「これじゃないんだよぉぉぉぉぉぉ‼」
少女の慟哭が響き渡る。
ピンク色でフリフリな装飾がされた、いかにも魔法少女のコスチュームと言える年頃の女の子が好きそうな衣装を着てるというのに、その少女の顔は絶望にあふれていた。
そばには青年とウサギをモチーフとしたかわいらしい二頭身の不思議な生物。
少女と向かい合う形で立ち呆けているどこか怪しくもかわいらしくデザインされたコウモリの怪人。
それぞれがそれぞれ複雑な感情を持ちながら魔法少女を見つめていた。
魔法を使ってみたいと思ったことはあるだろうか?
そういった創作物に触れたことのある人なら大なり小なり思ったことはあるだろう。
空を飛びたいとか炎や雷を出してみたいとか、大きなお友達ならいい感じに言うこと聞いてくれとか身体の疲労が取れる魔法とか欲しいのではないのではなかろうか。
ある少年もファンタジー小説を読み、次の日には木の枝を削って杖にしたりよく分からん草を適当に煮込んだり。友人も交えて魔法使いごっこなんてやっていたある日、
本当に使えてしまった。
適当に考えたオリジナル呪文を唱えて自作の杖を振って遊んでいたら、杖の先に火がともった。
今でも覚えているあの感覚。
世界が遠のきながら身体の中にあるエネルギーが杖へと流れ込み、先端へと集束し小さな火となった。
呆然とすることに一拍、把握するのに三拍、喜びの叫びは小一時間続いた。
それから魔法の研究、実験を始めた少年。親は危ないことはしないようにと注意するだけで止めることはなかった。
魔法について調べる傍らで私生活、学校も通いよくある付き合いの悪さや不気味な存在と思われることもいじめも起きることなく、少年は大学生となった。
そう、本当に何も起こらなかった。
理由としては少年が一人で楽しみたかったということ、そして「あ、これ秘密にしておいた方がいいな」と至極まっとうな思考に至ったこと、もっとも一番の理由は「闇の魔法使いとか現れて戦ったりするなら、俺も魔法使いなんだ、って実は俺スゲームーブしたい」と子供なりのアホな考えだった。
とはいえ、鼻水垂らして駆け回っていた少年も今や大学生、誰にも言わずにいたことを後悔していないし安易に人に言わなかったこと過去の自分をほめようと思う程度には精神も成熟していた。
「うーん彼女できても呼べねぇな、この部屋」
大学生になるにあたり、一人暮らしを始めた魔法使いの青年、進藤和明は荷解きをしていた。
新しく購入した机やベッド、本棚に自宅から持ってきた服やカバン、そして魔法研究の道具一式。うっかり実家に置いておいて誰かが触るといけないので持ってきたが、そもそも触る人はいるのかといったラインナップ。
さまざまな木の枝や、植物や生き物の標本に、鉱石類。ここまでならただの研究が好きなだけと言い訳もできるが、怪しい言語で書かれた謎の本に、書いた本人にしか読めないよう魔法的プロテクトがかけられた何十冊にも及ぶ魔法の研究結果が書かれたノート。
ほかにも研究する際にできた魔法道具ともいえる、骨董市で見かけるような指輪や人形など、常人が見れば顔を引きつらせてそのまま引き返して家を出ていくだろう怪しげな品の数々。
「オカルト研究会の人なら喜ぶかな?」
そんなバカなことを考えているとピンポーンと玄関のチャイムが鳴った。
進藤が扉を開けると、そこには誰もいない、
「やっほー! かず兄ちゃん! 遊びに来たよ‼」
わけでもなく、視線を下におろせば桃色の髪をした中学生くらいの女の子、浅霧真帆が笑顔で立っていた。
「真帆ちゃんいらっしゃー、………家の場所教えてないよね?」
ドアを開けた和明が笑顔で出迎えようとして、動きが止まった。
和明は今日引っ越したばかり、さらに引っ越し先は家族にしか言っていない。友人がいないわけでもわざと言わなかったわけではなく、単純に言っていないだけである。いい加減かもしれないが男同士なんてそんなものだ。
だというのに玄関先の少女は真の新しい住所を知っているのである。
なぜ? どうやって? 疑問が頭を埋め尽くしてフリーズした和明を見て少女はどや顔で胸を張った。
「もちろん………………魔法ですよ」
たっぷりと貯めてからの満面の笑み。先ほどまでより強くなったどや顔は背後にドヤァとうっすら文字が見えるほど。
それに対して新住居を突き止められた和明、混乱していた彼は真帆のあまりのどや顔っぷりに一周回って冷静になり、
「ちゃんと説明しない子は部屋に入れません」
と、ドアを閉めた。
『待って待って師匠! お願いだから開けて! ちゃんと説明するからぁ~‼』
ドアを叩いた少女が泣きかけるまで和明は無視して荷解きを続けた。
「うちの親が?」
「ひゃい………」
徐々に小さくなる声に嗚咽が混じりかけてようやく部屋へ入れた真帆は、星座をしながら白状していた。
「いつも通り家に行ったら、おばさんが教えてくれて、その、ちょっと驚かしたくて、連絡なしできました。ごめんなさい」
そして頭を下げる真帆。しかもかすかにふるえている。
正座のまま謝るので正確には座礼のはずななのだが、外観としては泣いている年下の女の子に土下座させる年上の男性、どう見ても事案である。
慌てて怒ってないから顔をあげてほしいと伝えると、
「ばぁ‼ 泣いてませんでした!」
笑顔で笑いながら顔を上げる真帆。
真顔になった和明は、無言で外へ放り出した。
「まったく、いたずらばかり上手くなってどうしたもんか」
「はーい! 魔法が使えるようになったらわたしも落ち着きまーす!」
元気に返事をする真帆を見て和明はため息をついた。
始まりは数年前、和明がおつかいを頼まれた帰り道、通りかかった公園から鳴き声が聞こえた。
気になって公園へ入れば、中が空洞になっているドーム状の遊具で泣いている真帆がいた。
一人っ子で年下の子供の相手をする経験もない和明は大いに慌てた。それはもう、慌てすぎてその様子を見ていた真帆はいつの間にか泣きやみ、和明はそのこと気がつかないままにどうにか慰めようとあらゆることを試した。
そう、魔法を使ってしまった。
泣いている最中ならともかく、すでに泣きやんで頭も冷静になっていた真帆は驚いた。
そんな様子を見て泣きやんだと勘違いした和明はできる限りの魔法を使って見せたのだ。
笑いながらもっともっと、とせがむ真帆に調子に乗って魔法を見せ続け、日が沈みかけたことに気がつくと和明は手を繋いで家まで送り届けた。
真帆の母親に玄関でお礼を言われ、また今度魔法教えてね!と指切りをして家に帰った和明は、帰りが遅いと母親に叱られて寝た。
「あー‼︎ やっと見つけた魔法使いのお兄さん‼︎」
魔法使いの青年がやらかしたことに気がついたのは一週間後のことである。