俺の切り札はフルレート   作:通りすがる傭兵

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説明会です。

本編のペースが早すぎてついていけないッピ......


第3話 推しのプレマは3枚買っとけ

 

 

「いいですか、落ち着いて、よく聞いてください」

 

あれから数日。

 

 待ち合わせの喫茶店で先に西芝さんの前に座りながら、自分は改めて先ほどした説明を口に出す。

 

「手札と場に<再機王・リサイクラー>、場に<再機王>含む秘宝5枚以上に<地に足付けて>に<スタンドの情熱>で無限に出し入れ出来るって話をしてるんですよ」

 

「出し入れしても何も起きないから困っているのだが」

 

「無限出し入れ出来るんですよ!? 勝ったも同然でしょう!」

 

 再機王界隈もとい秘宝軸の鉄板コンボを知らなかった西芝さんに対して俺はこの説明をもう3回はしている。

 

 

<再機王・リサイクラー>

 

伝説の秘宝・クリーチャー 巨人

 

 このカードのコストは、自分の場にある秘宝ひとつにつき1少なくなる。ただしコストは1より少なくならない。

 自分の場からこれ以外の秘宝・カードが墓地に置かれるたび手札を1枚捨てても良い。そうした場合、その秘宝カードを手札に戻す。

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<地に足つけて> 通常魔法

 

 このターン、あなたがコントロールするクリーチャーはすべて「このクリーチャーをステイする:1オドを加える」を得る。

 

 

<スタンドの情熱>

 

クリーチャー スピリット

 

 あなたがコントロールするクリーチャーは速攻を持つ(召喚酔いの影響を受けない)。

3/3

 

 

「第一、無限ではないだろう。<リサイクラー>の回収能力は手札コストが必要だから、手札の枚数が上限ではないか?」

 

「そこで<太古の足跡>ですよ。<再機王>のパワーは4以上なので条件を満たしますから、これでループのたびにドローが発生して山札を全て引くことができます」

 

「なるほど......確か【古代暴竜】のカードだったか」

 

「ドローするために特殊な条件はパワー以外ないので」

 

「だが別に山札を引き切ったとして、勝つわけでも無いだろう」

 

「だいたい山札は全部引いたら勝ちますよ。ただ、無限ループでどう勝つかは思想が出ますからね」

 

 セルフLOといえばキメラティックコンボデッキ【エニグマ】の<汚れた契約>と<テスタロッサの墓守>のコンボが1番有名で簡単。

 しかし、この<再機王>ループなら墓地に任意の枚数分のカードを落とすことができる。

 

 だから墓地に40枚以上カードがある場合のみ唱えられる、枚数分のダメージをファイターに与える<死闘の果て>とかでもいい。

 

 デッキを全部引けるので相手と自分の山札の枚数を同じにする<平等な不平等>で相手の山札を0にしてもいい。

 

どっちもエニグマ対面で食らった気がするな。

 

やっぱあのデッキの開発者おかしいよ。

 

 そういえば店舗大会でエニグマデッキに当たったことないな。この辺にはエニグマ使いがいないんだろうか。だいたい1店舗に1人くらいは居そうなもんだけど、不思議なもんだ。

 

「あ、クリーチャー3体以上ならライフ1点に調整して<死線と踊る>を無限に唱えるコンボもありますよ。この場合、戦闘ダメージを与えるとカードを1枚引くクリーチャーが条件になりますが」

 

「条件が限定的すぎるだろう」

 

「だったら、クリーチャーが死亡するたびに相手ファイターに1点ダメージを与える<悪夢の煽動者>はどうですか?」

 

「家電機鬼、古代暴竜、アルプスサポーター、悪夢喰らい(ナイトバイト)四重血統(クアドラ)デッキがまともに回ると思うのか?」

 

「知らないんですか? デッキって全部引けば必ず欲しいカードが手札に来るんですよ」

 

「無茶苦茶を言うな」

 

 パーツだけなら問題ないと思うけども、他テーマが混ざることでヘソを曲げる精霊は確かに多い。

 

 なんで純テーマばっかり使うんだろうと思っていたが、いざ使う身になってみるとびっくりするほど回らなかったっけ。

 

「<タップ>ちゃんは優しいから許してくれるよね。え? だめ? そんなー」

 

「というか秘宝6枚以上に<スタンドの情熱>まで揃うのであれば、<リサイクラー>と<タップタップ>で相手のライフを0にできるだろう」

 

「それを言ったら戦争でしょうが」

 

コンボデッキの致命的欠点。

コンボパーツが強いと存在意義がない。

 

「で、カード談義もいいですが、そろそろ本題に入りませんか? 

 ただ雑談をしに来たわけではないでしょう」

 

 すっかり氷も溶けたグラスを揺らして見せると、西芝さんは喫茶店の椅子に深々と体を預けて息を吐いたあと、背筋を伸ばした。

 

「君の立場についてだ」

 

「立場ですか?」

 

「コミュニティの参加は認められた。我々は精霊憑きの相互扶助を目的とした集団、君も例外ではない。

 だが、我々にはもう一つ目的がある」

 

 西芝さんは懐から取り出したデッキケースをテーブルの上に置いた。

 

「強くなることだ」

 

「それは、ファイターとして?」

 

「そうだ。我々は強くならなければならない」

 

「面倒ごとに巻き込まれるから、ですね」

 

「ああ」

 

精霊憑き。

カードの精霊に愛される存在。

 

普通の人にはない特別な力を持つことの総称。

逆に力を悪用しようとされることも多い。

 

「特に最近の行方不明続出は喫緊の課題だ。私とのファイトにも勝った君に頼みたいのは」

 

「コーチングですか」

 

「そうだ」

 

「んー......」

 

 コーチング、ねぇ。

 

「向いてないっすよ俺」

 

「謙遜はやめたまえ」

 

「違うんですよ。そもそもプレイングについてはかなり歪んでる自覚はありますんで、えっと」

 

 どう説明したものかと少し考えたけど、あまりいい説明が思いつかない。だったら見せるほうが早いか。

 

「こないだのデッキの中身を見ればわかると思うんで広げますね」

 

「なに?」

 

 いつも持ち歩いているデッキケースを取り出し、まずライフデッキとメインデッキに分ける。

 

そしてまずは、ライフデッキの方を広げた。

 

「このデッキは基本カードが20枚。呪言は入れていません、というか、入れている余裕がないので入りません。理由は後で説明します。

 

メインデッキがこちらですね」

 

 <踊る死神、マカブル>3枚は当然だが、このデッキもスタンダードからだいぶ外れている。

 

「ハンデスが8枚。除去、妨害の合計4。残りスロットがすべてクリーチャー強化用カード。正直、頭がおかしな構築だと思っています」

 

「クリーチャーの合計は3種10枚......!? 少なすぎるだろう!」

 

「セオリーだと半分くらいはクリーチャーですからね。それも種類はかなり散らしますし」

 

 <家電機鬼>はクリーチャー主体デッキだから30枚がクリーチャーでもおかしくない。自分で組むならタイプにもよるが20枚前後になる。

 

「で、自分が教えるのに向かないっていうことの意味なんですが簡単です。

 このリストの勝率は2割切ってます」

 

「..............................は?」

 

「当然ながらビートダウンは受ける壁がないので厳しく、コントロールも<マカブル>に妨害か除去をもらうとほぼ負け。何よりマカブルを引き込まないと使う対象のいない強化カードはすべて無駄引き。

敗因トップは4T使えるカードを引かない事故死です」

 

 このデッキ、野良試合()勝率が限りなく低い。

 

「ただし闇のゲームだと勝率10割です。負けたことありません」

 

「それは随分と......歪だな」

 

「欲しいカード引けるんでそりゃあ勝てますよ」

 

「なに?」

 

「状況に応じて欲しいカードがあるじゃないですか。 相手のエースカードを破壊する除去が欲しいなら除去をドローできますし、エースカードが引ければ勝てる状況では、必ずエースカードが引けます。彼女だって、必ず初手で引けました。

 彼女が見えるようになってから、欲しいカードは自在に引けるようになりましたよ」

 

 引きたいと思ったカードが引けるだけじゃない。

 

 何故このカードが引けたのか盤上の情報と相手のデッキの傾向から逆算すれば、この状況に対する『相手の対抗策』すら透けて見えた。

 

引いたカードは必ず通るという確信すらあった。

なんせ、対策の対策も引けるのだから。

 

 この異能じみた引き運は、いちカードゲーマーの自分の手に余る代物だった。

 

「ファイターとしての自分ができることはあらゆる状況に対応できるカードをデッキに揃えておくこと。

 強化カードがテーマもバラバラでほぼ1枚差しなのは、種類と効果を散らす必要があったからです」

 

「......あらゆる状況に対応できるよう、いや、あらゆる状況で対処できるようにするために、か」

 

「デッキにないカードは引けませんからね」

 

 異能じみた引き運と、それに準じて歪めたデッキとプレイング。

 これがある程度身体に染み付いてしまった以上、他人にプレイングを教えるというのは少々難がある。

 

「......君の特異体質はわかった、だが、しかし」

 

「いやそれはさほど問題じゃなくて」

 

「さほど問題ではなくて?」

 

「欲しいカードだけ引いてたら面白くないじゃないですか。相手の手札が全部透けて見えるババ抜き面白いですか? 面白くもなんともない作業じゃないですか! そのためにLifeやってるわけじゃないんですよ」

 

最初の頃は本当にもう大変だった。

 

 こっちでも推しをしっかり引けたんだからウケウキでデッキを組み出場したショップ休日大会。

 

 望んだリストではなく、安い互換カードで揃えたカジュアル寄りのデッキを持ち込んだ。

 

 最初は顔合わせのつもりで。

 

 ゆくゆくは常連にもなるだろうから顔を名前を覚えてもらうことを最優先にと軽い気持ちで参加費を払った自分は、あっさりと全勝で優勝した。

 

 絶望的な盤面をひっくり返す全除去。

 欲しいと思った時に引ける妨害。

 押し込みに欲しいクリーチャー。

 1回戦から必ず初手にある切り札とハンデス。

 

 気持ち悪いくらい欲しいカードが引ける日だったと。

 

その日はなんとも思わなかった。

こんな日もあるだろう。

カードゲームには運が絡むのだから、と。

 

おかしくなったのは翌週から。

 

止まらない連戦連勝。

思い通りに引けるカード。

描く通りにコントロールできる盤面。

 

ゲームが自分の手を離れているかのような気味悪さ。

 

 通っていた店で大会が成立しなくなり始めたところでやっと気がついた。

 

何かがおかしい、って。

 

「だから──変なデッキを回して試すかって」

 

「うん?」

 

「ここまで欲しいカードを引けるんなら、普通は成立しないデッキだって成立させられるはずだと思ったんですよ。だからどこまでできるのか、どこをどうしたら気持ち悪い変な動きするかって検証したくなりません?」

 

 例えば<マカブル>を抜いてみたり、逆に<マカブル>以外を全部同型バニラカードで固めたら何を引くのか試したりもしました。

 ストレージのカード39枚を見ずに買って作った意味不明なジャンクデッキとかで対戦したら?

 パックを開封してそのままデッキにしてみたら?」

 

 この世界だとあまりリミテッド......パックを開封してそのまま遊ぶようなレギュレーションが定着していなかったので、それをやってもみた。

 

 この世界のパックは何故か中身が非公開。変なカードばっかり引いて変なゲームになったもんで闇鍋のようなデッキが完成。相手も自分も知らないカードばっかり引くもんだから揃って大爆笑しながらプレイしたっけ。

 

 なんでもないパックから<マカブル>2枚目が出た時は本当にびっくりしたけど、それはそれ。

 

「新弾が出て、その中のカードが自分好みのカードだったから張り切りすぎて踊り出した経験ありません?」

 

「秘宝に関連するカードが出たのなら目を通すようにしているが興奮して踊るほどでは無いな」

 

「普通の人は踊りませんけどね」

 

「自分で言っていてそれを言うのか?」

 

「だじゃら、自分のスタイルが普通と外れてすぎて、教えるのには向いていないんです」

 

 自分のスタイルは所謂ガチ勢じゃない。

 大規模大会で結果を残すことや、店舗大会3-0を目指してデッキを握るタイプじゃないってこと。

 

 新弾が出るたびにカードリストをひっくり返しこんなデッキがあったら面白そうなコンボや動きをデッキにしてみようととりあえず組んでみるようなタイプ。

 

 勝ったら勿論嬉しいし、負けたら悔しい。

 けど、勝つことにそこまでこだわりはない。

 

「卓につけば勝つために戦いますが、勝つためのデッキを組んでないですからね自分。ライフデッキ20枚すべて土地が説明しやすい例ですよ」

 

自分のモチベーションはコンボを決めたかどうかだ。

 

 「本来なら、ライフデッキに呪言カードはセオリー分の枚数刺すべきです。

 特にライフ消費の激しいこのデッキにライフ回復を兼ねる<焼畑>あたりはマストかもしれません。

 

 どれを何枚入れるか試行錯誤は必要ですがここまで極端な構築にする必要はないですし、メインデッキももう少し除去やシナジーのあるテーマを組み合わせた方が総合的な勝率は上がるでしょう。

 

 ですが、自分はこのリストが完成系だと思っています。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

強化カード10枚では一撃必殺の安定性が下がる。

 

こっちの大会のほとんどは一本先取。

対策カードが飛んでこないのなら、たとえ事故率があがろうが、勝率が下がろうが初手のぶん周り最大値を極限まで追求するべきだ。

 

そっちの方が、楽しいから。

相手が驚いて、笑うのが好きだから。

 

「カードゲームは遊びだから、自分はどうしても真剣になれんのですよ。

 例えそれが命懸けのゲームでも、ゲームなら楽しくやらないと。

 気質的に真剣な勉強会ってのは向かんのですよ。

だから、コーチングの話は断らせてください」

 

 一息に喋ってから、グラスに口をつけた。

 ほんの少しだけコーヒーの香りがする冷たい水を飲み干し、西芝さんの返事を待つ。

 

「わかった、是非コーチングを頼みたい」

 

「分かってくれたのなら、え、なんて?」

 

「基本的なルールはわかっているんだろう。それに、デッキの組み方や、ごく一般的なセオリーも。ならば教えるのに問題はあるまい」

 

「いや聞いてました? 自分は変なデッキばっかり組んで、勝ちに貪欲じゃないんですよ?」

 

「そもそもルールも詳しく知らないような人もいるんだ。初心者に教えるくらいなら出来るだろう?」

 

「それ早く言ってくださいますぅ?」

 

 

 

 

 

 

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