テンプレ騎士団「我々の最新の研究によれば、カヤはお仕置き◯ックスに値する」 作:新人先生
*感想でそもそも正義実現委員会がテンプル騎士団要素を含むことを教えてもらいました……もうひとつテンプル騎士団モチーフの団体が存在してるってことにしてください!
汚職は許しません!
伝統、歴史、優美――ここトリニティ総合学園には、そうした言葉がよく似合う。
湖を抱く広大な領地に聳える校舎は白亜の尖塔と回廊を備え、礼拝堂や古書館、音楽堂といった壮麗な建物は奥ゆかしく少女を飾り立てる。石畳を踏みしめるたび、かつてこの地にひしめいた数々の物語を垣間見ることができる。だが、その奥底には、古くから連綿と続く派閥と因縁、陰謀と噂が幾重にも折り重なっている。
伝統的に、トリニティ総合学園には、いわば学内政治が存在した。
力を持ちながら、伝統と格式に縛られて声を上げられない穏健派。
高い能力を有しながら、機会に恵まれず日の目を浴びられない野心家。
そして、双方の間に立ち、利益を啜ろうとする狡猾な策士たち。
彼女たちは互いに手を組み、学内に張り巡らされた根を通じて化かし合いを演じていた。
そんな学内政治の頂点に存在する組織こそが、〈ティーパーティー〉――トリニティ総合学園における生徒会であり、「パテル」、「フィリウス」、「サンクトゥス」の三派の長が輪番でホストを勤めている。
公式にはティーパーティーが巨大な学園全体を統治していることになっている。だが実際には、彼女らの指示の及ばぬところで独自に動く派閥が少なからず存在し、頭を抱える場面も珍しくはない。茶道部ですら、「お茶請けにキュウリサンドイッチを出す事に反対する一部部員がプールに茶筒を投げようとした」と至極どうでもいい理由で派閥争いをしている始末。その他にも、ティーパーティーの管轄下にない一定の戦力、独自の指揮系統や情報網を有し、その結果として一定の発言力をもつ団体が幾つも存在している。
そうした“把握不能な組織”の中に、「テンプレ騎士団」なる集団がある。
彼女たちはいわば、学園に巣くう奇妙な伝統の亡霊のような存在である。
かつてトリニティが幾つもの学園に分かれていた時代、礼拝堂や古書館を守護するために設けられた〈聖堂守護団〉――それがテンプレ騎士団の源流だと伝えられている。公認の守衛組織として一定の権限を持ち、儀式の警備から聖遺物の管理に至るまで携わっていたが、統合の折に役割を譲り渡すこととなった。聖堂そのものの維持・管理は〈シスターフッド〉に一本化され、守護団は「任を終えた」として書類上は整理されてしまったのである。
だが、歴史とは書類だけで全てを語れるものではない。守護団に連なっていた生徒たちの一部は、手順を尊び、規律を重んずる精神を独自に受け継いだ。いつしか彼女らは「テンプレ騎士団」と呼ばれ、半ば非公認ながらも活動を続けるようになった。公式の名簿にも会計簿にも記録はなく、ティーパーティーの議事録に記されるのは「旧守衛団の慣習に基づく協力団体」といった曖昧な脚注程度。だが、儀礼の場や学内の混乱に際して彼女たちが忽然と現れるのはトリニティ生徒たちにとって周知の事実であった。
ティーパーティーからすれば、これほど扱いにくい集団もない。形式や規程に異常なまでの執着を見せ、平時には議事進行に横やりを入れたり、校則の一字一句に固執たりして学園運営を滞らせるかと思えば、緊急時に思わぬ力を発揮してしまうのもまた彼女たちだ。
桐藤ナギサ曰く、『あの方々は常に頭痛の種ですね……日曜日に働こうものなら、鬼の形相で執務室に飛び込んできましたよ』
浦和ハナコ曰く、『とてもえっちな方々だと思います♡』
百合園セイア曰く、『第二の古則――“理解できないものを通じて、私たちは理解を得ることができるのか”――彼女たちを見ていると、この一節について思索せずにはいられなくなるね』
彼女たちの全貌を知るものは少ない。いや、知ったとしても、本当の意味で彼女たちを理解できる者はいない。
そんな彼女たちは、自らと理念を共有する、数少ない“同胞”とみなした存在を救うため、今日も秘密裏に奔走していた――
*
「……防衛室長、これはいったい?」
「リン、あなたのことは以前から目障りだと思っていたのです」
不知火カヤはそう言って七神リンに拳銃を突きつけた。
ようやくだ。これでようやく私の夢が叶う。
カヤはうっすらと勝ち誇った笑みを浮かべた。目の前にいるリンは一見冷静を保っているように見える。しかしその内心を想像すると、これまでこの女の下で甘んじてきた屈辱的な日々が報われていくような心持ちになった。
能力も無いのに、この女が連邦生徒会長の信頼を独占していたこと。
連邦生徒会長代理になった後も、いちいち周囲の意見を募り、衆愚政治の見本のような無能さを晒してきたこと。
理念もなく、枠組みと手続きの中で書類仕事をこなすだけの凡才。
このままでは先代が築いた世界そのものが崩れ落ちていくだろう――だから、私がその後を継ぎ、指導者となるべきなのだ。
そしてそのときがついにやってきたのだ。
「七神リン行政官、あなたを公文書毀棄および職権乱用の疑いで緊急逮捕します。連邦生徒会役員規定第78条に基づき、連邦生徒会長代行の職務は調査が終了するまで停止されます」
「……すべて、あなたの計画だったのですか。しかし、連邦生徒会長が帰ってきた暁には、全てが白日の下にさらされますよ」
「ふふっ、むしろここまで事態を放置していたあなたの方が責められるのでは?」
「……」
計画はすべてうまくいった。連邦生徒会長の手紙を偽造し、「本来自分が代行業務を依頼されるはずだった」ことにした上で、リンを逮捕する。そして以前から保留になっていたリンに対する不信任決議案を持ち出す形で失脚させ、自らの派閥に連邦生徒会長代行の後任として自分を推すよう働きかける。あとはあの女の派閥を蹴落とせばいい――簡単な話だった。
(……これで、すべてが私の思い通りになる)
これで連邦生徒会は自分の掌にあるも同然。この地位を使い、キヴォトスという秩序を統制する理想郷を築きあげるのだ。唯一の懸念点としては、超法規的な権限を持つ“シャーレの先生”が残っているものの、そのくらいであれば何とでもできるだろう――そんなことを考えながら、カヤはリンの顔をよく見てやろうと視線を向ける。
彼女は後ろ手を組まされる形で拘束されており、その表情からは微かな苦痛が滲み出ていた。しかし抵抗しても無駄だと悟ったのか、静かに銃口を見返してくるのみだ。
その姿を見ていると、カヤは高揚感と快楽を覚えずにいられなかった。ついに自分が主役の時代がやって来たのだ。世界の中心に自分が位置しているという充足感。今すぐにでも手の中にある権力を使って支配体制を作り上げたい欲求が溢れ出す。
(……おっと。焦りは禁物、ですね)
カヤは高ぶる自分を自覚し、一度深呼吸をして冷静さを取り戻した。自分は理性的で論理的な人間なのだ――感情任せになって失敗するのは愚者のやることであり、自分が目指すべき未来から遠ざかる行為である。
リンを監獄へ送り込む準備が整ったら、早速連邦生徒会全体に人事を発表しなければならない。その後は各学園に介入し、それぞれの治安維持組織を監督下に置く。予算の配分や命令系統も構築し直す必要があるだろう。一つ一つ、自分の権力の正当性を示しながら慎重に事を進めなければいけない。
カヤはすでに思い描いていた理想のビジョンを胸に秘めたまま、自分の派閥の者に指示を飛ばした。
「それでは皆さん、首席行政官を丁重にお送りしてください。ああ、その後、続けて監視をお願いしますね」
「はい、防衛室長様!」
部下たちはリンの腕を引っ張り、まるで罪人を引き立てるように連行しようとする。
だがそのとき、視界の端で不審な動きが起こった。
カラン、とした音と共に、何かが足元へ転がり込んできたのだ。
(……?)
床に転がり込んできたのは、黒光りする筒だった。側面には丸い穴が等間隔に穿たれ、中の金属が鈍く覗いている。先端には銀色のピンと細いワイヤーが揺れ、握り金具が不気味に光っていた。
瞬間、閃光が弾ける。
――それは強烈な閃光弾だった。
「なっ……!?」
カヤが叫んだ刹那、周囲の部下もろとも爆発による激しい閃光と耳を劈くような破裂音に襲われた。頭を庇い、思わずその場に膝をつく。しかし視界も聴覚も封じられて何も見えない。
(一体……どこから!?)
(まさかリンが……いや、奴は拘束されている。ならば他の誰かが……?)
光と音が収まったのはほんの数秒のことだが、カヤにとっては永遠のように感じられた。ようやく視界が戻り始めたが、辺りは既に煙が充満しており、息苦しさと焦燥が心を締め付ける。
(クソッ!! いったい誰が……!?)
そう毒づきながら視線を彷徨わせると、「ぐわっ!」という声と共に、リンを拘束していたはずの部下が何者かによって壁へと叩きつけられるのが辛うじて見えた。頭を振りながら必死に視野を確保しようとするカヤの前で、さらに一人、二人と仲間たちが次々に吹き飛ばされていく。やがて自分の目の前にいる最後の部下が倒されると、床に手をついたカヤの前に誰かが立ちはだかった。
「動くな。おとなしくしていろ」
「なっ……!?」
低く響く声と共に拳銃がカヤの額に突きつけられる。反射的に身を退こうとするが、腕を押さえられて動けない。混乱した思考のなか、カヤは辛うじて相手の姿を捉えた。
最前列――白い防弾盾が、はっきりと見えた。乳白の塗装に、鮮紅の十字が大ぶりに描かれている。盾の縁には小さなリベットが規則正しく並び、上端には視界を確保するための細いスリット。盾を構える少女たちは、白い短マントを肩に掛け、その下に薄砂色のプレートキャリアと紺のプリーツスカート。肘から手首まで黒いグローブで覆い、ヘッドセットのブームマイクが頬に沿っている。頭上のヘイローは、煙の光を拾って鈍く揺らめいていた。
「ぐっ……! あなたたちはいったい何者ですか!?」
「我々は――“テンプレ騎士団”だ」
中央――背筋を伸ばした少女が告げる。深緋の髪をひとつ結びにまとめた少女だ。左眼はゴーグルで覆われ、右眼に射抜くような緑が宿る。腰にはポーチが吊られ、右の太腿には黒いサスペンダーで革製のホルスターを固定していた。腕章には黄金の線刻で盾と剣と天秤が組み合わされ、指に嵌められたリングには小さく「K.T.P.」の文字が彫られている。
「あ、あの、
「よくやった、トウカ。我々にとってこの上なく大事な方だ。しっかり保護しておけ」
「は、はい……!」
“御門”と呼ばれた少女の隣に、茶髪のポニーテールを左右に跳ねさせながら別の少女が駆け寄ってきた。見れば隊列の後ろの方にリンが避難させられており、他の団員たちがそれを取り囲んでいるようだった。
「“テンプレ騎士団”ですって……!? なぜトリニティがここに……?」
名前だけは知っている。確かトリニティの非公認団体だ。だがなぜここにトリニティの生徒が居るのか。事態は秘密裏に進めていたはずなのに、いったいどういうわけなのか?
カヤは歯噛みし、目を険しく細めた。だがその視線を受け止める少女はいまだ一切動じた素振りを示さない。
「リン……! さてはあなたが差し向けたのでしょう!? こんな連中を呼びつけて!」
「……貴様、今、なんといった?」
「え?」
「お前の今の発言……今すぐ撤回しろ。もしできないと言うのであれば……
「……???」
カヤは言葉の真意を掴み損ねた。明らかに怒っているようなトーンではあるものの、何を撤回しろと言っているのかがわからない。
そんな疑問を他所に、“御門”と呼ばれた少女は銃を振りかざしながら一歩踏み出す。
「貴様……! 今、“リン様”を呼び捨てにしただろう!!!」
「え?」
「そんな態度を取っていていいと思っているのか!? 今すぐ“様”をつけろ!! さもなくば……!!」
「……ええと?……“リン様”?」
「よろしい。以後、ちゃんと“様”付けをするように」
「……えぇ」
「だったらその件についてはひとまずいい」
「……」
カヤは呆然と相手を見つめた。何なんだこの女は……頭おかしいのか? あまりの剣幕に押し切られてしまったが、いったい何を考えているんだ?
しかし当の本人は何食わぬ顔で話を続けた。
「貴様などとは違って、ここにおられる七神リン様はありとあらゆるテンプレート――マニュアル、規則、手続きといったルールを厳格に遵守することを怠らない高潔なお方だ。我らテンプレ騎士団が生涯をかけて仕えるべき人物の一人とお認めしている」
「はい?」
今度はリンが素っ頓狂な声を上げる番だった。
「あ、あの……御門さん?でよろしいですか?」
「はっ! 私などの名前を覚えていただき恐悦至極にございます! しかし御門と呼んでいただけるだけで十分でございます」
「そ……そうですか。ええと……その……私はあなたたちのことを存じ上げないのですが……」
「ええっ!? ちょっと! どういうことですか、リン――」
「リ・ン・さ・ま!!!!!」
「……リン様! これはあなたの差し金ではないと!?」
慌てて言い直すカヤに対して、リンは困惑した様子で答えた。
「ええ……全く知りませんが……」
「はあ~?」
じゃあ何なのこの人たち!?
そんなカヤの内心を読み取ったかのように、少女は淡々と言葉を紡いだ。
「七神様、私どもテンプレ騎士団は影ながら貴殿のことを尊敬しておりました。連邦生徒会の煩雑な諸々の手続きを経験し、それに慣れ親しんだ貴殿のような方がいらっしゃることに感謝していた次第なのです」
「……? ちょっと何をおっしゃっているのかわかりませんが……とにかくありがとうございます。ええと……それで?」
御門はウキウキとした様子で続けた。
「我々テンプレ騎士団はキヴォトス全域において『規則』と『格式』を遵守し、『伝統』と『正義』を尊ぶ正道を行く戦士たちなのであります。そのためには日夜研鑽を積み重ねながら法典の隅々を調べ尽くし、古今東西の『テンプレート』を探求すべくあらゆる機関を訪ね歩いております」
「……はぁ」
「そしてなんといっても七神様は日々膨大な量の公文書を精査し、キヴォトス中に敷かれた規則を遵守しておられる方。つまりは我々と同じ理念を志す同志であり、“キヴォトス最高のテンプレート”とも言うべき存在であらせられます。そして近頃、我々の情報部が不知火カヤの不審な動向に関する情報を得ましたので、失礼ながら御身を秘密裏に護衛させていただいていた次第でございます」
「え?……ということは、まさかずっとわたしの動向を監視していたということですか?」
「はっ。恐れ入りますがその通りにございます」
「……いつから、どこまでを?」
リンは少し顔を強張らせた。すると御門は堂々と答えた。
「護衛行為は不知火カヤの情報を得てから、監視自体はそれ以前から――連邦生徒会長が失踪して七神様がキヴォトスのトップに立って以降でございます。24時間体制で盗撮・盗聴・尾行のすべてを駆使させていただきました」
「えええ!?」
突然告げられた衝撃の事実にリンは思わず悲鳴を漏らす。
「その……具体的にはどの程度まで……?」
怖々と尋ねるリンに御門は淡々と答える。
「具体的には、普段の業務はもちろんのこと。休暇中にカフェに赴かれた際のお食事のメニュー、夜間の書類チェック時に独り言で呟かれていた内容、トイレ個室内での過ごし方なども確認させていただいております」
「ひっ……!!」
顔を真っ赤にしてうろたえるリンだったが、御門は眉一つ動かさずに続ける。
「加えて昨夜はなかなか眠りにつくことができないご様子でしたね。深夜2時42分に布団の中でごそごそと弄ばれるところまでは把握しておりましたが、その後は誠に申し訳ありません。ハッキングを察知されたのか、監視カメラの映像が途中で途切れてしまいまして」
「もういいですから!!」
なんだこのヤバい奴ら!?
カヤは眼前で開示され続ける怒涛の情報量を前に混乱を極めた。目を白黒とさせながらなんとか事態を飲み込もうとするが、一向に脳が追いつかない。ただひとつわかるのは、この集団は間違いなく危険すぎるということだけだった。
「……さて、このような高潔なお方を貶めようとした罪は重いぞ。不知火カヤ」
そうこうしているうちに御門は話を自分の方に戻してきた。御門の背後に控える騎士団員達も「そーだそーだ!」と大合唱を始めている。
「ま、待ってください! 謝ります! 謝りますからいったん落ち着いてください! 話をしましょう!!!」
未だに事態を飲み込みきれていないが、こんな奴らに目を付けられたとあっては少なくともただでは済まないということぐらいはわかる。なんとか説得しようとカヤは弁舌を振るった。
「問答無用! 貴様のような奸悪人間は――」
しかしそれを遮るようにして御門は鋭く言い放つ。その視線は刃のごとく冷たく鋭利だった。だがその台詞を途中で区切ると、ゆっくりとこちらに向き直って言った。
「――“テンプレ”に沿って罰を受けてもらおうか」
「“テンプレ”ですって?」
「そう。古より伝わりし聖なる掟、“テンプレート”に則った裁きを受けよ!」
御門がそう宣言した次の瞬間、背後に控えていた団員たちが一斉に動き出した。彼女たちは各々が手にした武器を構えながら隊列を組むと、まるで兵士のような統率を見せつけるようにして周囲を取り囲む。そして数人がかりでカヤを取り押さえ、引っ張り上げた。
「ちょっ……やめてください! 何をする気なんですか!?」
「我々の最新の研究の成果によれば、こういう場合の“テンプレ”がある」
「はあ?」
カヤは拘束されたまま睨みつけた。しかし御門はまるで聞こえていないかのように言葉を続ける。
「決まっているだろう――“お仕置きセックス”だ!!!」
「……はぁ? せっく……!?……え!?」
あまりに唐突すぎる宣言にカヤはぽかんとした顔で聞き返した。すると御門は得意気に説明する。
「お仕置きセックスとは罰を与えながら犯すという一種のプレイであり、過去にはこれをモチーフとした作品が数多く創作されてきたそうだ。我々の調査によると、“相手を罠にはめようと企らんだが失敗し、逆に捕らえられて陵辱される”というパターンが古典的かつ鉄板の展開らしい」
「……何を言ってるんですか?」
カヤは完全に茫然自失の状態だったが、それでもどうにか抗議の声を上げようとした。しかし団員達はもがくカヤの体を無理矢理抑えつける。
「ちょっと!! 離してください! やめ……!!」
「そして我々の最新の研究によれば、こういうケースでは“先生”によるお仕置きセックスがテンプレとしてもっとも適切だ」
「ええっ!?」
「諦めろ……これがテンプレだからな」
御門は憐れむような表情でカヤを見つめる。そこには一抹の同情が見て取れた。
「なに『本当はこんなことしたくないけど仕方ないんだ』みたいな顔してるんですか!? 何一つ仕方ない要素ないですよ!!」
「だがテンプレだ。それ以上も以下もない」
「こんなのテンプレじゃない!! ちょっと! そこあなた! この頭のおかしい上司を止めてくださいよ!!」
カヤは藁にもすがるような思いで、自分のそばに立つ茶髪ポニーテールの少女に呼びかけた。御門に“トウカ”と呼ばれていた少女だ。
「え、わ、私ですか?」
「そうです! お願いです! 何とかこの人を止めてください!」
「あ、えっと、その……」
「あの人はどうかしています! 早く止めないと――」
「ひ、ひいいい!!!!!」
パアン、と乾いた音が室内に響き渡った。
「――え……」
遅れて、頬に痛みが走る。
カヤは一瞬何が起きたかわからず目を丸くし、それからすぐに茶髪ポニーテールの少女に平手打ちをされたことに気が付いた。
「おい! トウカ! 何をしている!!!」
「す、すみません!! つい手が出てしまいました!!」
「何を勘違いしているんだ! そういうのは先生の役目だろうが!!」
「そ、そうでした! 申し訳ございません!」
……なんで今平手打ちされたの私!?
カヤは痛みを堪えつつ少女のほうを睨みつけた。少女は慌てふためきながらぺこぺこと頭を下げている。御門も呆れた様子で彼女に注意していた。
「まったく……確かに、五月蠅いガキを黙らせるテンプレは“ビンタ”だと相場が決まっているのは確かだ。だが今回その役は先生だ。お前じゃない」
「はい! 申し訳ございません!」
「謝るのはこっちにじゃない! そっちにだ!!」
「はい!! 不知火さん、申し訳ございませんでした!」
トウカと呼ばれた少女がペコペコと謝罪しているのを見てカヤは頭を抱えたくなった。いよいよ訳が分からない。本当に理解が追いつかない。これは悪い夢なんだろうか?
「……よし。謝罪も済んだし、先生のところに連行するぞ」
「「「了解!」」」
「や、やめ……止めろおおお!!」
カヤの叫び声もむなしく、騎士団の者たちは容赦なく彼女を担ぎ上げた。カヤは必死にもがき暴れるが複数人に捕まった状態ではどうすることもできず、そのまま引きずられるようにして連れ去られていく。後には、ただただ呆然とするリンがぽつりと残されるばかりだった。
*
「……素晴らしい午後ですね。紅茶もいつもの三割増しで美味しく感じます」
桐藤ナギサは屋外の椅子に腰掛けてゆっくりと紅茶を一口含んだ。茶葉の香りが鼻腔いっぱいに広がり、豊潤な風味が味覚を満たしていく。今日は特に気温もちょうどよく過ごしやすい陽気であり、空には雲一つない青空が広がっている。
「これはきっと良いことが起きる前兆でしょう……ああ、紅茶も美味しいですし。今日は良い一日になりそうですね」
そう呟きながらナギサは手元のカップを傾けた。ティーカップ越しに太陽の光が輝き、透き通った液体の表面に光の粒が浮かんでいる。ナギサは心地よい気分のまま目を閉じた。
すると突然――
「ナギサ様! 緊急事態です!!」
「!? なんですか!?」
突如としてティーパーティーの部下が駆け込んできたことでナギサの穏やかなひと時は中断された。一体何があったというのだろうか? 彼女は慌てた様子で問いただした。
「何かあったのでしょうか? 落ち着いて説明してください」
「も……申し訳ございません! 実は……その……テンプレ騎士団が……!!」
「テンプレ騎士団……!?」
ナギサは眉間に皺を寄せた。その名前を聞くと嫌な思い出が蘇ってくる。これまで幾度となくこの団体のせいで頭を悩ませられてきたのだ。
「何をやらかしたんですか?」
「はい! それがですね……なんと……3時間前、テンプレ騎士団がサンクトゥムタワーに突入し、連邦生徒会防衛室長を連れ去ったとの報告が入りました!!」
「え!?」
ナギサは目を剥いた。
「どういうことですか!?」
「こちらとしても事態が把握しきれておらず、詳しい情報がないのです。ですがテンプレ騎士団が連邦生徒会メンバーを拉致したのは事実のようです」
「ああああ!! 本当に頭が痛くなってきました!」
ナギサは両手で頭を抱え込んだ。テンプレ騎士団はトリニティ内部で独自の行動を繰り返す厄介な集団であり、過去にも幾度となく問題を起こしてきた。こんな大事が起きては今後の学園運営にも支障が生じてしまうだろう。それだけは避けなければならない。
「そ、それに加えてですね……」
「なんですか!? まだ何かあるというのですか!?」
ナギサが苛立ちを露わにしながら尋ねると部下は怯えながらも続ける。
「こちらも信じがたい情報なのですが……シャーレの先生をも拉致したという情報が入りまして……」
「はあぁぁぁ~!?」
ナギサは盛大に悲鳴を上げた。
「なんで先生まで!? いったい何がどうなってるんですか!?」
「そ、それが……騎士団は防衛室長を拉致した直後、先生による防衛室長への“お仕置きセックス”を要求し、シャーレに押しかけたらしく……」
「は!?」
「先生がそれを断ると、先生をも連れ去り、服をすべて脱がせた後、防衛室長と一緒に“セックスしないと出られない部屋”に閉じ込めたそうで……」
「は!? ちょっと待ってください!! いったい何を言ってるんですか!!」
ナギサは思わず大声を上げた。だが部下はひどく動揺しながらも説明を続ける。
「詳細については不明ですが、どうやらテンプレ騎士団が独自の研究を元に“セックスしないと出られない部屋”を秘密裏に建造してたようでして……」
「馬鹿ですか!!」
「そのようなこともあったらしく……現在、状況は混沌を極めており、連邦生徒会内にも動揺が広がっているとのことです」
「くぅうう!!」
ナギサは大きくため息を吐いた。今までもテンプレ騎士団によるトラブルに悩まされてきたが、今回の一件はとりわけ重大だった。
「そ、それだけでなく……ゲヘナもこの事態を一部把握しているようです……!」
「嘘でしょう……!?」
「あまりの大事に、風紀委員会と
「絶望しかないんですが!!」
ナギサは思わず机を叩いた。苦労を乗り越えエデン条約を結んだばかりだというのに、ゲヘナと再度争うことになるとは。しかも今回はテンプレ騎士団による責任がトリニティにも及ぶ可能性が高い。これではせっかく培ってきた良好な関係性が水泡に帰すことになってしまう。あれこれと頭を高速で働かせていると、さらにもう一つの懸念事項が頭をよぎった。
「……そうです!」
「な、なんですか!?」
「このことをミカさんに伝えましたか……!?」
「いえ……! 伝える暇もなかったです!」
「絶対に伝えないでください! 知られたらキヴォトスが終わります!!」
「は、はい!!」
なぜ私ばかりがこんな目に遭わなければならないのか?これからどんな事態が待ち受けているのか、考えただけで気が滅入っていく。また胃薬が必要になってしまうかもしれない。ただ一つ確かなことは――
(――なんて最悪な日なんでしょう!!!)
彼女はこれ以上事態が悪化しないことを祈りつつ紅茶に視線を移したが、もはやその水面には歪な波紋ばかりが映し出されているのみだった。
こんなの連載できねーよ。
こんなの書いておいてなんですが、筆者はカヤが好きです。カヤが活躍するこちらの拙作もよろしければよろしくお願いします↓
https://syosetu.org/novel/380797/