自我持つ兵器の英雄譚   作:Nyappy-

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大規模作戦です。

ちなみに、戦力増強目的で現時点(今作戦限りの臨時)で二特艦には艦これ実装済み艦娘が1人所属しています。

そんなにスポットを当てられる訳じゃないですが……。



10. 日米共同作戦

 

2007年7月5日

 

「建御雷」食堂

 

 

第二特務艦隊に所属する艦娘達が集められていた。

 

その前に立った海斗は、一度全員を見渡してから口を開く。

 

「全員集まったな。もう知ってる奴も多いと思うが、改めて状況を説明する」

 

室内が静かになる。

 

「先月初頭、ミッドウェーとダッチハーバーが相次いでSUEの攻撃を受けて陥落した」

 

僅かにざわめきが広がった。

 

ニュースとして知っていた者もいる。だが、自分達の作戦と直接結び付く形で聞かされるとなれば話は別だった。

 

「知っての通り、ミッドウェーは太平洋中央部、ダッチハーバーは北太平洋の要衝だ。この二つを押さえられたことで、米軍の太平洋方面における作戦能力は大きく低下している」

 

「司令官」

 

艦娘の一人が手を上げた。

 

敷島型戦艦“朝日”だった。

 

「ハワイはどうなっているのでしょうか。パールハーバーが健在なら、まだ立て直せるのでは?」

 

「もちろん健在だ」

 

海斗は頷いた。

 

「ただし、無傷じゃない。ミッドウェーとほぼ同時にハワイも大規模な攻撃を受けた。防衛には成功したが、艦艇、艦娘、航空戦力にかなりの損害が出ている」

 

「……なるほど」

 

“朝日”の表情が引き締まる。

 

「現在、北太平洋から中部太平洋にかけての人類側の制海権は、かなり危うい状態だ」

 

海斗はそこで一度言葉を切った。

 

「そこで、我々の出番というわけだ」

 

艦娘達の視線が集まる。

 

「米軍との共同反攻作戦が決定した。第二特務艦隊にも出撃命令が出ている」

 

海斗は地図を示した。

 

「目標はミッドウェー島。周辺海域の敵艦隊を撃破し、米海兵隊による島嶼奪還を支援する」

 

隣にいた美香も続ける。

 

「今までの二特艦の任務より、ずっと遠い海域での戦闘になるわ。外国軍との本格的な共同作戦も初めて。敵の規模も、これまでとは比較にならない可能性がある」

 

それでも、美香は笑った。

 

「だからこそ、今までの訓練を全部使うつもりで行きましょう」

 

「「「了解!」」」

 

声が揃う。

 

第二特務艦隊にとって、初めての大規模海外遠征が始まろうとしていた。

 

 

 


 

 

 

数時間後

 

「建御雷」艦内 司令官執務室

 

 

「……作戦名、言わなくて良かったの?」

 

美香に尋ねられ、海斗は椅子の背へ身体を預けた。

 

「ああ」

 

「何で?」

 

「嫌だろ」

 

海斗は机の上の資料を指で叩く。

 

「艤装を通して、実艦時代の記憶を見ることがある彼女達にさ」

 

美香も資料を見る。

 

そこに記されていた今回の作戦名称は、

 

 

『第二次MI作戦』だった。

 

 

「……まあ」

 

美香が苦笑する。

 

「流石にね」

 

「だろ?」

 

ミッドウェー島攻略。だからMI。

 

命名理由そのものは単純である。

 

そして米軍側からすれば、八十年近く前、日本海軍機動部隊へ決定的な打撃を与えた戦いの名でもある。

 

「当時現役だった艦の艦娘なんて、今の二特艦にはほとんどいないけど」

 

「それでも日本艦娘を大量参加させる作戦につける名前かねぇ……」

 

海斗は呆れたように溜息を吐く。

 

「問い合わせても、『ミッドウェー奪還作戦なのだから妥当だ』で終わったし」

 

「間違ってはいないものね」

 

「正しいから余計に文句言いにくいんだよ」

 

美香が笑った。

 

「アメリカ側としては、縁起が良いんじゃない?」

 

「そっちだけ縁起良くてどうすんだよ……」

 

もっとも、これについては本当にそれだけだった。少なくともこの時点で、海斗達はそう考えていた。

 

 

似たような軽い違和感で言えば、近頃、軍内でこれまでの慣例とは少し違う人事異動が幾つか続いていることも知っている。

 

だが、どれも理由を説明されれば納得出来る範囲だった。昇進した人間も、異動した人間も、経歴上、不自然というほどではない。

 

「最近ちょっと人の入れ替わり多いな」

 

その程度の違和感だった。

 

別に、軍の根幹が揺らぐような話ではない。

 

「そういえば」

 

美香が話題を変えた。

 

「秋吉君から連絡来てたよ」

 

「何て?」

 

「新型は、もう少し待ってくれって」

 

海斗が眉を上げる。

 

「間に合わないか」

 

「うん」

 

「出来れば今回から参加させたかったんだけどな」

 

第一世代艦娘の改良は続いている。

 

ファーストロット、セカンドロット、そしてさらに先へ。秋吉達は、また新しい艦娘を完成させようとしていた。

 

だが、今回の作戦には間に合わない。

 

「仕方ない」

 

海斗はすぐに切り替えた。

 

「なら、出雲を呼び戻そう」

 

「出雲ちゃん?」

 

「ああ」

 

東堂家での修行も、そろそろ一年になる。

 

「今回の作戦には、出雲の力が必要だ」

 

「どれくらい強くなってるかな?」

 

「絶対、想像以上だろ」

 

「海斗」

 

美香が苦笑する。

 

「ハードル上げ過ぎ」

 

「分かってるって」

 

そう答えながらも、海斗はかなり楽しみにしていた。

 

 

 


 

 

 

三日後 横須賀

 

「装甲巡洋艦“出雲”、原隊に復帰しました」

 

「おかえり、出雲」

 

「おかえり!」

 

一年ぶりに、“出雲”が第二特務艦隊へ帰ってきた。

 

変化は一目で分かった。

 

背丈や容姿が大きく変わったわけではない。それでも、以前とは明らかに違っている。

 

「……顔つき変わったな」

 

海斗が言う。

 

「そうですか?」

 

「ああ」

 

以前より自然に立っている。以前より自分に自信を持っている。

 

美香も笑った。

 

「何て言うか、前よりずっと頼もしくなった」

 

「一年も鍛えてきましたから」

 

“出雲”も笑う。

 

以前のように強さへ追い立てられているような焦りは、随分薄れていた。

 

「帰ってきて早々で悪いけど」

 

海斗が作戦資料を渡す。

 

「明日の早朝には出る」

 

「ミッドウェーですね」

 

「ああ」

 

「衛星情報を見る限り」

 

美香が続ける。

 

「敵は、島を襲撃した時の部隊を中心に駐留しているみたい。増援が来る前に叩きたい」

 

「了解しました」

 

“出雲”は迷わず頷いた。

 

「出撃準備は出来ています」

 

「頼むぞ」

 

「はい!」

 

 

 

そして翌朝、艦娘達を収容した「建御雷」は横須賀を出港した。

 

目指すは太平洋中央部、ミッドウェー島。

 

米軍側は、ハワイ残存部隊、西海岸から派遣された艦艇、そして多数の米艦娘を投入する。七月四日、独立記念日直前に受けた大攻勢の報復という意味もあって、米軍の士気は高かった。

 

さらに、ほぼ同時並行でアラスカ方面でもダッチハーバー奪還作戦が開始される。

 

第二次AL作戦、そして第二次MI作戦。

 

二つを合わせた第二次AL/MI作戦は、太平洋戦線の主導権を取り戻すための大規模反攻作戦だった。

 

 

 


 

 

 

今回、米軍にはもう一つ新兵器があった。

 

SUEは海だけで戦う存在ではない。

 

上陸し、走り、砲撃し、陸上施設を直接攻撃する。ならば、島を奪還する海兵隊も当然、SUEと地上で戦う可能性がある。

 

人間と、軍艦並みの火力と防御を持った存在。そのままでは分が悪過ぎる。

 

だからアメリカは、弾薬を変えた。

 

特殊徹甲弾。

 

情報秘匿上、しばらくそう呼ばれていた兵器の正式名称は、Armor Piercing Anti-SUE。

 

略称APAS、対SUE徹甲弾である。

 

 

 

着想の出発点は艦娘だった。

 

艦娘が使用する砲弾は、艤装に合わせて人間サイズへ縮小されている。それにもかかわらず、攻撃力は元となった艦砲に近い。

 

なら、その技術を普通の銃弾へ応用出来ないか。

 

米軍はそう考えた。

 

艦娘技術、妖精から得られた技術、人類側で解析出来た縮小技術。それらを組み合わせて研究が進められ、ようやく実戦投入へ辿り着いた。

 

7.62ミリ級、12.7ミリ級。さらに対戦車火器などから使用する、より大口径の対SUE弾薬も用意されている。

 

試験では、7.62ミリ級でも下位の駆逐艦級へ有効だった。M82対物ライフルから撃ち出す12.7ミリ級なら、条件次第で、より大型の個体の重要部位にも損傷を与えられる。

 

これまで、艦娘、航空機、艦砲といった大火力を持つ兵器に頼るしかなかったSUE戦に、初めて歩兵一人が携行出来る武器で対抗出来る可能性が生まれた。

 

 

もちろん、海兵隊員達も万能だとは思っていない。

 

「戦艦級まで対応出来る大型弾頭も持っていけ」

 

そう言われて携行してはいるが、現場の本音は単純だった。

 

 

そんな物を使わなければならない相手には、出来れば会いたくない。

 

 

 


 

 

 

7月14日、太平洋上。

 

「敵潜水艦反応!」

 

「数は!?」

 

「複数!」

 

「対潜戦闘!」

 

海斗が即座に命令を出す。

 

「待機中の駆逐艦、全艦出撃!」

 

「了解!」

 

「建御雷」から駆逐艦娘達が飛び出していく。

 

 

 

十数分後、戦闘は終了した。

 

敵潜水艦隊は全滅している。

 

既に第二特務艦隊は、一年半前とは違っていた。

 

装備自体はまだ古い。だが、練度、戦術、連携は大きく向上している。

 

潜水艦個体───少し前、日本が主導する形で定められた『I-Ro-Haデータベース』と呼ばれるSUE個体分類表に沿って呼ぶなら、潜水“カ級”。

 

その程度なら、少数部隊で十分に対処出来た。

 

その後も何度か敵潜水艦による接触を受けたが、全て退けた。「建御雷」は太平洋を東へ進み続けた。

 

 

 


 

 

 

7月18日。今度は水上部隊だった。

 

「敵艦隊確認!」

 

「旗艦、重巡級!」

 

「随伴多数!」

 

海斗が戦況図を見る。

 

「出雲」

 

「はい!」

 

「敵旗艦、頼めるか?」

 

“出雲”が笑った。

 

「もちろんです」

 

「よし!」

 

海斗が命令を下す。

 

「主力艦娘、発艦!」

 

「了解!」

 

次々に艦娘達が海へ飛び出していく。その中で、“出雲”は真っ直ぐ敵旗艦へ向かった。

 

重巡“リ級”。一年近く前なら、決して簡単な相手ではなかった。

 

二十分後。

 

「戦況は?」

 

美香が尋ねる。

 

「順調」

 

海斗が答える。

 

「数も質もこっちが上だ。もうほとんど終わってる」

 

実際、敵部隊の大半は既に沈んでいた。残るのは旗艦“リ級”と、随伴する駆逐“イ級”二体だけだった。

 

「もう少し……!」

 

“出雲”が砲撃しながら一気に距離を詰める。“リ級”も撃つが、“出雲”は大きく避けず、必要な分だけ身体をずらして次の動作へ繋げていく。

 

「……一撃で」

 

右腕を引く。

 

「仕留める!」

 

そこへ“イ級”が割って入った。旗艦を守る盾になるつもりなのだろう。

 

「邪魔!」

 

一瞬、“出雲”の重心が沈む。次の瞬間、右脚が跳ね上がった。

 

轟音とともに“イ級”の身体が大きく歪み、海面を跳ねるように吹き飛んで爆散する。

 

「なっ……」

 

通信越しに美香が声を漏らした。

 

“出雲”は蹴り抜いた勢いを無理に止めず、そのまま回転して身体を戻し、“リ級”の懐へ飛び込む。

 

「貰ったぁ!!」

 

右腕に武器はない。ただの手刀だった。

 

だが、その身体には艦娘の機関出力が乗っている。さらに一年掛けて身につけた神崎流の身体操作によって、一瞬だけ出力を引き上げ、力を腕へ集中させる。

 

“リ級”が砲撃しようとする。しかし、間に合わない。

 

手刀が艤装へ突き刺さり、そのまま裂いた。

 

「────ッ!?」

 

リ級の身体が大きく二つに分かれ、海へ沈んでいく。

 

 

 

“出雲”は暫く自分の手を見つめた。

 

「……出来た」

 

半信半疑だったからこそ、その声には少し嬉しそうな響きがあった。

 

「士」

 

呟く。

 

「ちゃんと使えたよ」

 

艦娘による格闘戦は、元々、理論上は極めて強力だった。

 

艦娘の機関出力を砲塔ではなく、人間の身体そのものから叩き込む。“出雲”はそこへ神崎流を重ねた。

 

結果、重巡級の深海棲艦が素手の一撃で切り裂かれた。

 

もちろん、誰でも同じことが出来るわけではない。“出雲”だから出来たのだ。それでも、一つの可能性が実戦で証明された。

 

他の艦娘達も敵残存部隊を撃破し、第二特務艦隊は大きな被害を出すことなく戦闘を終えた。

 

 

 


 

 

 

7月19日、日米連合艦隊はミッドウェー周辺海域へ到達した。敵の迎撃は無かった。

 

7月20日、上陸作戦に先立ち、事前砲撃が開始される。

 

主力は「アイオワ」「ミズーリ」そして「建御雷」。大口径砲弾がミッドウェーへ次々と降り注いだ。

 

 

7月21日、米海兵隊を中心とした上陸部隊がミッドウェー島へ進出を開始する。

 

「……さて」

 

「建御雷」艦橋で、海斗は自ら双眼鏡を持っていた。

 

「敵艦隊は何処だ?」

 

島への砲撃は続いている。海兵隊も既に動き始めていた。だが、敵艦隊が出て来ない。

 

「これだけ撃ってるのに」

 

海斗は遠くを見る。

 

「何も無しか」

 

「島の形変わるよ、これ」

 

美香もやや呆れたように言った。

 

人類側としては、敵の反撃を誘う意味もある。

 

海上へ出て来るなら、艦隊で叩く。そのための艦娘、戦艦、ミサイル艦、航空戦力は全て揃えている。

 

それなのに、敵は出て来ない。

 

「ちょっと嫌な感じね」

 

美香が言う。

 

「例の話?」

 

「うん」

 

ミッドウェー陥落時、一部の米兵が空からの攻撃を受けたと証言している。もし本当なら、意味するものは一つ。航空戦力を持つSUEだ。

 

人類側は、まだそれを正式には確認していない。

 

「一応」

 

海斗は言った。

 

「対空警戒は最大限やってる」

 

「艦娘も?」

 

「ローテーションで出してる」

 

「建御雷」周囲には複数の駆逐艦娘を配置し、艦橋からの見張り、レーダー、米艦隊側の索敵も合わせて、かなり厚い警戒態勢を敷いている。

 

「それに」

 

海斗が続ける。

 

「本体はどうか知らないけど、飛行機なら流石に撃てるだろ」

 

「普通の飛行機ならね」

 

「SUEの奴だって、空飛んでる以上は何かしら軽く作られてるはずだ」

 

美香は少し考えた。

 

「……だといいけど」

 

だが、この時はまだ何も起きなかった。

 

 

 


 

 

 

7月23日、午前3時。

 

「レーダーに反応!」

 

CICへ鋭い声が響いた。

 

「方位270!」

 

「距離、およそ7キロ!」

 

「数は!?」

 

「不明! 複数!」

 

「七キロ!?」

 

美香が思わず聞き返した。近過ぎる。

 

「今まで何してたの!?」

 

「探知出来ませんでした!」

 

担当の妖精も必死に答える。

 

「目標が小さ過ぎます!」

 

画面には、これまでほとんど雑音と区別出来ない反応しか無かった。それが距離が詰まり、複数が一時的に密集したことで、ようやく一つの脅威として浮かび上がった。

 

SUEの航空機。それも、人類の航空機より遥かに小さい。さらに低空を分散して飛行しているため、従来の航空編隊を探すつもりで組まれた監視では捉えにくかった。

 

 

 


 

 

 

ミッドウェー、イースタン島。深海棲艦陸上陣地。

 

「……上手ク行ッタワネ」

 

ここミッドウェーを拠点化していた個体……“中間棲姫”が僅かに笑う。

 

最初から大きな編隊で飛ばしてはいない。一機、また一機と散らして接近させ、レーダーへ大きな集団として映らないようにする。そして攻撃直前に集合する。

 

単純な戦術だが、人類側がまだこの航空機の特性を理解していない今なら十分に刺さる。

 

「第一次攻撃デ」

 

“中間棲姫”は遠く、人類艦隊の方角を見る。

 

「対空能力ヲ削ル」

 

「ソノ後、第二次攻撃」

 

攻撃隊が夜空を突き進んでいく。

 

 

 


 

 

 

「全艦娘!」

 

仮眠中だった海斗も、既にCICへ飛び出していた。

 

「対空戦闘!」

 

「撃ち方始め!」

 

「「「了解!!」」」

 

海上の艦娘達が一斉に上を向く。

 

 

艦娘には、普通の艦艇にはない利点があった。

 

人型であるため、砲塔を艦ごと旋回させる必要がない。手持ち砲なら腕を上げ、艤装式でも自分自身が敵方向へ向けばいい。

 

そして、撃つ。

 

 

「落ちろー!」

 

主砲、副砲、機銃。

 

本来は対空射撃を想定していない兵装まで、夜空へ火を噴いた。人型だからこそ無理矢理仰角を取れる。

 

だが、それでも十分ではない。対空戦闘用に設計されていない艦娘が、まだ多過ぎた。

 

夜間、小型、高速、そして奇襲。何十機もの敵機が弾幕を突破する。

 

「敵機直上!」

 

「急降下!」

 

「左舷、魚雷四本!」

 

「面舵一杯!」

 

美香が叫ぶ。

 

「回避!」

 

「建御雷」が急激に艦首を振った。

 

艦娘母艦としての沿岸海域での機動、艦娘回収、緊急回避を想定した戦闘用バウスラスターが作動する。巨体に似合わぬ急転舵によって、魚雷が艦尾を掠めた。

 

「避けた!」

 

 

だが、全艦が避けられたわけではない。

 

魚雷と急降下爆撃が海面を叩き、一隻、また一隻と連合艦隊から艦が消えていく。さらに第一次攻撃が終わる前に、別方向から次の攻撃隊が現れた。

 

「また来た!」

 

「迎撃!」

 

空襲は続いた。

 

 

 


 

 

 

夜明け。

 

海斗と美香はCICから外へ出たが、しばらく何も言えなかった。

 

昨日まで多くの艦がいた海面には、明らかに艦影が少ない。半数近くが沈没、あるいは戦闘不能に陥っていた。

 

大型艦である「アイオワ」「ミズーリ」「建御雷」は、重防御や被害対処能力によって何とか耐えている。だが、無傷ではない。もう上陸部隊を十分に支援出来る状態ではなかった。

 

 

「……酷いな」

 

海斗がようやくそう言った。

 

 

 

その時、再び警報が鳴り響いた。

 

「敵航空機!」

 

「方位200!」

 

「距離三キロ!」

 

「また!?」

 

今度はさらに近い。迎撃時間はほとんど残されていない。

 

「間に合わない!」

 

 

 

だが、一人は既に動いていた。

 

“出雲”である。

 

「一回」

 

主砲へ榴弾を装填する。

 

「一回でいい」

 

時限信管を設定し、砲身を上げる。

 

「一発当てれば」

 

レーダーから射撃諸元を貰う時間すら足りない。

 

ならば、自分で見るしかない。

 

距離、速度、方向。

 

これまで一年間、士と何度も相手の動きを見てきた。その経験を頼りに、彼女は敵編隊を読む。

 

「そこ!」

 

発砲。

 

数秒後、敵編隊の中央で爆発が起きた。

 

「当たった!?」

 

完全な直撃ではない。

 

だが、突然編隊中央で炸裂した榴弾によって敵機が散り、陣形が崩壊する。僅か数秒。それで十分だった。

 

「CIWS射撃開始!」

 

「艦娘、撃て!」

 

迎撃が始まり、今度は被害を最小限に抑えられた。

 

 

 


 

 

 

三十分後。

 

「……終わったか」

 

海斗は椅子へ深く座り込んだ。

 

「そうみたい」

 

美香も疲れ切っている。

 

今回の追加被害は比較的小さい。

 

もっとも、既に撃たれて沈むような小型艦がかなり減っているという、笑えない理由もあった。

 

「海斗」

 

美香が言う。

 

「ああ」

 

海斗も同じことを考えていた。

 

航空機が何度も飛んで来るなら、何処から飛ばしているのか。島だけなのか。

 

いや、それだけなら、事前砲撃でもっと被害を与えられているはずだ。これほどの規模で航空機を海上作戦へ投入するなら、当然考えられるものがある。

 

───母艦。

 

 

 

その直後だった。

 

「レーダー反応!」

 

二人が顔を上げる。

 

「方位210!」

 

「距離約25キロ!」

 

「数、およそ三十!」

 

海斗と美香が顔を見合わせた。

 

「……やっぱり」

 

「来たわね」

 

敵航空攻撃隊ではない。海面に浮かぶ水上目標だった。

 

「敵機動部隊……!」

 

海斗は立ち上がる。

 

疲れている。戦力も減っている。それでも、ここで士気を落とすわけにはいかなかった。

 

「各員、戦闘配置!」

 

声を張る。

 

「せっかく向こうから出て来たんだ!」

 

美香も続けた。

 

「空母型だか何だか知らないけど、顔くらい見せてもらおうじゃない!」

 

半分は虚勢だった。だが、必要な虚勢でもある。

 

 

水平線の朝の光の中に、小さな影が一つ、また一つと見え始めた。人の姿。その周囲に巨大な艤装。そして中心に、一際異質な存在がいる。

 

 

 


 

 

 

───その時だった。

 

 

『ハジメマシテ』

 

 

声が響いた。

 

「!?」

 

誰かが艦橋で辺りを見回す。

 

無線ではない。だが、聞こえる。

 

海上、何キロも先から直接響いてくる声だった。

 

『私ノヨウナ個体ニ会ウノハ、初メテカシラ?』

 

「誰だ!?」

 

「何処から!?」

 

乗組員達が混乱する。

 

だが、美香だけは遠く、敵艦隊の中央を見ていた。

 

「……まさか」

 

「美香?」

 

「あのSUE……」

 

美香の顔から血の気が引く。

 

「喋ってる」

 

「……何?」

 

海斗も双眼鏡を向ける。

 

その瞬間、再び声が響いた。

 

今度は明確に、こちらへ語り掛けている。

 

『ヨク、私ノ航空隊ノ攻撃ニ耐エ抜イタ』

 

海斗も美香も黙った。

 

敵が喋っている。

 

意思、知性、言語。それ自体はある程度予想されていた。だが、敵が直接人類へ名乗ったことは、これまで一度もない。

 

『褒美ト言ッテハ何ダガ、聞カセテヤロウ』

 

 

そして、“彼女”は告げた。

 

 

『我ガ名ハ、“空母棲鬼”』

 

 

初めて聞く、敵自身の名だった。

 

 

さらに、彼女は続ける。

 

 

『我等ノ名ハ』

 

 

『“深海棲艦”』

 

 

「……深海」

 

海斗が小さく繰り返す。

 

今までSUE、Submerged Unknown Enemy。

 

人類が勝手に付けた仮称。その向こうに初めて、彼女達自身が自らを呼ぶ名前が現れた。

 

 

だが、情報はそれだけではなかった。

 

『ソシテ』

 

“空母棲鬼”が笑う。

 

『我ハ、貴様等ガ未ダ知ラヌ“上位個体”ノ一隻』

 

その言葉を、海斗も美香も、その場にいた全員が確かに聞いた。

 

深海棲艦。

 

上位個体。

 

その二つの言葉が人類側へ初めて正式に伝わった瞬間だった。

 

 

 

『───サァ』

 

“空母棲鬼”は人類艦隊を見据える。

 

『覚エテ逝クガ良イ。我ガ名ハ、“空母棲鬼”』

 

 

 

第二次MI作戦。

 

本当の戦いは、ここからだった。

 

 

 

 

 

続く





あ と が き

順調な始まりからの絶望。
Ep.2も佳境です。


次回 『想定外』
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