? おれと話し合いなんてしたことないだろ」
「何も話し合おうなんて言ってねぇよ。まずは聞け」
集団から離れて、奥に設けてあった焚火の傍の地べたに座った。
ロックスは手に酒瓶を持っていて直接口をつけている。
「戦力は集まってきたがまだ足りねぇ。海軍の連中を脇に置いても政府の戦力は厄介なもんだ」
「そうか……でもハラルドのことはもう諦めろ。あれだけ誘って来ねぇんならもう無駄だ」
「ああ。なら計画の変更が余儀なくされる」
やっぱり話し合いなんかじゃなくて、こいつの中ではすでに計画が出来上がってるらしい。
「巨人を戦力にできねぇのは痛手だが、こっちにはお前とリンリンが居る。兵を作るのは容易い。そこらの海賊を傘下に加えるよりも効果的だ」
「なら海賊狩りか? ハチノスの連中を全部改造しろって?」
「バカ言え。ハチノスは海賊の楽園にするんだ。海賊どもが逃げも隠れもせずに堂々とバカ騒ぎしてるのを、政府は指をくわえて見てることしかできねぇ。そういう状況が必要なんだ」
「ザコがどれだけ集まっても大した意味はねぇと思うが……そのハチノスを占拠したのはおれたちたかだか数十人だろ。その気になれば政府や海軍も同じことをできるぞ」
「だからもっと強い力が必要なんだよ。悪魔の実も然りだ」
確かに悪魔の実は強力だ。
一生カナヅチになるっていうデメリットがあるとはいえ、海に落ちないという一点を注意していればどうということもない弱点だ。
現にうちの一味には悪魔の実の能力者が一定数居て、そういう奴ほど手強い。
尤もそれは能力だけのせいじゃないんだが。
「おれはまだ何の実も食ってねぇ」
「おれは食ってる。
「悪魔の実を一つ食べた奴は二つ目を口にすると体が爆ぜて死ぬ、なんて噂があるが」
悪魔の実を食った奴なら誰もが知っている常識だ。
ただ本当にそうなるのかは見たことがない。
「仮に二つの能力を得られるとしたら、この状況をすぐにでもひっくり返せると思わねぇか?」
悪魔の実の能力を二つ……そういえば、思い出した。
原作の中でもそんな奴が出てきたな。
今更ながらちょっとロックスに似てるような……でも朧げにしか覚えていない。こいつの顔で上書きされでもしてそう思うのかもしれない。
「どうするんだ? 実験でもするのか? 失敗したら死ぬかもしれないんだぞ」
「いやぁ、その心配はいらねぇ。だがどうせなら強い能力がいいな」
多くは明かさないとはいえ、十分にわかる程度には情報を開示されている。
つまりこいつはすでにその方法を知っている。
「他には漏らすな。乗るか?」
「もちろん」
「ヴォハハハハハ! そう言うだろうと思ったぜ!」