自我持つ兵器の英雄譚   作:Nyappy-

22 / 66

明けましておめでとうございます。

前回の続きです。空母艦娘についての独自解釈あり。



17. 艦娘版・空母運用

 

約二時間後

 

艦娘技術研究所 演習場

 

 

ここは、かつて“出雲”が一人で訓練に励んでいた場所である。

 

世界初の実用艦娘が誕生してから数年。その間に研究所そのものが拡張を重ねたのと同じく、演習設備も当時とは比べものにならないほど充実していた。

 

中心となるのは、艦娘が自由に航行出来るほど広大な屋内水上演習区画だ。水面上では砲雷撃訓練用の無人標的が複雑な軌道を描いて動き回り、水中では魚雷を改造して造られた標的を使った対潜訓練まで行える。

 

さらに、第二次AL/MI作戦などで蓄積された空母系深海棲艦との戦闘データを反映し、対空戦闘訓練にも対応するようになっていた。

 

もっとも、こちらはまだ比較的原始的なもので、研究所所属の九〇式水上偵察機が布製の吹流しを曳航し、それを艦娘が射撃するという形式である。戦間期の航空隊が行っていた標的曳航訓練に近いが、実際に動く空中目標を撃つ感覚を身につけるには十分役立っていた。

 

現在では、新しく建造された艦娘や、大規模改装を終えた艦娘の慣熟訓練に使われることが多い。

 

そして今日、この場所で始まるのは、“鳳翔”という一人の空母艦娘を改めて調べ直すための試験だった。

 

 

 


 

 

 

「所長、配置につきました」

 

広い水面の中央で、“鳳翔”が左肩の飛行甲板を展開しながら通信を入れる。

 

管制室にいる秋吉は、複数のモニターと計測機器を確認した。

 

「よし。それじゃあ始めよう。まずは基本中の基本、艦載機の発着艦からだ」

 

「了解しました」

 

これまで空母艦娘は、基本的に通常の航空母艦で培われた運用法を踏襲して使われてきた。飛行機を発艦させ、航空隊を管制し、任務を終えた機体を着艦させる。空母なのだから、それで当然だと思われていたのである。

 

だが今回の目的は、その常識を一度疑ってみることだった。

 

空母そのものではなく、人間ほどの大きさしかない『空母艦娘』だからこそ出来ることはないのか。

 

その答えの一つは、初日の試験ですぐに見つかった。

 

「帰投隊、進入します」

 

“鳳翔”が左腕を水平に伸ばす。

 

左肩から腕に沿って固定された細長い飛行甲板へ、九〇式艦戦が一機ずつ降りてきた。着艦装置へ引っ掛かった機体は短い距離で減速し、そのまま甲板上へ停止する。

 

一機、二機、三機。

 

順調に回収が続いていたが、そのうち一機が僅かに進入角を誤った。車輪が甲板へ触れて跳ね、再び接地したものの、今度は機体が横へ流れる。

 

「あっ」

 

秋吉がモニターを見つめた。

 

このままなら甲板から転落する。

 

だが、その直前、“鳳翔”が右手を伸ばした。小さな機体を、空中で受け止めたのである。

 

「…………」

 

秋吉が黙り込む。

 

“鳳翔”は何事もなかったように機体を持ち直すと、そっと飛行甲板へ戻した。その後、もう一機が着艦に失敗したが、それも同じように右手で掴み取っている。

 

やがて全隊の回収が終わった。

 

「全機、着艦完了しました。二機ほど危ない場面がありましたが……」

 

「いや、そこだ」

 

秋吉はすぐに記録を巻き戻した。画面には、甲板から滑り落ちる寸前の機体を“鳳翔”が受け止める瞬間が映っている。

 

「今まで普通にやってたのか?」

 

「はい?」

 

「それだよ。飛行甲板から落ちそうになった艦載機を手で掴むやつ」

 

“鳳翔”は少し不思議そうな顔をした。

 

「はい。出来ますので」

 

「……そうか。出来るのか」

 

実艦の空母にそんなことは出来ない。

 

着艦は、しばしば『制御された墜落』とも形容されるほど難しい。まして実戦では、被弾によって脚や機体、操縦系統を損傷した航空機まで帰ってくる。

 

だからこそ実艦では、飛行甲板上に事故機を止める設備を用意し、海へ落ちた場合には周囲の駆逐艦などが搭乗員救助に備える必要があった。

 

だが、空母艦娘には腕がある。

 

「つまり、甲板から落ちそうになったら、自分で拾える」

 

「はい。余程酷い状態でなければ」

 

「もし完全に海へ落ちたら?」

 

「私が回収します。すぐ近くですので」

 

秋吉は暫く黙り込んだ後、記録へ何かを書き足した。

 

「……こういうのだよ」

 

「はい?」

 

「今回調べたかったのは」

 

実艦では出来なかったことが、人型になった途端に出来る。しかも本人にとってはあまりにも当たり前過ぎて、これまで特別な能力として誰も記録していなかった。

 

「これなら、空母艦娘だけでもある程度自己完結した航空隊運用が出来るのか……?」

 

秋吉は少し考えた。空母艦娘を複数集め、空母だけで機動部隊を編成出来れば、護衛用の巡洋艦や駆逐艦を別任務へ回せる。

 

しかし、すぐに首を振った。

 

「……いや。敵航空隊に接近された時の防空能力が足りないな。結局、護衛艦娘は必要か」

 

「そうですね。私達自身にも対空兵装はありますが、それだけへ任せるのは危険かと」

 

「まあ、そりゃそうだよな」

 

一瞬で生まれた『空母だけの機動部隊構想』は、あっさり棚上げされた。

 

とはいえ、収穫そのものが消えたわけではない。着艦事故への対応一つ取っても、空母艦娘は実艦と同じではないのだ。

 

その後も発艦と着艦を何度も繰り返し、機体間隔、回収速度、事故発生時の対応、妖精搭乗員との連携などを記録したところで、初日の試験は終了した。

 

 

 


 

 

 

二日目。

 

「今日の中心は航空戦術だ」

 

秋吉から説明を受け、“鳳翔”は少し首を傾げた。

 

「航空戦術……ですか」

 

「ああ」

 

「ですが、艦載機同士の空中戦そのものは、通常の航空機と大きく変わらないのでは?」

 

「その通り」

 

現在の艦娘用航空機は小型化されてこそいるものの、空へ出てしまえば航空機であることに変わりはない。まして、今の主力は複葉機であり、空対空戦闘の中心は互いに旋回しながら背後を取り合う格闘戦になる。

 

そこだけを見れば、通常の航空戦術を大きく変える必要はなかった。

 

「でも、人類側の航空戦力は君達だけじゃない」

 

秋吉がモニターへ幾つかの機体を表示する。

 

F-15J、F-2、F-2スーパー改。

 

そして、通常空母で運用されるF/A-18J。

 

「実戦じゃ、こういう通常航空部隊と一緒に戦うこともあるだろ」

 

“鳳翔”が納得したように頷いた。

 

「速度も高度も、私達の艦載機とはまるで違いますね」

 

「ああ。だから重要なのは、『同じ空でどう使うか』だ」

 

現代ジェット戦闘機と、艦娘が運用する小型複葉機。単純な機体性能だけを比較すれば、勝負にすらならない。

 

だが、それぞれが得意とする任務は違う。高速・高高度から広い空域を担当する通常航空戦力と、艦娘の周囲で細かな対深海棲艦戦闘を行う艦娘航空隊。それらを競わせるのではなく、どう噛み合わせるか。その研究が必要だった。

 

「とはいえ」

 

秋吉は机の横から、少し大きめのゴーグルを取り出した。

 

「本物のF-15やF-2を毎回ここへ呼ぶわけにもいかない」

 

「それは……何でしょう?」

 

「VRゴーグル」

 

「VR?」

 

「希空ちゃんが作った」

 

その一言で、“鳳翔”は妙に納得した。

 

「何故でしょう。急に何でもありそうに思えてきました」

 

「僕も最近そうなってきた」

 

秋吉は苦笑しながらゴーグルを渡す。

 

「とりあえず着けてみて」

 

“鳳翔”が言われるまま装着すると、次の瞬間、目の前から演習場が消えた。

 

 

広がっているのは、どこまでも続く青い海。潮の匂いがし、頬へ風が当たる。足元に感じる水の抵抗まで、先程までいた真水の演習プールとは違っていた。

 

「……凄い。まるで、本当に海へ出たみたいです」

 

現実の秋吉には、その声がゴーグル側の通信を経由して届いていた。

 

「聞こえるか?」

 

『はい、聞こえます』

 

「よし。通信も問題なし」

 

希空が造ったこの装置は、単純に目の前へ映像を映すだけのものではない。艦娘の艤装系統へ接続し、装着者の感覚情報へ介入することで、視覚、聴覚だけでなく、身体が感じる環境そのものを仮想空間へ置き換える。

 

言ってしまえば、艦娘専用の全感覚型シミュレーターだった。

 

ただし、装置そのものを艤装の一部として認識させ、神経接続系統へ繋ぐ必要があるため、現時点では普通の人間には使えない。秋吉はそれだけが少し不満だった。

 

「僕も一回やってみたいんだけどな……」

 

もっとも、外部モニターから装着者の視界を見ることは出来るし、自由に移動出来る観戦視点も用意されている。研究用途としては十分だった。

 

秋吉はマイクを調整した。

 

「チェック、ワン、ツー。鳳翔、聞こえる?」

 

『問題ありません』

 

「よし」

 

表示されていた仮想海域へ、複数の友軍航空機と敵機が出現する。

 

「それじゃあ、模擬戦を始める」

 

一拍置いて、秋吉が告げた。

 

「戦闘開始!」

 

 

 


 

 

 

そこから数日間、“鳳翔”と航空隊の妖精達は、仮想空間の中で様々な条件の模擬戦を繰り返した。

 

F-15Jを始めとする空軍戦闘機と共同で敵航空隊を迎撃する空対空戦。F/A-18JやF-2スーパー改と連携し、深海棲艦の水上部隊を叩く空対艦戦。沿岸へ展開した陸上型深海棲艦を想定した空対地戦。

 

「……何でA-10のデータまで入ってるんだ?」

 

ある時、秋吉は仮想空間へ出現した米軍攻撃機を見て呟いた。

 

希空が何処から持ってきたのかは、よく分からない。だが、使えるなら使う。そうして“鳳翔”航空隊は、A-10と一緒に地上目標へ攻撃を加えるという、現実ではなかなか見られそうにない訓練まで経験することになった。

 

このシミュレーションへ入っているのは、“鳳翔”だけではない。艦載機を操縦する妖精達も、それぞれ接続された訓練装置を介して仮想空間へ入り、実際に自分の機体を操っていた。

 

そのため今回の試験は、“鳳翔”本人のデータ収集だけでなく、航空隊全体の練度向上にも繋がっていった。

 

高速のジェット戦闘機とどう空域を分担するか。速度差がある味方同士で、どう攻撃時刻を合わせるか。大型の通常航空機が敵防空を崩し、その隙に小型の艦娘航空隊が接近する。あるいは、艦娘航空隊が敵を引き付け、その間に通常航空部隊が本命の攻撃を行う。

 

今まで個別に存在していた戦力が、少しずつ一つの航空戦術へまとまり始めていた。

 

そして数日後、別の意味で予想していなかった成果が出た。

 

 

 


 

 

 

その日の訓練は、艦娘水上部隊との共同作戦だった。

 

“鳳翔”航空隊が敵艦隊前衛へ先制攻撃を加え、戦列を乱した後、味方艦娘部隊が突入して砲雷撃戦へ移る。典型的な航空支援付き水上戦闘である。

 

「攻撃隊、離脱。味方水上部隊へ引き継ぎます」

 

“鳳翔”と妖精達は予定通り役目を終えた。

 

仮想空間上の味方艦娘は、各艦種の精鋭から収集した戦闘データを基に動作するCPU制御であり、単純な的ではない。前衛を失った深海棲艦へ接近し、互いに砲撃を始める。

 

秋吉は、その戦況を外部モニターから何気なく眺めていた。

 

「……ん?」

 

そこで、妙なものが目に入った。

 

敵の“ヲ級”が、砲撃している。

 

「……敵空母が、艦砲射撃?」

 

艦載機の多くを失い、水上部隊に追い詰められた“ヲ級”が、搭載している高角砲を海上の艦娘へ向けて撃っていた。

 

本来、これはただのバグだった。

 

希空がシミュレーターを組んだ際、『水上艦艇へ射撃可能な艦砲』という分類へ、高角砲まで一緒に入れてしまっていたのである。対空砲も砲なのだから、分類そのものが完全に間違っているわけではない。ただ、敵AIがそれを水上目標へ積極的に撃つことまでは意図していなかった。

 

希空が見れば、「あ、まちがえた」で終わる。

 

しかし秋吉は、その事実を知らない。

 

最初は奇妙に思った。だが、見ているうちに別のことが気になり始めた。

 

「空母の艦砲射撃、か……」

 

実艦でも、全く例がないわけではない。

 

黎明期から戦間期の空母には、水上艦艇との遭遇を想定してそれなりの砲を搭載した艦が存在した。「赤城」や「加賀」に至っては、完成後も20センチ砲を装備していた時期がある。

 

もっとも、実艦の場合は問題が多い。空母は大きく、防御力も戦艦や巡洋艦ほど高くない。そもそも敵水上艦へ接近して砲撃戦を行うこと自体が、本来の役割から外れている。

 

それにケースメイト式の砲なら、左右の舷へ分かれて搭載されているため、全砲を一つの目標へ向けることも出来ない。

 

だが、艦娘なら話が違う。

 

秋吉が身を乗り出した。

 

「……待てよ」

 

艦娘の艤装は、元の艦そのものを人間サイズへ縮小した構造ではない。人型の身体で使いやすいように再構成されている。

 

なら、実艦では左右へ分かれていた砲も、人間の身体を中心に動かせる艤装なら、一方向へ集中出来る。

 

「空母だから砲撃しない、じゃなくて……空母だった頃は、砲撃戦をする意味が薄かっただけ?」

 

空母艦娘になれば、話は少し変わる。

 

 

そう考えていたところへ、訓練終了の表示が出た。数秒後、“鳳翔”がゴーグルを外す。

 

「お疲れ様です、所長」

 

秋吉は、いきなり尋ねた。

 

「鳳翔」

 

「はい?」

 

「君、14センチ砲って撃てる?」

 

「……え?」

 

予想外の質問だったらしい。それでも“鳳翔”は少し考え、

 

「はい。一応は」

 

と答えた。

 

秋吉の顔が明るくなった。

 

「そうだよな!」

 

「所長?」

 

「何をモニター見ながら考えてたんだ、僕は。実物がいるじゃないか」

 

 

 

航空母艦「鳳翔」は、空母という艦種そのものがまだ手探りだった時代に建造された艦である。

 

そのため、後世の空母ではまず見られなくなった水上戦闘用の14センチ砲を四門装備していた。当然ながら、敵艦と積極的に撃ち合うための主武装ではない。航空機を使えない状況で敵艦に接近された場合などを想定した、あくまで自衛用の兵装だった。

 

しかし、その砲も“鳳翔”の艤装へ受け継がれている。そして、人型艤装へ再構成されたことで、一つ大きな違いが生まれていた。

 

四門全てを、同じ方向へ向けられるのである。

 

「……本当に全部、前へ向くな」

 

秋吉が感心したように呟く。

 

「はい。使用したことはほとんどありませんが」

 

「そりゃそうだよな。君、空母だし」

 

それでも、単一目標へ四門の14センチ砲を集中出来るということは、瞬間的な投射火力だけなら、小型巡洋艦に近いものを持つことになる。

 

もちろん、砲の数だけを見て巡洋艦と同じとは言えない。射撃指揮、装甲、継戦能力、砲戦訓練。その全てが本職とは異なる。

 

だが、使えないわけではない。

 

約三十分後、演習プールの奥へ水上標的が配置された。

 

「ターゲット、配置完了」

 

秋吉の声が通信へ入る。

 

「鳳翔、試しに撃ってみてくれ」

 

「了解しました」

 

“鳳翔”は艤装を展開すると、四門の14センチ砲を一つの標的へ向ける。狙いを定め、発砲した。

 

砲声が演習場へ響く。

 

しかし、砲弾は外れた。着弾した水面から、塗料を含んだ水柱が上がる。

 

「…………」

 

「…………」

 

秋吉と“鳳翔”の間に微妙な沈黙が流れた。

 

「もう一回やってみようか」

 

「……はい」

 

二斉射目も外れ、三斉射目も標的を捉えられなかった。

 

「意外と難しいですね……」

 

“鳳翔”の表情が少し真剣になる。

 

当然といえば当然だった。彼女は空母である。日頃行っている訓練は、航空隊の発着艦、索敵、管制、防空、対艦攻撃。自分で敵艦へ主砲を向けて撃ち合う訓練など、ほとんどしていない。

 

使える兵器だからといって、上手く使えるとは限らない。

 

それでも、何度も撃っていれば少しずつ感覚を掴んでいく。十発、二十発、三十発と撃つうちに、着弾は徐々に標的へ寄り始めた。

 

そして四十発ほど撃った頃、一発が標的へ直撃した。塗料が大きく飛び散る。

 

「あっ」

 

「当たった!」

 

“鳳翔”自身も少し嬉しそうに声を上げた。

 

次弾は最初から標的の近くへ落ち、続く砲弾も次々と命中する。やがて訓練用標的へ撃破判定が出た。

 

「ターゲット撃破!」

 

秋吉が笑う。

 

「やるじゃないか!」

 

“鳳翔”は自分の14センチ砲を見ながら、少し悔しそうに呟いた。

 

「思っていたより難しいですね。これは、鍛錬しなければ……」

 

「いやいや」

 

秋吉が笑う。

 

「そこまで本気にならなくていいよ」

 

「ですが」

 

「空母の本職は、あくまで艦載機運用だ」

 

それは変わらない。戦闘機、爆撃機、攻撃機。それらを遠くへ送り出し、自分自身が直接敵へ近付くことなく大きな打撃を与える。そこに空母の価値がある。

 

「砲撃出来るからって、わざわざ敵巡洋艦の前まで出て殴り合う必要はない」

 

「……それは、そうですね」

 

「でも」

 

秋吉は、先程までの記録を見る。

 

「選択肢としては、面白い」

 

敵へ接近された時。艦載機を出せない時。航空隊を失った時。小型艦を相手にする時、あるいは味方の援護が必要な時。そうした状況では、空母艦娘自身が持つ砲も、最後まで全く無意味な兵装というわけではない。

 

実艦では、空母が砲撃戦をする状況そのものが避けるべきものだった。しかし空母艦娘は、人間ほどの大きさで高速に動くことが出来る。砲撃を避けることも、実艦に比べれば遥かに容易だ。

 

もちろん、被弾すれば危険であり、防御力では戦艦艦娘や巡洋艦娘に敵わない。だから主戦術にするべきではない。

 

それでも、『出来ない』のと、『出来るが、普通はやらない』のでは大きく違う。

 

「空母をそのまま人間サイズにしたんじゃないんだよな」

 

秋吉が呟く。

 

“鳳翔”が振り返る。

 

「何がですか?」

 

「君達だよ」

 

艦娘は、実艦の記憶や能力を受け継いでいる。だが、同じ存在ではない。人型になったことで失ったものもある。その代わり、人間の手足や身体の動きを手に入れたことで、出来るようになったこともある。

 

「実艦時代の常識を、そのまま当てはめるだけじゃ駄目なんだ」

 

今回の試験で得られた最大の成果は、まさにそのことだった。

 

 

“鳳翔”も、自分の飛行甲板と14センチ砲を見比べる。

 

着艦に失敗しかけた艦載機を、自分の手で掴む。海へ落ちれば、自分で拾いに行く。普通の航空戦力と直接意思疎通しながら共同作戦を行い、必要なら自分自身の砲を撃つ。

 

どれも、実艦「鳳翔」には出来なかった。

 

だが、艦娘“鳳翔”には出来る。

 

「……空母艦娘としての戦い方、ですか」

 

「ああ」

 

秋吉は頷いた。

 

「これから作っていこう」

 

 

 


 

 

 

数日間に及んだデータ収集は、そこで一旦終了した。

 

発着艦、航空隊管制、通常航空戦力との共同作戦、妖精搭乗員との連携。そして、当初は予定にすらなかった水上砲撃。

 

集められた膨大なデータは、JK-2-X計画へ組み込まれ、将来建造される第二世代空母艦娘の設計と教育体系へ利用されることになる。

 

後に“赤城”、“加賀”、“蒼龍”、“飛龍”、“翔鶴”、“瑞鶴”、そしてさらに多くの空母艦娘達が生まれ、航空隊を率いていく。その基礎は、この時、少しずつ形になり始めていた。

 

試験を終えた“鳳翔”は、研究所の職員達へ礼を告げ、洋平の待つ国防省へ帰投する。

 

空母黎明期に実艦「鳳翔」が担ったのと同じように、艦娘“鳳翔”もまた、これから生まれてくる空母達のために、新しい空母運用の道を切り拓き始めていた。

 

 

 

 

 

続く





あ と が き

条件さえ噛み合えば、空母の砲撃能力は輝く。


次回 日常回(?)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。