Black Safety   作:芋砂

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今回の話はイチゴウ達Black Safetyとは
違う視点で物語が進みます。
では、どうぞ。


第8話 夢魔

重々しく鐘の音がなる。

夜の静けさと少しだけ皮膚を刺激する涼しさとが

この一帯を支配している。

ここはアックルヴァ丘のふもとにある小さな町。

Black Safetyが本社を置いている大陸の中心部分からは

かなり離れている地だ。

 

そんな中で一人の男が町に帰るために

坂道を登っていた。

薪割りなのか背中に多数の薪を背負っている

 

「今日は少し冷えるなぁ。」

男がそう呟きつつ歩いていた。

男が歩いている坂道の両サイドは

森が鬱蒼と茂っており

視覚的な寒さを演出している。

その男はどんどん坂道を登り

ついに町が視界に入るようになると

 

「よし、あと一息!」

その男がそう言う

その時だった。

 

「そちらのたくましい旦那様、

お待ち頂けないでしょうか?」

 

そう言う綺麗な声が聞こえたのだ

男が声のした方向に振り返ると

そこにはヴィーナスと比喩しても

可笑しくない程の美女が佇んでいた。

 

「一体どうした?」

男がその女性に尋ねると

 

「実は日付が変わる頃に

丘の上のお城で宴を開くのですが

なにしろ女性だけで男の人がいなくて……

それであなたを宴にお誘いしているのです。」

女性が男に向かってそう言う。

 

「よし、わかった。いくよ。」

男が女性にそう答える

下心が見え見えなのは言うまでもあるまい。

 

「それとーーー」

女性がまだ話を続ける

 

「できるだけ多くの男の人と宴で交流したいと思い

私も色々な男の人に話しかけていますが

流石に私一人では………

あなたにお願いしたいのは

知人の男の人にこの事を伝えて誘ってほしいのです。」

 

「わかったよ。」

女性のその言葉に男がそう返す。

 

「ありがとうございます!

では、日付が変わる頃に丘のふもとで

馬車を用意して待っています。

宴では美味しいお酒も用意していますよ。

では、また会いましょうね。」

女性はそう言うと坂を下って去っていく。

 

「綺麗だったなぁ……

もしかしたら脈アリかも♪」

男は鼻唄混じりでスキップで町に入っていく。

 

そして男が町中をスキップで走り

自宅に到着すると勢いよく扉を開ける。

男の自宅には多数のビール缶が転がっており

部屋の中央で一人のザコチュラが布団を被って

だらしなく寝ていた。

 

「おい!トニー!いい話があるぞ!!」

男がそう叫ぶと

 

「……あぁ?」

トニーと呼ばれるザコチュラは

仰向けの状態から身体をひっくり返す。

 

「どうも丘の上の城で美女達が宴をやるらしいんだ。

それを飛びっきりの美女に誘われてさぁー、

人数が欲しいって言ってるからお前も来ないか?

こんなチャンス絶対ねえぞ!」

男がテンションMAXで喋り続ける。

しかしトニーは

 

「丘の上の城って…

あそこ廃城だぞ?」

トニーがまだ完全に眠気の飛んでいない声で

そう切り返す。

 

「きっと大っぴらに出来ない宴なんだよ!

あぁ!ワクワクするなぁ!」

男はテンションが下がるどころか

むしろ上がっていた。

 

「ポジティブだな、お前は。」

トニーは呆れながらそう言うと

床に立っていたビール缶を前右足でどかして

もう一度寝転がる

 

「悪いが俺は行かねぇな。

常識的に考えて良い予感はしないからな。」

トニーは布団を被りつつそう言う。

 

「残念だなー、美味い酒もあるってのに。」

男がそう呟くと

 

「よし、行くか。」

さっきまでとは一転してトニーがシャキッと

起き上がる。

 

 

 

 

 

 

時は0時、調度日付が変わる頃に

丘のふもとでは一台の馬車と

何人かの男がいた。

 

「皆さん、集まりましたか?」

さっきの美しい女性が馬車の中から顔を出し

集まった男性達にそう言う。

 

「乗ろうぜ。」

一人の男がそう言うと男性達は

次々と馬車に乗り込む。

全員が乗り終えると馬車が発進して

町がどんどん小さくなっていく。

 

「…………」

もう二度と戻れない、そういう感覚を

馬車に乗った男性達は薄々持っていた。

しかし

すぐに男性達は城の宴に対しての期待を取り戻し

ワイワイ騒いでいた。

 

ただ一人のザコチュラ、トニーだけは

町の光が届かなくなり暗くなっていく景色の中で

何とも言えない不安を持っていた。

 

 

それから馬車に揺られる事、数十分。

馬車が停止し

 

「皆さん、降りてください。」

女性がそう言うと男性達は一斉に馬車から降りる。

すると男性達の目の前には

深い暗闇を背景に巨大な城が広がる。

その城は石で出来ており

人が生活している跡は見受けられない。

 

「………」

流石にテンションが上がっていた男性達も

異変に気付きだし

その内の一人の男性に至っては

腰の片手剣に手をかけている。

 

「さ、緊張なさらずに入ってください。」

女性が城の扉を開けて男性達に

そう声をかける。

 

男性達はその女性に言われるがままに

城内へと入っていく。

 

 

城の扉をくぐり抜けると

そこには広場が広っており

前方には高台と

周りには観客席のようなものが広がっている

コロシアムのような構成になっていた。

 

「何だ?ここは…?」

一人の男が片手剣を構え、そう呟く。

 

「………」

トニーも懐から簡易スコープが装着された

マテバ オートリボルバーを取りだし構える。

すると

 

「色欲に踊らされた愚か者共が……」

 

高台から声がする。

男性達が一斉に高台を見上げると

そこには先程の女性が男性達を見下ろしていた。

 

「どういう事だ!?」

男性の一人が高台の女性に向け

そう言い放つ。

 

「まさか、こんな不自然な流れでも

ここまでついてくるとはな。

本当に男とは馬鹿な連中だ。」

その女性はさっきまでの丁寧な言葉づかいとは

うって変わって凍っているような言葉を

男性達にぶつける。

 

「とりあえずお前の目的は何だ?」

トニーが高台の女性にそう問いかける。

 

「どうせお前らはここで干物になるんだ

教えてやろう。」

その女性がそう言い放つと

両手を大きく広げる。

するとその女性から

黒い大きな翼と尻尾が出てくる。

 

「お前…!まさか!」

一人の男性がそう言うと

 

「やっと気づいたか。私は"夢魔"だ。

夢魔が生き延びるには

男の精力が必要でな。そこで精力補充のために

貴様らを呼び出したという訳だ。」

女性がそう言い終えると

男性達は迎撃態勢を取る。

 

「同胞達よ!!宴の始まりだ!!」

高台の夢魔がそう叫ぶと

周りの観客席のような物から

多数の夢魔が現れる。

どれも高台の夢魔に

勝るとも劣らない容姿を持っている。

 

「やってられるか!!」

いきなり一人の男性がそう叫んで

城から出ようと入り口に走り出す!

観客席にいた多数の夢魔が

その男性に向けて一斉に飛びたつと

そしてその男性は容易く捕まり

床に叩きつけられる!

 

「いっただっきま~す♪」

そういう夢魔達の声があちこちから聞こえてきて

夢魔達の尻尾が次々とその男性に突き刺さる。

 

「嫌だ!!!死にたくない!!助けてくれぇ!!」

男性が腹の底から叫んで助けを求めるも

だんだんその男性の身体がしぼんでゆく。

 

「うぁっ……助けぇっ…………」

その男性は体の骨格が視認出来るレベルまで

身体がしぼんで声にならない声で

なおも助けを求める。

 

「あいつはもうダメだ!

とにかくここから離れるぞ!」

残された男性の一人がそう言うと

 

「よし、お前たちは逃げろ。

俺が時間を稼ぐ。」

ある男性が片手剣を構えてそう言う。

 

「そんなの無茶だ!」

一人の男性がその男性に向けてそう返す。

 

「大丈夫だ!俺は酒場のハンターとして

数々の妖魔を狩ってきた!

きっと食い止めれるさ!」

片手剣を持った男がそう言うと

 

「…わかった。よし、全員行くぞ!」

残った男がこの場を離れようとすると

 

「おい!あのザコチュラがいねぇぞ!」

一人の男が周りを見渡す。

確かに残された男性達の中に

トニーはいなかった。

 

「トニーの奴!こんな時に!」

一人の男性がそう叫ぶが

 

「おい!お前!早く逃げるぞ!!」

残された男性達は広場から城の深部へと逃げていき

それに続いて多数の夢魔が

その男性達の後を追っていく。

 

 

 

「さぁて、ご飯はどこかしラ?」

ある夢魔が城内の深部を捜索していた。

すると

その夢魔がいる向かいのドアから何か音がする。

 

「あらぁ?夢魔の気配じゃないわネ。フフフ」

その夢魔は笑いながら向かいの扉を開ける。

扉を開けたところの部屋は酒が入った樽や瓶が

大量に保管されている部屋だった。

そして手前に一人のザコチュラ。

そのザコチュラはビンに入った

いかにも高級そうなワインを飲んでいた。

 

「お前!何をしていル!」

夢魔がそのザコチュラに対しそう声を荒げる。

 

「おい、このワイン保存状態が悪いんじゃないのか?

このブランドの割には香りが出ていないぞ。」

そのザコチュラ、トニーがそう言うと

 

「うるさい!!

ここで貴様はもやしになるのダ!!」

夢魔がそう叫ぶとトニーに向かって

突進してくる。

 

「正面から来るとは、妖魔も考えないな。」

トニーはオートリボルバーを取りだし

突っ込んでくる夢魔に狙いを合わせると

1発の重い射撃音が部屋中に響き渡る。

それと同時に夢魔の胸部から一気に血が吹き出す。

 

「ぅ………ぁっ……」

声にならない声を発しながら夢魔は

その場に崩れ落ちる。

 

「44マグナム弾を侮ってもらっては困るな。」

トニーは倒れている夢魔にそう言い捨てると

ドアを開け酒倉を後にする。

するとすぐに

 

「ザコチュラだワ!」

 

「男ほどじゃないけど一応ご飯にはなる!

皆!襲えぇぇぇぇ!!」

夢魔がそう大声で言うと

4体の夢魔がトニーに向かって飛んでくる。

 

それに対してトニーはオートリボルバーの

簡易スコープを覗いたままじっとしている、

それはまるで何かの機会を待っているようだった。

 

「よし。」

トニーがそう言うと

またしても1発の重い射撃音が辺りに響く。

トニーが発砲したタイミングは

調度、夢魔が4体縦に並んでいた。

つまり

 

「ぐぅ……ぅあっ……」

4体の夢魔が一斉に苦しみだす。

発射されたマグナム弾は縦に並んでいる夢魔を

一気に貫通し4体全ての夢魔の胸部に穴を開けた。

 

「まだまだ衰えてないな、俺も。」

トニーはそう言うと

4体の夢魔が床に崩れ落ちた所を確認して

その場から素早く移動する。

 

 

そのころ……

この城には一機のティルトローター機が

接近していた。

 

 

            To be continue…

 

 

 

 


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