「それならここから3キロぐらい先の黄色い小屋に入ったのを見たぞ」
「情報ありがとうございます」
永流とディメトロモンがグリズモンを全力の愛で足止めしている中、淳一と千春はベアモンを捕らえた集団の情報を得て、その者達がいるという小屋へと向かっていた。
「やはり熊と思われて捕獲されたのでしょうか?」
「その可能性は高いが、デジモンは人の言葉を話せる。もしその事がベアモンを捕らえた集団達が気付いて捕まえたとなると・・・」
「そうなるとどうなるんです?」
「ベアモンは見世物となり、デジモンの存在が露見する。最悪の場合、デジモンを悪用する組織や国が現われる可能性もある」
「た、大変じゃないですか!?」
「そうだ。だから我々は早急にベアモンの確保に当たらなくてはならない」
淳一はベアモンの確保のため車を急がせていると、彼のスマホに対策室の仲間から通話が入ってくる。
「運転中だ。代わりに出てくれ」
スマホを預かった千春は代わりに電話に出る。
「もしもし佐久間さん。どうかしたんですか?」
電話をしてきたのは淳一の部下で千春の同僚である佐久間竜司警部だ。彼は元サイバー対策の部署にいたため、電子に強い事から対策室入りした。
『衛宮警視から聞きましたが、今御二人はベアモンというデジモンを捕らえた集団を追っているんですよね?』
「はい。既に私達はその方達がいると情報のあった場所に向かっている最中です」
『GPSで御二人の現在地は把握してますが、おそらくベアモンがいると御二人が向かっている場所はフェイク。ガセネタです』
「え?どういう事ですか?」
『デジモンは電子生命体。彼らが動くと必ず電子の残留物が、何かしらで周辺の電子機器に大なり小なり影響を与えるという仮説があるのはご存知ですか?』
「知りません!!急いでいるので仮説ではなく結論とベアモンの居場所をお願いします!」
『ハァ。分かりました。結論を述べるとデジモンの動きは車ではないのにNシステム含む探知機に反応しやすいので、Nシステムがベアモンとその乗せた車の行き先を捉える事に成功しました。今、そのスマホに位置情報を転送しますね』
通話を終えて転送された位置情報を確認してみると、その場所は教えられた場所とは全く異なる場所だった。
「さっきの人から聞いた場所とは全然違う場所じゃないですか!」
「あらかじめ情報を撹乱するための要員を配置してたか。組織や国の絡む可能性がある。急ぐぞ」
最悪の事態を避けるため、2人の乗った車は急旋回して位置情報が示す場所へと急いだ。すると2人が到着したタイミングはベアモンが怪しい黒服の男達に売買されている真っ最中だった。
「警察だ。全員そこを動くな!」
拳銃を構えながら淳一と千春が売買に割って入ると、バイヤー達はベアモンよりも自分達が警察に捕まり情報を流してしまわぬよう逃げる事を優先した。
「待ちなさい!」
「待つのはお前だ。まずは保護対象であるベアモンが優先しろ」
淳一に注意された千春はバラバラに逃げて行ったバイヤー達の確保を断念して、淳一とベアモンのところに戻る。
「怪我はないか?見たところ大した怪我はないようだが、デジモンをこれほど間近で見た経験がないので怪我の具合が分からない」
「ぼ、ボクは大丈夫。だけどボクを守ろうとしてくれてたお兄ちゃんが・・・」
「グリズモンの事だな。グリズモンは今君が攫われた事で見境なく暴れてしまっている。急いでグリズモンのところに戻るぞ」
ベアモンを無事保護した淳一と千晴はグリズモンを止めようと奮闘する永流達のところへと車を急がせるのだった。
一方その頃、グリズモンの足止めをしているディメトロモンはというと。
「きゃあ!?」
見た目の割に素早い反面、パワーはそれほどでもないディメトロモンはグリズモンを抑え込もうとするも、押し負けてしまう。
「グリズモンは格闘能力に優れたデジモン。熱線攻撃のルミナスヒートなら行けるかも知れないけど、林で使うには場所が悪いし、何よりグリズモンに必要以上にダメージを与える」
大知はこれ以上の足止めは難しいと困っていると、自分の元へと向かってくる1体の姿に気づいた。
「お〜い大知!」
「ブイモン!?」
そう。大知のパートナーデジモンのブイモンだ。
「大知!置いてくなんてひどいぜ。偶然大知達の乗ってた車を見かけたから良かったけどさ」
「ブイモン、ここまで走ってきたのか?」
「あぁ、だって俺は大知のパートナーデジモンだからな」
「ありがとなブイモン!さっそくで悪いがデジメンタル進化だ!」
「オウ!」
大知はデジヴァイスを操作すると、デジヴァイスから発せられる光がブイモンに向かい飛んでいく。
「ブイモン!アーマー進化!」
その光を浴びたブイモンは黒いアーマーを纏った四足歩行の獣へと進化した。
「ライドラモン!」
【ライドラモン】
【アーマー体】【獣型】【フリー種】
【友情のデジメンタルのパワーによって進化したアーマー体の獣型デジモンです。大地を貫く稲妻のような素早い動きで敵に立ち向かいます】
【必殺技は稲妻を宿した頭のブレードから電撃の刃を放つライジングブレードと背中の3本の突起から雷撃を放つブルーサンダーです】
デジヴァイスがライドラモンの解説を終えると、グリズモンはライドラモン目掛けて突進してくる。
「遅い!」
ライドラモンはディメトロモン以上の素早い動きでそれを避けた。
「ライドラモン!パワー勝負に持ち込まれたら敵わない。スピードで翻弄するんだ!」
「分かった!」
素早い動きでグリズモンを撹乱したライドラモンは3本の突起に電気エネルギーを集める。
「ブルーサンダー!!」
青い雷撃を浴びたグリズモンはその場に伏せるように倒れるも、気合いで起き上がろうとする。
「ま、まだだ」
「もう止めてお兄ちゃん!」
「ベ、ベアモン」
まだ戦おうとするグリズモンが起き上がったタイミングで淳一達がベアモンを連れて戻ってきた。
【ベアモン】
【成長期】【獣型】【ワクチン種】
【後ろ向きに被った帽子がトレードマークの子熊の姿をした獣型デジモンです】
【必殺技は相手の懐に飛び込み正拳突きを打ち込む子熊正拳突きです】
デジヴァイスがベアモンの解説を終えると、ベアモンはグリズモンに駆け寄る。
「ベアモン。怪我はないか?」
「ボクは大丈夫。だけどお兄ちゃんは傷だらけじゃん」
「なんのこれくらい」
怒りよりも弟との再会が勝ったグリズモンは大人しくなると、ベアモンと共に大知達へと振り向く。
「人間達。迷惑をかけたな。すべての人間が悪いという訳ではないと理解はしていても、焦りで我を見失っていた」
「こっちこそ止めるためとはいえやり過ぎた。永流、グリズモンとベアモンを回復させてくれ」
「任されました!」
大知に2体の回復を任された永流はポーチから青い液体の入った2本の瓶を取り出した。
「永流ちゃん。それは何?」
「HPポイントⅠ。分かりやすく言えば、デジモン専用の回復薬ですね」
「回復薬。なんだかゲームみたい」
「永流は現代最後の錬金術師を自称している本物になった錬金術師なんですよ」
「本物になった錬金術師?」
アニメやゲームなどで錬金術師というものは知っていた千晴は『本物になった』という部分を気にする。
「廃れかけでしたが確かに俺は陰陽師の家系の生まれで、その応用で電子陰陽術を編み出しました。だけど永流は一から錬金術を再現したんです」
「デジタルワールドで知り合ったデジモン達の知識も借りてですよ。私なんてまだまだです」
「それでも愛があって成せる技よ」
エリザモンに戻ったディメトロモンは永流の事を褒めると、千晴はグリズモンとベアモンが飲んでいる回復薬を指差しながら尋ねる。
「つまりその薬は永流ちゃんが作ったものって事!?」
「は、はい。そうです」
永流は少し照れながら答えると、回復薬を飲み終えたグリズモンとベアモンはみるみるうちに回復した。
「永流。その回復薬はどれくらい残ってる?」
「あと3本だけですね。こっちの世界でも材料の代用品になるものが見つかればいいんですけど」
どうやら回復薬はデジタルワールドにある材料で作られたものらしく、人間世界で代用品になるものがあるかは分からないらしい。
「グリズモン、ベアモン。君達に聞きたい事があるのだが・・・君達はどうしてコチラの世界に来たんだ?」
淳一は疑問を抱いていた。人間世界に来ているデジモン達の多くは何か目的があってこちらに来ている訳ではないというのに、着々と人間世界にデジモン達が増えつつあるのは何故か?その理由を原因を知りたかったのだ。
「いつも通りデジタルワールドの森で過ごしていたら、目の前にいきなりこっちの世界に繋がるゲートが現れたんだ」
「ベアモンはそれに吸いこまれてしまい、自分も弟を追ってこちらの世界に来たという訳だ」
「つまり自分達の意思でこちらに来た訳ではないという事だな」
グリズモンとベアモンは淳一の言葉に頷く。自分達の意思でこちらの世界に来れはしない。それが分かっただけでも収穫としては十分だった。
「なのでデジタルワールドに帰る手段を持たないのだ。これからどうするべきか」
「室長・・・」
デジタルワールドに帰る手段すらないグリズモンとベアモンはこれからどうするべきかと困っていると千晴が淳一にある事を耳打ちする。
「それで行こう。・・・グリズモン、ベアモン。帰る手段がないのなら、帰るまででいいので頼みがあるのだが」
「頼み?なんだ?」
「我々電子超常犯罪対策室は回収したデジタマの管理も仕事なのだが、デジモンというまだ未知の存在の対応は我々だけでは難しい。そこで君達に我々が回収したデジタマの管理、および孵化したデジモンの世話役を頼みたい」
デジタマの管理、および世話役を情報漏洩阻止の観点から安易に外部の人間に任せられなかったのだが、任せる相手がデジモンであるなら話は別だ。
「確かにデジモンの世話役ならデジモンに任せるのが適任ですね。万が一があってもグリズモンほどの戦闘能力なら問題ないはずですし」
「デジモンの世話役か。ベアモンの生まれた頃を思い出す。・・・分かった。自分で良ければその役目、引き受けよう。ベアモンも手伝ってくれるな?」
「うん!ボクも手伝うよ!」
グリズモンとベアモンは快く引き受けてくれると、少しずつ騒ぎに気づいた一般人のギャラリーが増え始める。
「これ以上目立つのはよくない。移動するぞ」
「でもグリズモン達は・・・」
目立つのを避けるため淳一の車に乗って移動しようとするものの、4人乗りの乗用車サイズの車ではどう頑張ってもグリズモンとベアモンを乗せる事は出来ない。どうしたものかと困っていると、1台のトラックが淳一達の前に停車した。
「お困りのようだねぇ室長」
「ナイスタイミングです。尾崎さん」
現場までトラックで来てくれたのは尾崎裕二警部。彼はクマのデジモンと聞いた時点で運搬用にトラックを用意しようと動いていたのだ。
「グリズモンとベアモンはトラックの荷台に乗ってくれ」
「念の為ちーちゃんもこっちに乗ってくれや」
裕二に頼まれて千晴もトラックへと乗り込むと、彼らは電子超常犯罪対策室01課が管理する政府がデジモン対策のために秘密裏に用意した施設へと向かった。
「ここは?」
「政府公認のデジモン対策施設。Butterflyだ。我々はこの施設と連携してデジモンに対処しようと動いている。ここならセキュリティも厳重で情報漏洩の心配もないはずだ」
「お待ちしておりました衛宮さん」
「どうも和多さん。こちらの人がButterflyの最高責任者である和多晃司さんだ」
Butterfly最高責任者の和多晃司に大知と永流は軽く頭を下げて挨拶を済ませると、晃司は2人のパートナーデジモンであるブイモンとエリザモンに注目する。
「君達が選ばれし子供達のパートナーデジモンか。資料では拝見していたけど、直接デジモンを見るのは初めてだからテンションが上がるよ!」
「わぁ、いつも最初はビビられてばっかりだったから珍しい反応」
「愛ねぇ」
「おっと、すまない。グリズモンとベアモンも迎え入れないとだったね。それじゃ、また後で」
晃司はグリズモンとベアモンを迎えるためにこの場を後にすると、そのタイミングを見計らって他の研究員達が大知達を取り囲む。
「君達が選ばれし子供達だね!」
「デジヴァイスってのを見せて!」
「デジタルワールドってどんなところ?」
研究員達の質問攻めにあい、大知達はしばらくの間帰るタイミングを逃してしまうのだった。
次回「飛翔 ゲイルモン」