ムルタ・アズラエルと宇宙世紀   作:モス

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一話

 

 

 

 宇宙世紀0079。

 サイド3はジオン公国を僭称し、地球連邦政府に対し、奇襲にも等しい宣戦布告を宣言。同時に発令された『コロニー落とし』なる非情な戦略により、地球は大規模な破壊行為を受け、甚大な被害を被った───。

 

 

 

 

「だからッ!ジオン公国に対する宥和政策など以ての外なのです!連中は一度付け入る隙があると見れば、必ずゴミムシのように集ってくる、何故それがお分かりにならない!?」

 

 地球連邦政府において、多くの政策を打ち出し資金面にも多大な貢献をしている、まさに最大の政治家と言える男がいた。

 

 ブルーコスモスの盟主であり、今なお保守的で和平の道を歩もうとする連邦閣僚に対する苛立ちを隠せないその男は、若干二十五才にしてアズラエル家の当主を務め、コロニー事業や農林水産業を基盤とした経済戦略を主体に軍需産業を推し進めている。

 連邦政府の所有する連邦軍に配備された兵器群の大半はブルーコスモス傘下の企業によって製造されていると言っても過言ではない程に、非常に強い影響力を持っていた。

 

 その男こそムルタ・アズラエルであり、今まさに連邦宇宙軍ルウム方面軍総司令官であるヨハン・イブラヒム・レビル将軍のMIA(戦闘中行方不明)、つまり事実上の戦死を受けて和平交渉に乗り出さんとする連邦政府閣僚諸氏の手網を握らんとしていた。

 

「お言葉であるが、ジオンのモビルスーツなる新型兵器は、我が軍のどの兵器をも凌駕する能力を発揮し、ミノフスキー影響下においては特にそれが顕著であると立証されてしまっている」

 

「ならばこそ、敗北を喫そうが一度ジオンの出鼻を挫かない事には連中を更に調子に乗らせるばかり。それどころか、ヤツらにとっては強大な連邦を交渉の席に着かせたという事実を与えることになる。どうして分からないのです!!」

 

 机を叩くほどに熱を持ち、息を巻いて反論を続けるアズラエルに対し、閣僚各位の意見は冷たいものであった。

 

 連邦政府は民主制を採用しており、すなわち閣僚とは民意によって選ばれた存在。戦わずして戦争を終わらせられなければ、政治家として最高位に当たるポストから外されるだろう事を懸念しての保守的発言であることは、アズラエルには容易に見抜けた。

 

「そもそもジオンが何故公国として立ち上がったか、皆々様であればお解りの筈だと思いますが、ジオン・ズム・ダイクンの治世であればジオン公国は連邦とは決して事を構える姿勢は見せなかったはずです。彼の掲げた理想とは、ニュータイプとされる新人類による人類全体の昇華であり、断じてそこで各サイドや連邦に対する強行的な政策は取らなかったでしょう。しかしです!」

 

 一枚の写真を円卓のように飾られたテーブルの上に叩きつける。そこには、ジオン・ズム・ダイクンを蹴落とし、今のジオン公国を牛耳る独裁者の顔があった。

 

「このザビ家の男はそうではないのです!一度連邦を降したならば、人類に待つのはギレン・ザビによる人類種の淘汰!」

 

 ムルタ・アズラエルの、一見して急進派的発言に眉間の皺を深める閣僚は多い。彼の発言が連邦を更なる危険に追い落とす可能性も孕んでいると考える者もいるものの、その中には全くもってその通り、それが正しいのだろうと考える者も存在する。

 

 今、議会はアズラエルによって支配されようとしていた。

 

「お分かりになるはずです。皆さんならば、このギレン・ザビが人類に如何なる爆弾を落とすのかが」

 

 対ジオン戦線における戦況は、連邦にとってかなり悪い方向に推移していると言わざるを得ない。

 特に、連邦軍の命運の大半を決めることとなったであろう一週間戦争及び後日の大規模艦隊戦…俗に言うルウム戦役においては、総大将となるレビル将軍のMIAによる大敗を喫し、世論としてはジオンとの宥和ないし終戦を望む声も多い。

 

 しかし、とアズラエルは待ったの一手をかける。

 

「連邦軍の艦隊は既に六割が失われています。本来であればこれは壊滅的被害、すぐにでも戦闘行為を停止するほどの大損害と言えます。しかしながら、宙戦に置いて鹵獲したジオン軍MS、通称ザクは既にウチの傘下企業でリバースエンジニアリングを開始している。モビルスーツに対するカウンターウェポンを連邦が用意できると私が言えば、各位はどうお思いになりますか?」

 

「…反撃が出来るのか?」

 

「敢えて、確約は出来ないと言いましょう。しかし、それは皆様が協力をしてくださらなければの話です」

 

 拳を振るい熱弁するアズラエル。この場を支配しているアズラエルの言葉に僅かながら揺れ動く閣僚の表情に、もうすぐ言質は取れると油断を許さない。追い討ちをかけてこそと続きを話す。

 

「いいですか、半年です。半年持ち堪えたならば、連邦は人類を滅ぼしかねない巨悪を必ずや打ち砕けます。もちろんその半年の間に、我々連邦もまた、対MS兵器を用いた新戦略を打ち出せましょう」

 

 そこで熱に浮かされてアズラエル派につく者と、半年という言葉に冷静さを取り戻す者とで、議会は半々に別れ、それは深い議論を呼んだ。

 

「皆様が私の言葉を無視し、ギレン・ザビに対し宥和政策を取るというのならば、私はそれを否定しません。その後に何が待とうが皆様の責任でありますから。しかしながら、私はこれだけは申し上げておきましょう。()()()()()()()()()()()()()()()と」

 

 議会は静まり返り、恐らくこの場で最もジオンに対抗できる財閥を抱えているだろうブルーコスモスとその当主ムルタの言葉に、沈黙以上に脳内で切迫した思考が各員の頭に熱を産んでいた。

 

 術中に嵌ったことに、まだ気付いていない様子だと見たアズラエルは内心で勝利を確信した。

 連邦軍と、何よりブルーコスモスの。

 

 

 

 

 半年後。

 

 七月も半ばに差し掛かった頃、ザクのリバースエンジニアリングに伴うモビルスーツの解析と開発ノウハウ確保の両方を成し遂げたブルーコスモスは、解析した総てを連邦軍に明け渡したことで、盟主アズラエルの宣言通りに連邦はある作戦を実行する運びとなった。

 

 秘密裏に進められた連邦軍新型モビルスーツ開発計画。

 原型としては既に開戦より一年ほども前からRX計画と称されたモビルスーツの開発計画が存在していたが、機体剛性や姿勢制御プログラミング、火器管制オペレーティング・システム(OS)などの開発状況の遅れから計画そのものは遅々として進んでいなかった。

 

 しかしながら連邦軍に属するテム・レイ技術中尉を主導とする『V作戦』にはブルーコスモスから多額の融資があり、その協力もあってRX計画はMS量産計画ではなく試作開発計画としてV作戦に統合され、発令期間は一ヶ月も前倒しされていた。

 

 

 

『私です』

 

 多額の資金を得たテム・レイのV作戦は恙無く推移していた。しかしながらアズラエルを主としてほとんどの連邦閣僚からは催促されるほどに、連邦軍の対ジオン戦線は逼迫していた。

 

 その日も忙しかったというのにひっきりなしにかかってくる電話につい苛立ちながら、テム・レイ主任は信頼性の高い有線電話の受話器を引っ張った。

 

「ええ、アズラエルさん。また例の件についてですか」

 

『何度もすみません。V作戦はどうなってます?』

 

「週に一度送付している資料では不十分でしたか?」

 

『私は構わないのですが、ジオンが怖くて仕方ない閣僚各位は、君の手がけるプロトタイプガンダムが希望の象徴だと扱いたくって仕方がないのですよ』

 

「あれを完成品と周知させているわけでもありませんでしょう。V作戦は単機の高性能機を英雄に仕立て上げるような単調なものではありません。それはムルタ氏もご存知のはずです」

 

 アズラエルはテム・レイより一回り以上は若いが、それでも財閥全てを纏めあげるほどの辣腕と賢明さを併せ持っている。

 テムの送ったファイルに関しては全て目を通した上で閣僚に報告を上げているし、それでも尚安心できない閣僚から催促するよう通達されているということである。

 

 早い話が板挟みの憂き目に遭っており、テムもまた上層部からの煽りを受けて開発チームに無理を強いている状態なのであった。

 

『催促した、という事実だけでも作らなくてはいけないので。申し訳ないが、上の馬鹿共に少し付き合っていただきたい』

 

 双方の受話器からため息が響いた。

 

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