BLホラーエロゲの主人公が犯される場所に毎回遭遇しちゃうヤツ 作: 燃える空の色
ホラーと聞いて、真っ先に思い浮かぶものはなんだろうか。
勝手に動く人形、テレビから現れる白装束に身を包んだ黒髪の女性、日常の影に潜む怪異、突如現れ襲いかかる異形、不可解な呪い、ゾンビ、挙句の果てには宇宙人や外宇宙から降り立った旧支配者まで。
昨今、ホラーと称されるものは多岐にわたって種類を増やし、それによって恐怖への耐性がつきやすくなったがゆえか、怖がらせることよりも驚かせることや戦うことに趣旨を変えるものも少なくない。
そんな趣旨の変わりつつあるホラーというジャンルに置いても、一際目立つゲームシリーズ、ジャンルがあった。
その手のゲームはほとんどがR-18Gだが、その本題はGではなくR-18そのもの。
所謂―――エロゲーのことである。
怪物に犯される主人公、あるいはヒロインといった特殊極まりないシチュエーションやジャンルのその作品たちは、しかし予想外に反響をみせ、一定の層に驚く程売れた。
そしてそれは、とある男も変わらなかった。
男は特別変わった人間ではなかった。
しかし、それが逆に良くなかったのかもしれない。普通であったはずの男は、ある日見つけた作品等によって酷く狂わされた。
人の形をギリギリで保っているだけの化け物、あるいは生物であるかさえ怪しい怪物。普通とはかけ離れたそれらによって、普通の世界に生きてきた少年少女、あるいは青年や女性が蹂躙される様に、男は偉く興奮した。
だからだろうかと、男は一人自問する。
だから、男の目の前に、この光景は拡がっているのかと。
だから男の目の前で……ゾンビのような怪物に、中高生くらいの少年が襲われているのだろうか。
◇
この美しき世界には、無数の恐怖が犇めき蠢きあってある。
死者の無念によって歪んだ魂の具現である『幽鬼』、地獄より蘇った死者の群れ。
理解出来ぬものが形となった正体不明の権化である『妖怪』、不明瞭な現象の具現化にして獣が人が神が堕ちた先にある物の怪。
人々の心、虚無より現われ虚無より喰らい理解できぬが故の恐怖を与える『怪異』、本能で理解を拒み理解した先にこそ終わりが待つ恐怖の具現。
その殆どが海外を発祥とする人外の理を有する『モンスター』、獣にも近いが本質的に生物としては異常がすぎる怪物。
人々の欲と心に付け入りその魂を喰らう『悪魔』、神聖から最も遠い魔王の系譜。
遥か遠く宇宙の彼方から触腕を伸ばし忍び寄る『旧支配者』、正気を蝕み正気を笑い不定形に世界を崩す外なる神。
それは例えば―――、
夕日に照らされたビルの影に。
暗闇に染った公園のブランコに。
夏の昼の田んぼの中に。
先の見えない森の奥に。
人々の表情の陰の裏に。
嵐の夜の窓の外に。
日常に、非日常に、平穏に、不穏に、世界の表に、世界の裏に。
何処にも潜み忍び恐怖が巣食っている。
理解不能、正体不明、原因不明、解明不可。
理解を拒むべきモノたちがいる、存在を否定するべきモノたちがいる、人々の内から出でるモノたちがいる。
お互いに不可侵でありながら、時に獲物を奪い合い喰らい合う『恐怖』。
けれども確かに、彼らは真っ当な手段でないにせよ『生きている』あるいは『世界に存在している』のだ。
故にこそ、人々もまた、『恐怖』に震え怯え竦むばかりではない。
故にこそ、『恐怖』に立ち向かい、愚かにも勇敢に、その蛮勇を示すものたちがいる。
例えば、そう―――この日本にも。
◇
―――男は所謂退魔師、あるいは除霊師などと呼ばれる人種に、ほんの少しだけ近い存在だった。
正確には、そうなってしまったと言った方が正しいだろうか。
元を辿れば、男は本当にただの人間だった。
少し人とは違う趣味・性癖を持っただけの、どこにでもいる一般人。
けれどもしかし、男は紆余曲折を経た果てに輪廻転生を果たし、自身が居た世界とは僅かに異なった――歪んだような世界で、男は一人の命として目を覚ました。
まず初め、男の脳を占めたのは理解不能の四文字。
視界いっぱいに広がる肉の塊、鼻を突く異臭、悲鳴のように響く吐息の音。
阿鼻叫喚、とでもいいのだろうか。
嗚呼しかし、その場に真っ当な命は男以外にはもはや無く、叫ぶものなどいやしないのだから、この表現は間違っているのだろう。
その時確かに、新たな命を得た男は、生まれ変わって早々死を覚悟した。
けれども、何の因果か、男は生きながらえた。
いや、寧ろ正確に言えば、男が死ぬ要素など本来なかったのだ。
人によって、見る世界の形とは非常に大きく変わるものだ。
ある人物にとっては、その辺にいくらでもいる有象無象も、他の人物から見てみれば宝の山以上の価値を孕むもの。
男は生まれ変わってから、そういった見方の違いというものを、嫌という程理解した。
男が『恐怖』の元から脱し、真っ当な人間の世界に引き戻され、真っ当な人間に拾われた。
けれども、男からしてみればその真っ当な人間とやらは、けして人間と呼べるようなものではなかったのだ。
人と名の付く者達からは、いつも憎悪の臭いが塗れ、その本性をさらけ出すかのごとく異形の姿を見せつけてくる。
どうにも、その『人間』たちは自分たちの姿をそういったものと認識していないらしく、男が恐怖に近い感情をぶつける度に困惑されたものだ。
化け物ばかりのこの世界、安心出来るところなんてほとんどない。
日常の隅に、影に。
平穏のすぐ隣には、いつも『恐怖』がこちらを見つめていた。
それでも、男は生きて、生きて生きて生きて生きて生きて生きて、生きた。
運が良かった、だけではないのだろう。
男には、そういった『恐怖』に対抗できるだけのナニカがあった。
男には、あらゆる『恐怖』を視て、あらゆる『恐怖』に触れて、あらゆる『恐怖』を耐えることができた。
けれどもしかし、男が選んだのは、そんな『恐怖』に立ち向かうでもなく、ただ平凡に生きることだった。
嗚呼しかし、ただ平凡に生きようとして、それもやはり難しい。
良くも悪くも、『恐怖』への親和性が高い男は、夜中外を出歩くだけで『恐怖』が引き起こす事象に巻き込まれてしまう。
そのため、普段は極力外出を避けているのだが―――、
「うぅ…さぶ」
冷たい空気が肌を差し、吐く息を白く染めるような、そんな冬の夜。
男はとある事情から、街灯以外の光が一切合切残っていないような真夜中に外に出歩いていた。
「なんでこういう時にコーラ切れちゃうのかなぁ…」
とひとりごちる。
あれだけ『恐怖』へのトラウマや恐ろしさを押し出しておきながら、結局のところその扱いはまさかのコーラ以下。
寒い寒いと腕を擦りながら、男は最寄りのスーパーへの近道を通ろうと、近所の公園を抜けようとした、その時。
「……いるなぁ、やだなぁ」
ゾッと身の毛のよだつような『恐怖』の気配。
嗚呼、嫌だいやだ。
全身が拒否反応を示し、男の心もまた近寄るべからずと禁を出している。
しかし―――、
「……人、いるなぁ」
気配の出処は『恐怖』のものだけじゃない。
僅かだが、人混じりの気配と、人に触れた時の『恐怖』の歓喜に近い気配を感じる。
「――い、くかぁ」
嫌々ながらも、ここで見逃しては今日の夜食が満足に食べられない。
それに、後々この『恐怖』が大きくなってしまっては非常に面倒だ。
男は覚束無い竦んだ歩みで、気配の出処へと向かっていった。
◇
少年、聖誠也は元来、どこにでもいるような平凡な少年だった。
比較的整ってはいるものの、けして目を引くほどでは無い容姿。
平均よりやや高いが、突出しているほどでもない背丈。
クラスで浮くことはないが、だからといって目立つこともない存在感。
友達はいるが、だからといって中心になることはほとんど無いコミュ力。
どこをとっても平均よりやや上かほぼ平均ど真ん中、そんな平穏と平凡、平和の象徴のような人間こそが、誠也と言う個人だった。
―――のは、凡そ数年前までのこと。
数年前、誠也の両親が不慮の事故により他界。
父母の遺品を整理している中で、異様な品々を見つけた。
そのどれもが、『幽鬼』『悪魔』『怪異』『妖怪』など、意味不明な魑魅魍魎達について関わりのあるものだった。
誠也は最初、「両親にオカルト趣味があったんだな」程度の感覚ではあったが、その数と質がどんどん増していくごとに、ただ事ではないことに気づいて言った。
――が、時すでに遅し。
誠也がその事実に気づいた頃にはもう、誠也はオカルトの世界に巻き込まれていた。
正確には、もうとっくに巻き込まれてはいたらしい。
父母の日記を見る限りでは、どうやら誠也はそういった化け物どもに狙われやすい体質だったらしく、二人がそういった品々を集めているのもそれが原因だった。
その内のほとんどは、今の引き取り手であり神職に着いている祖母に用意してもらったものらしかった。
しかし、その祖母から聞いた話なのだが、どうにも父母は怪しい連中からも力を借りようもしていたらしい。
なんでも、祖母の力では対処しきれない可能性が出てきたとかで。
もしかしたら、父母の死んだ原因はそこにあるのかもしれない、とも。
とはいえしかし、そんな薄っぺらい手がかりだけで犯人を終えるはずもなく。なんならそんなオカルト存在を素直に信じれる訳もなく。
高校生となった誠也は現在、とりあえずは祖母に魑魅魍魎を祓う――とまではいかずとも、咄嗟に対処できる程度の術を教えて貰いながら、可能な限りそういった存在と関わらないようにして過ごしてきていた。
―――しかし。
「う、うわっ!?」
その日は、寒い冬の夜だった。
塾の帰り道、友達と寄り道して帰りが遅くなってしまったからと、急いで家に帰ろうと、誠也は近道である路地を通り抜けようとした。
けれど、その判断が間違っていたのだ。
「ばけ、化け物っ……!」
ぬちゃり、ぬちゃり。
耳に響く汚らしい粘着音、鼻を劈くような腐臭を漂わすその男―――否、人ですらない『ナニカ』が、少年の進む道の先にいた。
その見た目は、端的に言ってしまえばゾンビだった。
全身が僅かに腐敗し、眼の焦点は合わず、呻き声からは理性の片鱗も感じない。
その口元は真っ赤に染っていて、傍にはカラスの死体がいくつか。
「なん、なんでこんな、ばあちゃッ――」
生まれて初めて、その存在を確認した『恐怖』の姿に、誠也は腰を抜かし、悲鳴をあげる。
愚策、その声によって『恐怖』は誠也に気づき、振り向く。
焦点の定まらぬ目が、しかし一瞬、誠也の姿を確かに捉えて。
『―――GA』
「く、来るな、来ないで、来るなって!!」
腰が抜けて力が入らない。
地べたについた尻が上がらず、遅々とした進みで後方へと下がる以外の逃避方法が一切存在しない状況。
後退、後退、後退―――追いつかれる。
「やめッ……触るな、触るなよ!!ゃだ、いやだって!!!」
上から伸し掛るように、あるいは押し倒すようにゾンビ擬きの体重がかかり、鞄は地面に放り出され、誠也の両腕は押さえつけられる。
じたばたと体を捩り、精一杯に声を出して抵抗。けれども、見た目以上に力のあるゾンビはそれを難なく押えつけ、口からは唾液を滴らせている。
「ひっ―――」
喰われる―――咄嗟に目を瞑り、次の瞬間に来るであろう痛みに備えた。
1秒、2秒、3秒……痛みは来ない。
恐る恐る、目を開けた。そして、
「なに、なにして…」
ゾンビ擬きは片手で誠也を押えつけたまま、誠也の纏う服に手をかける。
そしてそのまま、勢いよく引っ張り――ひん剥いた。
途端に外気に晒される誠也の上半身。
冬の寒気さに凍える思いよりも、何をされているのか全くと言っていいほど分からない『恐怖』と気持ちの悪いゾンビ擬きとの接触の感覚、僅かながらの体温のようなものの不快感が勝る。
「ぇっ――なに、して。おい、おいおいおい嘘だろ、うそだろそれは、まてって、なぁ待ってくれよ、なぁ!!」
その魔手は上半身だけに留まらず、誠也の下半身に纏うズボンにまで伸びる。
誠也の必死の制止の声を耳にもとめず、勢いよく、誠也の下着ごと剥がされた。
「……やめろ、やめろ、辞めてくれ――!」
ゾンビ擬きのその汚らしい腐った腕が、乱暴に誠也の上半身を抱き留める。
誠也の素肌を全身で味わうような動き。
全身を覆うヌチャヌチャとした不快感を誘う感触、死体のくせに荒い呼吸を見せるゾンビ擬きの腐臭。
そのどれもが、誠也にとって不快でしかない。
とっさに溢れ出てくる吐き気、それを吐き出そうとする――しかし、強制的に開いた口を、無理矢理閉じる。
もしも今、目の前の化け物の気分を害すようなことをしてしまえば、本気的に殺されてしまうかもしれない。
全身を逸る不快感に耐えながら、誠也は必死に涙と吐き気を堪えた。
そして、
「……嘘でしょ、それはダメだろ、無理、無理無理無理無理無りむりむりむりむり!!!」
ひん剥かれた誠也の下半身に、妙に生暖かく硬いブツが当てられる。
誠也の太ももや臀部に擦り付けるような動き、誠也は直ぐに、その意図を理解した。
「ぃ、いやだ、ゃだやだゃだやだやだ!!!誰か、誰かいないのか、だれか!!!だれか―――だれか、たすけて……っ!!」
ブツの先っぽが、本来出口であるはずの菊紋に宛てがわれ、少しずつ挿入されようとする。
痛い、痛い痛い痛い。
痛みに対する悲鳴の代わりに、誠也は心からの叫びを上げた―――誰か助けて。
掠れるような声を上げて、誠也は続く痛みに備えてギュッと目を瞑った。
嗚呼、分かっている。
こんなふうに声を上げたところで、だれも助けてくれなんてしないこと。
だけど、けど。
それでも、それでも―――、
「―――うげ、きも」
「―――え?」
突如、人の声が耳を打った。
そんなはずはない、今はもう深夜の零時を回っていて、こんな時間にこんな人気の無い道を通る人間などそういるはずもない。
そうでなくとも、化け物に襲われている自分を見ただ一斉が、悲鳴でもなんでもなく、ただ「キモ」で済ませられるようなことあるはずがない。
幻聴か、誠也はそう考えた――しかし。
「ちょ、大丈夫かお前…くそ、やっぱキメェなこのゾンビ!!」
続いて衝撃。
しかしそれは、自身の菊紋に化け物のブツが挿入されそうになったが故ではなく。
誠也を押し倒し、好き勝手していたゾンビのような化け物の身体が誠也から引き剥がされ、そのまま壁へと打ち付けられる。
「ふぅ…あ、そこのキミ!!このゾンビ擬きさっさとぶっ祓ってくんない!?」
「え、あ、は、はい!!」
咄嗟に、カバンの中に入っていた祖母特製の札を数枚取り出し、倒れ伏しているゾンビに押し付ける。
『G、GAAAAAAAAA』
「―――死ねッ」
続けて、祖母から習った術を発動―――札がその効果を増幅させ、化け物をエネルギーのようなものが包み込む。
ほんの少しの時間が過ぎ、そして化け物は断末魔と共に、この世界から消滅した。
「……あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「え!?ちょ、大丈夫!?」
化け物の消失を確認し、誠也はヘナヘナと地面に座り込んだ。
背筋を支えていたものがぷつりと切れ、力が抜けてしまったのだ。
助かった。そう理解した瞬間、張り詰めていた緊張の糸が一気に切れる。 だが胸の奥に残るのは安堵ではなく、押し寄せる恐怖の余韻だった。 掴まれた腕の痺れ、吐息が肌を撫でた嫌悪感、刹那に感じた死の匂いと犯されることへの恐怖――それらが遅れて全身を侵食してくる。
「……っ……う、うぅ……」
唇を噛んでも、震えは止まらない。視界が滲み、堪えきれず涙が頬を伝った。
怖かった、恐かった怖かった怖かった。
死ぬかと思った、殺されるかと思った、犯されるところだった。
人間としての尊厳も、男としての尊厳も、何もかもが奪われるところだった。
襲われた、犯されかけた、けれども誠也は、満足に抵抗することも出来なかった。
助けられたことの安堵感、同時に、何できなかった無力感が溢れ出してくる。
「う、あぁ……あぁぁっ……!」
嗚咽が勝手に漏れる。両手で顔を覆っても、声は塞ぎきれない。 安堵と恐怖の狭間で、誠也は一人、夜の路地裏に泣きじゃくった。
「……これ、帰っちゃダメかな」
傍でそれを見つめる男のことを、一旦見ないフリをして。