訳アリ調査員の探索記   作:ば な な お い し い な

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探索前日:最悪な旅路の終わり

 田舎の片隅から首都を経由して、此処アークランド大陸の片隅へ。

 掛かった期間(待機時間も含める)、訳2か月。

 かけた費用、考えたくもねぇ。

 

 最短で、一番安いプランで来たってのに頭痛しかしねぇ、ケツもいてぇ、身体の節々もいてぇ。

 スプリングもへったくれも無い馬車の席から一時的に解放されたことで腰を労わりながら、休憩所の丘から見える景色を眺める。

 

 空を覆われ、暗闇に覆われている大地に散らばるいくつかの光に紛れ、その中でも一際大きい光。そこが目的地、ユグドラシル調査ギルド中継基地。調査隊が最初に向かう玄関口。

 そしてその奥。此処からでもデカさがよくわかるくらいデカい大樹。そのデカさは一番近い国の首都からでも見えるっていえば判り易いか? 

 

「さいっっあく! もう、二度と馬車になんか乗らない!」

 

 グロッキー状態からマシになった嬢ちゃんが青い顔をしたまま叫ぶ。かわいそうに。尤も、何の事情があるかは知らんが旅費をケチったのは自分だ。恨むんなら過去の自分を恨みな。

 

「その場合徒歩か馬で帰ることになるが、馬は値段が高いし技量も求められる。よほどのことが無い限り徒歩で変えることになるが、馬車よりも長い日数がかかるし、何より一人旅、それも女の一人旅は危険だぞ」

 

「なら他の人と一緒に帰ればいいじゃない」

 

 面白いことを言う奴だ。じゃあ、その面白い事を言う口に免じてもう一個情報を加えてあげようじゃないか。

 

「ここから歩きで帰ろうっていう酔狂な奴はいねぇよ。一番近い村でも馬車で5日だ。更に首都に行くなら最短3週間だ。マジックアイテムがあるならまだしも、徒歩で持てる程度の荷物でその旅路は無理がある」

 

 途端に口を閉ざし、『何よこの意地の悪い奴』って愚痴を乗っけながら俺を睨みつける嬢ちゃん。

 

「ま、どうしても帰りたいってんなら金を貯めて空路で帰ることだな」

 

 それだけ言って俺は再び遠くに聳え立つ、数十年前に栄えた国家と共に生き、国の名前にもなった大樹ユグドラシルを眺める。

 

 ユグドラシルから広がる枝葉は日の光を遮り、その下に広がる大地を闇で塗りつぶしていた。

 しかし、ユグドラシルが齎したのは暗闇だけじゃない。膨大な魔力とそれによって生育され、特異な環境に適応した様々な動植物や鉱石に高純度な魔石。それらは唯一無二の特産品、そして工業製品の素材として国家ユグドラシルの発展を大いに助けた。

 しかし、その国家が一夜にして滅んだ。

 貿易に向かった商人、観光しに行った貴族から出稼ぎに行った労働者まで、誰一人として帰ってくることは無かった。

 謎を解き明かそうと多くの物が調査に赴いたが精々が複数人、出来ても数十人程度の規模で何もわからない所に向かうなんざ命知らずといっても良い。当然ながら末路は全滅か、若しくはデカすぎる犠牲に対して割に合わない成果で帰ってくるのが殆ど。しかも資金繰りもままならないから次の調査も行えないのがこれまでの流れだった。

 そんな状況を見かねた3つの調査隊が各々の国で出資者を募り、そうしてできたのがユグドラシル調査ギルド。名前が安直すぎるだろ。

 

 ま、高度な工業製品に欠かせないアレコレの一番の輸出国がパタッと途絶えたら困る連中も多いんだろう。その調査と資源調達を一手に引き受けてくれる連中が出たのは渡りに船。そんなわけで膨大な資金と今までに得た情報を所属する調査隊に提供することで安定した調査と資源の採集ができるってワケだ。

 出資者に関しては色々と後ろ暗い話もあるが、俺達下々に直ちに影響のあることじゃないし、どうにもならん問題だ。

 

 危険も多い仕事だが、その分給料も良い。そんな仕事の代表となった調査隊には実に多くの希望者が続出した。

 ロマンを求める奴、富を求める奴、崖っぷちに立たされた奴。いろんな人間がやってきて、そして死ぬ。

 

 何故か? 単純だ。モンスターに襲われるからだ。これ以上ないシンプルな理由だろ?

 この国が何故滅んだかにもかかわる話だが、非常に強いモンスターが跋扈している。食肉用で飼育されていたコッコですら数集まりゃあ蹴り殺されるくらいには強い。そんな状態ならそれ以上に強い連中の強化具合もお察しってところだ。

 大樹から放出される魔力によって、いきなり強化されたモンスターが一斉に暴れ出したことで滅んだ。これが現状の調査段階での結論だ。それだけで此処まで強化されることはないらしいが、その尚の解明もこの調査の目標に入っている。

 

「休憩は終わりだ! 置いて行かれたくなければさっさと戻れ!!」

 

 御者がベルを鳴らしながら怒鳴る。もうそんな時間か。

 さて、俺も早い内に乗らねぇと。比較的振動が少ないポジションが埋まっちまう。

 

 俺の横で、さっきの嬢ちゃんが絶望の表情で馬車に乗り込むのが見えた。奴さんのケツが破壊されないことを祈ろう。




コッコ:食用肉の一つとして大陸全土で一般的に流通している鳥類。ユグドラシル産の物は特殊な環境で育てられた飼料を与えられている為弾力があり、味の濃さで嘗て人気があった。現在では嘗てよりも強くなり、野生化したことで縄張り意識が強くなり、攻撃性と凶暴性も増している為危険である。特に通常種より優に人の慎重よりも高く飛ぶことのできる脚力から繰り出される蹴りは強化していない肉体でまともに喰らえば骨を砕く程である。
 集団では勿論危険だが、一羽でいる場合も集団でいる時以上に危険性が高い為、一般隊員は2人以上、若しくは弓矢などの長距離武器で対処することが推奨される。

 なお、調理法としてはシンプルに塩で焼き上げる事をお勧めする。特にモモ肉は何もつけずに直火焼きが望ましい。臭みはあるもののそれもまた味わいの一つとして楽しめる。
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