あなたの能力は時間停止です   作:ハスキー大根

4 / 51
1-4

 

さて――結論から言うと、僕はこのラクサ村にしばらく留まることになった。

 

僕はマリア家で一泊した後に、塀の中の村へ行き、村長とあった。

 

そして、遭難者であることや移動して都市部に定住する旨を伝えたのだが、やめたほうがいいと諭された。

 

村長曰く、どうやらこの国の宗主国にあたる国が、一か月ほど前から隣国と戦争をしているそうだ。

この国は属国で、食料や武器などの資源を供給する役割を担っていて、その統制を図るために住民の移動に強い制限がかかっているらしい。

 

 

つまり、現在村人は近くの村や都市への移動が禁じられているらしく、移動の許可証明書を持たない者が移動しているのが見つかると捕まって、宗主国の前線へ送られるらしい。

 

一応、他の村や都市へ立ち入らず、街道を歩かなければ捕まるリスクは減るらしいが、街や都市への入場許可は下りないと言われた。

 

そんな感じだからどうしようかなって思っていたら、マリアさんが「家に住めばいいわ」というので、とりあえずお言葉に甘えることになった。

 

村長も、なぜかマリアさんの意見を尊重しているみたいで、「そういうことなら…」と事態は勝手に進み、僕はしばらくマリア家の世話になることになった。

 

 

ちなみに、ロマナちゃんは、事後報告でしばらく滞在することをお母さんに告げられ、憤慨してた。

 

 

 

 

僕が滞在することになった村は名前をラクサといい、人口が100人程度のちいさな集落だった。

いわゆる辺境村というやつで、国のなかの端っこにあるらしい。

 

特出する産業はないけど、僕が彷徨っていた大樹海と呼ばれる森と接することや、精霊信仰が厚いことが、強いて言うなら特徴として挙げられるらしい。

 

村と農地を囲むように、一周の木でできた塀が建てられている。森から来る生物から農地を守る役割があるらしい。

そして、その塀の外側には僕がお世話になっているマリア家と、他に2件の家が建っている。

 

マリア家…というか、マリアさんの職業は精霊巫女で、最初に出会った湖にいるらしい精霊と交信するのが役目みたいだ。

他の2家は、猟師をしているカルロスさんの家と、薬師をしているグローブ家だ。

それぞれ、仕事内容の為に村の塀の外に家を構えているらしい。

 

ちなみに、塀の外のなのに危険はないのかと聞いたら、精霊様がいるから大丈夫との返事が返ってきた。

実際に長く住んでいるのだから、問題ないのか…と、とりあえず納得しといた。

 

 

それぞれの家にも挨拶にいった。

カルロス家には、強靭な体格を持ち寡黙なカルロスさんと、気が強そうな奥さんのメリーさん、娘さんのセリエちゃんが住んでいた。セリエちゃんと、マリア家のミトラちゃんは歳と家が近く仲がいいらしい。

 

グローブ家には、アンキタ・グローブという老婆が一人で住んでいていた。何年か前までは、娘さんも一緒に住んでいたんだけど、喧嘩して別の都市へ移住してしまったらしい。

マリアさんが、週に何度か通って、食事や洗濯などの手伝いをしている。

 

僕はマリア家に住まわせてもらっているので、基本的に塀の中へは行く用事がなかった。

だから、自然とこの三家の人たちとの交流が深まっていった。

 

 

 

村に来てから何日かしたけど、特にやることがなかった。

 

マリア家は巫女という村の中では重要な職についているせいか、僕がなにか働いていなくても、食事は保証されていた。

食べる必要は僕には無いのだけども、せっかく料理してもらっていたので、少しは食べていた。

 

そうすると、なんとなくタダ飯喰らいのような気がしてきて、働くか…という気持ちが自然と湧いてきたのだ。

あと、ロマナちゃんに、「毎日暇そうでいい身分ね」と煽られたのも効いている。

 

とりあえず、マリアさんに何か手伝いたいと申し出たら、「何もしなくていいのよー」と言われた。その後も、何度か強く何かしたいと申し出たら、渋々カルロスさんか、アンお婆さんに聞いてみるといいと言われた。

 

猟師なカルロスさんに何か手伝いたい旨を伝えると、狩りに連れて行ってもらった。

最初は、無理だと断られたのだけども、何度か頼んで訓練をしてもらい、やっとのことで同伴を認められたのだ。

 

訓練は、弓の使い方とか気配の消し方、森の歩き方、ターゲットの見つけ方とか、多岐に及んだ。

数年かけて習得していく内容であって、とてもじゃないが一般人がすぐ身につけられる内容じゃなかったように思える。

まぁ、カルロスさんも危険な狩猟へ連れて行くのを諦めさせたかったのだと思う。

 

――でも、僕はできてしまった。

昔から人の真似をするのが得意だった。動きをみれば、それを自分の体で再現する方法がなんとなくわかった。知識を身につけるゲームも得意だったので、数日で同行を許してもらった。

 

まぁ、その知識や経験を発展させることは大の苦手なので、僕がカルロスさんより狩猟がうまくなることは無いのだけども。

 

 

というか、僕はどうやら、猟師としての適性がとんでもなく高いことが判明した。

まず、森の生物に気にされないという利点がとてもつもなくアドバンテージとしてあった。

 

なんどかカルロスさんが気配を消すのを見ていたら、それもできるようになったので、小動物も寄ってこなくなったし。

そして、食事や排泄が必要ないことや、体がなぜが丈夫なこと、睡眠が浅くても問題ないことなどの不思議要素が絡み合った結果、猟師としての才能が覚醒してしまったようだ。

 

一ヶ月もすると、カルロスさんから一人で森へ入ることを許可されたし、数日かけて森で狩猟をしてから村へ戻ることも増えてきた。

奥さんのマリーさんが、妊娠しているらしく遠出する機会が減らしたいとのことで、僕が代わりに行くことにしたのだ。

 

何度か泊りがけで森へ入っていたら、アンお婆さんから森の奥にあるような薬草や資源を頼まれるようになってきた。

 

そして僕は、より深く、より遠くへ行くようになっていった。

 

 

マリアさんからは、そんなに森へ入らなくても暮らしていけると言われた。カルロスさんは森に飲まれるなと、注意された。ミトラちゃんとセリエちゃんからは、一緒に遊ぶ頻度が減ったことで、不満を言われた。

 

でも、なんというか森で一人で過ごす時間は、僕の中で重要だった。ラクサ村での生活は甘美だったけど、僕の重要な何かが欠落していくような、そんな気がしたから。

 

 

 

 

 

おそらく初夏あたりにこの世界に召喚されて、それから2、3ヶ月くらいは森を彷徨っていた。

だから、僕が村に来たのは秋口に差し掛かる時期だったと思う。

 

それから、数ヶ月が経って季節は冬になった。

 

ちょうど、冬しか取れない茸が必要とアンお婆さんから言われて、森の深いところへ行った帰りだった。

あたりは夜の暗闇が支配していて、雪に覆われた暗闇を動く生き物は僕しかいなかった。

湖の淵、森の近くに建てられた小屋に入る。

 

この小屋は、カルロスさんやアン婆さんが採集物や獲物を保管するために建てた小屋で、それを僕が過ごせるように少しだけ改築してくれたものだ。

小屋の中に獲物と採集物を置いてから、小さな椅子に座って一息つく。

夜も更けていたので、今からマリア家の扉をあけるのは、迷惑かなと思って、小屋の中で時間を潰していたのだ。

 

お湯を沸かして、乾燥したハーブからお茶をいれ、一息つく。

 

ふと、小屋の窓から湖の方を見ると、湖の縁に月に照らされてた人影がいた。

マリアさんかな…と思って、小屋にあった毛布を手にとって小部屋をでる。

 

この半年弱で、夜に湖に出かけていくマリアさんを何度か見ていた。たしか、月に何回かは夜に湖で祈りを捧げないといけないらしい。巫女さんて大変なんだなーと思った。

 

正直な所、僕はこの頃、村の精霊信仰を――マリアさんが湖に精霊がいるといっていたことをあまり深く捉えていなかった。ちいさな村の宗教、もしくは先祖代々伝わる教え程度のものだとしか考えていなかったのだ。

 

 

サクリ、サクリと数センチ程度積もった雪を踏みしめて湖へ近づく。

 

湖の縁に設置されたベンチに座る人物は、雪の中に居座るにはすこし寒そうだったので、持ってきた毛布をかけてあげる。

「ロマナちゃん。どうしたのこんな夜に――」

 

夜中に家を抜け出してきていたのはロマナちゃんだったようだ。

ビクリと肩を震わせて、ゆっくりとこちらを振り向く。

 

「――な、なんで、あんたが――こんなときに――さいあく」

 

この半年間で、彼女を観察してわかったのは、「社交的」「明るい性格」「生真面目」「僕に対して当たりが強い」「家族思い」って感じの普通の女の子ってことだ。

 

他の大人には礼儀正しく接しているのを見るに、僕にあたりが強いのは思春期特有の一時的なものなのかもしれない。塀の外に住んでいる関係上、村の同年代の男の子とは関わりが薄いみたいだから。

 

そんな彼女の頬は寒さで赤く、目から溢れた雫はその頬を伝って落ちる。

 

「…ここは少し寒くない?――よかったらあっちの小屋に行こうよ。さっきお茶を入れたところだったんだ」

そう言って、毛布を渡して小屋へ戻る。

家に戻りたくないのか、彼女の気持ちはわからないけど、そのまま小屋へ歩く僕の後ろをついてきた。

無言でついてくる様子は、昔の妹を見ているようで、戻れない地球への哀愁を感じた。

 

 

 

 

「――それで、なにかあったの?」

熱いハーブティーを入れた木のコップを渡しながら、問いかける。

 

「…」

パチパチと燃えるちいさな簡易ストーブの側では、森からついてきてしまった影蜥蜴が深い呼吸をして身を縮ませている。他に人がいると影から出てこない蜥蜴は、なぜか今は出てきて暖を取っている。

 

この不思議な生物も変温動物なのだろうか。とてもじゃないが、普通の循環器系を持っているようには見えないけど。

 

蜥蜴を観察する僕と、口を噤むロマナちゃん、動かない蜥蜴だけの空間を薪が燃える音だけが支配する。その状況に耐えかねたのか、彼女は少しずつ喋り始めた。

 

「――今日ミトラがね…魔法を使ってるのを見たの。水が鳥の形をしてゆらゆら羽ばたいていて――綺麗だった。

 

あたしが、初めて魔法を使えるようになったのは、三年くらい前なの。ミトラと同じくらいの歳から、お母さんに教わりはじめて…毎日練習してた。

 

初めて使えた魔法も覚えてる。ちっちゃくて、風できえてっちゃった火の魔法。

でも、ミトラは初めて教わったのに、すぐ使えた。あたしより上手に。

 

あたし、お姉ちゃんなのに。ミトラのお姉ちゃんなのに――ミトラに嫉妬しちゃった」

 

吐き出した言葉といっしょに、涙がこぼれていく

でも、兄弟間で才能に差があることなんて、言ってしまえばよくあることだ。実際、僕の妹は僕よりずっとずっと、才能があった。

 

小さくうずくまる背中に、毛布をかけ直してあげながら、同意と慰めの言葉をかける。

 

「…ちがうの。ミトラがあたしよりも才能があるなんて、ずっと前からわかってた。ミトラとあたしは、違うから。そんなのわかってる

 

…お母さんが、小さい頃言ってたの。――精霊は、最も清らかで誠実な人を巫女に選ぶって。

 

あたし、精霊の巫女になるって、お母さんにも、ずっと言われてたのに。

そのためにずっと頑張ってきたのに。

 

…もしかして、あたしは相応しくないんじゃないかって…そう思ったの…」

 

 

長い時間をかけて、彼女は消えちゃいそうな声でそういう言葉を吐き出した。

 

「だから、こんな夜中に湖にいたの?」

 

ぼくには、この不安はわかってあげられない。だって彼女のものだから。彼女なら乗り越えられる試練だから。

 

「…そう。お母さんが、巫女は湖の精霊と話せるっていってたの。だから、湖に聞いてみたの。私でいいんですかって。――でも何にもなかった。何にも聞こえなかった」

 

「僕はマリアさんと一緒に湖に行ったことあるけど、精霊の声を聞いたことはないよ。巫女にしか精霊の声は聞こえないんじゃない?」

 

「ううん――やっぱり、あたしは巫女にはなれないんだってわかった。ずっとずっと憧れてたのに。巫女になったら…お父さんにも会えると思ったのに」

 

すこし、吐き出したら落ち着いたようだ。というか、新情報のお父さんが出てきたな。

おそらく、マリア家で僕が泊まっている部屋がお父さんの部屋なのだろうとは、これまでの生活でなんとなく察していたけど。

 

とりあえず、話を逸らすか。こういうときは、ネガティブな考えから目を背けるに限る。将来のことなんて、誰にもわからないし、今から考えても仕方ないと思うのだ。

 

「お父さんのこと聞いてもいい?」

「うん…」

 

まったく興味ないけど、話を進める。今いない、今後会うかもわからない人の情報集めても、仕方ないんだけど。

 

「どんな人だった?」

「…あんまり、覚えてない。でも、よく笑ってたのは覚えてる。太陽みたいに笑う人って、お母さんとか、アンお婆ちゃんさんは言ってた」

 

あんあり、覚えてないってことは、定期的に合ってるわけじゃないのかな。てっきり、出稼ぎとか、戦争への出兵で村にいないのかと思ってたけど、もしかして、不謹慎な話題だったかな。

 

「いつから…お父さんと会ってないの?」

「ちゃんとは覚えてないけど、ミトラが生まれた後にいなくなっちゃった。なんでかは、お母さんも、教えてくれないし、わかんない…」

 

そう言いながら、すこしずつ、頭が低くなっていく。どうやら、言葉を吐き出した反動と、ストーブの温かさに、交感神経が抑えられてきて、眠くなってきたのだろう。

 

「…おとうさんに――」

 

そう言いながら、ロマナちゃんは寝てしまった。

 

まぁ、嫌なことは、眠って忘れるに限るよね。将来への不安とか、家族への不満みたいな短期的に解決できない思いは、誰かに吐き出してしまうのが良いと思うんだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。