自我持つ兵器の英雄譚   作:Nyappy-

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日常回のような何か。大きな進展もあります。
主に洋平と“鳳翔”にとって(唐突な気もするけど……)。



18. “鳳翔”の決意

 

8月中旬 国防省 特務艦隊司令部

 

「8月……もう夏か」

 

いつも通り執務室で職務に励む中、不意にパソコンに表示されるカレンダーを見て、洋平は項垂れながら言った。

 

「最近は猛暑日が続いているそうです。ここは地下深くですから、感覚も狂いますよね……」

 

そんな彼をフォローする“鳳翔”。

この国防省の地下を主な仕事場所とする者……その中でも特に忙しく、地上に出る事すら稀になっている者達は、常に冷暖房完備の空間で生活している為に季節感が狂う事がままある。

かつてはそんな事も無かったのだが、深海棲艦との戦争が始まってからはそういった者が加速度的に増えていった。

 

今年も既に後半へと突入している。大規模な作戦行動こそ無いものの、哨戒活動等による出撃が止まる事は無い。司令長官である洋平は連日それらの職務に追われ続け、気付けば地上は猛暑真っ只中。今年も夏がやって来た。深海棲艦との開戦からは実に9年が経とうとしている。

民間への情報統制が行われている為、大多数の国民にとってこの約10年間は「物価高騰で生活が苦しくなった」程度の認識である。勿論、空母「瑞鶴」を筆頭とする国防海軍第一艦隊の『遭難』に加え、世界各国の多数の艦艇が所属基地を出航後その存在を確認されていない事もあって、有識者達は「何かが起きた」事には気付いているが。それでも、その情報が公になる事は無い。

故に世間は例年通りお盆休みに突入しているのだが、彼に休みが来る事は無い。もう数年間、まともな休みは取れていなかった。

 

「せめて、父さんと母さんの墓参りくらいは行きたいもんだが……この仕事量じゃあ、今年も無理そうだな」

 

「今年も海斗さんと美香さんに代わりに行って来てもらうのですか?」

 

「そうするしか無いな……」

 

そう言い、洋平は再びキーボードを叩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

2日後

 

「墓参り、行くぞ。兄貴」

 

「……来て早々何だよ?」

 

この日、国防省へ海斗と美香がやって来た。護衛として“出雲”と“磐手”を従えている。いきなりの訪問だったので流石に驚いたのだが、執務室へ着いて早々、「仕事はいいから出かけるぞ」と言って来たので驚きが困惑に上書きされた。

 

「仕事はいいから、って……そういう訳にはいかねぇだろ?」

 

「んなもん艦娘達にやらせれば良いだろ。みんなきっと手伝いたがってるぞ?」

 

「そうそう、もっと他の子達にも仕事を割り振れば良いんだよ。……まあ私は別にこのままでも良いけどさ?兄さん、鳳翔ちゃんと仲良くやってるみたいだし」

 

そう言って揶揄う美香。それを聞いた“鳳翔”の顔はほんのりと赤くなっている。

しかしその事に気付かない洋平(朴念仁)は即座に反論しようとする。

 

「美香、俺と鳳翔はそういう関係じゃ…………えっ……」

 

だがそこで言葉は途切れた。ふと圧を感じて横を見た所、“鳳翔”が何とも言えない表情でこちらを見つめていたからだ。

 

「鳳翔……?ど、どうした?」

 

「……いえ、何でもありません!」

 

洋平と目が合うと、すぐに彼女はそっぽを向いてしまった。その横顔は更に赤みを増している。

 

 

「……身を固めるなら早めにな。俺達ももうアラサーなんだし」

 

「えっ?……んぇ……はぁ?」

 

海斗は、2人にそれとなく後押しの言葉を送った。

 

その後、なんやかんやあって、洋平を国防省の外へと連れ出す事に成功。その身体に数ヶ月ぶりの日光を浴びせた。

 

 

「あっっっっっっっっっっつ……なんだよ、これ」

 

「もうちょっとで車だよ。ほら頑張って」

 

フラフラになりながら、車に乗せられる洋平。真冬ぶりの外出なのだから無理も無い。

向かうは羽田。神崎家所有(管理は東堂家に一任)のプライベートジェットに乗って北海道へ飛ぶ予定である。

目的の場所は、東堂家の敷地内にあるからだ。

 

 

 

 

2時間後 プライベートジェット機内

 

「……なあ、鳳翔まで連れてくる必要あったのか?」

 

「加奈と士にも挨拶しなきゃだろ?」

 

「挨拶、ね!」

 

「お前らなぁ……」

 

相変わらず洋平は弟夫婦に弄られている。2人の言う『挨拶』も勿論そういう意味だ。そのやり取りを端から見ている出雲型姉妹も苦笑いこそすれど助け船を出す気は無い。

 

そんな中、もう1人の当事者はと言うと───

 

 

 

 

 

(結婚、ですか……)

 

洋平は兎も角、ノリノリで弄っている海斗と美香でさえ若干の冗談も混じりながら言っている中、彼女は「洋平との結婚」について真剣に考えていた。

 

(あの時、秋吉所長が仰っていた事……)

 

 

───他に誰かしら関係者同士で結婚してるカップルでも居れば話は別なのになぁ───

 

 

(関係者同士の、カップル)

 

彼女の脳裏に過ぎる、秋吉の発言。あの日の会話は、本来お淑やかな彼女を強く突き動かす原動力になっていた。

 

 

“鳳翔”は、洋平の事が好きだ。

一特艦に配属された当初はただ信頼する上司へと向ける親愛であったが、その思いは次第に恋愛的な側面を持っていった。

だが、だからと言ってその気持ちを出そうとは思わなかった。洋平には自分よりも相応しい相手が現れると思っていたし、何より自分は“艦娘”だから。

当然ながら「人間と艦娘の結婚」など前代未聞。艦娘の立場を考えれば法的にも不可能。だからこそ、彼女は諦めていた。───あの日、研究所で秋吉の愚痴を聞くまでは。

 

あの愚痴は、暗に自分と洋平との結婚を後押しする言葉であった、と彼女は認識している。そうでなければあのタイミングであんな事を言うはずがないからだ。また海斗と美香にも洋平への気持ちは気付かれており、その頃から2人には彼の妻のような扱いをされて来ていたので、最も近い親族からの公認は受けていると言って良い。既に外堀は埋まっている。

また政治的に見ても「結婚」という究極の人権の一つを艦娘が行使する事によってその地位向上の助けになれるかも知れないので、艦娘を護ろうと奮闘している洋平へアタックをかける大義名分としても申し分無い。

何より、自覚こそしていないらしいが彼が自分に対してそれなりに好意を抱いている事も普段の日常生活を通して分かっている。だから、今の“鳳翔”は洋平との結婚へ向けて遠慮なく突き進んでいた。

無論その事を洋平本人は知る由もないが、そんな事は気にしない。……そう言えるだけの自信と、艦娘とその関係者達の未来を守るという強い覚悟が、今の彼女にはあった。

 

(海斗さんと美香さんを、同じ艦娘の皆さんをお助けする為にも、私が……)

 

周りの人々がアシストしてくれているのだから、後は自分が決めるだけ。とはいえ洋平は結婚に対してあまり乗り気では無さそうな様子を見せている為、普通にやれば逃げられる。なので“鳳翔”は、艦娘の立場を敢えて利用して、更に洋平が絶対に逃げられない理由付けまで施した政略結婚に持ち込む気であった。

 

 

大小様々な思惑が渦巻く中、そんな彼らを乗せたプライベートジェットは羽田を離陸し、北の大地へと飛び立った。

 

 

 

 

 

その日の夕方 北海道 東堂家

 

あれから数時間掛けて目的の場所へと到着した洋平達は、数年ぶりに士や加奈と顔を合わせた。

 

「久しぶり、兄ちゃん達」

 

「数年ぶりだね」

 

そこに居たのは、それぞれ17歳、14歳になり成長した士と加奈だった。士はつい先月誕生日を迎えたばかりだ。

 

 

「これ、誕プレだ。にしても大きくなったな!」

 

そう言って士の頭をわしゃわしゃと撫でる海斗だが、余裕で出来ていた以前と違い、その腕は水平に伸びており、何なら気を遣ったらしい士が、少し屈んだ態勢になっていた。

一方、その横でハグしている美香と加奈の姿は加奈が幼かった頃とあまり変化は無く、相変わらず微笑ましかった。

 

同じく久しぶりの“出雲”と初対面の“磐手”との挨拶を終えた後、海斗が2人に“鳳翔”を紹介した。

 

 

「それで、海斗兄ちゃん。この人が?」

 

「ああ。兄貴の奥さんだ「だから違うっての」分かった分かった。兄貴の艦隊に所属している艦娘の鳳翔だ」

 

(綺麗な人だ……流石艦娘)「初めまして、洋平兄ちゃん達の義弟(内定)の東堂士って言います。これからよろしくお願いします!」

 

「航空母艦、鳳翔です。よろしくお願い致します」

 

 

この後、久しぶりの再会を祝してパーティーを執り行った。その余興として、士が加奈に思いっきりシメられていた。どうやら“鳳翔”との挨拶の際に加奈が士から発される良からぬ波動を感知していたらしい。最早伝統芸能。

 

 

 

 

 

パーティー終了後

 

「鳳翔さん」

 

「はい、何でしょうか?」

 

パーティーを終えて、片付けを手伝っていた“鳳翔”を、同じく手伝っていた士が呼び止める。片付けを主導する加奈も言葉こそ発しないが、聞き耳を立てている。

 

「俺、あんまり気の利いた事は言えないですけど……応援してますから。頑張って下さい」

 

「あ……はい。頑張らせて頂きますね」

 

笑顔でそう答える“鳳翔”を見て、2人は微笑んだ。短い会話だったが、彼女にとってこれは海斗と美香以外の神崎家で最も洋平に近い人物からの激励という大きな意味を持つ物。そしてこの2人が、艦娘を護るべく彼らなりに頑張っている事も知っていた為、そんな2人からの言葉という事もあって改めて決意を固める事が出来た。

 

 

 

 

 


 

 

翌朝、彼らの姿は東堂家敷地内の墓地の一角にあった。そこには2つの名前が刻まれ、1つの遺骨が納められている。

 

 

「総員、敬礼」

 

花を入れ替え、数本の線香を焚いた後、洋平のその言葉と共に参列した全員が敬礼を捧げた。お盆期間である為、お墓では無く家の中にある仏壇でやるべきかも知れないが、帰ってくる家の敷地内に墓地がある以上はここでも良いとの判断だ(仏壇の前に8人は狭過ぎるという物理的な理由もあるが)。

 

 

「……今まで来れなくてごめんな、父さん、母さん。多少無理矢理だったけど、やっと来れたぜ」

 

「今日は、俺たちの部下として活躍してくれてる艦娘達も連れて来たんだ。その挨拶、聞いてってくれ」

 

 

「初めまして、装甲巡洋艦の出雲です。ご子息、ご息女にはとてもお世話になっております」

 

「出雲型装甲巡洋艦、妹の磐手です。同じくお世話になっています。……息子さん達は私達が必ずお守りします。だから安心して見ていて下さい」

 

 

……そして、挨拶は“鳳翔”の番となった。

 

「航空母艦、鳳翔です。御二方のご長男である提督にはとてもお世話になっております。提督の事は必ず私がお守り致しますから、安心して見守っていて下さい。…………それから、もう一つだけ。」

 

そう言い、彼女は深呼吸をした。そして、その胸に秘めた『決意』を宣言した。

 

 

 

 

 

「私、鳳翔は提督である神崎洋平特務艦隊司令長官とこの度、結婚させて頂く事をここにご報告致します!」

 

 

 

 

 

「…………は?…………はぁぁぁぁぁぁあ!!?」

 

 

想定外の宣言に思わず叫んだのが誰なのか……それは最早説明不要だろう。

 

 

秘書艦にいきなり己の入籍を報告された彼は、

両親の眠る墓前でなされた報告を、今更否定する事など出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く





あ と が き

……先に謝っておきます。
本作中で結婚済み、又はそれに近い関係にあるカップルは幾らか出てきますが、だからと言って恋愛描写を事細かに書く気はありません。というか出来ません。恋愛系の経験が告白までしか無いので……。(3敗/2人)

大学生ならそれが普通ですよね?(震え声)


次回 ケッコンカッコガチ
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