冒険者稼業にも限界はある 作:アライグマ
冒険者。
それはこの世界の謎を解き明かすもの。
未知なる大地を踏み進み、見知らぬ魔物に立ち向かい、古の遺跡やダンジョンに潜り込んでは金銀財宝を手にする可能性もあるものすごく夢のあるお仕事だ。
……
今や冒険者というのはそんな素晴らしい仕事じゃない。
もはや未知なる大地は存在せず、金銀財宝は全て掘り尽くされて後の祭り。
となれば冒険者ができることと言えば、危険な魔物に立ち向かい、魔物から戦果を勝ち取ってはその素材から財を得る。
夢はないのに命の危機はある。
そんな仕事だ。
幼くして冒険者に憧れていた俺は、11歳のある時に親と喧嘩して家を飛び出した。
身の程知らずながらもガッツだけはあった俺は、誰でも受け入れて誰でもなれる冒険者として、その身を削って働き出した。
襲い来る魔物を討ち、危険なダンジョンを駆け巡り、時には仲間と出会ってパーティを組んだり。
そんなこんなで気づけば16年が経過、現在27歳。
幼い頃に抱いていた夢のような光景はどこにもなく。
あるのは明日生き残れるのかという不安と、生活していけるのかという不安と、いつまで続けられるのかという将来の不安。
即ち、不安しかなかったのだ。
たまに栄華を掴んだりもしたが、それでもそんなものは儚いもので、二、三ヶ月も経てば世間からはすっかり忘れられる始末。
人の夢が儚いように、冒険者という職業もまた儚いものであった。
まぁ、そんなわけで。
幼い頃に抱いていた期待感も、ワクワク感も何もかもなくなってしまった今の俺には、冒険者という職業に固執する理由などなかった。
「冒険者、やめます」
固執する理由がないのであれば選ぶ選択肢は一つ。
辞める、これに限る。
俺の一言で食事中の仲間内に一瞬の沈黙。
と、同時に何言ってんだこいつ、と言うような不思議なものを見る目が俺に突き刺さる。
だがこれでも共に死線を潜り抜けてきた冒険者仲間。
状況判断は早いもので、俺の言ったことを理解したのか隣に座る軽鎧を着た銀髪の少女が口を開く。
「つまんない冗談だね……エル」
呆れたようなものでいう少女に続き、更に隣のローブに眼鏡をかけた黒髪の男がため息を一つ吐く。
「エルバート。急に何を言い出すんだ」
「冗談じゃねぇって、マジで辞めっから」
俺の言葉に目を見開く眼鏡の男。
銀髪の少女は理解できないような顔をして目が明らかに泳いでいる。
そこまで動揺することもないだろうに。
冒険者が突然辞めるなんて、そんな珍しいことでもない。
なんせ明日は我が身だからな。
なんて考えていると、反対側に座るとんがり帽子を被った金髪の少女が机を勢いよく叩いて立ち上がる。
「急過ぎるわよ! 突然辞めるなんて許さないわ!」
「急つってもなぁ……前々から辞めたいって話はしてたろ?」
「そ、それは、単なる愚痴かと……」
「愚痴って……まぁ、真面目に相談しなかったのは確かによくなかったな。でももう限界だ、昔のような夢を見ていた景色は、どこにもなかったしな……」
再度沈黙が流れる。
だがその沈黙を破ったのは金髪の少女であった。
少女は少し諦めたような表情をしている。
「第一、辞めるって言ったって、そう簡単には辞めさせてもらえないわよ」
「えっ」
「有名になり過ぎたのよ、私たち」
それは確かにそうだ。
だがその観点で言えば俺は特に問題ないと思う。
数多の死線を潜り抜け、いくつものダンジョンを攻略した。
国を救ったこともあるし、本当に様々な冒険を重ねてきた。
そうして俺達はこの大陸でも五本指と呼ばれるほどの高名な冒険者パーティになった。
なったが……それは別に俺のおかげではない。
どっちかって言うと仲間がほとんど頑張ってくれたおかげだ。
確かにそれなりに剣は使える、魔法もまぁまぁ使える。
でも仲間たちに比べれば飛び抜けて強いわけではない。
俺はただ後方と前方を行ったりきたりして、仲間たちに指示を出していただけ。
別名、余計なお節介とも言う。
「大丈夫だろ。俺そんな強くないし、二つ名聞いたことある? 『穴熊』だぜ、『穴熊』」
「いいじゃない『穴熊』、可愛いわよ」
「お前らと比べたらそりゃ可愛く見えるだろうぜ。『銀彗竜』のステラに、『魔聖』のグレイル。『星墜とし』のフランシア。俺、『穴熊』! 名前負けどころじゃねぇよ!? 他二人のあいつらも大層な名前持ってるしよぉ……」
俺は俯いてため息を一つ。
仲間たちの顔を見つつ、ここにいない二人の仲間の顔を思い出す。
確かにみんな良いやつだし、安定した生活も送れているだろう。明日死ぬかもしれないことを考えなければ、これほどいい職場は存在しないはずだ。
でも。
「まぁ、はっきり言ってしまえば、限界感じてんだ。冒険者稼業ってやつに」
皆それぞれ言葉を失いながらも、何処か納得したような表情をしている。
みんなわかっているんだ、いつまでこの仕事で生きてはいけないことを。
「それに追ってる夢の終着点も、わかんなくなっちまったしなぁ……」
「……そうか。お前の夢は未知を既知として解き明かすことだったな」
「ああ、誰も見たことのない世界、誰も知らない場所。そんなものはもうないだろ? ……まぁ、今生の別れってわけでもあるまいし、新大陸でも見つかったら戻って来るさ」
「もう二度と戻ってこないって……言ってるようなもの……」
確かにステラの言う通りかもしれない。
この世界にもはや未知なんてものは存在しない。
もはや俺たち冒険者というのは便利屋と何も変わらない。
「……ま、楽しかったぜ。お前らとの冒険は」
「…………私は、認めないわよ」
「フランシア。エルバートがこうなればどうにもならんことぐらい、お前もよく知っているだろう」
「わかってるわよ……! それでも……」
わりぃな、と言って立ち上がると、自身の食った分の金を机に置く。
フランシアの引き留める声が大きく響くが、俺にはもう戻る意思はなく後ろに向かって軽く手を振って店を出る。
外は冬の到来を知らせる風と、瞬く星々で照らされていた。
こうして俺は冒険者を廃業。
かつて『穴熊』と呼ばれた男は、ただの一般人として生きていくと決めたのだった。