自我持つ兵器の英雄譚   作:Nyappy-

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本作オリジナル艦娘の登場です。
サブタイトルで分かる人には分かるかも?



第一章 Ep.2 海原を駆ける戦乙女
5. 雲出ずる時 (前編)


 

東京に戻り艦娘研究の進捗状況を報告した洋平達は、そのまま艦娘運用の為の訓練を受ける事となった。前々からこの3人を新設予定の艦娘運用部隊の司令部に配属する事は決まっていたらしい。何でも

 

『艦娘は運用ノウハウが何も無い新機軸の兵器。艦娘ならではの戦術を考えるなら必要以上に通常艦の経験が無い方が良いだろう』

 

との事だった。

 

 

 

 

 

艦娘技術研究所 所長室

 

「…で、結局ここにとんぼ返りと」

 

「ああ…ったく、もうちょっとやりようあっただろ上層部も。何で俺たちに東京〜北海道を往復させるんだよ…。そもそもよく考えたら進捗報告なんて通信1つすりゃ済む話だっただろ」

 

艦娘運用の訓練をする、といっても軍事機密の関係でそれが出来る環境が整っているのが艦娘技術研究所しか無かった為に東京に帰って半月ほどでまた北海道へやって来る羽目になった3人。そして、

 

(進捗報告なんて通信で聞けば良かっただろ)

 

と考えた洋平は秋吉に愚痴を漏らしていた。

 

 

「艦娘は今のところ最高軍事機密。傍受される危険を無くしたかったんだよ」

 

「秘匿回線とか無いのか?」

 

「そりゃあある。けどそれでも危ないんだ」

 

「何でだよ?」

 

「何処にスパイが潜んで居るか分からない。秘匿回線と言えども傍受される可能性がゼロって訳じゃない」

 

「そんなにスパイがうじゃうじゃ居るのかよウチの軍は…」

 

「何も国防軍に限った話じゃない。世界中で確認されているんだ」

 

「世界中??」

 

 

 

 

『謎のスパイ活動が世界規模で行われている』

『何処の国や組織の工作員なのか全く不明』

『電波の様な物が飛び交っている事は把握出来ているが発信元・受信元共に不明。海に向けて発信されているという未確認情報もあるが詳細不明』

 

という報告がここ数年続いていた。これに対し各国・組織が様々な対応を取る中、日本を含む数カ国の軍事組織はこれをSUEによるものだと考え、それぞれが規模こそ差は有るが進めている『対SUE兵器開発』を秘匿すべく、スパイ対策に力を入れているのだ。

 

だが現状潜入しているスパイの摘発には至っていない為、こうして厳重な警戒の元で連絡を取っているのだった。

 

「思ったより人間社会に溶けこまれちまってるんだな」

 

「そうだね…SUEの姿を捉えていた601空のホーネットのガンカメラの映像を観たけど、とても人間の中にバレずに溶けこめる姿じゃ無かったんだけどなぁ…人型の個体は確かにちゃんと人型ではあったから、遠目で見ればバレないかもだけどさ…」

 

「姿を変えられる、とか?」

 

「もしかしたらね。艦娘には今のところそんな能力が搭載される予定は無いけど…」

 

「「うーん……」」

 

 

と、2人で考えこんでいると…

 

 

 

ウィーーン

 

「戻ったよ、兄貴」

 

「ただいま〜!」

 

ドアが開き、艦娘運用訓練を受けに行っていた海斗と美香が入ってきた。

 

「どうだったんだ?」

 

洋平が2人に訓練の感想を聞く。

 

「艦娘の力は凄いよ兄貴!」

 

「確かにこれならSUEに勝てそうって思えるわね」

 

「そんなにか」

 

海斗と美香はシミュレーターでの艦娘の性能に満足していた。

 

「まあ、それはあくまでシミュレーターの中での話だけどね。実際のSUEの実力がどこまでの物なのか正確には分かってないしさ」

「無論、どんな奴が来ても絶対に勝てる性能には仕上げるけども」

 

「ああ、頼むぜ。…それで、戦術面で分かった事とかあるか?」

 

「そうね…やっぱり通常艦とは訳が違うわ。いやまあ同じ戦術を適用する事は出来るけどさ?」

 

「艦娘が出来る事はそれだけじゃない。通常艦では考え付かないような戦術も取れそうだ。」

 

「海軍軍人が艦船に対して抱く『常識』から疑う必要がありそう。何なら船の事を詳しく知らない子供の方が良い戦術を編み出せそうね。」

 

「固定観念に囚われるな、って事だな…ちなみに何か思い付いたか?」

 

「ああ。例えば、『魚雷はジャンプで避けられる』だな」

 

「確かにそれは艦娘ならではの回避方法と言えるね。流石は神崎家、戦闘IQが高いね」

 

この短時間の訓練で、海斗と美香はもう艦娘運用のノウハウを少し手に入れたようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえばだが…」

 

「どうかした?」

 

洋平が秋吉に前々から気になっていた事を尋ねる。

 

「どうして今建造しようと研究している艦娘は昔の艦艇が元になっているんだ?現代艦をモデルにすればもっと良さそうなもんだが?」

 

「…技術的な問題とか諸々の事は置いといて、昔の艦艇の方が良いと言える明確な理由は1つある。みんな、戦艦とかにあって現代艦に無い物って聞かれて何か思い浮かぶものはある?」

 

「戦艦にあって現代艦に無い物、か…」

 

「逆ならいくらでもあるだろうけど…」

 

 

 

 

 

「…ああ。もしかして…」

 

美香が何かに気付く。

 

「分かった?」

 

「…装甲ね。物理的な防御力は大戦期の艦艇の方が優れてる。でもそれが関係あるの?」

 

「うん、大有りなんだ。まず、これは戦訓から導き出した事なんだけど…恐らくSUEはこちら側のレーダーをジャミング出来る」

 

「はぁ!?大戦期レベルの技術力じゃなかったのかよ!」

 

「レーダーが使えないんじゃ現代艦は本領発揮出来ないわね…」

 

海斗は思っていた技術力と違うと驚愕する。美香は冷静に考察している。そんな中、

 

 

「…いや、レーダーは使える筈だろ?601空のF/A-18や空軍のF-1・F-2のレーダーでは捉えたって見たぞ」

 

以前読んだ戦闘報告書の内容を思い出した洋平が反論する。

 

 

「別にレーダーが『完全に』使えないとは言ってない。ただ現代艦の交戦距離で使おうとするとダメだって事なんだ。SUEとの距離さえ縮まれば普通に機能するさ」

 

 

 

 

 

 

「…あーだから『装甲』なのね」

 

洋平と秋吉の会話を聞き、美香は答えに辿り着いた。

 

「そう。結局そのくらいの距離で交戦した場合、現代艦の優位性を活かせないんだ。それどころか装甲の薄さが致命的過ぎる。だから…」

 

「どうせその距離で交戦するなら現代艦より大戦期の艦艇だ、って事ね」

 

「そう。…それにここだけの話、実はもうそのやり方で戦果も上がっているんだ。」

 

「「「え」」」

 

3人に衝撃が走る。『ミレニアム・ショック』以降SUEの襲撃は起きていない筈。なのに何故…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「機密情報だからね…これは僕達『対SUE技術研究者』など、一部の人しか知らない話なんだ。実は…『ミレニアム・ショック』以降一度だけSUEとの交戦が確認されている。」

 

 

 

そこから秋吉は

 

『何故艦娘のモデルに大戦期の艦艇を選んだのか』

 

その最大の理由となった出来事を話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2002年初頭、アメリカ・ハワイ諸島近海にてSUEの物と思われる反応がレーダー・ソナーに確認される事例が相次いだ。初確認から1ヶ月程経っても攻撃される気配は無かったが、艦隊を危険に晒す恐れがある為に米海軍側もハワイから出られなかった。

 

だが今は対テロ戦争中。いつまでも主力艦隊がハワイに閉じ込められたまま、というのは戦争遂行に影響を及ぼす。

 

その為、これを受けた米海軍上層部は戦訓を鑑み、ある作戦に打って出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

退役後、記念艦として真珠湾に停泊していたアイオワ級戦艦「ミズーリ」を無理矢理実戦投入可能な状態まで修復し、少数のイージス艦と共に件の海域に突っ込ませたのだ。

 

すると何故か今まで散々目視されないよう潜伏していた筈のSUEがミズーリに向けて突っ込んできた。当然「ミズーリ」側も応戦し砲撃戦に。

 

数はSUEの方が多い上、イージス艦を下がらせた為に「ミズーリ」はタコ殴りにされた。だが流石は戦艦。簡単には沈まなかった。雨のような砲撃を耐え抜き逆に16インチ砲の大火力を叩き込んだ。

 

結果、「ミズーリ」は単艦でSUE艦隊を撃滅。自身は艦上構造物がボロボロになったが生還した。

 

世界最後の戦艦によって『大戦期艦艇の砲撃戦能力』が有効である事が示されたのだ。

 

 

作戦は極秘で行われた為、この交戦記録は関係者以外知る者は居ない。「ミズーリ」が動いた事についても米政府は

 

「破損箇所が見つかった為修復の為にドック入りした」

 

と誤魔化した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが、最大の理由さ」

 

「あの一件ってそう言う事だったのか!?」

 

数年前に「ミズーリ」ドック入りのニュースを見ていた洋平はその真相に驚いた。

 

「勝ったんだ…!?SUEに!」

 

「さすが戦艦!でもそう言う事なら納得だわ。通常艦でそれなら同ジャンルの艦娘ならもっと上手く出来そうだし」

 

3人は「ミズーリ」の知られざる活躍を聞き、益々艦娘に期待を膨らませるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、3人は1年以上掛けて訓練に励んだ。

 

 

 

 

 

尚、訓練を開始して1ヶ月程経った頃、美香の妊娠が発覚。その事を知った秋吉は

 

(艦娘建造における人道的な問題点を解決する為の実験にその赤ちゃんを使わせては貰えないだろうか)

 

と考えていた。が、その事自体が人道的にマズイ事は分かっていたから、美香達には言えずにいた。

 

しかし独り言で呟いていたのを聞かれていたようで、後日美香本人から

 

「これから先少しでも無茶な改造をされて戦闘に投入される子供達を減らせるなら使って欲しい」

 

と言われた。海斗も同意していた。

 

斯くして海斗と美香の第一子を対象とした実験が開始された。

 

まず着手したのは

 

『艤装との接続・同調に完全に適応する為の身体強化』

 

である。実は現在の艦娘技術には致命的な欠陥があった。それは

 

『艤装を運用し続けていくことによって起こる人体への悪影響』

 

だった。要は人体に艤装という異物を後天的に取り付ける事で肉体の拒絶反応が起こってしまうのだ。艤装は一見するとただ少女が身体にパワードスーツのように纏っているだけに見えるが、実は艤装は肉体と神経接続されていて、正真正銘『自分自身の身体』として動かせるようになっていた。(兵装等の操作は「乗組員」として乗り込んでいる妖精達が補助してはいる。形状によっては例外あり)

また、艦娘の脳は手に入れた情報を処理するCICの役目も持っていた。

 

だがそんな無茶苦茶な改造をして副作用が無い訳が無かった。大量の情報処理によって脳へ掛かる負荷や、艤装自体や艤装を取り付ける為に身体に埋め込む接続用プラットフォーム・兵装用ハードポイントといった異物に身体が拒絶反応を起こしてしまう危険性があった。

 

こういった理由により、秋吉は現在の艦娘技術を『欠陥品』と捉えていたのだ。そしてその欠陥を解決する為に

 

『遺伝子操作などを行うことで先天的に完全な艦娘能力を持たせたデザイナーベビー』

 

を造る事で解決しようとしていた。

要するに『強化人間』や『コーディネイター』なんて呼ばれる存在である。

 

そしてそれを実現する為の実験を美香の赤ちゃんで始めたのだった。

 

女の子である事が判明したその子は、人類を救うことを願ってノアの方舟にちなみ『希空(のあ)』と名付けられたが、争いの為に産み出される存在にその名が付けられたのは皮肉にも思えた。

 

 

半年後、希空は無事に誕生。しかしその身体を実験に使用する為に研究所内で育てられる事になった。

 

彼女は遺伝子操作などにより通常の人間を凌駕する頭脳を持って生まれた。その為、秋吉は艦娘技術改良実験の傍ら、希空に科学者としての英才教育を施す事にした。彼は、希空が自らを超える天才になれるだけの能力を持っていると確信していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2004年10月

 

日本国防海軍に

 

『特務艦隊司令部』新設。

 

洋平が司令長官として着任。直属艦隊として

 

『第一特務艦隊』(以下一特艦)、

『第二特務艦隊』(以下二特艦)が新設。

 

一特艦司令官は洋平が兼任し、二特艦司令官は海斗が、副官に美香が就いた。二特艦は外地に出撃する事も想定している為、艦娘を戦闘海域付近まで輸送可能で、同時に艦娘艦隊司令部としても機能する新艦種『艦娘母艦』の艦長も兼ねる必要があり2人体制となった。

 

 

特務艦隊司令部の本格始動は来年度からとされた。肝心の艦娘の就役を待つ必要があったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

年は明け

2005年3月

 

遂に『その時』は来た。

 

「…いよいよ、だな」

 

秋吉は珍しく緊張でガチガチになっていた。だが無理もない。数年に渡る自らの研究の成果が現れる時であり、今後の情勢によってはこの発明が人類の未来を決する大きなターニングポイントになるかも知れないのだから。

 

(艦魂のサルベージは呉で行い成功した。いつかは遠隔でも出来るようになりたいし、もっと性能の良い艦の艦魂も使えるようになりたいが取り敢えず今は良い。艤装も上手く造れた筈だ。被験者となる少女は色々あって身寄りの無くなってしまった子達を使う。心苦しいが今はそうも言っていられない…彼女達は同意してくれたんだ。それで良いじゃないか。でも改良はし続ける。いつまでもこのままで良いとは思わない。)

 

 

(だから今だけは………………覚悟を決めろ!!)

 

「……艦娘建造開始!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その言葉が発された直後、世界で初めての艦娘が建造され始めた。

 

 

 

 

 

 

 

そして建造された『彼女達』は秋吉の意向により

 

『第一世代艦娘』と呼称されることとなっていく。

 

 

 

いつの日か性能を向上させつつ問題点も解消した、

 

『第二世代艦娘』を造るために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一ヶ月後

 

特務艦隊司令部

 

「艦娘はもう建造されたかな…?」

 

「どうだろ?予定通りならそうだけど」

 

「案外今日来たりしてな───」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウィーーン

 

「失礼します!」

 

 

 

ドアが開くと共にそう言って入って来たのは、

 

赤色インナーのある暗めの茶髪に青い瞳をした15歳ほどに見える少女だった。

 

 

「「「………」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「装甲巡洋艦出雲、着任しました!これより艦隊の指揮下に入ります!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…3人と“出雲”が出会った日、そして彼女の長きに渡り続いていく戦い、その始まりの日であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 

 





あ と が き

と言うことで、オリジナル艦娘“出雲”の登場です。
史実の「出雲型装甲巡洋艦」の事がなんか好きになっちゃってたからです。
なんで好きかは良く分からん。艦歴が長いからかな。

ちなみに、後々設定集にも記載予定ですが、本作における艦娘の『第一』『第二』世代のボーダーラインは艦種毎に決めています。
(要するに艦これ実装艦のほとんどが『第二』に当たるように設定している訳です)
日本艦娘では戦艦なら弩級戦艦までが『第一』、巡洋艦なら装甲巡洋艦や防護巡洋艦が『第一』に当たります。空母などの第一次大戦〜戦間期に発展していった艦種に関してはほぼほぼ『第二』ですが、例外として某「お艦」はギリギリ『第一』という設定です。その方がそれっぽいので。

今回産まれた希空ちゃんの出番はまた追々。

次回 中編
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