ロックスの号令により、おれたちは慌ただしく出航した。
目指すはゴッドバレーという島。
いきなりだったが全員覚悟はできている。今日がかつてない規模の戦争になると。
「いいか野郎ども! おめぇらに対していちいちごちゃごちゃ言ったりはしねぇ! どうせどいつもこいつも従わねぇからな!」
船首付近に陣取ったロックスが島を見ながら大声で叫ぶ。
すでに戦意は高まっていた。この船に居る奴はもちろんそのつもりで、従うはずがない。
「あるもん全部奪ってこい! 宝は持ち帰ってから山分けだ! それでいいよなァ!」
船は船首から突っ込むようにして着岸。
同時にロックスが飛び出した。
いつになく戦意が高くて、珍しいくらいやる気になってる。
「おれに続けェ! ロックス海賊団‼」
その声に対する反応は様々だったが、おれたちもすぐに船から飛び出した。
島内は何やら騒がしく、すでに何かが起こっているらしい。遠くからでも黒煙が上がっているのが見えて、近付けば至る所から悲鳴も聞こえてきた。
「イユイ! おれについてこい!」
おれだけご指名で命令が下った。他とは違って基本的には従うからな。
おれはロックスの背中を追いかけて走り出す。
「ついに来たぞ! 忘れてねぇよなァ!」
「もちろんだ」
「ヴォハハハハハ! いただくぞォ!」
それはおれとロックスしか知らない秘密。
今日が勝負の時だった。
ロックスに続いて上陸したおれは、近くに居た人間たちに近付いた。
ただの市民かと思ったが外見からしてかなりボロボロ。住民かどうかは知らないが何かしらの事情がありそうだ。
中には手錠をつけられている奴も居て、なるほど、奴隷なのかと察する。
「お前ら逃げてきたのか? 生きたいのか?」
「い、生きたい! 死にたくない!」
「なら戦う覚悟はあるか?」
「た、戦うなんて、そんなっ⁉」
「なんでもするつもりはあるが、おれたちが何かしたところで、勝てるとは……!」
「おれが力をくれてやる。生き残りたいなら死ぬ気でもがけ」
奴隷たちに能力を使う。
手錠を外すついでに皮膚に混ぜ込み、頑丈にした。
近くに落ちていた武器・岩・草、なんでも混ぜて変化させられる。
「生き残れた奴は元に戻してやるよ。だから戦え。お前たちが生き残るために」
脳に埋め込んで命令するまでもない。こいつらは奴隷。今まで鬱屈とした感情を抱いて、いつか状況を変えてやると思って生きてきたはずだ。
岩石人間・植物人間・武器人間。戦う術は与えてやった。ただそれだけで強くなった。
あとは本人がその気になれば十分に戦える。
そしてそれを伝えてやると、奴隷だった人間たちは雄叫びを上げておれの配下になった。
「おいイユイ! ロックスのバカはどこに行った!」
遅れて上陸してきた白ひげたちが追い付いてきた。
海兵がやたらと多くてもう戦闘も略奪も始まっている。その中でも白ひげはやはり、奴隷たちには手を出していないみたいだ。
「さあ、勝手にどっかへ走ってった」
「何のためにお前が一緒に出てったんだアホンダラァ! どうせあいつは目的を見失うぞ!」
「好きにすりゃいい。それより今日は祭りになる」
おれも珍しくわくわくしてた。ここまででかい戦闘は久しぶりだ。
「海兵が多いな……覇気が強い奴はそれだけ強い兵士になる。最高記録出してやるぞ」
「チィ、サイコ野郎が。事が済んだらこいつらはちゃんと戻してやれよ!」
「ああ」
「おいイユイ、あんまり取り過ぎんなよ! おれがソウルをいただくからなァ!」
続々と駆け付けてきて戦闘が始まる。
おれも早速戦線に参加した。
ぼやぼやしてるとリンリンにソウルを取られちまう。そうでなくても他の連中は手加減せずに敵を殺すのだ。死者は改造しても動かないから武器に変えるくらいしかできない。どうせなら自分で動かさせる方が楽なのに。
その島は瞬く間に戦火に包まれた。
あちこちで火の手が上がって島内にどんどん広まりつつあり、誰かの叫び声がどこからでも聞こえてくる環境。目に映る全ての場所で凄惨な出来事が起こっている。
海賊たちが来たことでその光景はさらに、比べ物にならないほど恐ろしいものになった。
島が激しく揺れ動き、大気が震えて衝撃が飛ぶ。
大岩が空に浮かんでから雨の如く降り注ぐ。
命を得た火が踊り出して、空を舞う太陽と雲が遊ぶように火と雷をまき散らす。
激しい混乱の中で、渦中に居ながら立ち止まってその光景を眺めている集団があった。
先頭に立つ大きな顔の子供がぽつりと呟く。
「ここは、地獄だ……」
そう言ってから両腕を高々と掲げて、力強く拳を握った。
「ヒーハー! 最高じゃねぇか! こんな地獄ならむしろありがてぇぜ! こうなりゃこっちのもんだからなァ!」
「やったねアニキ! うちらもめっちゃくちゃ危ないけど!」
「バッキャロー! 危ねぇからこそ逃げ道が生まれるんだろうが! もっともっと危なくなってもらわなきゃ困るんだよ!」
彼らは地獄のような光景を喜び、希望を見出していた。
ただでさえ地獄の様相だった場所に更なる混沌が持ち込まれ、彼らを苦しめていた人間たちまで我先にと逃げ惑っている。
「だがこのまま待ってたって助からねぇ! 今がチャンスだ! 行くぞくま! 悪魔の実を奪ってその能力を使うんだ!」
「うん」
顔の大きい子供が傍に立っていた体の大きい子供に呼びかける。
彼らは仲間たちを残して意を決して駆け出した。
「二人とも気をつけてェ! 絶対生きて会お~!」
「おうっ! 任せとけッチャブル!」
大爆発が起きる戦場へ、子供たちは決死の覚悟で向かっていった。
海兵の部隊へ単身突っ込んだイユイは、ぎょっとして反応できていない海兵たちに手を触れる。
持っていたライフルが体内に入り込むと、次の瞬間には右腕その物がライフルに変化し、変化させられた二人の海兵は目が虚ろになる。
「海兵を殺せ」
聞いた直後、すぐ傍に立っている海兵へ銃口を向けて、ライフルから弾丸を発射。反応できない海兵の体を貫いた。
周囲が悲鳴と動揺の声で包まれる。
イユイは素早く駆け出し、小柄な体を利用して海兵たちの股下を潜るように移動した。
移動中に触った海兵の肉体が1秒とかからず変化する。
ライフルやサーベルが腕になり、目が虚ろになってぼーっと突っ立つようになった。
そしてイユイの声に従って動き出すのだ。
「死ぬまで戦え。海兵を殺せ」
操作された海兵たちが一斉に他の海兵を襲い始める。
ただでさえ海兵も混乱している状況だった。突如始まった同士討ちのような状況にすぐさま対応できる人物はおらず、イユイの武器人間によってただひたすら傷つけられるだけだ。
しかし誰一人として反応できなかったわけではなかった。
混乱する海兵たちを見やり、そこに敵が現れたと気付いた海軍本部中将が駆けつけてくる。
目にも止まらぬスピードで直進し、サーベルを振り上げて、接近と同時に振り下ろした。その攻撃をイユイは避けようともせず受け止めた。
自らの右腕がサーベルの刀身に変化している。金属音を奏でて受け止め、小柄な体だが見た目からは想像もできないパワーを感じてびくともしない。
「貴様ァ! よくも私の部下を!」
イユイは答えず、すかさず左手を出して中将の体に触れようとした。
その行動に悪寒を覚えた中将は考える前に空を蹴り、後ろへ下がって空を飛んだ。
おもむろにイユイが胸を前へ突き出す。
直後、彼の胸に突然ピストルの銃口が4つ並んで生えてくる。
とても人間の体とは思えない光景。すぐさま発砲し、驚愕して反応が遅れた中将の体を貫いた。
まるでその場から消えたかのような高速移動。間髪入れずに距離を詰めて、すでに元に戻っているイユイの右手が中将の頭に触れた次の瞬間、目が虚ろになって体の自由が失われる。
続けて右腕がサーベルの刀身に変化し、左手の掌からはピストルの銃口が現れ、さらに胸と背中にも一つずつ銃口が生えてきた。
イユイが食べたマゼマゼの実の能力は、物質と物質を混ぜて一つにすることができる。
無から有を生み出す力ではなく、今その場にある有と有を掛け合わせる能力。ただし形状やどこにどう混ぜ合わせるかは本人の意思である程度の操作が可能。
脳の一部に物質を侵食させて、思考力を奪えば自らの命令を無条件に聞かせることができる。
その半面、混ぜ合わせた物を全て取り除いて元の姿に戻すことも可能だった。
「目につく海兵全て殺せ。中将を見つけたら優先して殺せ。行け」
彼はその能力で、瞬時に敵を味方にすることができる。
敵対していた海兵を自らの兵士に変えて、混乱している海兵を殺させることができる。
ただシンプルな力業ではなく搦め手で即座に戦況を変えてしまう傑物。雑兵狩りにおいて彼の悪名は広大な海に広く伝わっていた。
「イユイ~! でかいの寄越せ!」
そして彼の能力は即席の武器を作ることを得意としている。
海兵が落としたサーベルを地面に突き刺し、能力を使用。地面の一部が剣先に付いて、まるで巨大な棒付きキャンディのような見た目になった。
走ってきたロックスにそれを投げ渡すと、彼は飛び上がって受け取り、大上段から振り下ろす。
強烈な覇気を纏ったその武器はハンマーの如く、大地を砕いて深々と破壊する。
「ヴォハハハハハ! どうした海兵ども! おれを止めてみろォ‼」
ただ巨大な武器は見た目だけで敵を威圧する。
彼の覇気を受けた人間はたとえ訓練された海兵だろうと気を失うが、たとえ何かの間違いで気絶しなかったとしても、その巨大で奇妙な武器を軽々と振り回す様を見れば冷静ではいられない。
ロックスはイユイが作る武器で戦うことを好んでいた。
意味など大してありはしないが、巨大な武器を豪快に振り回すのが快感だったのは確かだ。
「やべぇ奴も来てるようだな……! イユイ、遅れるなよ!」
「ああ」
ロックスとイユイはずいぶん先行しており、仲間たちからは離れていた。
そのことを気にせずどんどん前へ進んでいき、島の中心部を目指していたのである。
「ほんとにあるんだろうな」
「情報が正しけりゃな! あると信じろ!」
「なかったらどうするんだよ」
「心配すんな! 得るものは多い! ヴォハハハハハハ!」
二人を止められる敵はおらず、ロックス海賊団の驀進は続いた。