今回からがEp.3本編といったところ。
「そろそろ艦娘研究の進捗について話したいから、皆をここに呼びたいんだが……下手に接触を図るとここの存在が露呈する危険性があるな」
「暗号で……いや、軍内の状況も以前より悪化してるって聞くしな。単純な物では解読されるか……」
「何悩んでるんですか?所長」
「ん、希空ちゃんか。いや、どうすれば他の軍人にバレずに君のお父さん達をここへ呼べるかなって考えてたんだ」
「ふーん」
「そうだ、希空ちゃん。何か良い案無いかな?単純な物じゃ無くて、でも君の両親とかならすぐに気付いてくれそうな暗号があれば良いなって思ってるんだけど」
「うーん…………そうだ!」
「おっ!何か閃いた?」
「うん!えっとね…………」
2010年 正月
洋平と“鳳翔”の結婚式から、およそ1ヶ月が経った。
入籍後初の正月という事もあって、洋平達は東堂家の屋敷に集まっていた。
「ふー、やっぱりここに来ると落ち着く。これが実家のような安心感ってやつ?」
「美香、すっげぇくつろいでんな」
「だって、あっちに居る時は気を抜けないもん。こっちでくらい休みたいし」
そう言って広間に寝転ぶ美香。
そこに士がやってきた。
「あれ、洋平兄ちゃんは?」
「父さんと母さんに入籍報告しに行ってる」
「ああ……」
「どうかしたか?」
なんとなく歯切れの悪い返答をする士の事が気になる海斗。だが、その原因について士はすぐに話してくれた。
「この前、庭でいつも通り鍛練してたら小さい航空機が飛んできて、俺の姿を見つけると小さな筒を落としてったんだ。それで、その中にこんな手紙?が入ってて……」
「ん?」
士から手渡された手紙のような物を読もうとする海斗。しかし、そこに書かれていたのは……
「……はぁ?なんだコレ。何かの暗号か?」
そこには、およそ意味のある文章には思えない文字列が書かれていた。だがその見た目は、何らかの暗号のようにも見える。手紙の中に乱数表のような物が付属している事が、その推測を裏付けていた。
「海斗兄ちゃんなら解読出来るかな?って思ってたんだけど、いけそう?」
「ちょっと待ってろ」
そう言って海斗は暗号の解読を試みる。すると、すぐにその暗号が何なのか分かった。
「……コイツは恐らく、俺達がいつも使ってる暗号だな」
「それって上層部専用の?」
「ああ、ソイツだ」
どうやら、その暗号は国防軍の上層部でのみ使われる物のようだった。
「でも、それならこの乱数表みたいな奴は使わないんだけどな……まぁいいか。これならすぐに読める、少し待ってろ」
「うん」
そう言って、海斗は暗号解読作業に入った。
数分後
「士、一応解読終わったぞ。……終わったんだけどな……」
解読は無事に完了したらしいが、それにしては怪訝そうな顔をする海斗。
「どうかしたの?」
「解読して出てきたのもまた暗号みたいでな……」
「え?」
そう言われて見てみると、確かにそこには、おおよそ意味のありそうな文字列は並んでいなかった。
「こっちは解読出来ないの?」
「やってみる……」
海斗は再び解読を試みる。だが、彼にはその暗号のような物を解読する術が無かった。普段国防軍で使用している物とは、その仕組みからして異なっていた。
そこに、そんな海斗の様子が気になって、美香が近づいてきた。
「海斗、私にもそれ見せて」
「ん、見たいのか?ほら。……そうだ、この乱数表みたいな奴もあるぞ、どう使うのか分からないけど」
そう言って海斗から手渡されたメモを見る美香。
そこに書かれた暗号の羅列に、彼女は微かに見覚えがあった。
「この羅列にこの乱数表……これって、もしかして」
「分かったの!?」「分かるのか?」
「ミリオタ知識が疼いただけだから、断言は出来ないけど。海斗、出雲ちゃんと磐手ちゃん、それから鳳翔ちゃんも呼んできてくれる?」
「ああ!」
海斗は急いで3人を呼びに部屋を出る。
「あの3人なら読めるの?」
美香が呼んだ面子を不思議に思った士が聞いた。
「うん、きっとね。正確にはあの子達の艦魂が、だけど」
それから10分後。
海斗に呼ばれて、墓参りに行っていた洋平と“鳳翔”、庭で一緒に遊んでいた加奈、“出雲”、“磐手”が集まった。
「集まって早々だけど、これ読める?」
そう言って美香は艦娘3人に手紙を見せる。すると、
「これは……」
「なんか分かる気がする」
「読めるかも知れません」
どうやら3人とも、その暗号が読めるようだ。
「やっぱりね」
「なあ美香、一体なんなんだ?その暗号」
最初に解読を試みていたが故に内容が気になって仕方ない海斗が聞く。
「俗に言う『海軍D暗号』よ。旧海軍が戦時中に使ってた奴ね」
「はぁ?何でそんな物が?」
「それを私に聞かれても……まぁ、解読出来れば分かるわよ、きっと」
それから数分後、どうやら解読作業が終わったらしい。“出雲”が美香に声をかけた。
「艦長、解読終わりました。これを」
「ありがと!どれどれ……」
そこに書かれていたのは、
「『ハコブネ サビシイ』…………あ〜これは」
「これまさか、希空からの手紙か?」
「多分そうね。“ハコブネ”はノアの方舟=希空のことで、“サビシイ”はつまり会いに来いって事ね……」
暗号の解読が完了し、その内容を把握した海斗と美香。そこに書かれていたのは、研究所へ集まってほしい旨を遠回しに伝える、愛娘からの言葉であった。
「でもだったら、何で俺に届けたんだ……?」
士は、そんな内容の手紙が自分の所に届いた事を疑問に思う。そんな中、洋平が言った。
「多分だが、お前にも来て欲しいんじゃないか?士」
「えっ?」
「そうじゃなきゃ、まだ軍人でも無いお前にこんな物届けたりしないだろ?」
「……まぁ、確かに」
「それに、多分だが加奈も呼ばれてるんじゃないか?」
「私も?」
「わざわざ士だけ、ってのも考え難い。そう思わないか、海斗?」
「確かに、2人で1つみたいなとこあるしな」
「まぁそう言う訳だから、早速明日出かけるぞ。士、加奈、準備しとけ」
「分かった!」「うん」
翌日
洋平達3兄妹に“鳳翔”、出雲型姉妹、それに士と加奈を加えた8人は朝日が昇りきらないうちから出発し、再び艦娘技術研究所へと足を運んだ。士と加奈にとっては初めての訪問となる。
入口まで行くと、そこで希空が待っていた。
「お父さん、お母さん、久しぶり!」
「おお、希空!元気にしてたか?」
「待っててくれたの?」
「うん、ここに近づいてくるの、見えたから!」
希空の話によれば、どうやら更なるセキュリティ強化の為に施設の外周にレーダーや無数のカメラからなる監視網を構築したらしく、それによって8人が近づいて来るのを感知していたらしい。
そのまま希空に案内され、一行は研究所の中へと入った。
数分後 研究所内
「……なんか、更にハイテクな感じになってない?」
そう美香が呟くのも当然の事。何せ1年前と比べて、明らかに施設内の技術レベルが上がっているのだ。その見た目は、まるでサイバーパンク系の世界観に迷い込んだかのように感じさせた。
「えへへ、私、頑張ったんだよ!」
そう言って希空は胸を張る。事実、この技術レベル上昇は殆ど希空が齎したもの。その人間離れした頭脳は、次々と科学技術のブレークスルーを引き起こしていた。
「すっげぇー!こんな場所があるなんて!」
「うわぁ……!」
初めてここに来た士と加奈もそのハイテクさに興味深々。
そんな中、洋平が希空に質問する。
「それで、本題の方はどうなってる?」
「もちろん、そっちの方だって進んでるよ。こっち来て!」
そう言って、希空は一行を研究室の方へ案内した。
「やあ、待ってたよ。久しぶり」
「ああ。久しぶりだな、秋吉」
研究室に入ると、秋吉が出迎えた。
どうやら生活リズムが改善されたらしく、以前“鳳翔”がここへ来た時よりも顔色が良かった。
「以前尋ねた際よりも元気そうで良かったです」
「はは、あれから日々の作業量とか見直したからさ。もうあんな見苦しい姿は見せないよ」
「……それで、艦娘研究の進捗の方はどうなってるんだ?」
少しの談笑を挟んだ後、洋平が本題を切り出す。その質問に対して秋吉は、自身ありげな表情で答える。
「順調に進んでるよ。今年中には実際に建造する所まで漕ぎ着けられそうだ」
「早いな」
「僕の個人的理由で研究を急ぐのは辞めたけど、結局急がないといけない理由は他にもあるからね。例を挙げるなら、艦娘のなり手不足の問題、とか」
「このまま素体に人間の少女を必要とする第一世代を運用し続けると、いずれ艦娘のなり手が居なくなってしまう可能性がある。その前に艦魂のみで建造出来る第二世代の実用化を間に合わせなきゃならない」
その言葉を聞いて洋平達3兄妹は複雑な表情になる。
「そりゃそうか、こんな人体実験に使っても問題ないような子がポンポン出てくる訳無いもんな……」
「改めて考えると……本当に非人道的な事やってるわね、私たち」
「いくらそれが人類を守るためとは言え、流石にな……」
いくら「世界を守るため」「戦争を終わらせるため」などと綺麗事を並べても、やっている事はいたいけな少女を人体実験で改造し、少年兵として最前線で戦わせるという外道極まりないもの。
その後ろめたさは3人も常に感じていた。
それでも、これは必要な事だと割り切ってここまで戦ってきたのだ。
しかしその思いを何も知らぬ他人が汲み取ってくれるかどうか、それはまた別の話。
「今はちょうどあの結婚式の影響もあって、世界から艦娘とその関係者達の両方とも概ね支持されているけど、このままこのやり方を続けていると、いつかその支持を失ってしまうだろうね……」
「もちろん、第二世代艦娘も結局は中核となるのが生身の人間である以上根本的な解決には至らないだろうけど、それでも幾分かマシではあるから。だから少しでも早く実用化させなきゃね」
「所長、第二世代は全部を艦魂から造るんですよ?生身じゃないです!」
「確かに希空ちゃんの言う通りだよ。……でもね?それは僕達が艦娘の建造方法を、第一世代と第二世代の違いを理解しているから分かるんだ。何も知らない大多数の人達からすれば、第一世代も第二世代も何ら変わらない、“全身に銃火器を装備した生身の少女”でしか無いのさ」
「そしてこれこそが当初、艦娘が公に姿を見せずに秘匿されていた理由でもある。もしも初めから艦娘を公表していたら、すぐに圧力を掛けられて出撃できなくされていただろうね」
「……っ」
そう言われて希空は驚いた後、悲しい顔を見せる。いつも自分に優しく接してくれてどんな考えも否定せずに聞いてくれる秋吉が、珍しく険しい顔をしながら否定してきたからだ。
どんなに優れた頭脳を持っていても、彼女はまだ小学生にも満たない年齢。現実を知らず、あまりにも純粋だった。
だがこの純粋さが、「人体を艦魂から錬成する」という倫理観のかけらも無い、だが現状を考えれば最適解ともいえる方法を生み出したのも事実だった。
彼女がこの方法を考えついたからこそ、今日こうして第二世代艦娘の研究進捗を報告出来るのだから。
「それで、これがその進捗……分かりやすく進んでんな」
そう言う洋平の目の前には、シミュレーション上で模擬戦を行う、見るからに強力そうな艦娘の姿があった。
「型式番号“JK-2-X-
「すごく強そう」
「頼りになりそう!」
仮想空間の中とはいえ第一世代艦娘とはレベルの違う動きを見せる“ゼロ”に、平静を装いながらも興奮が隠しきれていない“出雲”と見るからにワクワクしている“磐手”。
「この子は、言うなれば第二世代艦娘のプロトタイプだ。まずはこの子で一通りのデータを取って、その後に実際に艦魂を使って実用型の第二世代艦娘を建造して行く予定だよ」
「……っていう事は、この子が例の艦魂を使わずに造るっていう子?」
「そう。……つまり、このまま行けば美香さん、君と海斗君のお子さんがこの子になるって事だね」
「なるほどね。良い子そうじゃん!」
そう言って、モニターに映る“ゼロ”の姿を見る美香。そこへ希空がやって来る。
「早く会いたいね、お母さん!」
「そうね、そうなったら希空もお姉ちゃんになるわね!」
「うん!いーっぱいお世話してあげるんだ!」
「見ていて癒されますね……」
近い将来にできるであろう妹の話で盛り上がる美香と希空を見て、“鳳翔”は呟く。と同時に、その傍らで苦笑気味に微笑む秋吉の姿を見て、事がそう簡単に運ばないであろう事も察していた。
(恐らく、その“ゼロ”の建造にはまだ技術レベルが追いついていないのでしょう。だって、あのシミュレーション上での彼女の動きは、とてもじゃないですが私達第一世代では出来ません……)
そう考える彼女の脳裏に、横でモニターを食い入るように見ている2人のエースの勇姿が浮かぶが、それもすぐに掻き消される。
(流石に、類稀な実力を持つ出雲さんや磐手さんならある程度追従出来るとは思いますが、それでも基礎性能が違いすぎます。あれが秋吉所長の望む性能だというのなら、それを実現するのに今のままでは到底、足りない)
“鳳翔”は秋吉と共にデータ取りをした際に、現状の艦娘技術についてある程度聞いていた。故にそこから半年以上が経過しているとはいえ、それでもこのレベルまでには至っていないと分かっていた。
(恐らく所長が今1番欲しているのは、“ゼロ”を完璧な形で建造するのに必要な経験でしょう。それを満たすには……)
そこで思い出される、先日の出来事。結婚式の後、秋吉が研究所へ戻る前にある事を話していた。
結婚式終了直後
「結婚おめでとう、鳳翔。綺麗だったよ」
「ありがとうございます、所長。それで、いかが致しました?」
「ああ、その。無事結婚まで辿り着いたのなら、話しておかないとって思って」
「どのようなことですか?」
「……子供の作り方についてさ」
「あっ、あぁ……」
そう言われて顔を赤くする“鳳翔”。だが、事情を知る秋吉はそんな感情にはなれなかった。
「何か注意点などあるのですか?……子供の作り方の話でしたら、言われずとも知っていますが」
「ああ、言いたいのは作り方じゃあないよ。……いや、作り方で合ってるか。とにかく、僕が言っておきたいのは───」
(『艦娘は、そのままのやり方では子供を授かれない』……所長はあの時、そう仰っていましたね)
『艦娘は普通より少し力が強いだけの、ただの人間なんです』
……そう洋平は言っていたが、実際には第一世代艦娘はその身体をもはや生体兵器といえるレベルにまで改造を施している。その為、少女が元々持っていたはずの生物としての能力が低下、もしくは失われている部分もある。そしてそれは生殖能力も例外ではない。
艦娘へと改造された少女が、子を授かり母となる事は不可能なのだ。……数年前なら。
現在では、一つだけ方法がある。その方法とは、
「対象の艦娘の艦魂から抽出したデータを遺伝子情報に再構成して卵子にした後、受精させる」
というもの。要するに第二世代艦娘の建造方法の応用である。
「普通にやったらダメだけど、この方法があるから心配しないで」……あの時、秋吉が伝えたかったのはこの事だった。
(あの方法は第二世代艦娘の建造方法とほぼ同じ、しかもこちらの方が簡単に出来るともあの時所長は仰っていました。……という事は、私が子供を授かる事で所長としても“ゼロ”建造に向けての良い経験値になるのでは?)
(……つまりこれはひょっとして、提督との間に子供を授かる良い口実になるのではないでしょうか?)
「……良いですね、やってみましょう」
彼女は他の誰にも聞こえない声でそう呟いた。
艦娘とその関係者の未来のため、そして自らの幸せのため、また新たに計画を練り始める“鳳翔”であった。
そんな事はつゆ知らず、横に居る2人のエース艦娘は相変わらず強力な後輩の姿を見てはしゃいでいる。
“磐手”が秋吉に気になっている事を聞く。
「ねえ、所長さん!いつになったらこの子は現実に来るの?」
「早ければ今年中には。とはいえ、すぐにこの姿って訳じゃないけどね」
「えっ?」
「第二世代艦娘は素体無しで0から錬成するから、産まれてすぐはまだ赤ちゃんさ。この姿になるには、10年は少なくともかかるだろうな」
「そっかぁ……早く戦ってみたい」
「模擬戦がしたかったの?」
「うん!だって強そうじゃん?ねえ出雲!」
「うん。私も戦ってみたいな」
「……なあ、海斗」
「ああ、兄貴が何を言いたいのかは分かってる」
「「……せーのっ」」
「「アイツら俺達より神崎家化してないか……?」」
代々、血の気が多く戦いを好む者の多い一族である神崎家。その血を引く者達に囲まれて過ごして来た結果、“出雲”と“磐手”はそれに迫るどころか超えるくらいの戦い好きに育ってしまったようだった。
この後、一同は第二世代艦娘、そして“ゼロ”について、更なる議論へと進んで行く。
そこで、今回秋吉と希空がここに士を呼んだ理由も明かされるのだった。
続く
あ と が き
今回は洋平達の負の側面をクローズアップしました。主人公側ではありますが、やってる事が全て正しい訳ではないです。
いよいよ第二世代艦娘の建造イベントまで迫って来ました。そろそろそこに至るトリガー任務がアンロックされますかね。
あと少しです。
次回 希空が士を呼んだ理由