海上自衛隊TS護衛艦隊 ―男児は少女となりて咆哮す― 作:えぴっくにごつ
――その世界の文明は、ある日突如として崩壊を迎えた。
「ハーム」――「害」を意味する名称で後に呼ばれるようになった、正体不明の異常生物の出現。
ハームはその脅威的なまでの破壊性で、人類社会を襲い。まるで飲み込み、もしくは押し流すかの如きで壊滅へと陥れた。
数々が失われ、かろうじて少しの人々が生き延びたが。しかし凶悪な災厄を前に、人類に最早希望は無いかに思われた。
だが――ハームの出現と同じくして、世界にある現象の出現が確認された。
それは、一度は失われた人類の作り出した技術を。その「力」を、形を変えて再び呼び起こし、戦う術として携えることを可能とするもの。
かくしてそれは「技術」として構築され、人類の携える「刃」となり。
人々は凶悪な災厄に対して、反撃の火を灯す事となる――
「――これが……俺……?」
「彼」は、自らのその姿を。用意された鏡面スクリーンに見せられ、思わずの言葉を零した。
そこは日本国の防衛組織、海上自衛隊のある施設。
現在はハームによる被害から、大きく規模を縮小することを強いられた海自の。しかしハームへの抵抗を継続するための、一つの拠点。
「彼」は新任の、新米幹部海上自衛官。
人類を脅かすハームに立ち向かう事を誓い、海上自衛官を志した身。
その彼は、その日。ハームと戦う「力」を携えた――その身体の、驚くべき「変貌」を伴って。
事前に再三説明はされ、「力」を携えるためならばと受け入れたものではあったが。
しかしやはり、実際の己が身の「変貌」を目の当たりにした今。彼は、驚きの声を漏らさずには居られなかった。
「驚くのも無理は無い。しかし、その姿こそ君の携える力だ――」
そんな彼に答えたのは、背後に立つ一人の女性。
「彼」の上官となって間もないその女性は。透る声色で、確かとする言葉を紡ぎ伝える。
「力……――」
紡がれ掛けられたその言葉を、反芻する一声を零し。
「彼」は、「小さくきめ細やかな」なものとなった己が手に。覚悟の拳を形作った――
日本本土を少し離れた、太平洋側のある海域の洋上。
現在、海域周辺は荒れている。
その原因は、その上空に「居座る」――巨大で、あまりに禍々しい存在にあった。
「それ」の全形は、海洋軟体生物と甲殻類がごちゃまぜになったような異様な姿。
持つ色彩は、それに合わせたように毒々しく。
そして何よりその全長は、一般的なドーム建造物を容易く飲み込んでしまう程に巨大。
それこそ、人類の敵――「ハーム」。
性格には多数の形態が確認されているハームの中でも、「要塞型」と名称区分されるもの。
そして、圧巻されそうな程の巨大さだが。実は観測されている中では中型に分類される方であった。
「――アポ無しで、デカブツがおいでなすったッ」
そんな洋上上空に居座るように滞空する要塞型ハームを、頭上の向こう見上げながら。
そのハームの発する「特性」の影響で荒れる洋上海面を――しかし、「飛ぶように滑り進む」姿がある。。
透る声色で似合わぬ悪態を零しながら。ハームを遠巻きにして周る軌跡を取る、小型な身姿。
――それは、一人の少女であった。
美麗な長い黒髪に飾られるは、あどけなさを残しつつも凛とした顔立ち。美少女と形容することに負い目など無いそれ。
十代後半程の年齢と見えるその少女の身体は、初々しくも良い発育を見せる。
その身体が纏うは、軍服類の特徴を併せ持つ、女学生の物のような制服。
……なのだがしかし。その衣裳は何か、制服の類と見えるにも関わらず。
それでいて、谷間やら腹に腰やら太腿やら、妙に際どい造りで露出が多い。
だがそれ以上に。そんな事は細事とする、あまりに似合わぬ代物を彼女は抱え携えていた。
それは――大砲。正確には、艦砲。
5インチ、127mmの口径を持つ長砲身の速射砲。
さらにそれだけでは無く。
防空ミサイルを撃ち放つための発射レールに。
対艦ミサイルの発射筒を束ねたランチャー。
いわゆるバルカン砲と俗称される高性能機関砲。
その他にも、様々な機械類に構造物に装甲の類が。
専用の物と思しき骨格(フレーム)で少女の身体と接続し。そして少女の身の周りに、ちょっとした要塞でも再現するかのように装着付随しているではないか。
詳細を明かせば、それは軍艦――かつて海上自衛隊で運用された、「護衛艦」に見られたものと同様のもの。
そして良く観察すればその装備群の一点には。
白色の文字で171の番号が。
そして――[はたかぜ]という名称が記されていた。
――はたかぜ型護衛艦 DDG-171 はたかぜ。
少女の携える火器に装備は、その[はたかぜ]のもの。
――いや違う。今となっては少女自身が、[はたかぜ]そのものなのだ――
災厄の前に絶望の淵にあった人類に、まるで一つの希望を示すように現れたのは。
かつて人類が生み出し、しかし失われた兵器・武器の数々を再び「呼び起こし」。そしてそれ等を人間の身に「装備」として纏い、戦うことを可能とうる「技術」、「力」。
そしてその中でも、軍艦――海上自衛隊の護衛艦の力を呼び起こし、携えるに至ったのが。
彼女、いや彼女たち。
彼女たちは、「護衛艦少女」と呼ばれた――