戦闘後の描写。前半では戦争が舞台の作品なら結構やってるようなテーマを取り入れてみた。
戦闘終了後、無事「建御雷」へと着艦した“出雲”。彼女の帰還を海斗と美香が出迎えた。
「出雲!」
「おかえり!怪我はない?」
「はい。無傷です!」
彼女は本当に傷一つ付いていなかった。決して性能的に優位とは言えない相手、それも7隻に対して圧勝したのだ。
「よく頑張ったな」
「司令官の艦隊指揮が良かったからです。お陰で敵に見つからずに奇襲を仕掛けられましたから」
「それなら良かった」
彼女は海斗の指揮のお陰だと謙遜する。
「…でも」
「どうしたの?どこか痛い?」
“出雲”の表情はどことなく暗い。何故かと言えば、
「…沢山、守れなかった」
「「…」」
「私が着いた時、守りたかった艦隊はもうほとんどが海の底。最後の一隻も、守りきれたって思ったけど…実際は半分近くの人を守れてなかった」
戦いに勝ちはした。だが守れなかった者も多い。その事が、彼女の心に突き刺さっていた。
「…もっと、私に力があれば」
「出雲のせいじゃないさ。十分良くやったよ」
そう言って海斗が慰める。だが海斗も、美香も、同じだった。「建御雷の機関が不調じゃ無ければ、間に合ったんじゃないか」と思っていたのだ。実際はもし万全であったとしても、恐らく間に合ってはいないのだが。そんな事を考えるだけの余裕は、まだ若い彼らには無かった。
そこへ、
「君が司令官だね?」
“出雲”に助けられ、「建御雷」に移乗していた警備艦隊の小林司令官が近づいてきた。
「…あっ、小林少将!お身体は大丈夫ですか?」
「ああ、お陰様でな。」
「田村艦長は?」
「乗組員達と共に今治療を受けているが、対した傷じゃない。大丈夫だ。」
「そうですか。良かった」
彼らの無事に安堵する海斗達。
「その他人思いな所……うん。やはり似ているな、まあ親子だしな」
「父と面識が?」
「ああ。士官学校の同期な上、同じ鎮守府を拠点とする艦隊だ、会う機会は何度もあったさ」
小林司令官は父・洋一の士官学校の同期な上、指揮する「横須賀鎮守府警備艦隊」はその名の通り横須賀鎮守府を拠点としていて、同じ鎮守府を拠点とする第一艦隊を指揮していた洋一とは良く会っていた。
「君とそこの美香ちゃんの事は良く聞いていたよ。「もうすぐ結婚するんだ、楽しみだ」と亡くなる間際にも話していたな。」
「「…」」
改めて父が結婚を楽しみにしていたと聞かされ、様々な思いがこみ上げてくる。が、海斗には、今聞いておきたい事があった。
「…あの、1つ、質問良いですか?」
「なんだい?」
「湾岸戦争の時、父の指揮する艦隊は幾度と無く攻撃を受けたと聞いています。戦死者も出た、と。その時、父はどんな事を思ったんでしょうか?」
「あいつは、確かに優しくて自分の命を投げ捨ててでも他人を助けようとする奴だ。だが、同時にしっかりと現実も見ていた。どんなに頑張っても守れないものがある事を分かっていた。割り切れていた。……そうで無ければあれだけの戦果を上げつつ大半の艦艇を無事に帰還させるなど不可能だ」
『冷戦最後の戦い』そう呼ばれる事もあるこの世界の湾岸戦争は史実よりも激しい戦闘が行われ、両陣営共に大量の戦死者が出た。そんな中、洋一率いる第一艦隊は数々の戦闘を潜り抜けて大戦果を上げ、日本の国際的な地位向上に大きく寄与した。だが同時に激戦の中で沈んだ僚艦や、助けられなかった友軍も大勢見てきたのだ。
「もちろんあいつは助けられなかった友軍を見て悔しがっていたさ。でも仕方ないとも思っていた」
「仕方…ない?」
「ああ、仕方なかった。どんなに強力な力を持っていても救えないものはある。むしろ、そういったものを無理に救おうとして余計に犠牲を増やす可能性だってある。だから割り切るしか無かったのさ。今無事なものを守るためにな」
「「……」」
「もしここに居たのが父なら全てを救えたんじゃないか?」と頭の片隅で思っていた海斗と美香は、正直落胆していた。
だが、故に理解した。「どんなに強くても、救えるものには限界がある」という事を。この事を1番理解するべき“出雲”には、伝わって無さそうだったが。
だが、それでも。
「ありがとうございます、少将。少し気分が晴れました」
「礼を言わなきゃならんのはこちらの方さ。助けてくれてありがとう。君達が居なかったら今頃海の底だったよ。…そうだ。出雲、だったね。君に乗組員達から伝言を預かっている。まあこれは私の言葉でもあるがね」
「本当にありがとう。君のお陰で沢山の命が助かった。感謝してもしきれない。だから、どうか落ち込まないでくれ」
「………ありがとう、ございます。本当に、良かったです」
少将の感謝の言葉の中、ようやく「救えたもの」に目を向けられた“出雲”だった。
数時間後
横須賀
「海斗!美香!出雲!」
「兄貴!」「兄さん!」「長官」
横須賀に到着し、帰還後の諸々の作業をしていた所に洋平がやって来た。
「良くやったな!大戦果じゃねーか!」
「はは、そうだな」
「うん…」
「…」
「…何だよ、この空気。喜ぶところだろ?」
「たくさんの人を、守れなかった」
「…そういうことか。気にすんなよ、出雲。守れた人達も大勢居るだろ?それにどう足掻いたって無理なもんは無理だ。スパッと諦めたほうが精神的にも良いぜ。戦死した人達も恨んじゃいねーさ、たぶん」
「たぶん、か」
「いやそりゃ他人だしな」
「兄さん…」
慰めようとしたのは分かるが、何とも中途半端な洋平。だがそんな姿を見て、
(流石だな、兄貴。戦死者を単なる数字として見れるタイプだろうな。でも感性自体は俺達とも変わらない…。やっぱり上に立つのに相応しいな)
洋平が犠牲を完全に割り切れている様子を見て珍しく彼の事を「頼れる兄」として認識していた海斗だった。
その後、半年以上日本近海は平穏が続いた。この間に失った戦力の回復が急がれた。また、艦娘建造も進展があった。希空を使った実験の研究成果がフィードバックされた事で艦娘建造技術が発展。欠陥部分が改善され、これにより本格的な艦娘の建造に成功した。
進化した設計で建造された彼女達は『セカンドロット』と呼ばれ、『ファーストロット』の“出雲”と比べ、艤装接続時の安定性が向上していた。反面、建造可能な艦の技術レベルは下がっており、限界値でも戦艦は前弩級戦艦レベル、巡洋艦も出雲型以前の艦型までとなっていた。(おおよそ1900年前後の艦まで)
だが、とにかく艦娘の数は揃った。
このセカンドロットの技術は世界中に共有され、艦娘の建造ラッシュが起こった。素体となる少女の調達も用意だった。SUEに親を殺され復讐を誓う軍人の娘達が居たからだ。彼女達の協力もあって艦娘の数は急速に増加していった。
切り札たる艦娘が建造された。これで人類皆協力してSUEと戦うぞ!!
……とは行かないのが世の常。どんな時も利権だの何だので足を引っ張り合うものである。今回も同じだった。特に今回、艦娘建造技術が国際情勢に与えた影響はとてつもなく大きかった。
艦娘建造には、そのコアユニットとなる艦魂が必要。そして艦魂を大量に手に入れるには『自国やその前身となった国が20世紀前半頃にそれだけの数の艦艇を保有していた経験』が必須。そんな経験をして来た国など、一握りしか居ない。かつて『列強』と呼ばれた国々だ。
かつて戦艦が砲艦外交に用いられたように、戦後はそれが核兵器に変わっていったように…艦娘もまた、外交のカードとして用いられる様になっていく。
「艦娘」を持つ国々が持たざる国々に艦娘の供与を行うなどして国際的な影響力を強めていく。この数十年の間変化して来た国際的なパワーバランスはあっという間に20世紀初頭に近い状態まで巻き戻ったのである。
そうして蘇ったかつてのパワーバランス。100年前と違う点があるとすれば、当時の列強の中でも海軍に力を入れていた国々が特に力を持った点だ。
『ロイヤルネイビー』イギリスはもちろん、アメリカ、日本、意外なところではドイツも大きな力を持った。第二次大戦期はそこまで海軍力が高かった訳では無いドイツだが、『現在の建造可能な艦娘が新しくても大体第一次大戦期の物まで』『その頃のドイツはイギリスと建艦競争をするくらい海軍に力を入れていた』これらの要素が噛み合った事で力を伸ばせたのだ。
一方、現代の国力は大きいが、当時は先進国と言えなかった国々は逆に影響力を減退させる事となった。
2006年7月
8ヶ月前の戦いの後、第一・第二特務艦隊は戦力強化を進めた。また艦隊の所属も正式に決まり、一特艦は司令部直属、二特艦は横須賀鎮守府所属となっていた。一特艦は本拠地に港がないという異例の配置になったが、艦娘は陸上を歩いて移動可能なので問題ない。(ただし書類関係で問題が生じる可能性を踏まえ、東京港を便宜上の所属港としている)
この頃になるとかなり艦娘建造作業が進み、人数が揃って来た。また、人数増加に伴い、識別用コードも作成された。この識別コードは、その国ごとに艦娘としての建造順に従って付けられており、世界中の艦娘が同じ規則で付けられている。例としては、“出雲”なら日本の建造順1番目の艦娘な為、JK-01 (JKは“Japanese Kanmusu”の略称。“Kanmusu”は翻訳されずにそのまま世界中で用いられている)となっている。
ここで、現在の第一・第二特務艦隊の陣容を紹介しよう。
第一特務艦隊 特務艦隊司令部直属(陸上。艦娘が人型であるが故の措置)
防衛範囲:日本全国。輸送機からの空挺で対応する
所属艦娘
・戦艦
富士型 2隻 敷島型 4隻 計6隻
・装甲巡洋艦
浅間型 2隻 計2隻
・防護巡洋艦
浪速型 2隻 吉野型 2隻 千代田 和泉 計6隻
・駆逐艦
雷型 6隻 東雲型 6隻 暁型 2隻 白雲型 2隻 春雨型 7隻 神風型 32隻 計55隻
他 補助艦艇多数
第二特務艦隊 横須賀鎮守府所属
防衛範囲:(日本全国)+外洋。日本近海は状況による。外洋が主な活動範囲。
・戦艦
香取型 2隻 薩摩型 2隻 計4隻
・装甲巡洋艦
八雲 吾妻 出雲型 1隻 計3隻
・防護巡洋艦
松島型 3隻 秋津洲 須磨型 2隻 笠置型 2隻 計8隻
・駆逐艦
桜型 2隻 樺型 10隻 桃型 4隻 楢型 6隻 樅型 21隻 若竹型 8隻 計51隻
他 補助艦艇多数
僅か数ヶ月でここまでの大建造が可能だったのも艦娘だからこそ。建造作業そのものには時間が掛からないからだ。
ただセカンドロットの性能限界に引っかかり、河内型戦艦や出雲型2番艦以降の装甲巡洋艦、後期の防護巡洋艦辺りは建造出来なかった。ただ想定外の幸運もあった。駆逐艦に関しては、二等駆逐艦は全て建造可能だったのだ。「二等」とは言っても等級制定前の駆逐艦に比べて大型で強力だ。
建造後、比較的旧式で低性能の艦は本土防衛艦隊である一特艦に、高性能の艦は外洋担当である二特艦に配備された。
また、2ヶ月ほど前に敵艦隊を迎撃すべく二特艦を南シナ海方面に派遣した際に巡洋艦「畝傍」の艦魂のサルベージも試みたのだが、やはりと言うべきか、発見する事は出来なかった。
これから先の対SUE戦争の主力は艦娘になっていく。人類の守護者としてSUEに対抗するべく彼女達は日々訓練に励んでいた。
そんな中で、1つ分かったことがあった。
「…やっぱり出雲の実力は頭一つ抜けてるな。明らかに動きが違う。」
海斗は艦娘達の演習を観戦しながらそう呟いた。“出雲”の技量が他と比べて圧倒的に高いのだ。
「ファーストロットだからかな?」
「それもあるかもだけど…にしてもじゃないか?」
「うーん、秋吉所長に聞いてみる?」
「だな」
そうして美香と話している間に演習は終わっており、執務室に近付いてくる足音が聞こえた。
コンコン
「出雲です。演習の報告に来ました」
「入っていいよ〜」
ガチャ
「失礼します。艦長もご一緒でしたか」
“出雲”が執務室に入ってきた。
「演習はこの目で観てた。凄かったぞ、出雲」
「まさに無双、って感じだったね!」
「ありがとうございます。ただ、その事なんですが」
「どうした?」
演習の内容はとても良く、2人も褒めているのだがイマイチ浮かない顔。どうしたというのか?
「もっと強くなるには、どうすれば良いのかなって」
「今より、か?」
「十分強いと思うけど?」
「もっと強くなりたい」彼女は唐突にそんな事を言い出した。
「出雲。前の戦いの事ならあれはお前のせいじゃないって言ってるだろ?」
「それは分かってます。でも、それとは関係なく、ただ純粋に強くなりたいんです。艦娘が兵器である以上、少しでも強い方が良いのは間違いないでしょう?」
「それはそうだが…」
「他のみんなも居るんだし、1人で背負わなくて良いんだよ?」
海斗も美香も、“出雲”に無理をして欲しくなかった。「艦娘が兵器である以上、強さを求めるのは当然の事。だが艦娘も1人の人間だ、ただの兵器ではない」と2人は考えていたからだ。まだ10代の少女に無理をして欲しくない、と思うのはある意味彼女の「保護者」でもある2人にとっては、当然の事であった。
だが彼女は引き下がらない。
「守りたいんです。みんなを」
そう言う彼女からは、「みんなを絶対に守る、その為にはどこまででも強くなる」という覚悟が感じられた。
(何を言っても折れなさそう、だね)
「…分かった。良いよ。ただし、無理はしないこと!」
その覚悟を汲み取り、美香が折れた。
「美香?どうして」
「良いじゃん、やらせてあげなよ。別に私達にデメリットがある訳じゃ無いんだし。それに、この決意はどうやったって折れないよ」
「…そうか。まあ良いぞ。無理しない程度にならやりたい様にやれば良い。でも具体的にはどうする気だ?ただ闇雲にやったってどうしようも無いと思うが」
現在はまだ艦娘の訓練方法さえ確立しきれていない状態だ。こんな状態で「それ以上の特訓を!」なんて言われても、どうすれば良いのか分からない。そう考えた海斗だったが…
「司令官の御実家は強力な戦闘技術を代々継承している、と聞きました」
これこそ、“出雲”が「もっと強くなりたい」などと言い出した理由だった。
「神崎流戦闘術の事か…」
彼女の言葉が指し示す物が神崎家が代々継承し続けている「神崎流」の事だと気づいた海斗。だが1つ問題があった。
「あれは一応門外不出って事になってるんだ。だからそうホイホイ教える訳にはいかないんだよ…」
神崎流は神崎家とその分家である東堂家のみが継承する一族内だけの物。そう簡単に他人に教える訳にはいかないのだ。
「そう言えばそうだったね。私は教えて貰えてたから忘れてたよ」
「まあ美香は引き取られてきた時から義理とは言え家族だったしな」
義理でも家族だった為に戦闘術を教えて貰えていた美香。そんな会話を聞いた“出雲”がとんでもない事を言い出した。
「私も家族になれば教えて貰えますか…?」
「「はい?」」
「神崎家の一員なら大丈夫なんですよね?だったら養子縁組とかして…」
「いやいや待て待て!早まるな!」
「そうだよ!こんな物の為だけにする物じゃないよ!」
彼女の言葉に焦りまくる2人。そしてそのせいで失言をしてしまった。
「『こんな物の為』…?こんな物って何ですか、こんな物って!」
“出雲”が珍しく声を張り上げた。驚いて固まる2人。
「神崎流戦闘術だから言ってるんです!普通なら言いませんよ、こんな無茶苦茶な事!」
彼女は更に続ける。
「色々な文献で見たんです、神崎流戦闘術の強さ。1000年も前からあって、戦乱の時代にはそのとてつもない力でもって戦場を支配した…。もちろんこれが誇張込みだと言う事は分かってます。でも、それでもここまでの事が書かれているって事は、それだけ当時の継承者の方々が凄く強かったんだとしか考えられません。そしてそういった記述は太平洋戦争の事を記した物にもあった…。近代の戦争での物です、そこまで誇張されているとは思えません。」
「だとすればやっぱり、それだけの強さがあるんだと思うんです。最早超常的とすら言えるような、そういった強さが。」
「「…」」
「だから…お願いします!会得すればきっと役に立つ筈です!普通の人でもそこまでの事が出来るんです、身体を強化された艦娘ならもっと出来たっておかしくありません!そうでしょう!?」
「「出雲(ちゃん)………」」
彼女はとても焦っている様に見えた。まるで何かを恐れているようだ。
2人は悩んだ末に…
「分かったよ。出雲、お前に神崎流戦闘術を教えるよ。…ただ覚悟しろよ?アレを会得するのは並大抵の事じゃない。ましてやその文献の様な活躍なんて夢のまた夢。正直俺達も嘘じゃないかって思ってるくらいだ」
“出雲”に神崎流戦闘術を教える事を決めた。
「そもそも、その凄かったとされるご先祖様達だって、修行中は上手くいかなくて、戦いの中で突然覚醒したらしいからね…。まぁだからこそ、この現代、艦娘として戦ってる出雲ちゃんなら、可能性はあるんじゃないかと思うわ」
「そうだな、覚醒のための最低条件も出雲なら絶対クリアしてるしな」
「最低条件、ですか?」
「最低条件」と聞いて“出雲”は首を傾げる。心なしか一瞬表情が固くなる。だが、彼女にとってはあまりにも簡単な条件だった。
「『素の状態で圧倒的な戦闘力を持っている事』だ。ほら、簡単だろ?」
「まぁ、そうですね」
自分なら条件を簡単に満たせると分かり、安堵もあってか表情も柔らかくなった。
安心した事で“出雲”は更に質問をぶつける。
「それで、いつから教えて貰えるんでしょうか?」
「…あ〜、それは、だな」
「あはは…」
「??」
質問した瞬間、気まずい雰囲気になる執務室。
「…えーっと、司令官?艦長?」
「弁明、しても良いか…?」
「?はい」
『弁明』などと言い出した海斗。実は…
「教えられないんだ、俺や美香じゃあ…」
「え?」
「実は私達、その戦闘術を会得し切れていないんだよね…」
「『教えてやる』…なんてデカい口叩ける立場じゃ無いんだよな、俺達」
「会得し切れていない…?神崎家の人なのに…ですか?」
“出雲”の疑問が無自覚な煽りとなって2人に突き刺さる。神崎家の人間は皆継承者だと思っていた彼女は困惑していた。だが、問題はこれだけに留まらない。何も海斗と美香が落ちこぼれだった…と言うだけの話では無いからだ。
「はは…その、夢を壊すようで申し訳無いんだが…」
「…ここ数世代、神崎流を完全に会得した人間は現れていないんだ」
「え…」
「最後に完全に会得したとされているのは、さっき出雲ちゃんが言ってた太平洋戦争時に暴れ回ったって言う人…私達のひいおじいちゃんだね。それ以降完全会得者はいない…不完全な状態で継承してるんだよね、今…」
「それって大丈夫なんですか…?」
“出雲”のツッコミはごもっとも。「継承者」達が数世代もの間不完全な状態で継承しているというのは如何なものか。
「大丈夫じゃないと思うぞ…でもそうなってしまった理由はちゃんとある。そもそもあの戦闘術ってあまりにもオカルトチックな部分があったりするんだよ。それこそ身内の俺達ですら本当に会得出来るのか疑ってるレベルだしな」
「そんなになんですか?」
「ああ。何せあの戦闘術、もし指南書通り完璧に完成させられたなら、まさしく『超人』といえる戦闘力を手にする事が出来るからな…サイヤ人かよ!ってツッコミたくなるくらいだ。いやマジで」
「本当にそんな感じ。『奥義』なんて太字で仰々しく書かれてるページを見た事があるんだけど、なんて書いてあったと思う?…………要約するとね、『身体に眠る潜在能力を呼び覚ます事で究極の力を手に入れられる』ってあったの。どういう事なのかしらね…」
「えぇ……」
“出雲”は神崎流戦闘術が思っていたより非現実的過ぎて困惑する。
だが、それでも。
「…そ、それでもやってみたいです!」
「声震えてんぞ、無理すんな」
「素直に言ってくれて良いんだよ?胡散臭いって」
「いえ、大丈夫です!やってみなきゃ分かりませんから!」
彼女の決意は固かった。
「それもそうか。そもそも、最低条件さえクリア出来てない俺達が論外なだけかもだしな」
「まあね。…何であれきっと強くはなるわよ、大丈夫」
「はい。……それで、その最初の質問…今の事を聞く限り、やっぱり無理なんですかね…」
「「…あ」」
この弁明のきっかけとなった質問を完全に忘れていた2人。だが何も、教えるのが不可能だから有耶無耶にしようとした訳では無い。
「実はな、適任が1人いる。そいつに教えてもらうといい。そいつも完全に会得し切れている訳じゃないが、1番近い位置にはいるからな」
「その人はどこに?司令長官ですか?」
「違うわ、て言うか洋平兄さんは真逆で会得から1番遠いし。…その子が居るのは北海道ね」
「連絡はこっちからしておく。今座標と住所を書いた紙を渡すから、明日にでも訪ねると良い。善は急げだ。しばらく非番にしておくから行ってこい。非番の理由は…まっ、『強化改造の為ドック入り』ってとこだな」
「ですが防衛任務が」
「留守は私達や他の艦娘のみんなに任せなさい!大丈夫、何があっても上手くやって見せるわ!」
「そうだ。だから安心して行ってこい。…そしてもっと強くなった姿を俺達に見せてくれ、な?」
「司令官、艦長も…。了解しました!出雲、『強化改造』に出発します!」
「「いってらっしゃい、出雲(ちゃん)」」
こうして“出雲”は北海道に旅立った。目指すは釧路、東堂家の屋敷だ。
神崎流現代最強の継承者はそこで待っている。依存気味な婚約者と共に。
「へへっ、前に写真見せて貰った出雲さんに会えるのか…!こんなオカルト戦闘術も極めてみるもんだな〜」ウキウキ
「………士……」ハイライトオフ
ギュッッ
「ガッ、アガッガ、悪かった!悪かったって加奈ぁ!!」
グェェェ………
…年下の許嫁のチョークスリーパーに為す術無しな『最強』であった。
続く
あ と が き
「神崎流戦闘術」
本作に登場するいくつかの非現実的要素の一つです。
一応それっぽい理論理屈はありますが、
ぶっちゃけ『強キャラの強さの理由付け』ってだけなので、あんまり気にせず見てください。
いずれこのくらいは気にならなくなる筈。主に科学技術方面のインフレの所為で。(0話でその片鱗は描写済み)
そもそも「艦娘」がいる世界観な以上、まぁ多少はね?
次回 特訓&世界情勢説明