ラブライブ!スーパースター!! Create the future 作:園枝こるだ
創視点──────
僕と成生は遂に学校に復帰することになった。わずか1週間ではあるものの、しっかりと灸を据えられ、2人してまるで夏休みの宿題かと思われる量のテキストを背負い込んでいた。
成生「容赦ねえな……理事長……」
「あはは……怒ると怖いからねぇ……」
それじゃ、と僕達は玄関で別れ、1週間ぶりの教室へ向かった。
きな子「創くん!な、なんすかその紙袋……」
「これ謹慎の間の課題……はは……」
きな子ちゃんは僕が持つ紙袋の中を見て顔を青くする。
メイ「お疲れ、髪型似合ってるじゃねえか。」
そう言いながらメイは自分の前髪をつんつんと指さす。
「ありがと、ずっと伸ばしてたから不思議な気分だよ。」
あの一件以来、僕は心機一転の意味も含めてヘアスタイルを少し変えたのだ。
四季「創がいない間は特に何も起きてない。練習一筋。」
科学室帰りなのかいつもの白衣とゴーグル姿の四季が立っていた。
夏美「真面目生徒の謹慎はスクープですの……」
「報道禁止でーす。」
夏美のカメラを無理やり手で覆い隠す。
またこんな風にみんなと笑い合える日々を送れる幸せを噛み締める。
そんなことをしていたらあっという間に部活の時間になってしまった。
千砂都「お疲れ、創くん。」
「ありがとうございます、ご迷惑おかけしました。」
もう3年生の先輩たちは部室に集まっており、千砂都先輩にぺこりと頭を下げる。
部室には成生をはじめ、マルガレーテ、冬毬ちゃん、かのんさんも集まっていた。
成生「悪い、練習前に少し時間くれ。」
申し訳ない、と手をぴっと前に出す成生にわかった、と返事をして僕ら2年生は席に座る。
成生「まずは、みんなを危ない目に合わせてすまなかった。」
成生「何も無かったとはいえ、不安な気持ちにさせたことに間違いはない。」
成生「ごめんなさい。」
成生は深々と頭を下げ、マルガレーテは腕を組みながらその様子を黙って見ている。
「…………」
メイ「……完璧に許したわけじゃねえ。」
沈黙を破ったのはメイだった。成生とマルガレーテは真っ直ぐにメイを見つめている。
メイ「けど、アタシ達じゃ創に真実を伝えられなかった。」
メイ「だから……その、ありがとな……」
成生「……あぁ、どういたしまして。」
メイから差し出された手を成生はかたく握りしめた。
恋「もう私たちが何かを言う必要はありませんね。」
すみれ「理事長からこっぴどく叱られたって聞いたしね。」
にやりと笑うすみれ先輩にアイコンタクトでほんとに酷かったんですからね、と念を送る。
四季「ドローンのカメラに、成生くんが創のことを助ける瞬間が映ってた。」
四季が微笑みながらドローンの羽を撫でる。
可可「ナルナルも結ヶ丘の仲間デスよ!」
成生「な、ナルナル……?」
可可先輩に飛びつかれ一瞬ふらつくも、すぐに柔らかい表情に戻る成生。
「言ったでしょ、居場所ならここにあるって。」
成生「……みたいだな。」
成生「みんな、ありがとう。」
そう言う成生の目には涙が溜まっていた。
成生視点──────
かのん「それじゃ!今日からまた4人で練習だね!」
「お願いします。」
かのん「その前に〜……成生くん、今日の夜空いてる?」
「今日の夜……ですか?空いてますけど……」
いきなり浮かれた様子になるかのん先輩に少し呆気に取られる。
マルガレーテ「んじゃ決まりね。」
冬毬「練習の後、かのんさんの家でお食事会があると。」
冬毬ちゃんも来るんだ、と少し意外に思う。
「じゃあ、荷物取ってから行きますよ。場所は幸いわかりますし。」
よろしく!とかのん先輩はぐっとサムズアップし、俺たちは練習を始めた。
練習後、かのん先輩の家に向かっていると、道中で冬毬ちゃんが声をかけてきた。
「冬毬ちゃん、もしかして待っててくれた?」
冬毬「もしかのん先輩の家に行くならこの道かと。」
「流石だねぇ……」
歩いてすぐかのん先輩の家に到着し、おじゃましますと言いながら店のドアを開ける。
かのん「いらっしゃ〜い!」
お迎えムードたっぷりのかのん先輩と仏頂面のマルガレーテを見比べ思わずふふっと吹き出す。
冬毬「お邪魔します。」
かのん「遠慮しないで〜!」
マルガレーテ「狭いところだけど。」
ありあ「言うね〜。」
そんな様子を意も介さず、お世話になります、と短く告げ、かつかつと店の奥の方へ歩いていく。
ありあ「私とは同い年とは思えないくらい大人な雰囲気……」
「これと比べるとすごいでしょ、いだっ。」
容赦なく振り下ろされたマルガレーテのチョップは俺の頭頂部を直撃する。
かのん「素敵な子でしょ?あ、成生くん悪いんだけど……飲み物の準備手伝ってくれる?」
「お易い御用です。マルガレーテ、これ適当なとこ置いといてくれるか?」
マルガレーテははいはい、と俺の手荷物を受け取り、2階へと上がっていく。
「2人っきりにして大丈夫なんですか……?」
かのん「平気平気!2人とも成生くんがいない間に少し変わったんだよ。」
そんな風には見えないけどな、と俺は2階に続く階段をじっ、と見つめた。
かのん「……成生くん、ありがとうね。創くんのこと守ってくれて。」
「あ、いや……すみません。俺のせいで、危ない目に合わせてしまって……」
かのん「ううん……創くんはもし私たちが止めても、真実を追うことをやめなかったと思う。」
かのん先輩は食器棚からコップを4つ取り出し、オレンジジュースをとくとくと注いでいる。
かのん「そうなったら、もっと危険だったな……って。」
かのん「だから、ありがとう。守ってくれて。」
「……いや、救われたのは俺の方ですよ。八掛の呪いから解き放ってくれたのは創本人ですから。」
俺をずっと縛り続けていた鎖をあいつは簡単に解き放っちまった。俺には仲間がいるって身をもって教えてくれた。
「感謝してもしきれないです。」
かのん「……今の創くんに言ってもいい?」
「ダメです。」
なんでよ〜!と地団駄を踏むかのん先輩を横目に俺は4つのコップが乗ったお盆を持ち上げ2階へと上がる。
かのん「おまたせ〜!」
マルガレーテ「かのん、なんとかして。」
あれ、とマルガレーテが顎で指し示した方向には漫画を2冊持った冬毬ちゃんがワナワナと震えていた。
冬毬「な、なな、なななな、なな……」
訂正する、なななな震えていた。
かのん「な、なな……?」
冬毬「7巻がないッ!」
「7巻?」
どうしたの?とかのん先輩が冬毬ちゃんに近づく。
冬毬「これの7巻はどこに?」
かのん「え?どこだろう……」
冬毬「よくそれで落ち着いていられますね……」
とドン引きの表情を浮かべる冬毬ちゃん。
冬毬「近くに本屋ありましたよね、買ってきます。」
いーよ探しておくからとかのん先輩は外へ向かおうとする冬毬ちゃんをぐいぐい押し返す。
マルガレーテ「私の部屋には来ない方がいいわね。」
とマルガレーテはパタンと読んでいた漫画を閉じる。
マルガレーテ「かのんのお父さんの本棚、もっと雑然としてるから。」
はい、とマルガレーテが手渡した本の名前は。
エスプレッソ侍、7巻だった。
マルガレーテ「家で……たこ焼き……?」
初めて触れる文化にマルガレーテはたこ焼き器をじっ……と見つめる。
かのん「マルガレーテちゃん、タコパ初めて?」
マルガレーテ「買って食べることはあるけど……」
かのん「成生くんは?」
「自分もしたことは無いですね。」
ところで……と冬毬ちゃんは神妙な面持ちで話し始める……パンダの部屋着に身を包んで。
冬毬「なんなのです、この格好……」
手を握ると肉球の部分がぷぴぷぴと音を立てる。正直かわいい。
マルガレーテ「私が聞きたいわよ……」
マルガレーテは……中国の獅子舞?のようなものだろうか、かのん先輩はまさに龍といった感じだ。
かのん「上海のお土産!楽しくなれるでしょ?」
冬毬「アグリーしかねます……」
目をキラキラとさせるかのん先輩を見てすすすっ、と身を引く冬毬ちゃん。
マルガレーテ「なんであんただけそれなのよ。」
「いや俺が聞きたいんだけど、なんかでかいし。」
かのん先輩にはいっ、と手渡されたのは結ヶ丘公認のゆるキャラ、ゆいがおーの着ぐるみだった。腕もあんまり伸ばせないし正直不便すぎる。
4人「ごちそうさまでした!」
俺たちは仮装タコパを終え、部屋着に着替え、かのん先輩が注いでくれたカフェオレを飲んでいる。
かのん「冬毬ちゃんの好きな焼き芋も用意してるからね!」
冬毬「おいも……!」
ぱぁっ、と小さな子のように一瞬顔を明るくさせるも、はっといつもの表情に戻る。
冬毬「用件を話していただけますか……?」
かのん「用件?」
冬毬「用件があるから、呼び出したんですよね……?」
うーん……となんとも言えない表情のかのん先輩。
「ま、一旦カフェオレ飲もうよ。こんな美味しいんだしさ。」
冬毬「Liella!と一緒になった方がいいという話ですか……?」
きっ、とかのん先輩と巻き添えに俺まで冬毬ちゃんに睨まれる。
かのん「違うよ〜、せっかく4人で同じグループになって上海まで一緒に行ったのにお互いのこと全然話せてこなかったから。」
かのん「3人のこと、もっと知りたくなって。」
冬毬「コミュニケーションを、取りたいと……」
冬毬ちゃんの言葉にかのん先輩はそうそうそう!と指をさす。
かのん「上海であんなにいいパフォーマンスが、何故11人で出来たのかわかる?」
かのん「きっとね、あの瞬間はみんなが同じ目標に向かって手をとりあえてた、ひとつになれたと思うの。」
「…………」
確かにあの時のステージは、間違いなくひとつになれていた。今まで8人と3人で競い合ってばかりいたふたつのグループが、ステージの上ではひとつのグループになっていた、気がした。
かのん「つまり、学校以外でもおしゃべりすることは無駄じゃなくっていいパフォーマンスをする上でも必要なことである、ってかのん先輩は思ったんです!」
ふふん、と自慢げにしているかのん先輩を流す冬毬ちゃん、世知辛い。
「ま……一理あるとは思いますけど……」
マルガレーテ「あちちっ……」
舌を出して冷ましているマルガレーテ。
「まだ熱かったのか、冷ますから言えっていつも言ってただろ。」
たく……と手でマルガレーテのカフェオレをパタパタと仰ぐ。
マルガレーテ「熱いのが嫌いじゃないの、ちょっと猫舌なだけ!」
「はいはい、あ、かのん先輩お砂糖あればください。」
かのん「ん!はいどーぞ!冬毬ちゃんも入れる?」
かわいらしいデザインのシュガーポットをかぽんっと開け、俺のカフェオレに角砂糖がとぽとぽと沈んでいく。
冬毬「入れます!甘いもの大好きなので。」
「意外だね、冬毬ちゃんストイックなイメージだったから。」
冬毬「普段は体型維持のためにセーブしてますから。」
流石だな……と感心しながら少し自分の体を見つめる。
かのん「うちコノハズク飼ってるんだ。成生くんと冬毬ちゃんの好きな生き物は何?」
「え……ハリネズミ……ですかね。」
かわいい!と目をキラキラさせるかのん先輩を見て少し照れる。
冬毬「え……く、クラゲ……」
マルガレーテ「クラゲってjellyfish?気持ち悪くない?」
うげ、という顔をするマルガレーテの顔にぐっと近づく冬毬ちゃん。
冬毬「そんなことはありません!あんなに可愛くて癒される生き物は存在しません!毎日、寝る前に必ず見ています。」
成生「飼ってるんだ……」
はい、と短く言い、再びカフェオレを啜る。
かのん「ほら、話してみないと分からないこと、いっぱいあるでしょ?」
冬毬「私の話は必要ありません!」
かのん「そんなことないよ。」
かのん先輩は母親のように優しく笑う。
かのん「成生くんの話も、冬毬ちゃんの話も、もちろんマルガレーテちゃんも、みんな大事。」
かのん「みんなのこと、もっと知りたい。」
それじゃ、行こ!と立ち上がったかのん先輩を俺たちは慌てて追いかけた。
かのん「ん〜……気持ちいいね……!」
夜の原宿の街へ出ると、昼間の喧騒は嘘のようで星空の下には灰色の森の静けさがあった。
マルガレーテ「なんで散歩?見慣れた景色じゃない。」
かのん「4人で夜歩くなんて滅多にないでしょ。」
マルガレーテ「まぁ……確かに……」
かのん「折角一緒にいるんだし、腹ごなしも兼ねてね。」
はぁ、とため息はついているものの、どこか嬉しそうなマルガレーテの後ろを俺は歩いていく。
原宿の街をふらつくかのん先輩の後を着いていくととある地点で立ち止まった。
「……ここは。」
かのん「去年、歌ったよね。」
あの日、俺とマルガレーテがLiella!に負けた場所、その場所だった。
冬毬「過去のデータを見ました。お2人が対決されていましたね、マルガレーテは成生くんの曲で。」
かのん「うん、東京大会でお互い競い合って、私たちLiella!が決勝に。」
マルガレーテはふんっ、と不満そうに鼻を鳴らしている。
「まぁ、完敗でしたね。今思えば。」
マルガレーテ「あんたが言うなっ!」
吠えるマルガレーテの後ろ、大型ビジョンに映し出されているのは去年の優勝者、Liella!のステージだった。
かのん「冬毬ちゃんも、ずっと夏美ちゃんのこと気にかけてる。」
かのん「また、夏美ちゃんが傷ついて終わるんじゃないか、って……同じことになっちゃうんじゃないか、って……」
冬毬「……はい。」
かのん「上海に行って、素敵なライブができて思った。今こそ3人の気持ちを解放させる時が、来たんだよ。」
俺たちの方を振り返りそれぞれの顔を見回す。
マルガレーテ「解放?」
「どういうことですか……?」
かのん「上海のライブは震えるほど感動した……!でもね、今もまだ3人の気持ちは昔と変わらず宙ぶらりんのまま。」
壁面に俺たち3人の経験した思い出が映し出される、ように見えた。
俺は幼少期の怪我、千砂都を守るために作曲に打ち込んだ日々、マルガレーテとの出会い、そして、兄さんを取り押さえたその瞬間。
マルガレーテは幼少期歌と出会った瞬間、代々木スクールアイドルフェス、Liella!に敗北した瞬間、そして上海でのライブ。
冬毬ちゃんは姉を励まし続けた幼少期の日々、捨てられた夢ノート、トマカノーテでの初ライブ、姉を傷つけたくないがゆえの葛藤。
冬毬「私は姉者を敵だと思っていません、ただ、夢を中途半端に追いかけて欲しくない。姉者の悲しむ姿はもう見たくないですから。」
マルガレーテ「私はLiella!に勝ちたい、こいつの作った曲で、それだけよ。」
「俺は、ずっとマルガレーテと2人でやっていくべきだと思ってた。けど、それじゃマルガレーテを成長させることは出来なかった。俺はもっと、もっともっと、こいつと遠くへ飛び立っていきたい。」
かのん「……私ね、4人で練習して思った。成生くんも、マルガレーテちゃんも、冬毬ちゃんも、真剣だって。」
原宿の幻想的な光に俺たち4人は照らされる。
かのん「成生くんはマルガレーテちゃんを見守りたいから、マルガレーテちゃんは本気でLiella!に勝ちたいから、冬毬ちゃんは夏美ちゃんの気持ちを確かめたいから。」
かのん「今こそ私たち4人で全力でLiella!にぶつかろう!」
マルガレーテ「望むところよ!」
冬毬「アグリーです!」
「やるからには絶対勝ちますよ。」
後日、練習場所には冬毬ちゃんが一足先に到着してストレッチに励んでいた。
「あれ、かのん先輩は?」
冬毬「まだ学校かと。」
マルガレーテ「本当に対決するって言いに行ったの……?」
冬毬「マルガレーテも成生くんも、かのん先輩が私たちとグループを作った時、どう思いましたか?」
どう、って……?と俺とマルガレーテは目を見合わす。
冬毬「私はLiella!のためだと思っていました。Liella!を成長させるために自分たちがライバルになるのではないかと。」
冬毬「けど先輩は本当に私たちのことを考えてくれていたんですね。私たちの気持ちをちゃんと大事にしてくれました。」
ふん、と息をひとつつくマルガレーテ。
マルガレーテ「お人好しなだけかもよ。」
冬毬「でも、そのせいで先輩はLiella!には……」
戻れないかもしれない、と表情を曇らせる冬毬ちゃん。
「だから勝つんだよ。俺たち4人で。」
マルガレーテ「Liella!に勝って、そして──────」
マルガレーテの言葉に俺と冬毬ちゃんは微笑みあって頷く。
その時境内に入ってくる人影があった。
かのん「お待たせ〜!!」
成生「かのん先輩、話しておきたいことが……」
冬毬「大事な話です。」
マルガレーテ「とてつもなく、ね。」
かのん「やだ!怖い〜……!」
マルガレーテ「悪い話じゃないわよ。」
こそこそ、とマルガレーテはかのん先輩に耳打ちする。
ぱぁっ、と表情を明るくさせる。
かのん「私は賛成!3人ともいっぱい考えてくれてたんだね!」
かのん「そのためにはいっぱい練習しなきゃ!レッツゴー!トマカノーテ〜!!」
マルガレーテ「なんとかならないの?その名前……」
冬毬「私は嫌いではありませんが。」
「響きかわいくていいよね。」
一足先に駆け出すかのん先輩を俺たち3人は笑い合いながら追いかけた。
追いかける夢の先には、何が待っているんだろう。
それはまた、後で考えればいいか。