ムルタ・アズラエルと宇宙世紀   作:モス

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四話

 

 

 

 

 当初予定していた形とは違うものの、図らずしもガンダムというハードウェアの強力さを証明した事で、連邦政府議会のアズラエルへ対する──正確にはV作戦へ対する──認識は、連邦軍の劣勢を覆しうるという策であるとされ、これはアズラエルにとって理想に近い形となった。

 

 V作戦が通れば、次はV作戦を元にした量産MS計画。それもただモビルスーツを量産するだけでなく、機体特性に合わせたパイロット養成施設も作ることができるようになる。

 アズラエルにとって、対ジオン構想とは全てV作戦が基礎となっていた。

 

 開戦時の一週間戦争での惨憺たる戦績から、既存の宙空戦闘機は既にザクに対して力不足過ぎるという判断がアズラエルの脳内で下されていた。

 地上においてはセイバーフィッシュのような制空戦闘機であれば機動性・攻撃性能から有用であると証明されてはいるが、モビルスーツのOSが育ってくれば所詮は直線的な挙動しか取れない戦闘機はすぐに御役御免となるだろう。

 

 であれば、同じ規格で同等以上の火力を持つしかない。幸いにして、ブルーコスモスはそういった兵器開発の環境を整える土台も資金も潤沢にある。あとは、これを差し向ける先を間違えないだけだ。

 

(だが、議会のジジイども、未だにジオンに対して臆病でいるんだよなぁ)

 

 確かに脅威となる相手には臆病に越したことはない。しかし連邦とジオンの国力の差は本来、比べるべくもなく連邦が有利なのである。今の連邦高官はモビルスーツという脅威に必要以上に及び腰となっているだけであり、その一時の恐怖に屈服しようとさえしていたのだ。

 

 連邦のイデオロギーは絶対民主主義。言わば民意によって選ばれた議員の過半数が停戦に合意すれば、それだけで連邦の対ジオン戦線は終結を迎えてしまうのだ。

 

 無論、前線の兵士や民間人にとっては命の危険が過ぎ去って万々歳だろう。しかしながら長期的な目で見れば、そんなものは仮初の平和を享受するにすぎないのである。

 

 アズラエルは自らが天才であるという自負がある。商才に富み、機会は決して逃さず、必要とあれは自ら人心掌握のために動きもする。

 手札の多さがそのまま組織の利潤に繋がるということを理解しており、その為なら手間すら惜しまない。

 

 だが、ジオンをのさばらせておいてはいけない。少なくとも、ザビ家の長兄と長女は死んでもらう必要がある。

 

 現在の国家元首であるギレン・ザビは、ジオン国民こそが優れた人種である、という極端な選民思想を掲げている。

 それはつまり、選ばれた少数の人民による大多数の征服を意味し、そして征服された人間に対するギレンの慈悲は、恐らく無い。

 

 多少考えればわかりそうなものを、目先の安易な道に走ろうとするからその先にある落とし穴を見落とすのである。

 アズラエルは、そうした危険を遠回しに伝えて議会の手網を引っ張ることでしか、今の政治に干渉できない。

 

 民主政権を敷く連邦において、アズラエルの立場はブルーコスモスという一大グループの盟主というものでしかなく、今政治に割り込めているのは、連邦軍には勝ちの目があるという夢を見せているからに過ぎなかった。

 

 尤も、アズラエル自身にはそれを夢で終わらせるつもりは毛頭ない。なぜなら、多少歪ではあれどV作戦は既に起動しているのだから。

 

 

 

 

 

 

 しかしながら、逐一の報告を聞き届ける以上にやるべき事がなかった。正確には、やるべき事に手をつける段階にまだ至っていない。

 

 報告書に目を通しつつも、その脇でまだ燻らせている計画は、始動させればV作戦のようにジオンを追い返す程度の策ではある。しかしアズラエルが求めているのは完膚無きまでの勝利であり、これだけではまだそこまで行けないというのが、計画全体の見直しの際に露呈した問題点である。

 

 GM(ガンダムモデル)

 まだ計画段階の量産型MSの雛形であり、型番さえ定まっていないものだ。強いて今名付けるとするならば『L-e GM』といったところだろう。

 

 ローエンドガンダムモデルの頭文字を取ったそれは、先の戦闘で得られた貴重なビーム兵装のデータを元に、ビームライフルを標準搭載したものを量産するプランを前提としている。

 V作戦で得たデータの強力さがそのまま、GMの強さに直結するというわけである。

 

 既にガンダムの生みの親たるテム・レイ技術中尉経由でレーザー通信を用いて転送されてきた対MS・対艦戦闘データは、予想以上の発展性を見せている。

 なにより、ローエンドガンダムという名を与えたプランではあるが、原型機をガンダムだけに限定する必要はないのだ。砲戦能力が有効であればガンタンクを、全体的な支援能力が認められればガンキャノンを、それぞれそれらの一部機能をLGMに結びつけてもいい。

 

 コストが嵩むならば一部をオミットしてもお釣りが来るほど、MS用携行ビーム兵器というのは強力だと証明された。

 

 何より、射撃戦のみならず白兵戦闘のデータを得られたのも大きい。初の対MS格闘戦をガンダムの民間人パイロットは熟したということである。

 ザクを一撃で破壊するほどのビームライフルと、同じく真っ二つに両断してしまえるサーベル。これらは、これからのGMの標準兵装に定めたい装備だった。

 

 早速、それらを書類に(したた)める。これらを来たるべき時に連邦議会の場において提出し、ジオンを確実に叩くための説得力ある決定打とするために。

 

 それと同時に、ホワイトベースのブライト少尉からの物資補給や避難民受け入れの協議のため、最寄りである唯一の連邦軍宇宙基地・ルナツー連絡をかける。

 最も、協議の体を取ってはいるがホワイトベースの扱いはアズラエルにとって最重要かつ最優先庇護対象。避難民受け入れ、物資補給共々、頭を縦に振らせる以外の選択肢はなかった。

 

「───もしもし。こちらはブルーコスモス代表のムルタ・アズラエルだ。現在そちらに向かっているV作戦機収容艦の扱いにつき、基地司令官と話をしたい。繋げてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 多くの難民でごった返すホワイトベース。大量に回収した食料を均等に分けることで、どうにか不満が爆発する一歩手前までは抑え込めているが、料理長のタムラ中尉曰く、このままの食糧配分ではすぐに避難民に食べさせる分を切り詰めることになるという。

 

 無論そんな事をすれば不満の爆発どころか、ホワイトベースクルーに対する暴力さえ許しかねない事態である。

 

 ブライトは対外的には何度も襲い来る赤い彗星とムサイ、対内的にはそうした非戦闘員を抱えている事から来る問題に、頭を痛めていた。

 

 そんなブライト・ノアにある救いと言えば、自分よりもずっと歳上の年長者の存在がある事だった。

 テム・レイ技術中尉は避難民よりもガンダムやガンキャノンといったV作戦系列機の事を優先して考える傾向にあるが、それでも年長者としての責務のようなものを感じてもいるのだろう。

 ブライトが艦の方針などの決定を求めてきた時には、最終的な決定権は艦長代理であるブライトにある事を伝えながらも冷静な視点からアドバイスを与えた。

 

 しかしそれでも、食糧問題は非常に深刻なものであり、タムラ中尉もまた、食糧の枯渇は士気に直結し、やがて死活問題に発展すると進言していた。ブライトに今出来ることは、そんな事は俺の知ったことかと言えない状況を恨みながら、最速で支援が受けられるであろうルナツーの連邦宇宙軍基地を目指すことだけだった。

 

 だが、そう上手くは行かないのが戦争なのだろう。

 

 

「レーダーに熱源!」

 

 ブリッジクルーのジョブ・ジョンが叫んだ。この三日間で四度は襲撃をかけられている。しかも、そのうち二度は補給をフルで済ませたのであろう赤い彗星のザク小隊である。

 

「またか、今度は何が来てる!?」

 

「目視圏内に入りました、映像出ます!」

 

 ブリッジのモニターに艦橋カメラが捉えた映像がモニタリングされる。流石にシャアのものではないようだが、ザクはザクだ。

 

「ザクです!二個小隊が接近!」

 

 そんな事は見ればわかる。悪態を隠しながらブライトはホワイトベースクルー全員に指示を下した。

 

「各員に通達!ザク六機が接近中!動けるものは対空銃座につけ!ガンダム、ガンキャノン、ガンタンクは順次発進せよ!」

 

 直接戦いの場に立てればどれだけ気が楽か。自ら手を出せず全責任を負う立場というのも、実戦に出る前は憧れだったが、今となっては理解とともに憧れから最も離れた存在となってしまった。

 

 それから僅かに三分もしないうちに、ガンダムが発進する。現状に対する強い不満を、戦いにぶつけることでしか解消できないのはブライトには痛いほど理解できている。

 しかしテムは、アムロがその口だと思いたくはなかった。自分がガンダムを手懸けた最たる理由が、自分の息子そのものによって否定されていると同義だったからだ。

 

 

 

 

 

「また来たな、ジオンのザク!」

 

 ビームライフルを向け、ザク小隊に向けて一発、撃ち込む。命中を期待したものではなく、至近弾を見せることで散らばらせ、連携を取れないように各個撃破することが目的であった。

 

『アムロ、無理しないでくれよ』

 

 後方からボップミサイルをばら撒いてガンダムを援護する、ハヤトのガンタンク。その後方から戦闘機が一機、ガンダムの直援につくべく高速で飛行していた。

 

『単機で出るなよ、アムロ!』

 

「わかってます、リュウさん。援護を頼みます!」

 

 ブライトとは畑違いの軍人であり、士官ではなく現場側の人間としてホワイトベースに配属されていたリュウ・ホセイ曹長である。

 リュウもまた、ムサイ二機による襲撃の折、赤いザクを短時間相手取って負傷していたが、戦闘員が少ない現状では、怪我を押して戦闘に赴くしかなかった。

 しかしながらリュウは、手を出し尽くしてやられるならいざ知らず、多少なりの怪我だけで自分より若い義勇兵に守ってもらいたいと思うほどヤワな男でもなかった。

 

 25ミリ機関砲がザク一機の胴体を捉えたが、右肩のショルダーシールドに跳弾ないし、無力化されてしまう。

 だが、それで気を惹きはしたらしい。単機突出するザクに対し、ビーム砲の狙撃が加えられた。

 

 それでザクは簡単に爆発した。熱核反応炉を用いた機動兵器ではあるが、臨界前にMSの機能停止を検知して核融合を停止し、機体内残留電力や推進剤への引火による爆発程度で済む。しかしそれでも、18メートル級の巨大兵器だ。爆発規模は並ではなく、近くに味方機がいれば巻き込んでしまいかねない威力である。

 

『アムロ、ハヤト、このままホワイトベースの射程まで引き込もうぜ。防空機銃で挟み込んでやろう』

 

「了解っ!」

 

 狙撃の主はカイであった。ガンキャノンの大型ビームライフルが、集束させたビームをザクに照射したのである。

 

 照射と言ってもそこは所詮、ミノフスキー粒子をごく加熱して放つ粒子砲。レーザー光線とは違って光の速度で動く訳ではなく、即着弾とはいかないが、それでもカイの狙撃の腕にはアムロも舌を巻いた。

 

 

 そのままザク小隊をホワイトベース防空範囲内に引き込み、戦場に出ていた味方機で一気呵成に叩き、ついでザクを運んできたであろうムサイに強襲をかけた。

 

 その役目は、対艦能力を持ったV作戦対応機の三機に委ねられている。

 

 作戦はこうだ。最も機動力に優れ、ルナチタニウム製シールドによって弾幕の強引な突破も可能なガンダムが撹乱。ガンキャノン、ガンタンクが射程限界ギリギリから砲撃し、混乱する敵艦を仕留める。

 逆にガンダムが追い詰められるようなことがあれば、後衛を務める二機で援護が行える。

 

 これもまた、連邦軍機のMSが初めて編み出した対艦戦術と言えた。

 

「うわあああーーっ!!」

 

 雄叫びともつかない鬨の声と共にアムロとガンダムが、シールドを構え小さなデブリ群や対空弾幕の間を突っ切っていく。

 

『うっ……撃て!近寄らせるな!!』

 

『だめだ、こっちに来る!!』

 

 二隻のムサイからの混線がアムロの耳をつくまで、そう時間はかからなかった。

 同時に、今自分達が戦っている相手はザクやムサイそのものではなく、それに乗る一人一人の人間だということを理解するのにも。

 

 

 

 

 

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