おお、我らがロックス船長よ   作:ヘビとマングース

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7:大戦争

 混迷を極める島内で更なる混乱が起ころうとしていた。

 

「ニューゲート! ロジャーが到着したそうよ!」

「何ィ⁉ 面倒を持ち込みやがって……!」

 

 バッキンガム・ステューシーの報告を聞いて、エドワード・ニューゲートは憤りを見せた。

 その報告は轟音に包まれていても周囲に居た人間に届く。

 

「ロジャーだと⁉ 来やがったのか! おれが殺してやる!」

 

 真っ先に反応したのがカイドウだった。

 どこに現れたのか、覇気を使ってざっと方角を確認した後、単独で走り出した。迷わず集団を抜け出すと、到着したばかりだという海賊を狩ろうとする。

 

 ニューゲートはそれを止めようかとも思ったが、どうせ無駄だと思って口を噤んだ。

 心配したところで立ち止まる連中ではないことをすでに知っている。

 

「カイドウのガキにロジャーが殺せるわけねぇだろうが! おれが殺してやる!」

「待てシキ! てめぇが暴れたら島が無事じゃ済まねぇだろう! 奴隷たちも居るんだぞ!」

「知ったことか! ならおれに従う奴だけ助けてやる! それ以外は殺せばいいだろ!」

「ふざけるな! いいわけがねぇだろうが!」

 

 空を浮遊するシキが移動しようとすると、今度は迷わずニューゲートが止めた。

 金棒を持ってただ肉弾戦を仕掛けるカイドウと悪魔の実の能力を持つシキでは周囲に与える被害が違い過ぎる。下手をすれば彼らの安全すら危うい。しかし自らがトップであることを望むシキがニューゲートの命令を聞くはずがなかった。

 

「黙れニューゲート! てめぇがおれに命令してんじゃねぇよ! 殺されてェのか!」

「関係ねぇやつを狙うなっつってんだ! アホンダラァ!」

「やめなさいよ二人とも! こんな時に!」

「おい、リンリンが居ねぇぞ! どこ行った!」

「フヘヘ、どうせ悪魔の実だ。気にすんな」

 

 まとまりがないのはいつものこと。彼らは結局、我先にと敵へ殺到する。

 向かう先から来るのは新進気鋭の海賊、ロジャー海賊団。

 一足先に駆け出したカイドウを先頭にして、島全体が揺れるほどの凄まじい戦闘が始まった。

 

 

 

 

 周囲が炎に包まれる状況下において、子供と老人が向き合っていた。

 地面に這いつくばっている子供は、年齢の割には体が大きいが見た目からしてボロボロで、辛そうに呼吸を乱している。

 その正面に立っている大柄の老人は杖を手にしており、しかし異様な迫力を感じさせた。

 

「おめぇみたいなのがこんなところに居るとはなァ」

 

 不意に声がして、老人が声の出どころに目を向けた。

 話題の海賊、ロックス・D・ジーベック。その男がサーベルを手にしてそこに立つ。

 

「貴様か……よもやこんなところにまで現れるとは」

「ずいぶん必死だなァ! お前ら!」

 

 ロックスが見ていたのは、ジェイガルシア・サターン聖である。

 この世で最も尊いとされる“天竜人”の中の最高峰。本来ならば“赤い土の大陸(レッドライン)”の上に居るはずの人物だ。西の海の島に居るのはおかしい。今日のような異常事態でなければ。

 

「だがおれは殺せなかった。おかげで今日こうして対面できてる」

「時間の問題だ。貴様らはどの道死ぬ運命。生きることなど許されていない」

「天竜人なら許されるか? あいにくおれは運命に従うつもりなんざさらさらねぇ」

 

 ロックスがサーベルを構えた。

 その姿を見て、周囲に護衛の兵の姿が見えずとも、サターン聖はまるで取り乱さない。逃げ出すどころか警戒して身構えようとさえしなかった。

 彼がそうした態度を見せるのも予想の範疇だったのか、ロックスはにやりと笑うのみ。

 

「お前らを排除して、おれが世界を獲る」

「無駄な話だ。貴様には何も成し遂げられん」

「なら試してみるか。いいぞイユイ! 来い!」

 

 ロックスが呼びかけるとイユイが高く跳んで現れた。

 右腕には武器・家屋・山の一部、他にも様々な物を混ぜ合わせて、山のように巨大になった物質を装着していた。

 

 叩く・殴るというよりただ振り下ろして押し潰す。そんな一撃だった。

 イユイの攻撃は確実にサターン聖が立っていた地点を激しく破壊して大地を砕いた。

 

 ロックスの登場後、ひっそりとサターン聖の前から逃げていた大柄な子供は、背後から襲ってくる暴風に吹き飛ばされて地面を転がった。しかしこれまでに受けた痛みに比べればなんてことはなくすぐ立ち上がり、迷わず駆け出してその場を離れる。

 その一瞬、わずかに振り返って後方を確認して、不気味で巨大な影を見た。

 

「ヴォハハハハ! まるで本物の悪魔! おもしれェな!」

「なあ、こいつの死体って残るのか? 武器に組み込めば今までにないものになるかもしれない」

「さあな。確かめたことはねぇんだ。知りてェならこの場で殺せ‼」

 

 サターン聖は、世にも珍しい虫とも獣とも思えない異形へと変化していた。

 その姿はまるで悪魔。どんな悪魔の実の能力とも似ていない、特別な迫力を感じる。

 

「貴様らのような下等な者どもが、神の座を奪うなどと軽々しく口にするな……!」

「怖いか、おれが! 本当に奪えそうか、おれたちが! 止めてェんなら必死で来いよ! 今日がお前の葬式にならねぇようにな!」

 

 肩を並べてその前に立ったロックスとイユイは、いよいよ本腰を入れて戦闘へ臨んだ。

 

 

 

 

 戦火が広がり、もはや多くの人間が戦いをやめてひたすら逃亡する状況下。

 一部の強者のみが戦いを継続し、今や島を破壊しかねないほどの被害を生み出している。

 そんな中で彼らは出会った。

 

「ロジャー! あそこだ!」

 

 ゴールド・ロジャーは自らの相棒であるシルバーズ・レイリーの声で視線を動かした。

 天まで届きそうな大火の向こうに人影がある。

 気配を感じるだけで相手がわかった。そして今、以前会った時とは比べ物にならないほど強い覇気を感じていて、ただ事ではない何かが起こっていると感じる。

 

 不意に、視界を壁の如く遮っていた炎がふっと消えてしまった。

 地面から這い寄るようにして黒々とした闇が広がっている。

 これまで見たことのない現象。それを見てロジャーは眉をひそめた。

 

 そして前方から歩いてくるのはやはり気配で感じた通り、想像していた人物。

 ロックス・D・ジーベックが、何やら異様な雰囲気で歩いてきた。

 

「ロジャー。おれを邪魔しに来た、とは言わねぇよな」

「こっちはこっちで事情があるんだよ。それよりお前……何か変わったか?」

 

「さあな。ともかく、おれはお前らに興味がねぇ。おれの船に乗るってんなら歓迎してやるがそのつもりはねぇんだろう?」

「乗るかバカ。考えるだけで虫唾が走る」

 

「なら、互いに用はねぇはずだ。ここらで手打ちといこう。おれの敵はお前らじゃねぇ」

 

 ロックスはいつになく穏やかだった。

 互いに海賊であれば特に理由はなくとも殺し合いに発展するのが常識。ロックスもまたその例に漏れない程度には凶暴性を持っていたはず。

 それなのに今日は何もしないでおこうと言い出している。不気味に思っても不思議ではない。

 

「我々を見逃そうとでも言うのか? お前らしくもない」

「お前、能力者になったのか?」

「ああそうだ。おれの目的はそもそもこれだった。そういう意味じゃおれの目的は達成されたんだがこの島に来てみて都合が変わってな」

 

 ロックスは笑みを浮かべて、不気味なほど静かに語りを続ける。

 

「多少の予想はあったとはいえ、あいつが来てるとまでは思わなかった」

 

「わかっちゃいたんだが、実際アレを見ると、無視できねぇもんだ」

 

「使い道があったのさ。アドリブだったが案外悪くない」

 

「おれは運がいい」

 

「あいつがここに来てたことと、それを上手く使える奴を仲間にしてたからな」

 

 何を言っているのかわからない。気でも触れたのか。

 そう思ったロジャーは誰よりも早く、ある時突然ハッとした。

 

 ロックスのあまりに巨大な覇気で気付くのが遅れた。

 何かが居る。

 それは人間とは思えず、強いのか弱いのかわからない、不気味だが確かに生きている気配。これまで色んな島を巡ったが一度として出会ったことのない生き物だ。

 

 大勢の人間がこちらに歩いてきた。

 黒い角を一本だけ生やして、腹や腰や、或いは腕その物として、蜘蛛の足を生やしている。

 誰もが目が虚ろで、まるで死者のようにふらふらと歩いて前進していた。

 

「ありゃあなんだ……⁉」

「醜悪な気配……! 人間とは思えん」

「死体を混ぜ込んだんだ。死んだ後でも細胞は生きてやがるのか? おかしな体だぜ」

 

 混ぜ込んだ、という一言で誰が動いたのかはすぐにわかった。

 この場に居ないマゼマゼの実の能力者、イユイ。彼が生み出したに違いない。

 

「こいつら、有難くもおれたちの命令には従順でな。だが余計な真似はするなよ? 命令なんざしなくても敵認定した奴には自ら襲い掛かって細胞を埋め込んじまう」

「何? なんだそりゃ……」

「勝手に増殖しやがるんだよ。海兵、天竜人、その他の奴隷ども……ずいぶん増えたなぁ」

 

 事情はよくわからないがこの状況が、そこに居る不気味な人々がまずいことだけはわかる。

 ロジャーとレイリーは普段とは違って珍しく、息を呑んで汗を垂らすほど寒気を感じていた。

 見れば確かに服装はバラバラ。なのに共通の特徴がある。

 ふらふら歩く様はゾンビのようで、今もまだ仲間を増やそうとしているらしい。

 

 ロックスとイユイはサターン聖を倒した。

 体を切り刻んで細かなパーツに分けて手に入れると、人間の体に混ぜ込んだのである。

 すると彼らでさえ予想しなかった結果が起きた。入念に何度となく攻撃を与えたが異常な力を感じさせるその肉体は、人間の体に侵食し、支配し、まるで悪魔のように変化させる。

 “悪魔人間”とでもいうべきか。新たな生物の誕生だった。

 

「作ったのか……⁉ お前ら、何をするつもりだっ」

「世界を獲るんだよ。皮肉にも自らを神と謳う連中を利用してな」

 

 これまでにもロックスと対面し、剣を交えたことはある。だが今日はこれまでとは違い、ぞくりと背筋に悪寒が走った。

 ただ腕っぷしが強い海賊などではない。今の彼はまるで人の心を捨ててしまったかのようにも見えてしまう。

 

「あんたたちも目的があったんだろうがいつも遅い」

 

 不意にイユイが現れた。

 手には蜘蛛の足のような、ぐねぐねと自力で動く奇妙な剣を握っている。

 以前にも増して覇気が強く、同時になぜか不気味でもあった。

 

「ロックス。こいつらどうする? ほっとくのか?」

「別に捨て置いてもいいだろう。今は気分がいいんだ」

「今のおれならやれる気がする」

 

 どうやらイユイはいつになくハイだった。

 彼はおもむろに近くに居た悪魔人間を両手で掴むと、その二人を勢いよく引き寄せてぶつける。

 

 ギュルッ、と奇妙な音がして、二人の人間が一人になった。二人分の肉体が混ぜ合わさって体長がおよそ倍になり、角と蜘蛛の足がさらに増える。

 明らかな異常。もはや人間とは思えない。

 やはりイユイは自らの意思でその怪物を生み出せるのだ。

 

「こいつら人間を……!」

「まさか、覚醒しているのか? ここまで不気味なものを生み出すとは……」

「あるもんいただく。だろ?」

「ヴォハハハハハ! そういやそうだった! なら考えるまでもねぇなァ!」

 

 イユイが構えると同時にロックスの体から漆黒の闇が現れた。

 間違いなく悪魔の実の能力。

 かつてないプレッシャーを感じてロジャーとレイリーもすぐに身構え、対応した。

 

 

 

 

「全て消せ! 跡形も残すな!」

 

「まさかこれほどの事態になるとは……!」

 

「神の騎士団がいながらなんという失態だ!」

 

「もはや一刻の猶予もままならん……なんとしてもロックス・D・ジーベックを始末せねば」

 

 

 

 

 油断はしていなかった。

 高速で振り抜かれた不気味な剣がレイリーの左腕を斬り飛ばす。

 その結果は予想しておらずハッとしたものの、一瞬たりとも冷静さを失わなかったレイリーはすぐさま反撃を仕掛け、片腕を奪ったイユイの左目を剣で切り裂いた。

 

 回避行動を取ったが避け切ることができず、勢い余ってイユイが地面を転がる。しかしその隙を潰すように悪魔じみた外見の大男が二人の間に飛び込んだ。

 レイリーは慌てることなく一閃。異常と思うほど頑丈な体だが一太刀で胴体を両断する。

 

 大男が力なく地面に転がる一瞬に、イユイが口から光線のような炎を吐いた。

 常人ではまず避けられないだろうスピードだが、何度か見たレイリーは倒れるように避ける。

 

「レイリー!」

「問題ない。片腕がなくなっただけだ」

 

 左腕を斬り飛ばされたがレイリーは顔色一つ変えておらず、止血するよりも先にイユイを仕留めなければならないと判断している。

 そのイユイにも痛手を与えたとはいえ、流石に左目が潰れただけでは行動不能とはいかない。

 

 見た目はこれまでと変わらず小柄ながら、明らかな変化が起きていた。

 頭から生えた硬い角。口から覗く鋭利な牙。肌を覆う鱗に長い尻尾。どうやら筋肉まで変質しているようで、単純に動きが速く力強くなっている。

 本人の身体能力ですら厄介なのに、その姿になるとこれまでよりも強かった。

 

 一方でロジャーはロックスと斬り合っていた。

 それだけでなく乱入した海軍将校、ガープを交えて激しい戦いを演じている。

 

「あぁ? なんだありゃあ……」

 

 戦闘中だったロックスが不意に空を見上げた。

 明らかな隙を見せたが、異変に気付いてその場に居た全員が視線を上げる。

 島の上空に正体不明の巨大な影があった。

 そして誰しもが嫌な未来を想像した。

 

「こりゃあやべェな……!」

 

 空から強い光が降り注いだ。

 島全体に降り注ぐと大地を貫いて海を大きく揺らし、そこにあるものをいとも容易く破壊した。

 

 のちにゴッドバレーという島は跡形も残さず消えてしまい、地図から姿を消すことになる。

 この時の出来事は世界政府にとっても都合の悪いことが非常に多く、徹底して緘口令が敷かれ、島に居合わせた人々も自発的に口を閉ざす者が多かった。

 しかしそれでもただ一言、あそこは地獄だった、という言葉だけが独り歩きすることになる。

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