RE Take of EVANGELION 外伝 作:Air1204
「シンジくん!?どうしたの!その頬!」
本部のブリーフィングルーム。僕の顔を見たミサトさんの慌てぶり、使徒が攻めてきていていると言う緊急事態にも関わらずにそちらには慌てふためく様子もなく、僕の怪我の方がミサトさんを動揺させるにいたった訳だ。それだけ僕を見てくれている、それだけで僕は嬉しかった。
「…この間の第3の使徒との戦いでクラスメイトの妹が怪我をしていたらしくて、それで3発。」
「3発も!?避けたりしなかったの!?」
「しませんでしたよ。2発は。最後の1発は警報に気を取られた僕の落ち度です。」
「…わかったわ。その状態でエヴァに乗れる?」
「…乗りますよ、こんな怪我なんて関係ありませんから。」
わなわなと震えて拳を握るミサトさん。余程の怒りを我慢しているのか耳まで赤く染っていた。
だが、そんな私情を挟むなと言わんばかりの冷たい目線をコチラに向けるのはリツコさんだった。
「…そういう話は後にしてくれないかしら?今、緊急事態だから。」
そう言って向けられた侮蔑の目にハッとしたミサトさんはバツの悪そうな表情を浮かべる。
まぁそうなるか…。兎に角、あれを倒す事だけを考えよう。話はそれからだ。
「訓練でも使ってたから知ってるとは思いますが…今回の作戦では、パレットライフルを標準装備として使徒と戦闘して貰います。」
「…あの武器使いづらくて嫌なんですよね…火力もイマイチ足りないし…。何よりATフィールドを中和しながらの距離でコアを狙えってったてってただの鉄の玉じゃどんなに頑張っても無理がありますよ。」
確かに前の世界でも有用な機会はいくらはかあった、それでも使えた場面は限られた。
パレットライフルの一斉掃射如きではダメージも与えることは出来ず、ATフィールドさえ破るのは困難を極めたからだ。
「…とはいえ、仮想使徒では幾らかは有用な場面もあったわよね?」
「仮想は仮想ですよ。普通に考えて使徒だってこちらに対応してくるのは目に見えてる。何よりもN2兵器であの程度のダメージなんだからこんな豆鉄砲意味無いですよ…。」
「…分かりました。本作戦も貴方の独断専行に任せます。万が一退却となったり死亡した際に…。」
「御託は良いよ。死なないし。退却も応じない、それならいいんですよね?赤木博士?」
正味、僕はこの人が嫌いだ。
あの馬鹿な父親の愛人でそれを信じて馬鹿なことをしたヒトだから。リツコさん等と呼んでやる気にも今はならない。
技術部は如何せん未知の的に対応しなければならない為に突拍子もない武器を作る時がある。
これもいい例だが…。
だったらソニックグレイヴだったりプログレッシブダガーとかあの辺を作ってもらった方が助かる。
もっと言うならマゴロックスの方が僕の好みだ。
…掛け合うか…。その線も視野に入れてこれからの戦い方は考えなきゃね…。
兎にも角。リツコさんに唆されてミサトさんが野暮な事を考える事だけは阻止しないと我が身がいくら滅びても足りないってものだ。
「…いいの?シンジくん。こちらからの手出しは出来なくなる。あなたを助けるのが遅れる事だって出てくるのよ?」
「…僕は負けませんよ。必ず使徒は全て僕の手で殲滅する。その約束だけは違えません。ミサトさん、貴方の手は汚させない。」
「…わかったわ。シンジくんが望むのならその白兵戦、作戦科として許可します。」
「ミサト!?正気なの!?」
「勿論、先の使徒との戦いで我々は歩けと命令していた、だが悠長に歩いていた場合、シンジくんは被弾していた、そう考えてもおかしくは無い。だったら現場に、判断を任せるのが筋だと思うの。」
普段なら私の命令は絶対と言わんばかりの女傑が珍しく僕の事を念頭に置いた言葉を並べてくれる。
苦虫を噛み潰したような表情のリツコさんははぁと大きな嘆息を付く。その後に僕とミサトさんを一瞥して。
「シンジくんが来る前だったら作戦部長として自分の意見は必ず通していたのに…。守るべきものがいれば考え方は変わる…か。他者を尊重できるようになったのね。」
「それは悪いけど昔っから。リツコ、貴方には感謝してるわ。」
「そう言うとことでは無いのだけれど…。まぁいいわ。シンジくん。それなら技術部として貴方に託すものがあります。とは言っても試作段階。刀身がいくらもってくれるかは分かりませんが…。」
半ば諦めかけたリツコさんが差し出した資料には『対使徒エヴァンゲリオン用ロングブレード試作Ⅱ仮称ビゼンオサフネ』と記されていた。
資料だけで見るなら…マゴロックスよりも上。言うなれエヴァと同等のサイズ。大太刀や野太刀を越える超弩級の太刀と言えばいいだろうか…。
兎に角前の世界では有り得ない形状をした武器のイラストが記されていた。
「今はここまで至って居ないのよ、だから試作。でも貴方、こういう武器の方が好みでしょう?だから研究データの為に本作戦で使ってもらいたいの。でも、何回振るったら折れるかは定かじゃないの。」
「十二分です。これならATフィールドも中和出来る。パレットライフルより実用的ですよ。」
「…ならお願いするわ。」
不服そうだなぁ…。でも一応この系統の武器を作ってくれていたことには感謝しておこう。労ってあげないと技術部が可哀想な思いをするからね。
「ありがとうございます。リツコさん。データの方は多く取れるように上手く使いますね?それと…。パレットライフルはきっとなんですけど、前衛がいてATフィールドの中和が出来て漸く後衛がその能力を発揮出来る、そういうものだと思っています。だから開発も研究もストップしないで下さい。きっと僕じゃない誰かがそれを上手く使いこなせると思うので。」
はっとしたようなリツコさん。いや…まぁ焦る気持ちはわかるけど…。でもまあ…気持ちはわからないでもないか…。
あのクソ髭にあれやこれやと準備を急がされてそういう初歩的なことも分からなくなっても仕方ない。
「ミサトさん、出ます。」
「うん、任せたわ。」
「シンジくんのエヴァ初号機への搭乗完了しました。A10神経の接続を開始…。!?シンクロ率72%!?」
「今更彼のシンクロ率には驚かされないわよ…。」
「そうですね、何より2週間足らずで2体目の使徒襲来。もう少し間隔あけて欲しいですよ。」
「女に嫌われるタイプね…。日本政府からの連絡は?」
「既に我先にと避難を始めてますよ。一般市民もその八割が退避しています。」
葛城ミサトはその言葉を信じない。シンジの言葉が本当ならば逃げ遅れた人が街中に残っていても不思議じゃなかったからだ。
これ以上死傷者が出たと少年が知ればきっと傷つくからだ。
それだけは避けなければならなかった。
表層的には強い少年のように思えても、一緒に暮らす上で何ら普通の少年と変わらない、母親や姉を慕うような純真無垢な少年でしかないのだ。その甘え方を知らずに育ってしまったが故か他者との距離感を掴めずにいるただの少年。だとミサトは思っていた。だからこそ…。
「市民の待避を確認後、周囲を探索して、出撃は郊外へ。」
時間を稼ぐべきだと感じたミサトは山側への出撃を命じた。
だがそれは悪手であったのだった…。
胸に掛けられたロザリオを握り締めながら少年の無事を祈る。
「システムオールグリーンです!いつでも行けます!!」
「よろしい。エヴァ初号機発進!」
その掛け声よろしく、エヴァ初号機は山間へと打ち出された。
シンジは見渡す、打ち出された山間部。そこは紛れもなくトウジとケンスケがシェルターを抜け出してこの戦いを覗こうとして巻き込まれた場所であった。
「ッ!?」
シンジは考えた。ぶん投げられてここに落ちて潰してしまう可能性があるよりは…。今ここで助けられた方が多少は気持ち的にも楽だと。
鳴り響く警戒アラート。その音は紛れもない近くに人がいるサイン。
だからこそくまなく探す、生体センサーを用いて。
「なんの警報!?」
「周囲に整体反応あり!これは…!シンジくんのクラスメイト!?」
「何故こんなところに…!?」
「…クラスメイト…ね。」
リツコは知っている、2-Aの少年少女は全て適格者だと。
北アメリカ支部で建造中の3、4号機はいずれ日本に輸送する予定だったからだ。
零号機は凍結、何よりもシンジが駆る初号機の戦闘に着いていけないと判断された為。綾波レイの零号機は永久欠番という扱いになった…と
1機は綾波レイに与えるとしても、もう1機のパイロットは見繕う必要があった。
そして…偶然か、それとも必然か…2-Aの中でもシンジ、綾波レイ、そして2番目の適格者である惣流・アスカ・ラングレーに継ぐ適正値が高かったのが今、抜け出した少年の1人、鈴原トウジであったからだ。
〆たと思わんばかりのリツコはニヤリとその口角を上げた。
リツコはマルドックの計画書を1つ繰り上げ第4の少年を迎え入れ3号機を日本に貰うことを早々に決めた。
「何してるだよ!!」
外にいる2人に言葉を投げる。
恐怖で固まったトウジと嬉々としているケンスケ。
「こんなとこに居られたら邪魔だ!早くシェルターにッ!?」
僕の右側を光を纏った触腕が掠る。地を抉り砂埃を巻き上げた。
その威力にゾッとする。というかいつの間にコイツは僕の前まで迫ってきたのか。
左側に振り下ろされていたらと考えたら…背筋が泡立った。
兎に角、2人を非難させなければならない。
「早く逃げろよ!相田君!鈴原君!!」
殴られたとかなんだかんだは関係ない。
ただ、目の前で人が死んだら寝覚めが悪いから。
ぶっちゃけていうんならこのタイミングで怪我をしてくれた方が3号機にトウジが乗らないから助かる。
でもそうは問屋は下ろしてはくれない。前の世界では親友だった、だからこそ、この世界でも彼は僕の友達になり得る、そう思っていたからだ。
視線を落とせば2人は恐怖に脅えて身動きを取れないでいる。
視線を前に戻せば蠢く光鞭がこちらを狙う。
しかもこの距離を
動きを牽制するために拳に力を入れて光鞭を掴む。
その熱量が痛いほどに掌を伝う。あの時よりも痛い、そりゃあそうだ。あの時よりもシンクロ率は高い、その分フィードバックも高いのだから…。
兎にも角にもあの二人をさっさと退けないと僕の戦える立地がない。
ミサトさんは僕に現場は任せるとそう言いきった、だったら…。
「初号機エントリープラグの固定ロックを解除!?」
「シンジくん!?一般人を乗せるつもりなの!?」
「ここで死なすよりは…諜報部でもなんでも…
プラグスーツの上からでも分かる火傷の感覚。フィードバックによる幻肢痛ではない、実際の火傷。だがその手は緩めない。
『早く乗れよ!!そこに居られたら邪魔なんだよッ!!』
緊急用のハシゴが降りて2人がそれを登る。エントリープラグに落ちた2人が騒ぐ。
「うぉあ!?み、水け!?」
「カメラ…カメラ…。」
「心理グラフ不安定…!シンクロに異常発生!!」
「バカ!異物を2人も乗せるから…!シンジくん!あなたの生死に関わる!だから今は一旦後退して…その2人を下ろ…。」
「出来ませんッ!ここで蹴りをつけるッ!!!」
ミサトさんとは言えどこの命令には従えない。
あの
地表に突き刺さった獲物を掴み刀身を引き抜く。
火傷で掌の感覚がいつも以上に弱い。
「なぁ!?転校生…?逃げろ言うとるで…?」
「…るさい…。」
「悪かったって…俺らが邪魔しなきゃ…。」
「うるさい…。」
「それにエヴァは最高機密…一般人を乗せるなんて何を考えてるの!?」
「煩いッ!今ここで君達を連れ帰ったら被害が拡がるだけだッ!それを君達を先に降ろして何になるって言うんだよ!!!」
後ろに居る2人とミサトさんに激を飛ばして黙らせる、流石に僕もそこまで優しく居られるわけではない。
斜面を駆け下り勢いのままにその切先を振り下ろす。
「ATフィールドの発生を確認…。試作届きませんッ!」
「ウラァァァアアアアア!!!」
雄叫びを上げもう一度振り上げた
「ウッ…。」
声にならない声をあげて、肺から絞り出される空気。
涙が零れる。こんな身になっても痛いものは痛い。
「うううううぅッ!」
何かを恨むように使徒を睨む少年の顔がモニターに映る。さながら悪鬼か羅刹か…。ミサトは少年の顔を見て自身を憂いた。
自身も使徒が憎い。父の身の上、自身の身の上、使徒が憎い、
使徒を滅ぼす為ならなんだってすると心に決めていた。だからこそなのだ。少年はミサトの身を按じた、傷心を労った、そんな少年にこんな顔をさせていていいものなのか…と。
何も出来ない自身に腹が立った、心配だからこそ退くという選択をして欲しかった。でも少年はミサトの提案を蹴ったのだ。
「初号機、刀身にATフィールドを展開!共振しています!!」
青葉シゲルの声に司令室はザワついた。何よりもこの事象を見て心を踊らせたのはリツコと伊吹マヤであった。
机上の空論であったATフィールドの兵器転用。その雛形が目の前に実在しているのだから。
「!凄い…これなら理論上…切れないものは無い…。強度もATフィールドによって保証される…。これなら…!」
科学者というのは呑気ものでもある。興味深い事象が目の前で起こると負傷者の心配よりも興味が打勝つのである。
別段、リツコもシンジの心配をしていない訳ではなかった、あの司令の子供だからと、唯一初号機を動かせる存在だから、と。
だが、それに対して焦りを覚えるものも居る。ミサトは腹部や手から白煙を散らす程に身を焼いた初号機にシンクロしていたシンジの容態を気にする。
「何、呑気なこと言ってるのよ!!シンジくんのバイタルは!?」
「特に問題があるような数値は示していませんッ!」
「シンジくん…。」
ロザリオを握り締める手に力が篭もる。ミサトは祈ることしか出来ない。
それこそ身を案じてエントリープラグを強制射出すればシンジは助かる。だがこの先あと13と居る使徒を対処する為の最終兵器がおじゃんになるから。
復讐鬼としての自分と保護者としての自分が揺れていた。
「アアアアア!!!」
大きく振るった刀身がATをぶち抜いて頭のような器官からコアまでを叩き切った。
侵食型ATフィールドは机上のそれよりももっと凶悪であった。
特定の周波数でも出すのか、刀身に纏ったそれはまだ試作の
明らかに耐えられぬと悲鳴にも聞こえる程の高周波その切っ先がコアを捉える。
バキバキと音を立て切っ先がめり込む。攻撃する手段も防御する手段も乏しいこの使徒にとっては正に
それをただ呆然と眺めることしか出来ない発令所の面々とシンジの級友。
完全に真っ二つになったそれ。辺りは血飛沫が舞い上がり返り血を浴びた初号機はまるで悪魔と言われても差し支えない。
そして…その少年も…。未だ発散しきれない怒りの感情。少年は獲物を投げ捨てその遺骸を踏むわ蹴るわちぎっては投げをし始めた。
まるで癇癪を起こしたかのような子供の行動、だが計器は語っていた。
「シンジくん!?もう使徒は死んだのよ!?倒したの!!なのになんで…。使徒の侵食の影響なの!?」
「…いえ…。メンタルとバイタル共に安定。」
モニターに映る少年の顔は怒りに身を任せているとは言えど冷静さは失われていないように見えた。
そこでミサトはハッとしたのだ。
「じ、状況終了。エバー初号機とそのパイロットは回収班が来るまで待機。」
そう。呆然、呆気にとられて作戦を終了して居なかったのだと。だからこそ死に体でも蹂躙していた。
確かに憂さ晴らし的な意味合いもあった。ふと倒したと安堵した後に襲ってきたのは3発も殴られた、という事実。
受け入れては居たがそれでも納得できないものもあった、だからといって少年の方から手を出すのは些か問題がある…とシンジは思っていたからとりあえず、
「て、転校生…?」
「はぁ…はぁ…。」
苦戦したわけでもないのにどっと疲れてしまった…。さっさとシャワーを浴びて寝たいところだが…。
撤退命令も出てたし、自分のクラスメイトがシェルター逃げ出してたし、なんなら最高機密であるこれに乗せてしまったからね…。
将来的には
しかしまぁ、全身が痛い。高シンクロと言うのは身体への負担が半端じゃない。
次の使徒も高いシンクロ率を維持できなければ撃破は難しい。
「…なぁ?転校生…その…。」
「何?鈴原くん。」
疲れからか冷淡な返しになってしまったが、それを怒っていると受け取ったのかぴくりと肩を震わせた。
震える唇でトウジは口を開いた。
「すまんかって…。ワシこんな痛い思いしよって乗っとるなんて思わへんかった。なんも気にせんと戦って倒してるんかそう思とったんや…。」
「…いいよ。その代わり妹さんと鈴原くんの2発は貰うけど。あとの1発は僕の怪我が治ったら…ね?」
「そんなんでええんか…?ワシらのせいで転校生…」
「シンジ。」
「へ?」
「碇シンジだよ。転校生転校生って呼びづらくない?それにさ…?んん〜。」
大きく伸びをして背もたれに寄りかかる。ふぅっと短くため息を吐いてからトウジの方へ顔を向ける。
「鈴原くんが見たいって言ったんじゃ無いよね?」
「え!?」
後ろで静かーにしていたケンスケに冷たい視線を送る。
「どうせアレだよね?トウジ…お前のせいで碇がエヴァに乗れなかったらどうするんだ?とか言って唆したんでしょ?」
「うう…。」
「まぁ、いいよ。2人とも無事だったわけだし。3人で怒られれば少しは楽だし…さ?赤信号皆で渡りゃあ怖くないってね。」
「碇…。」
「ま、どうせ回収班が来ても直ぐに拾ってくれる訳じゃないし…あと2時間くらいはそのまんまだよ。じゃあ、僕は寝るから!」
そう言葉を残してSDATの再生ボタンを押してアイマスクを強引に下ろして束の間の休息へとその身を落とした。
「♪〜♪〜」
鼻歌を歌いながらシャワーを浴びる。
相変わらず血なまぐさい液体だよ…。
エヴァを降りた僕は治療も程々に一応上官からの叱責を給わることになった。
そこそこの大怪我との事だったのだが、流石にシャワーくらいは浴びせてくれと談判した結果、それが終わったら治療を再開するからすぐに戻れとリツコさんから言われてしまった。
「やけに上機嫌じゃないの?」
「上機嫌ではないですよ…。ミサトさん…すみませんでした。命令違反、エヴァの私的利用全部犯罪行為ですからね…。」
顔を合わせたら言おうと思っていたことを口に出す。
大人からすれば仕方なくもないし今後の処理も面倒臭い。
そういう処理を担ってくれているのがミサトさんだからだ。
…?
…ん?
んん!?
「…あの…ミサトさん…?ここ…男子更衣室で…。」
「えぇ、そうね。男性パイロット用の更衣室ね。」
「ですよね。だからミサトさんが入ってきていいんですもんね…。いやいやいや。違いますよ。ミサトさん!?せめて入口で声掛けるとか出来ないんですか!?」
「出来るわね。」
なんでそんなに簡潔なんでしょうか…。多分この感じ…でも怒ってるような感じじゃないし…。
「あの…ミサトさん…?怒ってますか…?」
「怒ってないわよ。…でもシンクロ率が高かったから結構重症だって聞いてたのよ…直ぐに来たかったんだけど、戦後処理とか色々とね…?」
「痛いことには痛いですけど、動かない訳では無いですから…。それに、さっきも言ったように命令違反をして負った傷ですから、大丈夫ですよ。」
シャワーを止めて湯気が消えてしまえば色々と丸見えになってしまうし音がなければこの空気感に耐えられないし、と悶々していた。
だけど、逆にそれが仇となってしまったのだった。
「ごめんね…シンジくん。」
「んぇ!?ミ、ミサトさん!?」
自分が濡れることも構わず、パーテーションをくぐってこちら側に入ってきて後ろから抱きしめられる。
「…ミサトさん…濡れますよ?」
「もう濡れたから関係ないわよ。」
無駄に冷静を装うのは震えた声のミサトさんに不安を感じさせない為でもあった。取り乱して拒絶するのも違う。そういう気分でもないと跳ね除けてしまうのも違う。
ミサトさんは僕に好きにしていいと言ったから、もっと甘えていいと言ったから、僕もそうさせようとそうしてもらおうと思っていたからの行動でもあった。
ミサトさんのしなやかで綺麗な指が傷跡をなぞる。
多分、女性からしてみたら多少はゴツく見えるのかもしれない、それでもその手は僕は好きだった。私生活はだらしなくとも仕事に生きるそういうミサトさんの手が。
「…痛くない?」
「NERVの技術力様々ですね。だいぶ痛みは軽いですよ。」
「…こういう怪我初めてなのに落ち着いてるのね…?」
…うん。ミサトさんの言う通りだ、慌てふためいて気絶してもおかしくない。でも今更、この程度の痛みでぎゃーぎゃーと騒いでも仕方ないとは思う。
「…慣れてるんですよ、こういう痛みは…。別に虐待を受けていたとかでは無いですけどね…?ネグレクトは今も受けてますが…。」
「その歳でこんな痛みに慣れてるなんて…。どんな生活をしていたのよ…。大丈夫よ、これからは私が家族だから…。」
そう言って抱きしめる腕に力が強くなる。
全裸を着衣、しかもびちゃびちゃで抱きしめられるとなんだか不思議な気分にはなるけど、それでも心地よいものだった。
「ミサトさん…流石に絞った方がいいんじゃない…?流石にそこまでビチャビチャだと…。」
「うーん…確かにそうね…。」
「ストップ!ストーップ!だからって僕の目の前で脱ぐことは無いでしょ!?」
「え?あぁ!ついうっかり…。」
ついとかうっかりじゃないよ…。濡れてるから余計にボディラインが出てるていうのに…。
「…ミサトは相変わらずね…。でも14歳の子のシャワーを覗くのは頂けないけど…。心配なのは分かるんだけどね…?」
「そうですよね…。リツコさんももっと言ってやって…くださ…。んなぁ!?なんで赤木博士まで!?」
びっくりした!!びっくりしすぎて素で名前を呼んじゃったじゃないか…。この2人は職権の乱用が過ぎませんか!?
「帰ってくるのが遅いからよシンジくん。それで、ミサトはどうしてびちゃびちゃなのかしら?」
「っと…それは…。」
バツが悪そうなミサトさん。確かに説明が付かないね…。
仕方ない。僕が理由付けしておこうか…。
「心配で様子を見にて来てくれたミサトさんにビックリしてシャワーぶっかけたんですよ。」
「ホントに?いかがわしいことされてないわよね…?」
「さ、されてなんかいないですよ!!なんてこと聞くんですか!?」
「…どーだか…。」
え?いや、侮蔑の目ならわかるんですけど…。その表情はなんですか!?えー…。まぁ…いいか…。
「っしと…。それでシンジくんのクラスメイトの事なんだけど…。」
「あら、耳年増なミサトならもう聞いてると思ってたけど…。つい先程マルドック機関から鈴原トウジ君の4thチルドレンへの正規雇用が決まったわよ。相田くんにも予備雇用通知がね…。」
僕は知っている。マルドック機関など存在しないことを、それも全て父である碇ゲンドウの裁量で決まると…。
歯を食いしばって怒りを耐える。まだだ、まだ爆発するべきでは無いと…。
だが、リツコさんの言葉の違和感を理解した時その怒りは抑えきれないものとなる。
「シ、シンちゃん…?口…血が…。」
「…赤木博士…日本にはまだ2機しかエヴァは無いですよね?弐号機のパイロットがいて僕が3人目なのは分かります。では…鈴原くんが正式に4thチルドレンに雇用された理由はなんですか?」
「そんなに、恨めしそうに口の端から血を垂らしながら見られるとは思ってなかったわ。…アメリカからエヴァ3号機が配備されることが決まったのよ。と、言うよりもあと数刻で届くわ。」
視界が赤く染まる。そこからの記憶はあんまり無いけれど。
拳を思いっきり何かに振り下ろした事だけは鮮明に覚えていた。
言わずもがな拳を振り下ろされた人間は誰だか分かると思います。
どうやって入ったのか…まぁ冷静ではないシンジくんならリツコさんのIDカードを引きちぎるなり、扉をぶっ壊すなりしたんでしょうね。
次回はレイ、心の向こうにと漫画版で好きだったトウジが3号機に乗るのに苦悩する回です。