「ティーチングで呼び出されたわけですけど本当にここであってます?」
「ああ」
「小学校ですよ? それも仕事終わりでも間に合う夜遅くのこんな時間」
教室の明かりもほとんどない小学校の前に、どういったわけか呼び出された。
自分が通っていたわけでも無い、まったく縁もゆかりもない小学校に。
「せっかくの金曜日の仕事終わりなのにひどいじゃないですか!」
しかも金曜日に!
いつも行ってる店の定例交流会の日に!
「予定がない日はいつでも構わないと言ったのは君だろう」
「口が災いの元!」
そんなこと言った。ちゃんと記憶にある。
「ぐぅ、男に二言はありません。ティーチングの心得くらいはありますし基本的なルールや流れくらいは教えてあげられます。
が、こんな時間だとあまり教えられませんよ。1時間くらいの軽いものになりますが、それでもいいんですか?」
「君を休日に呼び出したら変な格好するだろう」
「変とはなんですか!? 愛の形ですよ!」
「変な影響を与えられると困ると言っている」
「可愛い格好してることの何が悪影響だって言うんです」
「それ以外すべて」
「流石に凹みますよ!」
「簡単に凹むたちではないだろう」
「ぐぬぬ......」
流石一流企業のエリート様、いちいち言葉が強いし的確だ! 辛い!
「そろそろ時間だ、入るぞ」
「おっ。大人になって夜の小学校に入るのはちょっと興奮しま......なんで不審者見るような目で!」
「いや、不審者の発想だろう」
「学校の怪談とかそういう意味ではやましい気なんてさらさらありませんってば!」
なんだかどんどん誤解されているような気がする。
そのまま西芝さんについて校舎をぐるりと回り込むと体育館らしき大きな建物の前についた。中は電気はついているが、小学生くらいのカバンを背負った子供が鉄扉から数名ほど出てきていた。
「コーチ、ありがとうございました」
「気をつけて帰ってね」
「ほむら」
「あ、おじさん」
その中の1人、特に目立つ赤い髪の女の子が振り向く。
赤い目に青い瞳、堀のはっきりした目鼻立ちと日本人離れした目を引く容姿に頭ひとつ抜けて大きな体格。
「娘さん全然似てないっすね」
正に日本人らしい西芝さんとは似ても似つかない。赤の他人と言われた方が納得できるくらいだ。
「ほむら。今朝話した、Lifeを教えてくれるお兄さんだ」
「はじめまして。竜星 ほむらです」
「須原お兄さんだよ、よろしく」
礼儀正しく頭を下げてくれるのにあわせてこちらも丁寧に挨拶を返した。
しかし苗字も違うとなると本当に赤の他人かと疑いたくもなるけど......なんとなしに予想はつく。
精霊関連の厄介ごとにちがいない、くらい。
「でティーチングってここでやるんです?」
「私の家でだ。話は車内で続きをしよう。乗りたまえ」
「お、話題の電気自動車ですか」
「自社製品の使用感も分からなければ物を売ることもできんよ」
鍵のボタンを押した途端に無人で目の前まで動いてピッタリと止まり、扉まで開けてくれた車に驚きながつつも車に乗り込んだ。
「あー、ところでほむらちゃん」
「なんですか」
「Lifeは好き?」
「あんまり好きじゃないです」
「西芝さん!? こんな子にティーチングしろって無茶ですよ!」
興味がなければ覚えられるものも頭に入らない。
ただでさえ複雑で直感的じゃないルールも多少はあるってのに、こんな様子じゃあ。
けれど、ハンドルを握る西芝さんは気に留めていないようだった。まったく問題がないと言わんばかり。
「まず基本的なルールを教えてやれればそれでいいんだ。ゲームの始め方や、具体的な流れを」
「最初は大雑把にゲームの流れを把握するのは基本ですが、別に覚えたくない人に教えろってのはちょっと、おかしいですよ」
話してる間もどこ吹く風と言わんばかりに窓の外を見ているもほむらちゃん。
「こちらとて覚えてもらわなければならない事情がある」
のっぴきならない事情があるわけね。
カードゲームはただの遊び、なんだけどなぁ。
もっと肩肘張るのは後からでいいってのに。
◇◇◇
「デッキはあるんですか?」
「......これ」
「おっと。見てもいいかな」
「いいよ」
ではデッキを拝見。
子供に見合わないような年季の入った革張りのデッキケースを開け、カードをテーブルの上に広げる。
何枚かクリーチャーを見ればデッキは大体わかる。
「<
カジュアルゲーマーの自分でも知っている有名テーマだと少しだけ嬉しくなる。
<逆襲龍>は文字通り
相手がクリーチャーや秘宝、魔石を破壊した時、呪文を打ち消した時、手札を捨てられた時などなど。
相手が自分に対して何かをした時にアドバンテージを獲得したり、能力を発揮したりする共通点がある。
能力自体は発動すれば強力なものが多いのでハマれば強いが、誘発が相手依存なので扱いは難しい。
テーマ単体で組んでいるのなら上級者向けなデッキになりがちで、何かの混ぜ物だったり単体で採用されることが多いテーマだったはず。
有名なのは、手札から捨てられた時代わりに場に出てくる<アルマジェス>。対ハンデスの鉄板サイドカードとして何回か再録されている。
他にはテーマのフィニッシャーであり、高い耐性とサイズからコントロール系デッキに採用されることのある<ストライクバック・ドラグーン>は、おや?
「1枚足りないですね。それこそ<ストライクバック・ドラグーン>がないです。持ってないんですか?」
「......それが問題なんだ。ほむら、いいかい?」
「はい」
彼女がカバンから取り出した、ローダーに入った1枚のカード。
自分もショップで並んでいるのを見たことのある<ストライクバック・ドラグーン>のフルアート版。
きっとデッキの残り1枚がこのカードなんだろうけど、1枚だけ外しているのは妙だ。
「なにかデッキに入れられない理由でも?」
「パパのカードなの」
「パパの?」
「私の友人だ。あいつは<ストライクバック・ドラグーン>と仲が良かった」
「だったら本人に聞けばいいんじゃないですか?」
「交通事故で亡くなっている」
それは、なんと言えばいいか。
「そのデッキはアイツが使っていたものだ。遺言というわけじゃないが、娘のほむらに渡した方がいいだろうと思って渡したのだが、それが問題になった」
「......スーちゃんが悪いんじゃないの。スーちゃんは、パパとママを守れなかったことが悔しいだけなの」
「それが人を無闇に傷つけて良い理由にはならない。だからこそ、1枚だけデッキから外しローダーに隔離している。それでも、力の全てを防げるわけではない」
「この間、変な人に襲われたの。その時はスーちゃんとおじさんが助けてくれたけど」
ほむらちゃんは目を伏せる。
そこであったことは思い出したくはないんだろう。
「急に目の前が真っ暗になって、スーちゃんの声は聞こえるんだけど」
「なにも、できなくって」
「ずっと遠ざけていたんだ。精霊のいるカードは強力だが、それゆえに厄介ごとを引き込む。だから知らないままでいいとしたばかりに、怖い思いをさせてしまった」
「
確かに、精霊が日常生活に干渉して悪さしないかと聞かれると、ないとは言えない。
故に遠ざけたが最近の誘拐絡みの事件に巻き込まれて、その時はデッキを持っていなかったからこうなったと。
それだけ強力な精霊がそばにいればだいたい引いたカードを使うだけで勝つから、ゲームの始め方と大まかなルールさえ知っていれば問題ないと。
「......もったいないなぁ」
「なに?」
「ゲームは、楽しくないとさ」
広げていたデッキをまとめて山札にすると、テーブルの向こう側に置いた。
ライフデッキも軽くシャッフルしてメインデッキの隣に置いてから、今度は自分のデッキを取り出した。
「ほむらちゃん、お兄さんと楽しく遊ぼうか。座って?」
メインデッキを入念にシャッフルしながら、卓に着くよう促す。
「習うより慣れろってね。早速やってみよう!
このゲーム、
まず初めに覚えておくことは......ゲームは、楽しくやること!
最初はわからないことだったり、難しいことばっかりで楽しくないかもしれないけど、どこかに楽しかったこと。嬉しかったことを見つけられたら、お兄さんはすごく嬉しい」
「わかった」
「じゃあ、次に覚えること。
ほむらちゃんとお兄さんは今からファイターだ!」
「ファイター?」
「戦うもの、ってこと。自分の命を燃やして相手を打ち倒す! っていうのがこのゲームだからね」
小っ恥ずかしいようなセリフだけど、板につくほど言ったからスラスラと言える。やっててよかったカドショのバイト経験。
「こっちがライフデッキ、文字通りにこれが僕たちの命そのもの、これが20枚。
こっちのメインデッキ。これは、ほむらちゃんと一緒に戦ってくれる仲間たちや、ほむらちゃんや仲間を助けてくれる魔法カードなんかが入ってるよ。
命を燃やした力を託すことで一緒に戦ってくれるんだ。
これが40枚以上いる。けど、今のままじゃちょっと、枚数が足りないんだ。
だから<ストライクバック・ドラグーン>も入れて、デッキをシャッフル、じゃないか、混ぜてくれる?」
「その、えっと、おじさん。いいの?」
「......大丈夫か?」
「大丈夫任せてくださいな。
ほむらちゃんはお兄さんみたいにデッキを混ぜるのは難しいだろうから、テーブルにこうやって何枚かの束に分けてからまとめるのを何回かやるといいよ」
西芝さんは少しだけ迷うそぶりを見せたけど、ローダーから<ストライクバック・ドラグーン>を取り出してデッキの上に置いた。
「おじさん?」
「お兄さんに任せればいい」
「わかった」
「終わったら、お互いのデッキも軽くだけシャッフルするのがマナーかな。今回はやらないから、そのまま山札は2つとも手元に置いて。
始める時に、こっちの山札から5枚を引いて。
これが手札ね。
そして少ない方の、ライフデッキだね。ここから2枚引いてゲームを始めるよ」
「わかった」
「もちろん、自分の命の代わりになるライフデッキが無くなった方が負けだよ。
説明しながらだから、こっちが先行をもらおうかな。
レディフェイズ、アップキープフェイズ。ドローフェイズは先行だからなし、と」
1T目から動けるけど、ゆっくりやるならパスするべきだね。
「では、土地をセット。コレは1ターンにつき一回できる。他はできることないから、ターンエンド。
じゃあ、ほむらちゃんのターンだ」
「えっと、レディフェイズ、アップキープフェイズ、ドローフェイズ?」
「じゃあ、多い方の山札から1枚引いて」
「一枚引いて、えっと、土地をセット」
「いいね! じゃあ、1コストの使えるカードはあるかな? 数字が右上に書いてあるんだけど」
「ない」
「じゃあ、ターンエンドだね」
「ターンエンド」
「じゃあ次はこっちの番だ。
レディフェイズ、アップキープフェイズ、ドローフェイズ。カードを1枚引いて、ライフデッキからも1枚引くよ」
次のカードは......ねえマカブル。コレ最適解で動かすとコテンパンにできちゃうんだけど? なんで真顔なのさ!
「んんっ。では<死線の案内役>をプレイ!
2コストだから、土地を2枚レスト、こう横に倒すよ。
じゃあ、場に出て能力を発動するね。
これが場に出た時、ライフデッキから1枚を墓地に置いて、メインデッキから1枚引くよ。いいかな?」
「わかった」
「じゃあ、1枚ライフデッキから墓地へ置いて、メインデッキから1枚引いて、ターンエンド!」
「ほむらのターン。レディ、アップキープ、ドロー。ライフデッキからドロー。土地をセット」
「これで2コストまでのカードが使えるようになったね。なにか、使えそうなカードがあるかな?」
「使えるカード。2コスト<竜の案内役>を使う」
「イイね! クリーチャーの場合だから、使うじゃなくて召喚する、かな?」
「<竜の案内役>を召喚?」
「そうそうそう!」
「他には何も使えないから、ターンエンド」
おおう、流し見だからわかんなかったけどしっかり入ってるね。
ドラゴン系デッキの必須枠こと<竜の案内役>。
ドラゴンのコストを軽くする定番クリーチャーで、似たような名前のや効果を持つクリーチャーも多いがその元祖。
<
「さてと。ターンをもらいまして、レディアップキープドロー、ドロー」
妨害! 随分と欲しいカードを引かせてくれるね。
しかしながら今回はティーチング故、手加減していかないと。
「魔石<死は演目を止められず>をセット。
魔石カードは土地をおく代わりにセットできるカードなんだ。
コストは出せない代わりにその分強力な効果を持っていることが多いよ。そのデッキにも確か入ってたかな」
「......」
反応が薄いとやりがいがないね。
けど、このゲームが面白くなってくるのはここから。
「戦闘フェイズに入る。
今回はクリーチャーがいるから攻撃を宣言するよ。
<死線の案内役>でアタック。パワーは2、タフネスは1だ。
ほむらちゃんの場にも<竜の案内役>がいるから、ブロックを宣言......攻撃から守ってもらうこともできる。
その代わりに<竜の案内役>はやられちゃうね」
「ブロックしない」
「なら、2点のダメージを受けてもらうよ。ライフデッキの上から2枚を、横にしてコストゾーンにおこう」
見えたカードは2枚とも土地か。これでライフが15点。使えるコストが土地を引けば5。
「土地を置いて、ターンエンド」
「ほむらのターン。ステイ、アップキープ、ドロー」
ドローしたカードを見た彼女は少し考えた後、クリーチャーを場に出す。
「<頑竜サンドバッカー>を召喚。デッキの上から4枚を見て、ドラゴンを1枚選んで、それ以外を墓地に置く。選んだカードは相手に見せてから、デッキの上に」
「オッケー通した! 続けて!」
「ほむらは......4枚とも墓地に置く」
ドラゴンは2枚見えてるけど加えない。
ということは手札にあるカードは<竜の復讐>か。
墓地のドラゴン2枚を一時的に蘇らせる強力スペル。条件として自軍クリーチャーの破壊されたターンしか使えないけど、
「通常魔法<竜爪相打つ>......を唱える?」
「魔法は唱えるだね!」
「効果は、お互いにクリーチャー1体を選んで破壊する。ほむらは<死線の案内役>」
「じゃあ<竜の案内役>を選んで破壊するよ」
お互いに案内役が墓地へ。
これで条件を満たした、ってことは。
「<竜の復讐>を唱える。墓地から2体のドラゴンを場に戻す」
「対応は......ないね」
「<リベンジャー・ドラゴン>、<デスマッチメーカー・ドラグーン>を召喚。それぞれ効果が発動、する?」
「<デスマッチメーカー>は相手の場にクリーチャーがいないとダメだね」
「わかった。<竜の復讐>の効果でそっこう? がつく、けど、なに?」
「速攻はすぐに攻撃できるよって能力だね。どうする?」
「こうげきする。まず、<リベンジャー・ドラゴン>から」
「ブロックはできないね」
「4点ダメージ」
Lifeは相手を削ると使えるコストが増える都合、倒しきれない大ダメージは忌避されがちなんだけどなかなか強気に攻めてくるね。
「<デスマッチメーカー・ドラグーン>でこうげき」
「おっと、その前に今捲れた呪言<足元注意>を使うよ。これは、ライフデッキに入れられるカードで、ダメージで表になったら使えるカードなんだ。もちろん相手のターンでも使えるからね、使わせてもらうよ。効果で<ドラグーン>をレスト、横に寝かせるから攻撃はできない」
「......何もできないから、ターンエンド。<竜の復讐>の効果で、<リベンジャー・ドラゴン><デスマッチメーカー・ドラグーン>が破壊される」
「随分ルールも飲み込めてきたね、いいじゃんいいじゃん」
カードの文章をよく読んで処理できている。難しい文字もあるのにサクサク処理できるのは頭がいい証拠じゃん。
「ターンを貰うね」
とはいえ......これで自分のライフが13点を下回った。
「さあてほむらちゃん、踊ろうか。
ステイ、アップキープ、ドロー、そしてドロー!」
<死線>デッキの本領はここからよ!