神崎家周りの日常(?)回です。(要はメインキャラの紹介)
2005年5月
艦娘技術研究所内
艦娘用演習場
ここでは今、第二特務艦隊所属となった“出雲”の実戦形式の演習が行われていた。現状艤装の調整が完了しているのが彼女1人だけの為、敵役はプール上を自動で動いているSUEを模した無人ターゲットなのだが。
《敵第6波 接敵》
………
《敵第6波 全艦撃沈》
《敵第7波 接敵》
……
《敵第7波 全艦撃沈》
………
……
…
“出雲”の実力は申し分無い物だった。次々に現れるターゲットを素早く正確に撃ち抜いていた。
《目標達成、演習を終了します》
「お疲れ、出雲ちゃん。はいこれ」
「ありがとうございます」
演習を終えた彼女は美香から手渡されたペットボトルの水を飲んでいる。
「凄いね〜あんなに正確に撃ち抜くなんて」
「やれるだけの事をやってるだけですよ」
美香から演習内容について褒められるも謙遜していた“出雲”だった。
そんな2人の様子をずっと見ていた洋平とたまたま手が空いて見に来ていた秋吉は、
「仲良くやれているみたいで良かった。いつもあんな感じで?」
「そうだな。『お互い歳は近いんだからそんなにしっかりした上下関係は作らずに行こうよ』ってことらしい」
「まあ良いんじゃないかな。艦娘は人間と同じ『自我』を持つ兵器。メンタルとかの要素が戦闘力に直結するからね」
そう言って好意的に捉えていた。
一方、今ここに居ない海斗はというと…
「ここに来るのも久しぶりだな…」
ここは釧路近郊のある大きな家の前。神崎家と深い関係を持つ家だ。
「あっ、海斗兄ちゃん!来たんだ!」
「おう、士!元気にしてたか?」
「うん!久しぶり兄ちゃん!」
「東堂
「それで、あいつは…元気にしてるか?」
「加奈ちゃんのこと?元気だよ!いつも一緒に遊んでるよ」
「そうか」
「ああ〜そっか。加奈ちゃんに会いに来たんだね!」
「まあそういうとこだ」
今回海斗が忙しい中わざわざここを訪れたのは、「加奈ちゃん」と呼ばれた存在に会いに来たからだった。
実は、洋平と海斗には美香の他に実の妹が1人いる。名を「
士の2個下であり、年齢が近いのもあって2人は両家の取り決めによりこの歳で婚約関係にあった。
東堂家は数世代毎に神崎家の人間と結婚する、という決まりが昔から存在した。東堂家における神崎の血を濃く保ち、分家としての役割を果たし続ける為であった。今回もその決まりに従ったものではあったが、それは決して強制された婚約というものでは無かった。
「加奈と仲良いんだな」
「うん!一緒にいて楽しいんだ!加奈ちゃんも最近は前よりニコニコしてるよ!僕と一緒にいて楽しいのかな?もしそうだったらうれしいけど」
「きっとそうだろうさ。にしても…ニコニコしてる、か。そりゃ良かった…ありがとな士」
加奈がここにいるのは、父・洋一の戦死後、洋平達も家を出た為に残された母と共に東堂家で暮らすようになったからだった。そしてその時加奈は、まだ幼いながらも父が死んだ事を理解してしまった上、兄達も家から居なくなり、引っ越しによる環境の変化も相まって塞ぎ込んでしまっていた。彼女の母も引っ越してくる前に体調を崩し、療養生活を送っていたが亡くなった。極度の心身の疲労や、それもあって悪化してしまった持病が原因だった。
加奈はひとりぼっちだった。そんな時、彼女を支えたのが士だった。彼は持ち前の明るさを活かして何とか加奈とコミュニケーションを取ろうと奮闘した。初めは加奈に無視されてばかりだったが、ある時1人で泣いていた加奈を抱きしめ、
「僕がいるよ!大丈夫、なにがあっても僕が加奈ちゃんを守るから!いつもニコニコさせてあげられるように頑張るから!」
と言った。子どもらしいありきたりな言葉だったが、彼の真っ直ぐな思いは加奈に伝わったらしく、その後加奈は士に心を開き、最近は良く笑うようにもなっていた。
…まあ、あまりにもその言葉が響き過ぎたのか、加奈は士に依存と言えるレベルでくっ付いているのだが。士との婚約を提案したのも加奈だし。
いずれにせよ、加奈を残して家を出てしまった海斗達にとって彼女が塞ぎ込んでいた事はずっと負い目に感じていた事であり、それを解決してくれた士に感謝していたのだった。
東堂家 加奈の部屋
「久しぶり、加奈」
「あっ…!お兄ちゃん!!」
海斗が部屋に入るや否や、加奈が飛びついてきた。
「えへへ〜」
「加奈…元気そうで良かった」
「うん!士のおかげ!」
加奈はとても元気だった。久しぶりの再会に話は弾んだ。
しばらくして
「そういえば兄ちゃん。今兄ちゃん達
「あーっとそれはな…」
流石にまだ民間人の士に艦娘の事を言うのはまずいと判断し、誤魔化そうとした海斗。
「その、あれだ。今度作る予定の基地の事前視察ってとこだ」
「そのついでに僕と加奈ちゃんに会いに来たの?」
「うん、そうd「ふーん、僕は良いけど加奈ちゃんに会いに来るのが『ついで』、かあ〜…」…うっ…」
(しまった…ハメられた!)
失言に気付いたがもう遅い。
「……分かった、話すよ…。」
「た、だ、し!絶対に他の人に言うなよ?」
「分かってるよ兄ちゃん。秘密を守れないようじゃ軍人にはなれないもん!」
「はは…もうなる気なのかよ」
(コイツは将来スゲー奴になるかもな…)
海斗が加奈に持つ負い目を理解していた士は、その事をダシに隠していた『本当のこと』を聞き出す事に成功した。その頭の良さを海斗は高く評価していた。
…だがそうは言っても彼はまだ少年だ。
「へー!この人が艦娘!?かわいい〜!…イテッ、イテテテ!!何すんだよ加奈!?」
「イヤ…なんか分かんないけど…なんかイヤ!」ギュッッッ
「グェェェー…し、締まる、首締まってるぅぅ…」
海斗から渡された“出雲”の写真を見て、その姿に興奮していた所を加奈にシメられていた士だった。
(艦娘建造時に身体全体を弄り回す為、どうせなら、と被験者本人の要望に添った容姿にしている。故に艦娘は皆とても整った容姿になっている)
さて、“出雲”建造までは上手く行き過ぎるほどに上手く行っていた艦娘建造計画だが、他の艦娘についてはそうでは無かった。
“出雲”建造以降、艦娘建造は問題の連続だった。
『“出雲”建造成功が一種のビギナーズラックだったのでは?』
と思うくらいには上手くいかなかった。現在の艦娘技術の抱える『欠陥』が露わになったのが原因だった。
艤装との同調が上手くいかない、上手くいっても長時間の稼働に体が耐えられない、中には改造手術中に肉体の拒絶反応が発生した事例もあった。
「それもあって今は建造作業を停止しているんだ」
「だからか。通りで珍しく出雲の訓練を時間も気にせず見てる訳だ」
「はは…はぁ…うーん…出雲は完璧に上手くいったのに…なんでなんだ?原因、分かったりしない?」
「分かる訳ねーだろ。俺は技術者じゃねぇ。」
「ですよね……なんて言ってる場合でも無いんだよな…」ハァ…
次々に出て来る問題に対応するのに疲れ果て項垂れる秋吉。彼の頭脳を持ってしても、この問題を解決するのはそう簡単な事では無いようだ。
「被験者の子達の容体はどうなってる?」
「命に別状は無い。…それだけが不幸中の幸いだよ」
「出雲の他に実戦に耐えられそうな艦娘は居ないのか?」
その問いに秋吉は無言で首を横に振る。『欠陥』が艦娘建造に与える影響は、彼が予想していたよりも遥かに大きな物だった。
その結果、一度艦娘建造作業は停止し、希空を被験者とした実験を加速させ技術改良をさらに進める事が決定された。またこの決定がなされたもう1つの要因として、次善の策として研究が進められていた航空機搭載の対SUE用特殊対艦ミサイルや面制圧力を高めた特殊爆弾、そしてそれらを搭載して攻撃を行う事が可能な改良型F-2 通称『スーパー改』が完成したというのもあった。
その威力を発揮する機会は配備早々に訪れた。
2005年8月
『ミレニアム・ショック』以来約5年振りにSUEの艦隊が日本近海に現れたのだ。四国沖に出現した敵艦隊に対し宮崎の新田原基地より第11飛行戦隊36機が出撃。対SUE戦闘に特化された機体性能を存分に発揮し、24隻いた敵艦の内、実に20隻を無傷で葬り去った。
この大戦果を受けて国防空軍はスーパー改の追加配備を決定。既存のF-2の改修とは別で新造機も調達する事にした。
…沈められなかった残りの4隻に対して危機感を抱く者は少なかった。
日本近海海底
「駆逐艦ヲ沈メタ程度デ良イ気ニナッチャッテ」
そう言って貶すように笑う“戦艦棲姫”。実は今回日本近海に出現し撃沈されたSUE…こちら側の呼称に合わせるのなら「深海棲艦」…は、比較的低スペックの駆逐艦を中心に構成された威力偵察を目的とした艦隊だった。つまり彼女等は、全く全力では無かったのだ。その為、そんな物を沈めた程度で舞い上がっている人類が滑稽に思えたのだ。
「私ガ出撃シテ実力ヲ見セツケタラ、奴ラハドンナ面ヲ見セテクレルデショウネェ…気ニナルワァ…!」
彼女は人類を完全に舐め腐っていた。しかしそれは、深海棲艦皆が思っている事でもあった。
「下級個体の無尽蔵の数、上位個体の圧倒的な質を持ってすれば人類側の全戦力を叩き潰すのは容易い」
それが深海棲艦達の共通認識だったのだ。ましてや、一度殺されれば終わりの人類と違い、深海棲艦は沈んでも時間さえ掛ければまた復活する事が出来た。
そして何より、
「人類ハ私達ニ対抗スル為ニ『強力ナ戦力』ヲ整エタ気ニナッテイル…撃沈出来テイルノハ精々軽巡洋艦クラスマデダトイウノニ」
…今まで撃沈された深海棲艦はどれも駆逐艦や軽巡洋艦。戦艦や重巡洋艦といった主力艦に当たる深海棲艦を、未だ人類は撃沈出来ていなかった。
『今の人類では、我々の主戦力を撃沈出来ない』
その事が、深海棲艦が人類に対して慢心しまくっていた1番の理由だった。小型艦など幾らでも居る。肝心の主力艦が無事なら「損害」など無いに等しい……そこには、慢心しまくっていても勝ててしまう程の絶対的な戦力差があったのだ。
「女王陛下カラ許可モ貰エタ事ダシ…ソロソロ始メマショウ…!人類ノ殲滅ヲ!根絶ヤシニシテヤルワ!」
“戦艦棲姫”の命令により麾下の深海棲艦達が動き出す。本格的な侵攻が始まった。
…ちなみに、“戦艦棲姫”がこの時点で把握していた「人類側(彼女の担当である日本)の主戦力」の内訳は、呉・舞鶴・佐世保・大湊の各主力艦隊、日本各地に展開する14個の空軍飛行戦隊、現時点ではあまり関係の無い74・90式戦車を中核とする陸軍戦力であった。
……彼女が最も警戒すべきだった戦力の情報は、未だ掴めていなかった。その「戦力」が、自分達の慢心が許される「最大の理由」を覆せる存在だと言う事にも当然気付けていなかった。
続く
あ と が き
前後編構成のハズがいつの間にか前中後編になってた…
次回 “出雲”&第二特務艦隊 出撃
(個人的にエモい組み合わせ)