RE Take of EVANGELION 外伝   作:Air1204

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第漆話 決戦、第三新東京市

「目標は塔ノ沢上空を通過中。」

 

「初号機、参号機共に出撃準備は整っています。」

 

「解析パターン青!第5の使徒です!」

 

サイレンの正体はやはり、第5の使徒であった。その異様な生き物と表現できない見た目で宙を舞う姿は不気味であった。

手や攻撃機関などが見当たらない以上手出しはできないと判断した司令部。動向を見守りながらもエヴァの出撃準備を着々と推し進める。

 

「相手の能力が分からない以上下手に手出しはしない方が吉か…。パイロット2名の様子は?」

 

「鈴原くんは緊張しているみたいです。何度も手足の感覚を確認しては誤差がないか確かめているみたいです。」

 

「初の戦闘だもの…仕方ないわよ。ウチのエースが落ち着きすぎてるだけよ。」

 

もう片方の少年、碇シンジは呆気らかんと鼻歌を歌っている始末。見た目とは裏腹に、気が弱そうな少年の方が平然で如何にも喧嘩っ早そうな少年がビクビクと怯えているのは見事に対照的だと表現すべきか。

かと言って参号機に乗るトウジは何も逃げ出したいわけではない。ただ、負けること、死ぬことが怖いだけであるから逆に肝が据わっているのかもしれない。

 

「♪〜。」

 

初号機の少年、碇シンジも緊張していない訳でもない。参号機の件もそうだが、圧倒的な固定砲台としての能力を有した第5の使徒、ラミエル。以前は苦戦を強いられたそれを簡単に倒せるなどとタカをくくっている訳でもない。死なずとも痛い思いはしなければならない。

単騎での出撃も一考したが互いの生存率を考えた結果、最も効率がいいと判断したのだ。

 

「2機をA地点、B地点の2箇所に同時射出。使徒の能力を測る為でもあるとはいえ2機どちらも囮に使うとは…。流石は鬼の作戦部長ね。」

 

リツコの皮肉めいた言葉に一瞬眉をしかめるも直ぐに切り替える。何よりもこの作戦の発案者は碇シンジその人だったからだ。エースオブエースの碇シンジ、だからこそその考えを否定する必要もなかった。

 

「第1ロックボルト外せ!」

 

日向が吠える。肩のロックが外れ少し身軽になった。

 

「んん〜。」

 

シンジは伸びをする、自身の緊張を解すために。

 

「気にしなくていいよトウジ。僕が上手くやるから。」

 

シンジからしてみればどちらが狙われても構わなかった。

圧倒的なエースである自分を狙い撃つか、それとも脅威になり得ない駒から潰すか。ラミエルの知性の有無を問うためにも。

 

「目標は芦ノ湖上空に侵入!」

 

「エヴァ両機、発信準備よろし!」

 

ミサトはロザリオを握り締める。2人の少年の身を案じて…。

願掛け、と言われればそうでしかない。神でも悪魔でも縋らなければ彼女自身の心も壊れてしまいそうだったからだ。

 

「エバー初号機並びに参号機。発進!」

 

固定ロックが外され地上へ向け射出された。

 

「!!目標内部に高エネルギー反応!?」

 

「はっ!?」

 

考えたくもない事実。ミサトやリツコの思考の外であった超遠距離武装。それを有した使徒の行動にミサトはたじろぐ、だが急にそれを止めることは叶わない。

 

「円周部を加速…。収束していきます!」

 

「万事休すとでも言うのかしら…。」

 

やけに冷静なリツコ。それはエースへの信頼でもある、だがエースにも出来ないこともある。

 

「目標!参号機へ向けての攻撃です!」

 

「避けて!!鈴原くんッ!」

 

固定されたその身体を動かすことは敵わない。身動ぎする事すら出来ず参号機を穿たんと放たれたそれ。だが、届くこと無かった。

 

「ATフィールドッ!!全開ッ!」

 

真っ先に拘束具を引きちぎり駆け出した初号機は参号機を蹴り飛ばし身を呈して守りに入ったからだ。

刹那、胸部へと襲いかかる激しい痛み、ATフィールドを展開して居ようともその威力は凄まじかった。

 

「シンジくん!?」

 

「ぐううぅう!!」

 

ATフィールドによる拮抗。押し押されその威力を相殺せんといきむ。

呆気にとられた参号機は動くことも出来ない。

そして、小休止。攻撃の手を緩めた使徒。狙いは依然参号機の様だ。

 

「参号機はポイントCにて回収!初号機は!?」

 

「ダメです!緊急回収ユニット動作しませんッ!」

 

白煙を上げる初号機の胸部。装甲は溶け落ち無惨な姿を晒す。

それでも尚、シンジは敵意を無くしてはいなかった。

 

「参号機が回収されるまでは粘る…。それまでは…!」

 

いつもの使徒を睨む顔。呪いを込めた悪鬼羅刹のその様相。

大モニターを見るミサトにもその顔が突き刺さる。

 

「目標内部に再び高エネルギー反応…!これは…先程よりも高出力です!!」

 

「避けて!!」

 

ミサトは祈ることしか出来なかった。シンジは退く事を好まない。それでも一旦は逃げて欲しかった彼の身を案じてだった。

それは姉のように自身を慕ってくれるから?可愛い弟分で家族だから?

否、違う。自分では家族だと割り切っていたが、その感情が嘘であると今更に気付く。

好きなのだ、どうしようもなく。一緒にいる時間も彼の作る食事も、寝顔も…そして悪戯な笑みも。

ロザリオをキツく握りしめる。強く噛み締めた唇からは血が滴っている。

 

「避けませんッ!トウジが退くまで!僕はッ!」

 

血反吐を撒いても逃げる事をしないシンジ。叶わないと知りながらもその願いを囁く。

 

「かあ…さん…力を貸して…。」

 

弱々しい少年の願い。それに応える様に初号機の心臓が跳ねた。

 

「し、初号機内部に高エネルギー反応!?」

 

「パターンオレンジからレッド…?周期的に変化しています!」

 

「ATフィールド変性…。ATフィールドが物理的装甲へと変化していきます!」

 

「子を守る母の願いが現実すらも書き換える…と言うのね…。」

 

対SEELEのエヴァシリーズとの闘いを見越して開発が想定されていたはずの装備が目の前に現れる。

それこそ、初代三女傑の内の1人、碇ユイが遺した遺産。

『A.T.フィールド偏向制御運用実験機』と書き殴られた資料。

どう考えてもS2機関を持たないエヴァでは運用が難しいとされたそれを現実に目の当たりにしたリツコは震えた。

 

「胸部装甲回復…。」

 

「コレでも…ッ!食らえッ!」

 

肩に備え付けられたパイロンが口を開く。バチバチと大気中に放電する程のATフィールドの収束。

シンジは見た事も聞いたこともなかった、だが、その類稀なる戦闘センスからか、はたまた、窮鼠猫を噛むとでも言うべきかそれを使って()せた。

 

「ATフィールド!?こんな使い方…有り得ないわ!」

 

極秘と書かれた資料を捲るもその武装が記された形跡はなかった、だが、ATフィールドの可能性とその変幻自在さについての記載だけはされていた。

よもや、初号機、否。碇ユイのイメージの産物。

初号機に残された母の思いがそれを再現してみせたのだ。

高出力で打ち出されたそれは第5の使徒の上部を消し飛ばす。

だが、それは第三新東京市の電力を食い尽くすと言っても過言ではなかった。

約139秒の停電。予備も使い潰されNERV本部すらも停電したのだ。

その光景を最後まで目の当たりにしたのは本人とその傍ら呆然と座り込むことしか出来なかった参号機のパイロットだけであった。

 

 

 

「シンジくんの容態は!?」

 

「心音、呼吸音共に健在。ですが…シンクロ率が高いが故に…胸部へのダメージが…。」

 

「くっ…。使徒は?」

 

「損傷箇所の修復に努めて居るようです。ですが…直接の侵攻を試みているようで…。」

 

「侵攻スピードから今夜の0002(マルマルマル二ー)にはジオフロントに到達、猶予はあと半日といったところかしら…。」

 

「万事休すね。でも突破の糸口は見えたわ。戦自の極秘資料あったわよね自立稼働型陽電子砲。」

 

2大女傑が揃った臨時対策会議室。ミサトはシンジに会いたいと言う思いを押し込めて第5の使徒ラミエルの対策を練る。

その場には無事であった鈴原トウジの姿もある。

 

「ホンマにすんません…。自分のせいでシンジ君に怪我させてしもうて…。」

 

「鈴原くんが悪いんじゃないわよ。固定式出撃デッキ…あれ少し考え直した方がいいかもしれないわね…。常人なら対応しきれないわあの攻撃…。」

 

「シンジくんだから対応してみせた、まるで何をしてくるのか分かっていたみたいに…ね?」

 

その言葉に一同が押し黙る。よく良く考えれば全てが不自然だった、第3の使徒であるサキエルとの戦いでも、周囲に影響を及ぼさんと戦い。第4の使徒との戦いでは計器よりも先に友人二人を救って見せた。まるで全てを知っているかのような佇まいに…。

そして不可解な初号機の形態変化、薄々彼が普通の人間では無いと言うことを理解し始める人も出てきても不思議では無い。

 

「…2失うより1の損傷で済んだだけまだイイわよ。それでリツコ、これどうにかなりそう?」

 

「戦自の連中が手放すと思う?ま、副司令に直談判してみるわ。それで?勝算、あるんでしょうね?」

 

「初号機は余りあるATフィールドを用いてこの街の電力を全て使い切る勢いでバーストさせたあれで使徒の体を大きく削り取った、ならば、日本の電力を集めた一点集中の陽電子砲なら…あのATフィールドを中和なしに突き抜けられると私は思うの。」

 

「わかったわ。それだけ突飛な思考、流石は鬼の作戦部長とでも言えばいいのかしら?」

 

「そんな肩書き死んでも要らないわ。そして…射撃手に関して…。鈴原くん、貴方が務めるのよ。」

 

「わ、ワイですか…?シンクロ率が高いんはシンジの方やないんですか!?」

 

「えぇ、そうね。シンクロ率だけならシンちゃんの方が上ね。でも射撃精度は鈴原くんの方が上なの、それに、あの初号機に対応できる形に改装するのには時間が圧倒的に足りないの。」

 

「…!やったらシンジが参号機に乗って射手に…。」

 

「出来ないのよ、彼はどんなエヴァでもシンクロしてみせるはず、でも初号機はそれが出来ないのよ。現時点あれに乗れるのはシンジくん、彼一人だけなのよ。」

 

「やってワシにはそないな事は出来ん!外したら?ワシが被弾したら!?どないせいっちゅうんや!!」

 

「計算はMAGIがしてくれます。貴方はいつも通りに、スイッチを押せばいいのよ。」

 

「これはゲームちゃうやんけ!!何が起こるかわからんのが現実や!!キカイの計算だけじゃワシの恐怖は計算しきられへん!!」

 

バンっと勢いのままに部屋を飛び出していく。待ったをかけようとも彼の心は留まることをしない。

かつてのシンジは死ぬのが怖いから乗りたくない。父さんの考えが分からないから乗りたくないと駄々を捏ねた。

彼はどんなに頑張っても一人ぼっちだった。ミサトもアスカも家族には成れなかった。悲しきか、肉親は理解しえない碇ゲンドウだけだったのだ。

だが、トウジは違った。サクラという妹が居ながら父と祖父に囲まれて不自由なく生活をしている。幸せなのだ。

鈴原トウジは自分が死んでしまう事より、死んだ後のこと、遺された家族の思いを受け止めきれなかった。

 

「鈴原くん!?どこに行く…。」

 

「リツコ。今はそっとしてあげましょう。作戦までは時間がある、少年少女に今ここで無理強いをして心を壊してしまうよりも、自分で考えさせて乗るか乗らないかを決めさせましょう。」

 

リツコはミサトがキツく拳を握り締めているのに気付く、使徒への怒りか、自分への不甲斐なさかその真意は定かではないものの、唇を強く噛み締め口紅よりも生々しい赤色が口の端を伝っていた。

 

 

 

「またか…ここか…。」

 

小さい、小さい二両編成の古びた電車の中、いつもながら座席に腰掛けている僕はふと目の前に目線を移す。

 

「綾波さん…?」

 

「…?碇くんは何を望むの?」

 

綾波が問いかける。ああ、そうか、これは綾波であって綾波じゃない。

僕の中に残されたリリスの残滓だ。魂の成れの果て、僕の中の綾波レイだ。

 

「僕の望みか…。なんなんだろう?相補性…かな?他者の思いを全て自分の思いには置き換えられない、だからこそ認めあっていける世界を望む。それがたとえ叶わない事だとしてもね。」

 

「そう。それで貴方は幸せ?」

 

「一概にそれだけで幸せとは言えないよ。自分で選択して傷ついて、それでもまた選択をして。少しずつ正しい選択を出来るようになってようやく幸せなんだと思う。」

 

「君らしくない回答だね?何かあったのかい?」

 

手すりに寄り掛かるようにしてこちらを覗き込むカヲル君の姿が目に入る。

 

「君も居たんだね。カヲル君。」

 

「ここは、君の心の中だからね。何度でも巡り会えるよ。」

 

「何度もは正直ごめんだけどね。…聞きたいこと山ほどあるのになんかどうでもよくなっちゃったな…。」

 

「好きな事に懸命に生きていけるのは素晴らしいことだよ。だからこそこうしてまた巡り会えた。君も理解してるはずだ、この円環の中心は君だ。君が望めばリリスも使徒もエヴァも無い世界を作り出すのは簡単だよ。」

 

「うん。だからこそあの時の僕はエヴァの在る世界を望んだ。エヴァで起きてしまったことはエヴァでやり直せばいい、その為に僕は記憶を、能力を持ったままこの世界に来たんだからね。」

 

「そうだね、君の言う通りだ。今の君にならできるよ。」

 

「ありがとう、カヲル君。そろそろ戻らないと、ミサトさん達が待ってる。」

 

「うん。きっとすぐに会えるよ。」

 

「そうだといいね。ねぇ、カヲル君?」

 

「なんだい?シンジ君」

 

「僕の選択は間違えているかな?」

 

「君の選択に間違いとか正解とか無いんじゃないかな?それはシンジ君自身が選んだ生き方だからね。だから否定も肯定もしないよ。」

 

「狡い言い方するんだね、カヲル君も…。でも、ありがとう。」

 

「…ATフィールドは心の力、碇君の考え方次第でいくらでもそれは貴方の力になってくれるわ。」

 

「ありがとう、綾波。」

 

 

「…!ここは…。」

 

上半身を起こす。胸元がズキズキと痛む。あぁ、そうか…ラミエルの砲撃を直接受けたのか…。

起こしかけた上半身をもう一度ベッドへと沈める。

薬の匂いが染み付いたここのベッドは苦手だ。

 

「おはよう。」

 

ここで漸く、ベッドの隣に椅子に腰掛けた綾波の姿が目に入る。

作戦の概要を伝える為に待機していてくれたのだろう、僕の事嫌いなのに。

 

「綾波さん…。」

 

「葛城二佐から伝言。1800(ヒトハチマルマル)に集合。1830(ヒトハチサンマル)に二子山山頂仮設基地に移動。1900(イチキューマルマル)にて作戦概要の最終確認。作戦開始は0000(マルマルマルマル)。射手は鈴原君が担当、碇君は防御。」

 

「あぁ、そうか…初号機あの姿じゃポジトロンライフルを持てないからか…。トウジは…?」

 

「目下捜索中。作戦の概要を伝えたら逃げ出したと赤木博士が言っていたわ。」

 

あちゃー、そりゃそうなるか…。昨日の今日だ、目の前で僕が死にそうになっていればトウジだってビビる。迎えに行ってやるか…。多分、あそこだと思うから。

 

「っし…。今何時…?」

 

1600(ヒトロクマルマル)よどうするつもり?」

 

気だるい体を起こしベッドの縁に腰をかける。胸がズキズキと痛むがさして、問題は無さそうだ。

綺麗に畳まれた制服を手に取り広げる。

 

「トウジを迎えに行く。ミサトさんとリツコさんには心配しないように伝えてくれると助かるよ。」

 

「わかったわ。それと…」

 

「?」

 

「ソレは隠した方が良いわ。」

 

…ごめん、綾波。

 

 

 

「やっぱりここに居たか…。」

 

本部と連絡棟を繋ぐブリッジの上、人工的とはいえ、再現された夕日が辺りを照らす。吹き付ける風がとても心地よく感じられた。

 

「シンジ…目、覚ましたんか…。」

 

「うん、トウジ、そろそろ時間だよ。」

 

「分かっとるでも足が動かんねや…。シンジ、お前はどうしてそない強く居られるんや…?」

 

「…」

 

別に強くなんてない。昔のままの自分が嫌でどうにかしてもそれを変えたかった。

だからこそ今はこうして前向きに居られる。

 

「うーん…僕は…強くないよ。ただ皆んなに傷ついてほしくないだけだから。」

 

「そうなんか…ワシはそうはなれんわな…。」

 

「そうだね、トウジは僕にはなれない。だから何かモチベーションを見つけても良いんじゃ無いかな?」

 

「モチベーションってなんや。ワシにはそないなもん見つけられへん…。」

 

「そっか…。じゃあ…。委員長、洞木さんやサクラちゃんが君が戦わないせいで怪我をしてしまったら…どうする?」

 

ずるい質問だとは思う、無理やりそれを結びつけて戦わなくてはならない状況においてしまうのは良く無いことだとわかってる。

でも、そうでもしなければ、この先…死ぬ可能性の方が高い。なら死なないようにモチベーションを作らないと…。

 

「…。そない自分を責めてまうやろなんで自分はこない不甲斐ないんやって…。」

 

「だったら君は…。そうならないようにエヴァに乗るべきだ。」

 

「ッ!そない簡単に言うなや!ワシが死んだらみんな悲しむんや!!誰も悲しまんお前に何がわかるって言うんや!!」

 

ハッとする。確かにその通りだ。と…。

だが、心にも無いことを言ったトウジの顔も暗く曇る。

 

「あ、いや…シンジ…悪気があった訳ちゃうんや…。」

 

「分かってる。だから気にしなくていいよ。僕にはちゃんとした親と呼べる人も居ないし、友達も恋人も居ないからね…仕方ない事だよ。」

 

「すまん…すまん…!そないなつもりじゃないんや!傷つけたい訳じゃ…!」

 

「トウジ…歯ぁ食いしばれよ。この間の1発今返すよ。」

 

怒ったわけでもムカついた訳でもない。ただ、喝を入れるために。その為の1発。

グッと拳を握り込み、頬を穿つ。重い、重い一撃。

 

「ぐぇっ…。」

 

「これで貸し借りは無しだよ。確かに君には大切な家族や友達もいる。無理して乗る必要もないよ。」

 

「…。」

 

「僕一人でアレを倒すから。トウジは待ってればいい。」

 

「!?無理や…!あないやつに一人で勝つなんて出来ひん!!」

 

「でも乗りたくないんだろ?だったら零号機も使えない今…僕しかいないんだから。僕一人でやるよ。」

 

怖くないことは無い。鼻唄を歌っているのも余裕な振りをしているのも全部強がりでしかない。

 

「まぁ、あんまり責めても仕方が無いか…。とりあえず、着いてきてよ。」

 

移動用のエレベーターの中、地下何十階も潜る必要がある為に、高速での運転にも対応しているこれに乗った。

理由はただ1つ、ターミナルドグマの最奥へと足を運ぶためだった…。

 

「15年前のセカンドインパクトで地球上の人類、いや生命体はその数を半分以下に減らした。今使徒がサードインパクトを起こせば…地球上の生命は漏れなく滅びる。」

 

偉そうなことは言いたくない、それでも、トウジには真実を知ってもらわなくちゃならない。

 

「そない話は…NERVに入った時リツコさんから聞いたわ…。」

 

「うん、でも、ここまでの話はされていないはずだよ。」

 

非常灯が赤く染まる。それが指し示すのは厳重警戒エリアへとその足を踏み入れた、という事だ。

冬月副司令が無理言って僕のパスを書き換えてくれたのだ。それこそ、クソ髭(父さん)やリツコさんと同等まで…。

カードキーをかざし、ヘブンズドアを開く。

重々しい音を立て扉が開いていく。

 

「なんやこれ…エヴァ…?」

 

表れた白い巨躯に

 

「違うよ、第1の使徒であるアダム…と謳われているけど実際は第2の使徒であるリリスだね。」

 

「ワシらは…こないなものを守るために戦っとるんか?」

 

「そうだね、君達リリン、ヒトの母たるリリス。それに使徒が接触すればサードインパクトは間違いなく起こる、それを阻止するためにNERVが、エヴァがある。」

 

「…。」

 

絶句しても仕方ないよね。僕もそうだった。

なんならリリスだと言うことを告げられていない僕からしてみれば更に驚愕だったわけだけど…。

 

「僕たちが負け、使徒がこのエリアに到達した時点で、NERV本部は使徒諸共大爆発を起こしてその役割を全うするつもりだよ。それこそミサトさん達、職員はみんなその覚悟と隣り合わせで生きてる。だからこそ僕達が負ける訳にはいかないんだよ。」

 

「なんで、そんな運命…ワシらなんや…。」

 

「さぁ?運ばれた命と書いて運命、きっと生まれた時からこのレールは敷かれている。だからと言ってトウジが無理をする必要は無いよ。」

 

「…。乗るで、乗ったる…。乗らんな結局みんな死ぬ言うならわしが乗らんなアカン。」

 

「うん…ごめん、ありがとう…。それじゃ戻ろう…。」

 

憂いを帯びた瞳に決意が宿る。大丈夫、何があっても君は死なせない。それは僕が約束する。

 

 

 

「よく戻ってくれたわ。鈴原君、そして、シンジくん。」

 

「僕の居場所はここですから。ただいま、ミサトさん。逢いたかったよ。」

 

「ん!私だって…。んん!シンジくん、その話は後。今から作戦の概要を伝えます。」

 

時計が指し示すのは2100(フタヒトマルマル)だいぶ遅れてしまったが、それでも使徒の進行スピードは明らかに遅れが出ている。

 

「21枚の特殊装甲は既に18枚がダメになった。あとは本部に直撃するのも時間の問題ね。」

 

「だからこそ僕たちが戻ってきた。でしょ?」

 

「そうね。鈴原くん、さっきも伝えた通り、貴方は参号機で射手を務めて。」

 

「はい。」

 

「初号機はF型装備のまま防御を担当。一応盾は作ったけど、これでいくらもつかは分からない。」

 

「MAGIの計算ではもって42秒と出ているわ。あとはシンジ君の、初号機のATフィールドの精度によって結果は変わってくる。」

 

「ん。分かりました。死んでも主砲と参号機は守ります」

 

「参号機は試作段階のG型装備と大型試作陽電子砲を無理矢理リンクさせているため、待避行動及び防御が手薄になるわ。」

 

「使徒の攻撃時にのみ実態化するコアらしき部分が中心に確認されたわ。よってそれを正確に貫く為には精度が重要なの、とは言ってもほぼMAGIの演算が的確なタイミングは導き出してくれる。だから鈴原君は的確なタイミングでトリガーを引けばいいわ。」

 

「はい。」

 

「レイは予備ね。何があるかは分からないから、本部で待機…。最悪の場合、凍結中の零号機を動かす可能性すらあるのを考慮しておいて。」

 

「分かりました。」

 

「じゃ、3人とも時間だから。着替えてらっしゃい。」

 

 

 

仮設の更衣室でプラグスーツに着替える。どうやら僕のプラグスーツは新しくなったみたいだった。

良くまぁこの短時間で仕上げるよ…リツコさん様々だね。

 

「♪〜」

 

「碇くん、死にかけたと言うのに楽しそうね。」

 

「んー…別に…楽しい訳では無いけど…悲愴的になっていてもいい事がないから…かな?」

 

「そう、ただ能天気なだけかと思ってた。」

 

「君はいちいち言葉にトゲがあるなぁ…。でも、綾波にもトウジにも怪我はさせないよ。僕が守るからね。」

 

「そう、好きにすれば、先、行くから。」

 

そう言い残して綾波は更衣室を出ていく。

残された僕とトウジの間には静寂が広がった。

先に痺れを切らしたのはトウジのやつだった。

 

「そないしてシンジがエヴァに乗るんはなんでや?」

 

「?…うーん…。」

 

確かに惰性で乗っていたことに変わりはなかった。

何故と問われれば回答に困ってしまう。言葉を並べ紡ぐのは難しい。

 

「え、うーん…。絆…だから?」

 

かつて、僕が綾波に言われた言葉。その言葉を借りるのが結局の所腑に落ちた。

 

「それは、司令とのか…?」

 

「違うよ。みんなとの。僕にしかできないことだからね。」

 

「さよか…シンジはホントに強いんやな…。」

 

「見せかけの強さだよ。本心はビビってる。僕に守れるのか、ホントのところ分からないしね…。」

 

「んな事は無いやろ…。ワシみたいに臆病では無いんや」

 

「ま、トウジのその弱いところもまた強さに変わるから。さて、時間だ…。行こう?」

 

立ち上がって満面の笑みを浮かべトウジに手を差し出す。

その手を取って立ち上がるトウジの顔からは未だ不安が拭えないようで…。でも少なからずその瞳からはケツイが感じ取れた。

 

 

 

月が照らす二子山山頂の特設砲台。ブリッジに居るのは堅苦しくて嫌だったから使徒と第三新東京市を見渡せる砲身の横に腰掛けて町を眺める。

まさか、砲手が僕ではなくトウジになるとは思いもしなかった。

パイロット用のドリンクホルダーを手に取りそれを啜る。

水分補給と軽い栄養剤の溶かされたそれはお世辞にも美味しいとは言えない代物だ。

 

「シンちゃん?」

 

唐突に後ろから声を掛けられて振り向く。

声の主はミサトさんだった。酷く悲しげな表情のミサトさんが安全帯の内側から呆然とこちらを見ている。

 

「そこ危ないわよ。こっちにいらっしゃい。」

 

「うん。」

 

そばに寄るなり優しく抱きとめられる。

 

「ごめんなさい、すぐに顔を出せないで…。苦しい思いをさせてしまったわね…。」

 

「そんなことないですよ?僕には守るべきものがあるから。ね?ミサトさんが僕を待ってくれていると思ったら頑張れました。」

 

にっと笑顔を見せると、何やら不服そうにデコピンを1発してくる。

 

「うにゃっ!?」

 

「でも、命令違反よ?心配したんだから…。」

 

抱きしめられる力が強くなる。寂しげな優しい表情のミサトさん。…?心做しか…女の顔してない…?

 

「…と…ミサトさん…?」

 

「もう少しだけこうさせて?…。」

 

優しい優しい抱擁。これから使徒との大決戦だと言うのに心が安らぐ。

…えっちなことなんて考えてませんよ。

 

「この間の話、この戦いが無事に終わって帰ってきたら…答えを言うわ。それまでは…。」

 

すっと唇に何かが触れる。一瞬すぎて分からなかった。

物凄く近くに顔が見えた気がしたけど…気のせいか?

 

「だから、生きて帰りなさい。これは命令よ。」

 

優しい笑みでそう言われて嬉しくないわけが無い。

必ず生きて帰ろう、そう心に誓った。

 

 

時報が零時丁度の知らせを流す。

ふうっと長いため息を吐くミサト。胸にかけたロザリオは先程のキスの際にシンジの首へと託した。

今や、願掛けをするのは父にではない、あの少年に全てを託して、彼に自分の願いを重ねた。

 

「エヴァ両機作戦位置へ。」

 

「「はい。」」

 

砲手としての参号機、守人の初号機。その2機が定位置へと足を向ける。

 

「しつこいようだけど…。貴方達2人はエヴァに乗ってくれた、それだけでも感謝しています。」

 

モニターに映る2人は真剣な眼差しを向けている。

大盾を担いだ初号機と大型試作陽電子砲のトリガーを握る参号機。それだけでミサトは充分だった。

 

「では。ヤシマ作戦…開始。」

 

重苦しい空気の中匙は投げられた。

間髪入れずに銃弾を叩き込む兵装ビル、だが、それも虚しく、何棟ものビルが加粒子砲によって溶けていく。

だがミサトは諦めない。

 

「悟られる前に間髪入れずに叩き込んでッ!」

 

「第4次接続を開始!!」

 

「電力系統問題ありません!撃鉄を起こせ!!」

 

マコトの一言で撃鉄が上がる。

参号機に装備されたG型装備が照準モードへと切り替わる。

かいた汗が収まらないトウジは早る鼓動を押さえつけようと深く呼吸をする。

 

「地球の自転及び重力の誤差補正プラス0.000009!!」

 

「第5次接続を開始!」

 

使徒はこちらに気づいていない。これならば、この一撃で試合が決まる、とそう確信しきっていたミサト。

 

「超高電圧放電システム問題なし!」

 

「陽電子砲発射まで残り…10!」

 

最後のカウントが始まった。

だが、シンジは最後まで気を抜かない。この先に何が起きるかを理解していたからだった。

 

「2!1!」

 

「発射!!」

 

ミサトの掛け声でトウジはトリガーを引き絞った。

バシュっと音と閃光を上げてそれは使徒のコアを穿いたように見えた。

だが…。

 

「目標のATフィールド健在!」

 

「外した!?」

 

「まさか…このタイミングで…?」

 

「目標内部に高エネルギー反応!?」

 

「総員伏せてッ!!」

 

直撃、とまではいかないものの撃ち放たれたそれは辺りの景色を変えるのは容易で送電システムの幾つかをも破壊してみせた。

 

「うっく…。」

 

警報が鳴り響く車内。だが、損傷はそうでもなかった。

 

「エネルギーシステムと陽電子砲は!?」

 

「3割ほどを焼き切られましたが健在!!陽電子砲は現在砲身を冷却中…!ですが…あと1発撃てるかどうか…。」

 

「確認をしてる暇は無いわ。鈴原君…?大丈夫…?」

 

ミサトは参号機パイロットであるトウジに確認をとる。

モニターに見える彼の顔は青く染まっている。

自分が引き金を引いた結果使徒は倒れなかった。そして、斜面は抉れ何台か止まっていた送電システムを積んだ軽トラックはひしゃげて辺りに転がっている。

 

「うっくっ…。おえっ…」

 

腹から込み上げる吐き気を押し殺して呼吸を整えようと試みる。

だが、飲み下せど湧き上がる不快感と嫌悪感に更に嗚咽が上がる。

 

「…仕方ないわね…。本作戦は現時刻をもって破棄。以後は初号機、単騎による殲滅で行くわよ。」

 

「…赤木博士、待ってください。」

 

待ったをかけたのはシンジだった。

 

「トウジは…逃げないでこの作戦に参加してくれました。先日まではただの子供で…。僕や綾波のような最初から仕組まれた子供じゃない…。それでも挫けないで彼は参号機に乗りました。彼の意思で…参号機を降りない限り…本作戦は僕とトウジに委ねて貰えませんか…?」

 

強い意志の籠った少年の声にたじろぐリツコ。ミサトは少年の言葉を信じ決断を下す。

砲手である少年の瞳からもそのケツイは未だに消えていなかった。

先程、参号機に乗り込む際にミサトから受け取った諜報部へと届いたと言われるトウジとシンジあての幾つかのメッセージが頭の中を反芻する。

 

『鈴原、碇、負けんなよ。俺はまだ予備生だから何にもできないけどそのうちおまえらを支えられるくらい強くなるからな』とケンスケは言う。

『鈴原、碇くん。頑張ってね』とヒカリは言った。

『兄ちゃん、碇さん、負けんでね』とサクラは激励した。

そして何よりも父の激励が一番に彼の励みになった。

汗を流して漸く会えたと息子を抱きしめた父の願い。

『2人ならやってくれると信じとる。やから、絶対に生きて帰りや。』と簡潔ながらもトウジの父らしい言葉であった。

 

「ぐぅう…。」

 

苦痛に顔を歪めながらも操作系を握り直したトウジは陽電子砲を固定位置に戻し狙撃の姿勢を取る。

 

「シンジ君、鈴原君…貴方達2人の思いは受け取ったわ…。今一度、日本中のエネルギーと一緒に、私たちの願い、人類の未来、生き残った全ての生物の命、あなたに預けるわ。頑張れなんて大層なことは言えない…でも頑張ってね。」

 

「「はい。」」

 

「参号機、G型装備を廃棄、射撃最終システムを、マニュアルに切り替えます。」

 

今や熱によって意味をなさなくなったG型装備をかなぐり捨てトリガーに手をかける。

 

 

「使徒、シールド最終防壁を突破!ゼロ地点まで残り僅かです!」

 

「第2射急いで!」

 

今一度、空気が張り詰める。使徒がもう一度ここを穿てば全てが終わる。

 

「!使徒内部に高エネルギー反応!?」

 

「ヤバいッ!!シンジ君ッ!!」

 

ミサトが縋るのは絶対的なNERVのエースである碇シンジただ一人。

知ってか知らずか、シンジ自身もミサトの声には過敏であった。

大盾を地に突き刺し陽電子砲と参号機、ミサト達を守る為に、前に立つ。

そして、首元で揺れるロザリオに手をかける。

 

「ATフィールド全開ッ!!」

 

異常なまでの熱量が初号機を襲う。

F型装備に換装されていようが、装甲や身体に直接的なダメージは少なくとも、その熱量は身を焦がすには充分な熱さである。

 

「まだなの!?」

 

「あと40!!」

 

マコトがすかさずに再装填までの時間を告げる。

 

「…!盾が…!」

 

「もうもたないッ!!シンジ君ッ!」

 

焦りからシンジの名を叫ぶ。

今のシンジの技量ではこの熱量をATフィールドで防ぐことは出来ない。

物理的なこうげきは避けることが出来ても実態を持たない加粒子砲等の攻撃はある程度は軽減できても全て、とは言いきれなかった。

声にならぬ声を上げその熱に耐えるシンジ。

早く照準が揃えとトリガーを握り込む手に力が籠るトウジ。

だが、シンジは漸く、冬月副司令から言われた言葉の真意を理解することになる。

 

「で、電圧変換システム損壊!」

 

青葉が声を荒らげて被害状況を伝える。

外からの高熱と内部の高電圧に耐えかねたケーブルがちぎれ電力の供給が経たれてしまったのだ。

万事休すと職員の誰もが自身の死の運命に身を委ねた。

ただ一人、どんな手を使ってでも勝つという獣めいたケツイを固めた少年以外は…。

白煙を燻らせた装甲の至る所を溶かした初号機がちぎれたケーブルを手繰り寄せる。

使徒の攻撃の手が緩んだ瞬間の出来事であった。

 

「ああああああああぁぁぁッ!」

 

日本全土から集められた電力の全てが集う最後のケーブル。それを手繰り寄せ自身の肩に備え付けられたインパクト・ボルトを触媒に電力の供給を再開させたのだ。

 

「よ、陽電子砲への電力供給再開…!」

 

「滅茶苦茶よッ!!あんな高電圧浴び続けたら…ッ!!」

 

「ああああああああぁぁぁッッ!!たかだか1〜2分耐えてみせるッ!!日向さんッ!!!」

 

絶え間なく流れる電力の暴力。シンジは今にも逃げ出したかった、それでも彼は逃げなかった。

 

「第5次接続を開始!超高電圧放電システム作動を確認ッ!!」

 

「葛城さんッ!!使徒に高エネルギー反応!!」

 

「一かバチか刺し違えてでもこの1射は必ず撃つわよッ!!シンジ君が作り出したこのチャンス3度はないッ!!」

 

「早う…早う…早せんかいッ!!」

 

高鳴る鼓動、シンジの声にもならぬ絶叫を前に気持ちが昂る。

モニターに映る照準器が使徒のコアを捉えた。

間髪入れずにトウジはトリガーを引き絞った。

それは使徒の加粒子砲を貫き一直線に使徒のコアを穿った。

爆炎を上げその巨躯が地に落ちる。

 

「やっ…やった!」

 

柄にもなく声を上げたリツコ、だがミサトはそれを確認すると直ぐに扉を開き一直線に初号機の元へと駆けた。

焼けた地表、熱も冷めやらぬうちに駆け出したミサト。ヒールすらも投げ捨て初号機の元へ、シンジの元へと駆け出した。

 

「…莫迦ねミサトも。」

 

そう呟いたリツコでさえも、シンジの身を案じて車中から外を眺める。

 

「鈴原君ッ!!初号機のエントリープラグを!!」

 

『すまんな!!シンジッ!ちと痛いでッ!!』

 

ウェポンラックからプログレッシブナイフを取り出してエントリープラグのハッチをこじ開ける。

弾き出されたエントリープラグから吐き出されたLCLは湯気が立ち上るほどの高温へとなる。

それはエントリープラグも同様であった。

 

「ぐぅううう!」

 

自身の手が焼けるなど気にも止めなかった。

それよりもシンジの安否を知りたい、顔を見たかった。

トウジもそれは同じだった。それでもあれだけの勢いで駆け出したミサトを見たのだ。男、鈴原トウジ、それに対して茶々を入れぬが男の矜持だと理解していた。

 

「シンジ君っ!」

 

ハッチをこじ開けエントリープラグに入ったミサトは声を荒らげる。

 

「ミサト…さん…?」

 

混濁する意識の中で声が通信ではなく本物であることを悟ったシンジは目を薄らと開く。

 

「滅茶苦茶し過ぎよ…ばか!」

 

「はは…もう少し格好よく勝てるつもりだったんだけどな…。」

 

「誰よりも格好よかったわよ…。」

 

自身が濡れることも厭わずシンジを抱きしめた。

 

「…ごめんなさい…ロザリオちぎれちゃった…。」

 

手に握り締められたそれを開いて見せると、ちぎれているどころかどれ程の力で握ったのか、ひしゃげてしまっていた。

 

「もう良いのよ。これは私に対する枷でしかなかった。父から受け取った思いを貴方に託そうと思った、それだけだから。」

 

熱い熱い抱擁が続く。

 

「ミサトさんの思い、受け取りました。」

 

「ありがとう、生きて帰ってくれて…。生きて帰ったら答えを伝えると言ったわよね?」

 

「はい。」

 

「歳不相応ながら、ダメだけど、私もどうしようもないくらいにシンジ君、貴方が大好きよ。一緒に居てくれないかしら?」

 

「…狡いですよ…僕が告白したのに…。ミサトさんの方が大人の対応してくるんだもん…。

 

「バカね。ゆっくり休みなさい。」

 

そう言って頭を撫でてやるとシンジはすぅっと寝息を立てて眠りへ落ち込んだ。

まだ軽い少年の身体を背負い医療班の元へとシンジを運んだミサト。ふっと肩を撫で下ろしたのもつかの間、ストッキングを脱げとリツコに身ぐるみを剥がされてしまう。

掌と脚がそこそこに重度な火傷であった為にミサトに対しても一応入院の措置が取らされることになった。

 

 

 

「まさか僕が6番目になるとは…思いもしなかったよ。」

は」

 

「ダブリスよ…貴様は我々の願いの為に。」

 

「分かっているよ。それまでは僕の好きなようにさせて貰う。構わないね?」

 

「好きにしろ。だが、初号機パイロットである碇シンジには気を付けろ。」

 

そう言うと老人は直ぐに通信を切った。

短く嘆息を吐いた白髪の少年は空を見上げて言葉を零す。

 

「僕が生命の書に名前を書き連ねたからね。会える時が楽しみだよ…碇シンジ君。」

 




ここから物語が大きく動き出す。
予定です。
えぇ、予定は未定と偉い人も言っていました。
第6の使徒ダブリス、彼は何をしでかしてくれるのでしょうか?

プラグスーツ2回着てました…。ので訂正っと
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