様々な思惑渦巻く結婚式。
今回でEp.3の「序章」は終わりかもです。
8月末 国防省
思いがけなく取れたお盆休みも終わり、国防省へと戻ってきた洋平と“鳳翔”。そのままいつも通りの日常に戻る……訳も無く、その生活は少しずつだが変わり始めていた。
「……ふう、今日の分の書類はこれでラストだな」
「お疲れ様です、提督。……あの、仕事が終わりましたら話し合いたい事があるのですが」
「ああ、アレな。分かった」
2人の距離感そのものはあまり大きな変化は無い。こうなる以前から“鳳翔”が過剰に距離を詰めていた為に、結婚秒読みとなった今でやっとちょうどいい距離感となったからだ。
そんな2人には非常に大きなイベントが間近に控えている。それは結婚式だ。
この結婚は艦娘の地位向上を狙った政略結婚という側面も持っている。だから結婚式についてもそれはもう盛大にやらなければならない。
政略結婚として成立させる為には、軍の上層部のみならず、政府関係者や民間の著名人にも参加してもらい、そこで艦娘の事をたくさん知ってもらわなければならない。
国家を動かせる力を持つ権力者達に気に入られ、後ろ盾になってもらう事が、地位向上への近道なのだから。
幸い、洋平は由緒正しい名家である神崎家の現当主。まだ若い事もあって影響力は低いが、著名人を招待出来るだけの人脈はある。
2人は話し合った末、神崎家という家柄も最大限に利用して、可能な限りの大規模で行う事にした。
同日 横須賀
「そう言えば司令官、長官と鳳翔の結婚式の日程ってどうなりました?」
「まだ決まってなかった筈だが……気になるのか?」
「そりゃあそうですよ!私も出席したいし!」
ここは横須賀に停泊中の「建御雷」艦内の執務室。現在、この部屋では海斗と“磐手”が2人で楽しげに話しながら書類仕事中。そんな中“磐手”は、洋平と“鳳翔”の結婚式の日程が気になっていた。自分も式に出席してみたいという、純粋な興味からだった。
「結婚式ってどんな感じなんだろ〜?」
「具体的な事は俺もあんまり詳しくないけど、大きく2つに分けるなら、日本式か、西洋式か、だな。ちなみに俺と美香は西洋式だったぞ、あん時のウェディングドレス姿の美香、可愛かったな」
「へぇ〜そうなんですね!ますます楽しみになってきちゃいました!」
「まっ、だったら兄貴達がゆっくり準備出来るように、俺達二特艦が頑張らなきゃな。こうして結婚式だ何だ、ってやっていられるのも、一特艦の仕事を減らせているからだしな」
そう言って執務室の窓を見る海斗。窓の外に見えるのは、隣に停泊する姉妹艦「建御名方」。元々は東京湾を拠点として活動していたが、第二次AL・MI作戦時の日本本土防衛戦にて中破。ここ横須賀のドックに入渠した後、そのまま港に留まっていた。
そうこうしている間に国防海軍では艦隊の再編成が行われ、「建御名方」が復帰した頃には、既にその母港は横須賀に変わっていたのだった。
そんな「建御名方」を見て、“磐手”が疑問を口にする。
「建御名方……そう言えば、あの艦が横須賀所属になったって事は、書類上は一特艦のみんなも横須賀が母港って事になるんですか?」
「そうだろうな。あの艦も建御雷型である以上は、『海上移動軍港』としての能力は持っているわけだしな」
「じゃあ、国防省にいる長官は?」
「兄貴があそこに居るのは、特務艦隊司令部の司令部機能が国防省にあるからだ。もしその機能を建御名方に移設するなら、こっちに来るだろうな」
「ふーん……」
納得した様子で仕事に戻る“磐手”を横目に見ながら、海斗は思考の海に潜る。
(……正直なところ、早く国防省から離れた方が良い気がするけどな。この前行った時、聞いてた通りのイヤな雰囲気だったんだよなぁ)
この前と言うのは、洋平を両親の墓参りに連れ出した日の事。その前日、洋平と“鳳翔”を連れ出す為に国防省へ行く事にした海斗と美香は、その事を聞きつけた警備艦隊の小林司令官と話していた。
曰く、「少し前、国防省へ行った時に雰囲気の変化を感じた。味方の総本山の筈なのに、そこで感じた空気は敵の本拠地に単身突入した時のようであった。最近は妙な人事異動などは収まっているのに、嫌な不気味さを感じた」と。
その後少し話し合い、「どうしても行くと言うなら、せめて護衛は連れて行くように」と釘を刺された2人は、あの日護衛として出雲型姉妹を連れて来ていたのだった。
(なんとなく、キナ臭さが増してきてるような気がするな。結婚式関連が一段落したら、それとなく言ってみるか……)
そんな事を考えた後、彼は意識を目の前のモニターに戻していった。
9月初め 首相官邸
「……と言う訳でして、総理にもぜひご出席頂ければ、と」
「そうだな……」
この日、洋平は“鳳翔”を連れて霞ヶ関周辺を周っていた。目的は勿論、政府の要人達に結婚式を行う事を報告し、彼らの出席を取り付けるため。
当初、洋平は交渉が難航する事も覚悟していたが、古代より続く名家である神崎家のネームバリューは彼が思っていたよりも凄まじく、トントン拍子で閣僚クラスや各国の大使達の出席を取り付ける事に成功。そして現在、最後の交渉を行うべく、総理大臣の居る官邸へと足を運んでいた。
「……そう言えばだが、そこに居る女性が“鳳翔”なのだな?」
「はい。……私の妻です」
「ふむ……」
そう呟き、ソファに座る洋平の背後に立つ“鳳翔”を物珍しそうにみる首相。その姿を不思議に思った洋平が質問する。
「総理、どうかされましたか?」
「……ああ、いや。“艦娘”を直に見るのはこれが初めてでな、資料では知っていたんだが、実際に見てみるとまた違って見えたんだ。思っていたよりも、ずっと人間らしい雰囲気だな、と思ってな」
「艦娘とは、そういう存在です。普通より少し力が強いだけの、ただの人間なんです」
「……成程、それこそがこの結婚式を通して君が伝えたい事なんだな。私達のような立場の者を集めれば、自然と世間からの注目も集まりメディアも来る。そこで艦娘のありのままの姿を世界に届ける……良いじゃないか」
そう言って納得したように笑った首相は、力強い声で答えた。
「分かった!私も出席させて貰おう!」
「「ありがとうございます!」」
こうして、洋平と“鳳翔”は結婚式へ招待予定だった要人達の内、ほぼ全員の出席を取り付ける事に成功したのだった。
それから約3ヶ月後の12月上旬。遂に2人の結婚式の日を迎えた。
会場となるホテルには2人の護衛を担う海斗、美香、加奈、士、横須賀警備艦隊の面々、第一・第二特務艦隊の艦娘達(艦娘であることは伏せている)、そして招待された国内外の要人達が集結。更に様々な筋から話を聞きつけた国内外のメディアも多数詰めかけている。各国の要人が集まるから、あの名家・神崎家の当主の結婚式だから、などなど集まった理由は様々だったが、その結婚相手が“艦娘”という謎の存在であることが判明すると、すぐさま彼らの興味はそちらへ移った。
やがて結婚式の時間となり、洋平と手を繋いで一躍注目の的となった新婦が姿を見せる。その美しい白無垢姿は何十台ものカメラからリアルタイムで世界中へ届けられた。
この瞬間、世界中の人々へ“艦娘”の存在が知れ渡った。これまで謎に包まれ、「海洋生物と人間のハイブリッド」だの「人喰いのバケモノ」だの、真偽不明な都市伝説レベルでしか語られて来なかった存在が見せた、自分たちと何ら変わらないその姿に、人々は目を奪われた。
その後行われた披露宴でもにこやかに共同作業を行っていた洋平と“鳳翔”の姿に注目が集まり、最後に行われた会見では“鳳翔”が記者からの質疑応答に答える場面もあった。その時彼女が見せた笑顔は即座に世界中で拡散、翌日のテレビや新聞の一面を飾った。
全てが洋平と“鳳翔”の思惑通りに事が運び結婚式は大成功。
この日以降、艦娘は世界中でその支持を集めて行く事となる。
そして彼女達の地位向上を求める声もまた、世界中で叫ばれて行く事となった。
しかしながら、この状況を良しとしない者達も存在する。以前から人間社会に潜り込んでいる深海棲艦のスパイや、その工作によって寝返った人間達だ。
意外にも寝返った彼らの身分は、軍の中将・大将級や国務大臣級、大企業の社長などでは無い。彼らの殆どがその下にいる者達だ。
彼らは元々、「腐敗しきったこの社会を変える」という思いが強く、現在国を動かしている者達に変わって支配しようとする野心を持っていた。そしてその考えは何時しか思想となり、団体となり、正に陰謀論に出てくるような世界規模の結社へと成長していった。
彼らの名は、秘密結社『
「社会の再構築」を掲げて異常な発展を見せ、暗躍し始めたその裏に深海棲艦による工作があった事は言うまでもない。
『RBD』の目標は自分達が世界を支配する事。要は国家転覆───クーデター狙いだった。だがそんな大それた事をこの現代で行うには、時代も、社会も、権力構造も、何もかもが向いていない。
そんな時に出会ったのが、志を同じくする(と彼らは思っている)深海棲艦達。彼女達は、自分達に足りない強力な武力を持っていた。
深海棲艦に武力面を頼っているRBDにとって、その深海棲艦に唯一まともに対抗出来る存在である艦娘が市民権を得て表舞台に立つ……というのは絶対に避けなければならない最悪のシナリオだった。
その台頭を防ぐべく、彼らは早速行動を開始した。まず第一に艦娘技術の出処である日本国防軍を掌握すべく、元からある程度の階級を持っている数人の仲間を上層部に潜り込ませると同時に反艦娘的な考えを持つ派閥を形成させた。
この時彼らが使った手段は、「手柄を立てて昇進する」という、極々当たり前な方法。だがそれは当たり前故に不正を働くのも困難である。では何故その形での昇進を狙って出来たかといえば、人類の敵として国防軍が対峙する深海棲艦と手を組んでいるからだ。深海棲艦にとっても、脅威となり得る艦娘を排除出来るならそれに越した事は無い。だから彼女達も協力を惜しまない。
そうして始めた不正昇進作戦のやり方は、予め深海棲艦にそれなりの規模の艦隊での襲撃行動を行ってもらうよう頼み、そうして襲撃してきた艦隊を撃破したように見せかける事で戦功を挙げ続けると言う物だった。深海棲艦側としても、程よく攻撃を喰らった所で沈む演技をしながら潜航すれば良いだけなので、この「芝居」をし続ける事によるデメリットは特に無かった。
そうしている間に、そんな不正戦果を挙げる手伝いをさせられた部下の通常艦乗組員達も「自分達でここまでやれるなら、艦娘なんて要らないんじゃないか?」と言う考えを持ち始め、自らの上司が作る派閥へと参加して行く。そんな簡単に考えが変わるのか、と思うだろうが、軍内の大多数の者にとって、艦娘とはその程度の認識でしか無い。更に言えば、元々軍内にはRBD構成員以外にも艦娘を良く思っていなかった者が一定数存在していた。
その強さにより方々から特別視されているのを見て妬み嫌う者、美少女と言って良いその姿を下衆な目で見ている者……艦娘の誕生から今まで、様々な者が様々な立場から良からぬ目で艦娘の事を見てきた。
こうした軍内の状況も味方して人数を急速に増やした反艦娘派閥は、今や国防軍内の一大勢力に成長しつつあった。
だが、そんな彼らはその考えを表に出す事は無い。下手に口にしよう物ならその職を追われるからだ。反艦娘派閥の拡大前から上層部に居る面々は皆、艦娘の事を良く思っている者達。2000年頃からずっと上層部に居た彼らは、彼女達の誕生より前からその研究開発を推進して来た者達なのだ。当然、彼らは艦娘へ深い思い入れがあった。
そんな彼らに反艦娘派閥の事が知れれば、すぐにでもその一掃が図られるだろう。その動きを止められるだけの力は、今は無い。また今回、洋平と“鳳翔”の結婚式、そしてそれに伴う艦娘の存在の公表を阻止し切れなかった事でその情勢は更に悪化。根本的な計画変更を余儀無くされた。
故に反艦娘派閥は今日もその思想を表に出さず息を潜め、来るべきその日に備えて力を蓄え続けている。
RBDが
続く
あ と が き
人類サイドの敵組織の描写がやっと出来た。
ちなみに、現時点での“鳳翔”のキャライメージは
『“お艦”に成長する前の新人時代』です。
次回 艦娘研究の進捗