ラブライブ!スーパースター!! Create the future   作:園枝こるだ

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第35話「鬼塚冬毬」

四季視点──────

私たちは今日は練習を休み、再び私が初のセンターに挑戦したステージ、代々木公園に訪れていた。

夏美「以上!あなたの心のオニサプリ、オニナッツこと鬼塚夏美でしたの!では〜!」

夏美ちゃんはいつもの要領で動画撮影をしていた。私たちのステージの反響が大きく、ライブの振り返り動画とやらを撮っているらしい。

メイ「四季、四季っ!」

「え……ご、ごめん。」

ぼーっと事件のことを考えていたせいでメイの呼び掛けに全然気が付かなかった。

メイ「ステージ良かったって褒めてもらってたぞ。」

メイ「……創のこと、気になるのか?」

私はメイの言葉にこくりと頷く。

「創が犯人の顔思い出したかもって。」

私の言葉にメイがぎょっとして目を見開く。

メイ「だ、誰かはわかってんのかよ……!」

「それは、まだ。ただヒントにはなる。」

私が顎に手を当てて考えていると、メイは私の制服の裾をきゅっと握る。

「メイ……?」

メイ「あんまり危ないことに首突っ込みすぎるなよ、相手は殺人犯かもしれないんだ。」

メイ「創が大事なのはアタシも一緒だ。アタシだけじゃなくLiella!のみんなだって一緒。」

私はメイの言葉を黙って受け止めている。

メイ「だから1人で抱え込むな、正直になろうって、決めただろ?」

「メイ……ごめん、ありがとう。」

「けど、創は自分が戻ってから話すって。それは尊重したい。」

僕が戻ったら話すね、と力なく笑っていた創の顔を思い出す。

メイ「……あぁ、わかった。創が早く戻って来た時のために、練習しておかないとな。」

うーん、と伸びをするメイ。その間も私は事件のことを考えていた。

 

成生視点──────

「…………」

あの創の反応、何かワケありな気がする。

かのん「成生くん、もしかして……創くんのこと……?」

ひょいっと視界の端から俺をのぞき込む顔があった。

「……はい、どうしても、俺に反応したようにしか見えなくて。」

「だとしたら、なんだろうって……考えてました……」

俺は肩を落とす。知らないところで誰かを傷つけるなんて慣れっこだと思っていたが、どうやらまだ慣らしが足らなかったらしい。

マルガレーテ「PTSD……だったっけ。あいつも大変ね。」

口では素っ気ない態度を取っているが、どこか落ち着きのない様子のマルガレーテ。

遠くでは我関せずの冬毬ちゃんがストレッチをしている。

「……ふぅ、とにかく今は次のステージに集中しましょう。次こそLiella!に勝ってみせます。」

マルガレーテ「そうね、スパイみたいなのもいるみたいだけど。」

ちらり、とかのん先輩の方を睨みつけるマルガレーテ。

かのん「スパイなんかじゃないよ!それに、足を引っ張り合うんじゃなくて、共に高め合う関係でいたいの。」

紫色の瞳を輝かせ、かのん先輩は続ける。

かのん「お互いを高めあって最高のライブにしたい。この結ヶ丘に最高の歌を、最高の思い出を残したいの!」

マルガレーテはバツが悪そうにあっそ、と顔をかのん先輩から逸らす。

「……どういう風の吹き回しなんでしょうね、冬毬ちゃん。いきなり練習に参加するなんて。」

ストレッチを終えた冬毬ちゃんがこちらに近づいてくる。

冬毬「以前も言いましたが、必要になったから参加しているまでです。」

かのん「冬毬ちゃんもちょっとはスクールアイドルに興味を持ってくれたのかな。」

「どうでしょうね、そんな単純なタイプには見えませんけど……」

マルガレーテはぐっぐっ、と足を伸ばし、ひとまずランニング行くわよ、と冷静に指示を出す。

 

いつもと違うコースを走っていた俺たちはいつの間にか代々木公園前に辿り着いていた。そしてその公園から出てきたのはLiella!の8人だった。

「やっぱり創はいない、か……」

かのん「そっか……こっちはみんなのランニングコースだっけ。」

マルガレーテ「先に教えなさいよ。」

はぁ、とマルガレーテはため息をつく。一呼吸置いたあと、マルガレーテはきっ、とLiella!の方を睨みつける。

マルガレーテ「負けないから!」

マルガレーテの声にたじろぐLiella!。

可可「可可タチも負けマセンよ!」

緊迫した空気が張り詰める。その沈黙を破ったのは意外な人物だった。

冬毬「姉者は本当に続けるつもりなのですか、スクールアイドルを。」

夏美「当たり前ですの!」

俺は黙って2人を見つめていた。

夏美「四季の歌を聴いて思いましたの、私ももっと輝ける。さらに新しい光を見つけることができるんじゃないかって。」

鬼塚夏美の言葉を全く意に介さず、冬毬ちゃんは変わらぬトーンで話し続ける。

冬毬「だから、引き続きスクールアイドルという夢を追いかける、と。」

ですの、と独特な返答をする鬼塚夏美。

冬毬「では、私は全力で姉者に思い知ってもらいます。」

冬毬「夢を追いかけることがいかに無駄かということを。」

冷たく言い捨てた冬毬ちゃんは俺たちが呼び止める暇もなく駆け出していってしまった。

「と、冬毬ちゃんっ!」

俺たちとLiella!の間に微妙な空気が流れる。

「……創の具合はどんな感じなんだ。」

俺はこの空気をどうにかするべく、得意でもないのに自分から話題振りを始めた。

すみれ「なんであんたなんかにっ……!」

食いかかってくる平安名すみれを若菜四季が腕で制する。

すみれ「四季……」

四季「すぐ戻って来れそうって。」

四季「それと、成生くんに聞きたいこともある。」

真っ直ぐに俺を見つめる橙色の瞳に吸い込まれそうになる。

「……あぁ、俺だって山ほどあるよ。」

ぐっと言葉を飲み込む俺の前で葉月恋がきょろきょろと辺りを見回す。

恋「夏美さんがいません!」

可可「姉妹揃って消えマシた……!」

なんなんだよあの姉妹はと俺は頭を抱える。

四季「心配ない。」

若菜四季はスマホの画面をこちらに見せる。そこにはこの辺りの地図と点滅しながら移動する赤い光点があった。

「まさかこれ……GPSか?」

頷きながらビンゴ、と呟く。なんでメンバーにGPS仕込んでるんだよ……

すみれ「地下鉄乗りそうね。」

かのん「みんなで追いかけてみよう。」

みなさん練習は?と思っているがもう周りは全員鬼塚夏美と冬毬ちゃんを追いかける気満々のようだ。

メイ「探偵みたいだな!」

かのん「マルガレーテちゃんも行くよ!」

少し離れた場所で俺たちをぼーっと見つめていたマルガレーテは目を見開く。

マルガレーテ「なんでよ、私は関係ないわよ。」

かのん「関係あるよ、冬毬ちゃん同じグループのメンバーだよ。」

はぁ、とため息をつき全く……と言いながら行く気のマルガレーテ。素直じゃないな……

 

そんなこんなで俺たちは地下鉄に乗り、鬼塚夏美のGPSを追跡する。

たどり着いたのは、まさかの茨城県だった。

可可「うし……ひさし……」

千砂都「牛久だね。」

「一体茨城になんの用があるって言うんだ……」

若菜四季は再びスマホを確認し、位置情報を確認している。

かのん「とにかく追いかけよう!」

 

とは言ったものの……目の前にあるものは牛久の名物、牛久大仏。

メイ「でかっ!」

きな子「怖いかもっす!」

遠くから見ていても大きかったが、近くまで来ると大きさを実感し、少し怖くも感じる。

すみれ「ほんとになんでこんなとこに来てるのあの子たち……」

四季「ここじゃない。」

えっ?と葉月恋が聞き返す。

可可「けどかのんがこっちだって……」

注目がかのん先輩に集まる。注目の的の人物は頭の後ろに手を当ていや〜と笑う。

かのん「久しぶりにみんなと一緒だから記念にって!」

マルガレーテ「んなことしてる場合じゃないでしょ!」

創も大変だったんだな……と改めて気付かされた。

 

記念写真を撮った後、俺たちはやっと発信機の地点へ向かって歩き出した。

四季「あれ。」

「あれ……って。」

きな子「鬼塚……商店……」

聞き馴染みのある名前を何度も繰り返すご一行。

千砂都「ここが夏美ちゃんの家?」

「いやいや……ここまでどんだけかかったと思ってんだ……通うなんて……」

かのん「おじいちゃんとかおばあちゃんの家かもしれないよ?」

確かに、と思っていると若菜四季がとりあえず……と呟く。

四季「確認。」

スマホを若菜四季が触った瞬間、目の前の建物の中からナツミハココデスノーと鬼塚夏美の声が大きな音で何度も再生される。

玄関の方へどたどたと乱暴な足音が近づいてくるのを感じる。

夏美「でっかい虫がくっついてますのぉ〜!!」

スマホをぶんぶんと振り回しながら外に出てきた鬼塚夏美は俺たちの姿を見てぴたっと固まる。

かのん「夏美……ちゃん……」

夏美「ナッツゥ〜……」

鬼塚夏美は捕獲された動物のように情けない鳴き声をあげた。

 

可可「狭いデスぅ〜……」

夏美「当たり前ですの……10人にいきなり押しかけられたら。」

ぬいぐるみにずっと頭を小突かれている唐可可が呻き声を上げている。

俺とマルガレーテは立って部屋の外で話を聞いている。

千砂都「まさか夏美ちゃんが本当にここから通っていたなんて。」

恋「でも、なぜ結ヶ丘に……?」

夏美「Ltuberを究めるのなら都会の学校に進んだ方が有利だと、冬毬が……」

意外な名前が飛び出し、俺は部屋の方を見る。

恋「冬毬さんが……?」

かのん「冬毬ちゃん、夏美ちゃんに言ってたよね?夢を追いかけることが無駄だと知ってもらうって。」

鬼塚夏美は俯き淡々と語り出す。

夏美「はい……それも全部、私が悪いんですの……」

 

鬼塚夏美はずっと夢を追いかけ続けていた、向いていなければ諦め、また次へ、次へ、と。その夢が書かれたノートはいつしか斜線で埋め尽くされてしまった……その間も、ずっと冬毬ちゃんは応援していたんだ。たった1人の姉のために。

そして残酷なことに鬼塚夏美が欲しかった運動神経、頭の良さ、恵まれた体躯……それらは全て冬毬ちゃんに備わったものだった。

極めつけは、鬼塚夏美の中学受験の失敗、そこで2人の運命は大きく変わってしまった。

冬毬『姉者、次はどんな夢を追いかけるのですか?』

ゴミ箱には夢ノートが捨てられていた。鬼塚夏美にとっても、冬毬ちゃんにとっても大切なものだったはずなのに。

夏美『馬鹿らしい……』

冬毬『姉者、元気を出してっ……!』

夏美『ありがとう、冬毬。でも、もういい。』

その言葉に、冬毬ちゃんの顔が引き攣る。

冬毬『まだ、たくさん叶えてみたいことがあったでしょ?ひとつダメだったからと言って……』

諦めては、という言葉を遮って話し出した。

夏美『ひとつではないですの。ふたつ、みっつ……いや全部か。』

冬毬『姉者……っ』

憐れみとも違う、悲しみとも違う、暗い表情を浮かべていた。

夏美『私には才能がないんですの。夢を追う資格もきっとない。』

夏美『夢を追うなんて無駄な行為ですの。』

……冬毬ちゃんの言っていた言葉、これはかつて鬼塚夏美が言った言葉だったんだ。

夏美『それならいっそお金でも貯めて困らないように生きていこう。お金なら裏切らない!これからはマニーが命ですの!』

ここで今の鬼塚夏美が生まれた、ってことなのか。

冬毬『マニー……』

どす黒い感情が冬毬ちゃんの中に渦巻くのを感じる。今まで信じてきたものに、裏切られた、そんな感情。

夏美『大切なのは夢なんかより現実!マニーですの!』

冬毬『夢なんかより、現実。』

声色が明るかった少女の声から、今の冬毬ちゃんの冷たく、抑揚のない声に変わる。

冬毬『夢なんて、持つものじゃない。』

冬毬『夢は、きっと───────』

ざー、ざーっとノイズのような音に冬毬ちゃんの言葉はかき消されてしまった。

 

「…………」

夏美「それ以来、冬毬は一切夢を語らなくなった。」

そう語る鬼塚夏美の表情は暗く、ただ俯いていた。

すみれ「けどお姉ちゃんは突然スクールアイドルを始めちゃって……」

メイ「マニーよりも、夢を追いかけて……」

きな子「冬毬ちゃんは不服ってことっすよね……」

部屋の中に張り詰めた空気が流れ、俺は部屋から出る。その時、戸を引く音がして、俺とマルガレーテはそちらの方を振り向く。

冬毬「騒がしいですね。」

部屋着に身を包み、眼鏡をかけた冬毬ちゃんがそこには立っていた。

かのん「冬毬ちゃん。お邪魔してます……」

冬毬「遠路はるばる、ようこそ。」

抑揚のない声、もう冬毬ちゃんが変わりきってしまったことを思い知らされる。

千砂都「冬毬ちゃんは、夢を追いかけるなんて意味が無いって思っているんでしょ?」

冬毬「はい。」

千砂都の言葉に迷いなく答える冬毬ちゃん。

恋「夏美さんはすごく頑張っていますよ!Liella!の心強いメンバーです。」

冬毬「姉者が夢を追いかけても、無意味です。」

中々言うなぁ……と俺は冬毬ちゃんを感心する。

かのん「そんなこと、わからないよ!」

冬毬「わからない?何を根拠に?」

感情的になるかのん先輩を冷たい目で見つめる。

かのん「夢を持っているから、自分が持っていた以上の力を出せる!出来ないことや大変なことでも乗り越えられる!」

ふぅ、と短く息を吐き、冬毬ちゃんは言い伏せる。

冬毬「それは、かのん先輩に夢を叶える才能があるからです。」

かのん「そんなこと……」

冬毬「あれだけの歌唱力を持ち、LoveLive!という名の知れた大会で優勝した才能がなければできないことですよ。」

かのん「それを言うなら、一緒に出場した夏美ちゃんだって!」

夏美「やめてッ!!!」

空気を劈くかのような声を上げる。

夏美「冬毬の言うことはわかる。私は実際Liella!に入るまで、何一つ夢を叶えてこられなかったんだから。」

冬毬「その通りです。」

全く気心などを感じない物言いに俺はただ黙って聞いていることしか出来なかった。

夏美「私だってスクールアイドルを始めた時は半信半疑だった。でも、あの決勝のステージの上で、私は最高に感動したの……!」

夏美「もう一度あそこで歌いたい。自分が中心になって、いつかかのん先輩たちが卒業した後も頼られる先輩になりたいって!」

かのん「夏美ちゃん……!」

うぅ……ナッツ……と唐可可は頭を小突かれていたぬいぐるみを抱きしめている。

冬毬「…………」

夏美「私だけじゃない、きな子、メイ、四季、創だって。2年生の思いはみんな一緒!それが私の夢なんですの!」

恋「みなさん……そんなことを……」

感動的な空気を全く意に介さず、冬毬ちゃんは口を開く。

冬毬「私は、スクールアイドルがどんなものなのか直接入部して学ぼうと判断し、行動しました。」

冬毬「姉者の今話した夢は可能か不可能か、答えるまでもないと思います。」

まるで氷の槍のような言葉を部屋の中心へと突き立てる。

きな子「ひどい……」

メイ「あんまりじゃねえか。」

ぐっと身構える米女メイを冷たく見下ろして続ける。

冬毬「いくら努力しても、その夢は叶わないでしょう。」

メイ「この野郎!」

米女メイが掴みかかろうと立ち上がるよりも先にかのん先輩は廊下へと出て冬毬ちゃんを追いかける。

かのん「冬毬ちゃん……!言い過ぎだよ……」

眼鏡をかけ直し、短くすみませんと呟く。

かのん「決めつけたら終わりだよ。まだ未来なんて誰もわからないんだから。」

冬毬「だから!続けても構わないというのですか……?ダメだったら?」

お互い不器用姉妹ってことか、と理解しつつも俺は黙って聞いている。

かのん「それは……」

冬毬「貴方たちと姉者の関係はスクールアイドル活動をしている間だけになるかもしれない!けれど私はこれまでもこれからも、ずっと見ていくのです!姉者のことを……!」

冬毬「もう姉者に傷ついて欲しくないのですッ!」

夏美「冬毬……」

冬毬ちゃんは黙って部屋へと戻っていった。眼鏡のせいでよく分からなかったが、冬毬ちゃんの目尻に涙が浮かんでいるように見えた。

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