サブタイトルは空自の『F-X』みたいなノリ。
『Japanese Kanmusu 2nd generation eXperimental』
欧米の司令官達との会議(通称:艦娘G5会議)から少し経った2009年初頭、“磐手”から受けた傷の修復が完了した事で“戦艦棲姫”が復帰し、その影響で少しずつ深海棲艦の攻勢も強まって来る中、
艦娘技術研究所に“鳳翔”の姿があった。主力艦娘である彼女が何故ここに居るのかと言うと、現在国防軍が防衛に専念しているからだ。
日本列島の地理的に、迎撃だけしているなら空母の出番はあまり無い。また、彼女の戦闘データを流用して昨年末より運用開始した『基地航空隊』が日本各地の航空基地に展開している為、航空戦力も問題無かった。
故に出撃機会の無い彼女は、普段は自らの司令官である洋平の執務の補佐を担当している。なお、その姿を見た海斗が「まるで秘書官……いや『秘書艦』だな」と言ったのが広まり、『秘書艦』は今やほぼ公式の役職名となっていた。
そんな彼女は今、洋平からの指令を受けここに来ている。理由は「次世代艦娘研究の為のデータ取り」との事だが……?
「失礼致します。航空母艦鳳翔、参上致しました」
「来てくれたか、待ってたよ」
エントランスで出迎えてくれた妖精に執務室に居る秋吉の元まで案内され、敬礼する。秋吉も返礼したが、忙しいようですぐにPCに目を戻す。彼のデスクには様々なデータが記された資料がずらりと並び、辺りには大量のゴミ袋とエナジードリンクの物であろう甘ったるい匂いが充満している。よくよく見れば彼の目には特大の隈が出来ていた。
「……あの、一度お休みになられては如何ですか?」
限りなく言葉を選んで“鳳翔”は秋吉に話しかける。
「……そうしたいのは山々なんだが、そうも行かなくてな」
今年に入り本格的に始動した次世代艦娘開発計画───正式名称『JK-2-X計画』。次世代……第二世代艦娘建造を目標とした研究。それに関する作業を行っている事は分かるのだが、何もこんなに身を削ってまで急ぐ必要があるのか?と思った“鳳翔”であったが、秋吉が言うには、ここまで急いで作業を進めているのには大きな理由があるとの事。それは、先月の会議で次世代艦娘研究における今後の流れを話し合った際に起こった。
先月 G5会議中
「……という流れで次世代艦娘は建造されます」
「まさか艦魂に刻まれたデータを用いて人体そのものを錬成するとは……とんでもない技術だな」
「……うん?じゃあ、試験段階ではどうするんだ?そこでは艦魂は使わないんだろう?」
次世代艦娘の建造プロセスを説明した際、海外司令官達はその特異な技術に驚きを見せた。だがそこで一つの疑問が生まれた。それは「実用化する前の試験段階では、どうやって人体錬成を行うのか?」という事。
当たり前の事だが、普通新型の兵器を開発する際そのプロトタイプを造らずして実用化する事はまず無い。第一世代艦娘においても“出雲”がそのプロトタイプに当たる。そして当然次世代の艦娘においても、実用化の前段階でプロトタイプを造る手筈になっているのだが、その部分の説明で、「艦魂を使う」とは言われなかったのである。
「はい、使いません。ではどうするのか、と言いますと……普通の人間の遺伝子を用いる予定です」
「それで良いのか?」
「はい。そもそも『艦魂に刻まれたデータを用いて』と言いましたが、このやり方が『艦魂から抽出したデータを遺伝子情報として再構成して』人体錬成を行う……という事なので、それで良いのです」
「……なるほどな、『遺伝子情報の再構成』までのプロセスをすっ飛ばしているだけで、人体錬成そのものに影響は無いのか」
「そういう事です。……まぁ、まだその技術自体は完全に確立された訳ではありませんが。目標としては赤ちゃんをもすっ飛ばして、ある程度成長した状態で錬成される事ですが、現段階では受精卵スタートが精一杯です」
……そうして疑問を解消出来たのだが、そこから更に議論していく中で、そのプロトタイプに用いる遺伝子の提供元をどうするのかという話になり、(推測とは言え次世代艦娘の持つとされる戦闘力を考えると)悪用を防ぐため親となる人間は厳正に選ばなきゃならない、そもそもこの研究の事は厳重に秘匿しておく必要がある、等々の理由により……
「海斗と美香の子供なら良いんじゃないか?ちょうど希空ちゃんもいるんだし」という結論に至った。「2人の負担が大き過ぎやしないか?」との意見も出たが、艦娘研究の関係者同士で結婚している=子供を授かる用意のある人物が彼ら2人しか居ない以上、仕方なかった。
「……そうなったからには早く技術を確立して海斗と美香に第二子を授からせてやりたい、そう考えたのが今急いでいる理由だよ。はぁ、他に誰かしら関係者同士で結婚してるカップルでも居れば話は別なのになぁ……」
「……お、お言葉ですが、それは大した理由では無いのでは……?」
“鳳翔”は、理由を聞いても納得しなかった。そんな理由ならここまで急がなくて良いじゃないか、寝る暇くらい十分にあるだろうに……と思ったからだ。
だが、そう言われた秋吉は真剣な表情になって、
「いいや、これは十分に大きな理由さ。いつまでも海斗と美香が無事で居てくれる保証なんて何処にも無いんだから、急ぐのは当然だ」
「……っ」
言葉を濁す事なくハッキリと言った。
「彼等は艦娘部隊の司令官であり、特に第二特務艦隊は攻勢にも用いられる艦隊だ。だからこそ、必然的に彼等も最前線へ赴く機会は多くなる。幾ら艦娘達が高い練度を持っていても、幾ら「建御雷」が強力な艦だとしても、死ぬ危険がない訳じゃない。ましてや、これから先は味方の筈の者からも撃たれるかも知れないのだから」
未だその存在を認知した訳では無いものの、秋吉は深海棲艦が人類側へスパイを潜り込ませていると確信していた。それは近年の艦娘の扱いの変化や、これまでの戦闘においてしばしばあった「作戦がバレていると考えなければ説明がつかない事象」が根拠となっている。ミッドウェーにおける“砲台小鬼”の出現がその代表例と言えるだろう。
『第二次AL・MI作戦』はミッドウェー・ダッチハーバー両基地陥落から数日後には実施された。それなのにあれだけの迎撃態勢を整えられていたのは、最初からそこまでが作戦の内だったとしか考えられない。そうなれば、そもそも『第二次AL・MI作戦』という作戦自体がスパイによって仕組まれた罠であったと考えるのが自然だ。
「……もし本当なら、いや多分本当なんだろうが、作戦立案を担当する部署にまでスパイが紛れ込んでいる、という事になる。本気で洒落にならん……」
「……」
こう言った事は洋平から軽く聞いてはいたものの、状況のあまりの深刻さに“鳳翔”は頭を抱えた。これではいつか、意味も無く「死ね」と命令される時が来てしまうかも知れない、そう思った。
「……とまあそういう訳だから、この研究を急ぐ事に意味はあるんだ。もちろん、これからはちゃんと休むようにはするけどさ。これが1つ目の理由だな」
「では、まだ?」
「ああ。強いて挙げるなら、だが……そうだな。研究のスタートダッシュの勢いを、せっかくのインスピレーションを寝てリセットしたく無かったんだ」
───アイデアがどんどん浮かんできて、寝る間も惜しんでやる事ってあるだろ?───彼は苦笑しながら言った。
「はぁ……分かりました。なら問題ありません」
(どちらかと言えば2つ目の理由の方が本音でしょうね……)
1つ目と比べて温度差の酷い2つ目の理由を聞いて、“鳳翔”は別の意味で頭を抱えていた。が、それ以上口出しはしなかった。
「ごめんな、長官に頼まれたんだろ?釘刺して来いって」
「どうしてその事を?」
デスク周りに散乱するゴミ袋を片付けながら、秋吉が呟く。
「電話で洋平と話した時、疲れた声で話してただろうから、気付かれてるだろうなと思ってさ」
実際、“鳳翔”は洋平に「秋吉が過労気味だろうから注意して休ませろ」と頼まれて来ており、その指令と今日自らが目撃した彼の様子もあって彼に休むよう進言していたのだ。
「全く、そうやって心配するなら洋平も艦娘研究の関係者と結婚すれば良いんだ。そうすれば海斗と美香の助けにもなるのに……」
「そう……ですか」
「……?どうかした?」
「い、いえ!何でもありません!」
「洋平」「結婚」と聞いて、“鳳翔”は少しばかり挙動不審になったが、秋吉はそれ以上追及しなかった。やらなければならない事があるからだ。
ゴミ捨てなどの雑用を終え、2人は執務室のソファに机越しに向かいあって座る。
「……よし、じゃあ本題に入ろうか。今日君をここに呼んだ理由だな」
「あ、はい。データ取りの為だ、と提督は仰っていましたが……」
「より正確に言うなら、『空母艦娘の』データ取り、だ。艦娘共通の事ならもう十分データは蓄積されてるけど、空母はまだ世界全体で見ても希少だから」
秋吉が言うには、今日“鳳翔”をここに呼んだ理由は「空母艦娘の運用データ収集」との事。次世代艦娘──第二世代において多数の建造が予想される空母艦娘。その運用面を最適化する為のデータを取りたいからだった。
「戦艦や巡洋艦、駆逐艦の運用データは潤沢に手に入る。それらはより最適化した艤装や、戦闘時における艦隊行動を実現する為に使われてきた。でもそのデータ量が空母は極端に少ない。このままだと不完全な状態で第二世代の空母艦娘を建造する事になってしまうんだ。その問題を解消したい」
要するに、100年近く前、空母の黎明期に「鳳翔」が担った役目を、今度は“鳳翔”がこの空母艦娘の黎明期に担え、と言うことである。その言葉を聞いて、彼女はどことなく懐かしさを覚えた。彼女の魂に刻まれた「鳳翔」の記憶が共鳴しているのだろう。
「必要なデータを全て取り切るのに数日は掛かるだろうけど、やってくれるか?」
「……了解しました。空母鳳翔、「鳳翔」の役目を果たします!」
“鳳翔”は力強く答えた。もう一度、日本空母の母となる為に。
続く
あ と が き
“赤城”や“加賀”には強くあって欲しいですから。そのためには、彼女達の先輩であり、日本空母の母である“鳳翔”は空母運用を確立したパイオニアとなり一航戦を鍛える師匠とならなければならない。従って一航戦を強キャラ扱いするならまずは“鳳翔”を強キャラ化させなければなりません。その為にはゴリッゴリに強力な航空戦術が確立される必要があります。(それを私が描けるかは別として、ですが)
近距離でバトルする都合上、バトル漫画のような形で強キャラを描ける戦艦や巡洋艦と違って、基本的に「質より数」である艦載機運用において、「圧倒的な数を凌駕する質」を実現できる強さでなくては、普通は空母艦娘を強キャラ化させられませんから……。
ちょっと短めでしたが、キリが良いので区切りました。続きは来年。
それでは、良いお年を!
次回 空母艦娘運用の確立