自我持つ兵器の英雄譚   作:Nyappy-

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前回の続きから。
サブタイトルはサイコフレーム的な意味で。

閃ハサ初日に観てきた。マジで凄かった。



21. シンギュラリティ・ガール

 

数分後

 

シミュレーション上で動く“ゼロ”の姿に興奮していた“出雲”と“磐手”を落ち着かせた後、秋吉はシミュレーションの物とは別のモニターに様々なパラメータを表示させながら、第二世代艦娘の推定性能について説明していた。

 

 

「───こんな具合で、“ゼロ”を初めとした第二世代艦娘は第一世代よりもかなり高い性能を持つ予定なんだ。ただあまりにも性能が高すぎるせいで艦娘側の技量が追いつかない可能性が高くて……。恐らく今のまま建造してもその性能をフルに発揮するのは難しいんだ」

 

「どんなにスペックが高くても、扱う側が振り回されるんじゃ意味ねぇな……」

 

と、洋平がぼやくように言う。そこに、待ってましたとばかりにドヤ顔で希空が出てきた。

 

 

「そこでおじさんの出番ってワケ!」

 

そう言いながら希空は士を見る。

 

「え、おじさんって俺の事?」

 

「うん」

 

「あっ、あー……確かにそうか」

 

今日が初対面の少女からいきなりこんな事を言われたせいで一瞬戸惑った士だったが、希空が加奈の兄である海斗の娘である以上、希空は姪(予定)であり、彼女にとって自分は確かに叔父か、と納得した。

 

「……やっぱり士って呼んだ方がよかった?」

 

一方、希空はそんな士を見てその考えを察していた。元々この「おじさん」呼びは前に海斗から提案されていたからやってみただけであり、彼女自身は名前で呼ぶ方が性に合っていた。

 

「まあそうかな。その方が嬉しいかも」

 

「分かった!」

 

 

初対面の緊張も解けた事で、士は希空に質問する。

 

「……それで、俺の出番ってどういう事なんだ?」

 

 

「士ってさ、「神崎流」を1番使えるんでしょ?」

 

「確かにそうだけど……」

 

「その技術を貸して欲しいの!」

 

「貸すって、誰に?」

 

 

 

「“ゼロ”に!」

 

 

そう言われて、士は再びモニターを見る。相変わらず“ゼロ”は激しい戦闘機動を繰り返している。

 

 

「……あの子、に?」

 

だが士には理解出来なかった。それもその筈、今はまだシミュレーション上のデータでしかない彼女に、どうやって戦闘技術を貸せというのか?

 

 

理解が追いつかない士を見かねて、秋吉が代わって説明する。

 

「赤ちゃんの段階からスタートする事になる第二世代艦娘には、その成長を早めるために予め脳に一定の知識をインプットさせた状態で建造しようと考えているんだ。その知識には学問的な物はもちろん、戦闘技術も含まれる」

 

「戦闘技術……って、まさか!」

 

「そう。士君には、第二世代艦娘の性能向上のため、神崎流の戦闘技術をデータ化して艦娘にインプット出来るようにする手伝いをして欲しいんだ」

 

 

「なるほど、俺が艦娘の脳っていう“教育型コンピュータ”を途中まで育てて、戦闘機動のマニュアルを作っとけって事か。艦娘達が訓練時間をできるだけ短縮出来るように」

 

「理解できたかな?」

 

「うん。でもそういう事ならよかった、加奈も連れて来といて。この方がやりやすいだろうし」

 

そう言って、士は隣に立つ加奈の手を握る。

 

「一緒にやろうぜ、加奈!」

 

「う、うん……。でも2人で出来るのかな?」

 

「そこは大丈夫だよ!……って言うかそもそも戦闘機動なんだから、相手がいなきゃダメだし」

 

加奈の疑問に即座に希空が答える。どうやら今日まで2人に会った事が無かった希空にとっても、士と加奈はセットという認識だったようだ。

 

 

 

 

 

「───じゃあ、早速だけどやってみよう。2人とも、準備は良いかい?」

 

「おう!」「大丈夫」

 

数分後、士と加奈は早速VRゴーグルを装着してシミュレータに接続した。このゴーグルは、以前“鳳翔”による空母艦娘のデータ収集に用いられた物の改良版。その時に見つかったいくつかのバグも取り除かれているが、高角砲のバグについては秋吉からの要望でそのまま“仕様”として残されている。

 

ちなみに、今回の模擬戦において、敵となる深海棲艦達は攻撃力のステータスを限りなく下げられている。そうしなければ艦娘でない2人では、1発でも至近弾となっただけで撃沈判定が出てしまい、模擬戦にならないからだ。もちろん、直撃すれば最悪致命傷となるのは変わらないが。

 

 

そうして始まった 士&加奈 vs 深海棲艦 の模擬戦。初めは慣れない(どころか経験がある訳が無い)海上戦闘である事や、深海棲艦が人型でなかったり、身体に主砲などを装備している事などで戸惑い上手く立ち回れていなかったが、しばらくすると2人は上手く適応し、その優れた戦闘技術で敵を次々に仕留めていった。

 

 

 

そんな模擬戦の推移を、モニターから俯瞰視点で観ている“出雲”と“磐手”。

 

「あれが、神崎流……」

 

「あれはまだ序の口。2人とも慣れてきたみたいだし、ここからが本領発揮だよ」

 

初めて目にする、本家本元の神崎流の戦闘機動に“磐手”が感嘆する中、“出雲”はまだまだ2人の動きが本気ではない事を見抜いていた。直後、分かりやすく2人の動きが変わった。

 

「───来た!」

 

 

 

「へへっ、海上戦闘にもようやっと慣れてきた。始まる前、出雲が“スケートみたいな物だ”って言ってたけど、マジだったな。───さて、と。こっからが本領発揮だ!行けるよな、加奈?」

 

「もちろん。やっとだけど、戦い方も分かった。行こう、士!」

 

そう言って、2人は残存する深海棲艦の群れに突っ込んで行く。2人の低い防御力を考えればこの行動は明らかな自殺行為にしか思えないが、そんな愚策を犯すような士ではない。これも、合理的な考えあっての事だった。

 

 

ここまでの戦闘を通して、2人は相手との圧倒的な手数差に苦しめられていた。それは単純な人数の差もあるが、それ以上に複数の主砲や副砲、魚雷に機銃まで持つ深海棲艦に対して、手持ちのアサルトライフルにロケットランチャー、コンバットナイフが精々な士と加奈では、その火力において大きな差があった。鍛え抜かれた神崎流の戦闘技術を持つとは言え、手数差を覆す程にはならない。

また、特殊徹甲弾を使っているとは言っても深海棲艦側はホームグラウンドである海上においては陸上と違って圧倒的な機動力を持つ為、撃沈に数発必要なアサルトライフルでは決定打に欠け、弾速の遅いロケットランチャーでは避けられる。

 

 

こうなると、当然こんな疑問も出てくる。

“鳳翔”が秋吉へ質問した。

 

「……何故、艤装を2人に渡さなかったのですか?艦娘へのフィードバックが最終目標なら、そうした方が良かったような気がしますが」

 

「そうだね、間違いない。……もし、艦娘の艤装が、皆共通の物だったなら、ね」

 

「……!」

 

「実際には1人1人が、全く違う形の艤装を持っている。だから、士君と加奈さんにシミュレータ内では出来るから、と艤装を渡してしまうとそれメインの戦い方になってしまうだろうから、標準的なマニュアルが作れないんだ」

 

「……確かに、それはそうですね。現在の戦況を見る限り、2人は明らかに火力不足や手数不足に苦しんでいます。こんな状況でもし艤装があったなら、頼ってしまいますよね」

 

「でもそれじゃあダメなんだ。2人には、神崎流の戦闘技術を出来るだけ活かして戦って欲しい。出雲の使う物よりも、もっとね。別に出雲の物が悪いとは言わないけれど、アレはあくまでも元から彼女が持っていた戦闘スタイルに神崎流の技術を上乗せした、半分くらい我流みたいな物だからさ」

 

“出雲”が士から神崎流を習っていた時、彼女は「出来るだけ早く戦闘力を引き上げる事」を目的としていた。

その為、戦闘力の増大に直接寄与する

技───身体強化のみを習得したに留まり、

動き───戦闘機動としての神崎流は習得していなかった。

その結果、彼女の戦闘スタイルは、まだまともな教本も無い中で自然に生まれた標準的な(初歩的とも言う)第一世代艦娘の動きに神崎流の身体強化を上乗せした、「極限までステータスを上げた荒削りの動き」でしか無かったのだ。

最も、それを補って余りある戦闘センスが彼女にはあったのだが。それがあったからこそ、士は彼女に動きの方は教えていなかった。

 

「このマニュアル作りは、艦娘用のまともな教本を作る事にも繋がるんだ。そしてその土台とするのに、“長い歴史の中でありとあらゆる武器に対応した戦闘機動を持つに至った”神崎流は最も相性の良い戦闘術だと言える。これは要するに、どんな戦闘スタイルにも適応出来る事を意味しているのだから」

 

「実際、出雲さんの戦闘スタイルに適応出来ていますし、それは間違い無さそうですね」

 

「だからこそ、今回あの2人に求めているのは、標準的な神崎流の戦闘機動を見せてもらう事。その為に武装はあのままで行ってもらったんだ」

 

「では、今ああやって敵艦隊へ突撃しているのも、その戦闘機動故だと?」

 

「大方、“自分が相手と比べ、手数や火力に大きく劣る時”とかにやる物なんだろう…………多分」

 

「多分ですか……」

 

「しょうがないだろ?僕はあくまで艦娘の研究者。神崎家の人間じゃないんだから……」

 

 

「……まあ良いです。ですが、それでは一体あの2人はどうするつもりなのでしょうか?」

 

 

 

 

 

じゃあどうすれば良いのか?

 

その問いに、2人が戦う中で出した答えは、なんて事無い簡単な話だった。

 

 

敵が圧倒的な火力を持つなら、それを利用してしまえば良い。そう考えた士と加奈が思い付いて実行した戦い方。それは、

 

 

 

『わざと敵艦隊の中央に突っ込んで同士討ちさせ、それを敵が避けるため消極的な動きになった所を叩き潰す』

 

 

───だった。

 

 

しかし、それを行うにはまず突っ込んで仰俯角の無い零距離で敵弾を避け続ける回避力、そして回避しつつもその敵弾の軌道を対角の敵へ合わせておけるだけの高い空間認識能力が必須。並大抵の技量では不可能だ。

 

 

だが、士と加奈にはそれが可能だった。千年の歴史を持つ神崎流の継承者と、その教えを受けた一番弟子は伊達では無い。

 

2人は、砲撃の隙を突いて敵艦隊へ急速接近。前衛の駆逐艦を撃破しながら突撃し、そのまま中央にいる2隻の敵戦艦へ向け突っ込んだ。その際に行ったジグザグ航行によって敵弾を回避すると共に、その内数発を対角の敵へと命中させる事に成功。敵戦力を着実に削って行く。

 

ここで2人が敵戦艦へ突っ込んだのは、その重装甲を盾としつつ撃沈する為。ここまでの戦闘を通して、2人はこの敵戦艦の砲撃間隔と主砲の発砲条件を把握出来ていた。

敵戦艦は、2人が一定以上接近すると撃ち始め、そして捕捉出来ているなら仮に射線上に味方が居たとしても撃つ。その条件は、これまでの戦闘データを反映させた結果のプログラムである為、実際の深海棲艦がやってくる動きでもあった。

そこから、2人は主砲の発砲タイミングを見切って回避し、直後に突撃。装填中は全力で回避に努めつつ、敵戦艦を他の敵艦からの砲撃の盾とするべくその進路を誘導。

そして、再び敵戦艦が発砲したタイミングで2人は急制動を掛けてこれを回避。回避された事で外れた敵弾は、そのまま射線上に居た相方へ───。

 

2人はこの一瞬で、敵艦隊の主力であった戦艦2隻を撃破した。

 

 

その後、主力艦を無力化した事で戦闘はそのまま2人の優位に進み、あっという間に勝敗は決した。

 

 

 

「戦闘終了。貴重なデータをありがとう、2人共」

 

「やったぜ!!手加減されてたとは言っても、勝利は勝利だ!」

 

「めちゃくちゃ怖かったぁ……。流石にリアルすぎだよ、あのシミュレータ」

 

 

今回得られた神崎流のデータは、その全てが第二世代艦娘の戦闘機動の基本としてマニュアル化されて行く事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

「……さて、と。じゃあ私はこっちの研究を進めようかな」

 

士と加奈にやって欲しい事を伝えた後、希空は自分の研究室へと戻って来ていた。第二世代艦娘を建造するのに必要な技術には、まだまだ研究途中のものが沢山あるからだ。

 

 

彼女の研究室は少々、異質だ。PCの置かれたデスクがあり、壁際に大きな本棚が設置されている所までは秋吉の研究室と大差ないが、その本棚には学術書の他に様々なSF系の書籍やアニメのDVDが所狭しと置かれている。また、窓際に置かれた棚の上には自分で作った数々のプラモデルが飾られている。そのどれもが空想科学を用いるSF作品の登場メカだ。

 

そんな彼女のお気に入りは、デスクの端に飾られている、艦首に巨大な砲口を持つ宇宙戦艦のプラモデル。彼女はその戦艦と、その戦艦に使われているある技術が特に好きだった。

 

 

「おお、これ良く出来てるな」

 

「希空はプラモ作りも上手いのね」

 

「えへへ、ありがと!でもお父さんとお母さんの方がもっと上手だと思うよ」

 

「そりゃあ、大人だからな」

 

「これで負けてたら自信無くすわよ」

 

 

部屋に招いた海斗と美香からその出来を褒められて、希空は嬉しそうに笑う。

 

 

ここに2人を呼んだのは、他でもない“ゼロ”の事について話すため。

 

 

「───ねぇ、お父さん、お母さん?」

 

「「どうした(の)?」」

 

「“ゼロ”の事について聞きたくって。ほら、“ゼロ”はお父さんとお母さんの子供になるでしょ?」

 

「そうだな」

 

「希空にとっては妹ね!」

 

「うん!いっぱい甘えさせてあげるんだ!───って、そうじゃなくって、あ、ううん、それも本当なんだけど……。聞きたいのはそこじゃなくて」

 

 

「お父さんとお母さんは、“ゼロ”に、どんな子に産まれてきて欲しい?」

 

 

「どんなって言ってもな……」

 

「うーん、元気に育ってくれればそれで十分じゃないかしら?」

 

「もっとこう……強い子であって欲しい!……とか、無いの?」

 

「艦娘として産まれる以上、強くあるべきではあるだろうけど……」

 

「強いて言うなら……優しい子であって欲しい、とかじゃないか?」

 

 

「優しい……」

 

「ああ!何かあった時には率先して皆を守る、そんな優しさを持つ艦娘であって欲しいな。後は、それを出来るだけの強さがあれば文句無しだ!」

 

「別にとっても強い!とかじゃなくても問題ないわ。どんな子でも私達の大切な娘なのは変わらないもの」

 

「そもそも、プロトタイプ、だからな。現実の試作機は、アニメのように強くは無いのが普通だしな」

 

 

「……そっか」

 

「何か心配事?───ああ、予算面なら大丈夫よ!洋平おじさんがすっごく頑張ってくれたお陰でたっぷりと確保してるから!」

 

「世界中が協力してくれた結果、誇張抜きで国家予算級の金額が集まったからな。だから思う存分、好きに使って良いぞ、希空」

 

 

「うん。分かった」

 

 

そう言い残し、海斗と美香は研究室を去った。

その去り際、2人は神妙な顔をしている希空を不思議そうに眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───2人が去った後

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「“ゼロ”」

 

 

 

「世界中が期待する、人類の希望」

 

 

 

「……もうすぐ私の妹になる、技術試験艦」

 

 

 

「私が造る、私の妹。お父さんやお母さんはああ言ってたけど、どうせなら強く産んであげたいな。他の誰にも負けない、最強無敵の艦娘に……」

 

 

 

 

 

「───だから、ね?」

 

 

 

そう言って彼女は、数あるフォルダの中から1つを選び、中に入っているファイルをクリックした。

 

そうしてサブモニターに表示された、子供っぽい文章が目立つ資料の1ページ目には

 

 

 

 

 

『最高機密 取扱注意』

 

 

『BHエンジン及びM理論に基づく発展型の基本理論』

 

 

 

 

 

───そう記されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く





あ と が き


最後の部分は、神崎希空という少女の本当のヤバさ、その片鱗を示す描写。

余談ですが、希空は“オリジナル版”と“リメイク版”、どちらも好きです。


次回 深海棲艦攻勢
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