自我持つ兵器の英雄譚   作:Nyappy-

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国際情勢半分、バトル半分。



22. 荒れるオホーツク海

 

数日前

 

2009年 クリスマス 早朝

 

オホーツク海 北海道北部沖

 

「…………」

 

「……………………」

 

 

真冬の冷たい海の中を、一隻の深海棲艦が航行している。

 

彼女は、ダッチハーバー基地に所属する潜水艦。一般に“カ級”と呼ばれる個体だ。

彼女は半年程前からこの辺り一帯の哨戒を担当している。

クリスマス当日となったこの日も、変わらず北海道方面の監視を続けていた。

 

「…」

(ハァ……。ナンデ今日モコンナ場所デ哨戒任務ヲ……。誰モコンナ辺境、来ルワケ無イノニ)

 

 

彼女はこの哨戒に不満を持っているが隠密行動中なので口に出さない。だが内心は非常に激しく憤慨していた。色々と文句を言っているが、理由の一つを端的に言えば、今日がクリスマスだから。

深海棲艦にも、クリスマスを初めとした人類の文化はとても色濃く根付いている。何故か?と問われても、産まれた時からそうだった、としか言いようが無いが。

 

とは言え彼女も、人類と戦う深海棲艦の一隻。普通ならここまで文句も言わない。

それなのにここまで憤慨しているのには、この“オホーツク海”の戦略的重要性の薄さが関係していた。

 

オホーツク海を主に支配する国家は、ロシアと日本。世界全体で見ても、十分に強国と言える2ヶ国。

だがそれは、“対深海棲艦”においては少し異なる。

対深海棲艦において重視されるのは、艦娘の保有数。2010年に入ろうとしている現在においては、それに更に“戦間期前半クラスの”という前置きも付く。

日本は、その頃米国や英国に次ぐ海軍国であったため別段問題は無いのだが、ロシア───ソ連はそうではなかった。

 

第一次大戦期までは列強内でも有数の海軍力を持っていたロシア帝国であったが、大戦中に起きたロシア革命によって国内が混乱。その後に成立したソ連は戦間期以降、国力や軍事力の更なる発展に尽力したが、海軍力に関しては他の列強諸国と比べいくらか劣っていた事は否めない。

 

そして今は、その頃の海軍力がそのまま対深海棲艦における戦力の大小、ひいては国際的な影響力にまで関わる為、ロシアはこの10年でその地位を低下させていた。

軍事面においても、保有する艦娘のほぼ全員を戦局がより逼迫しているヨーロッパ方面へ配置している為、日本海やカムチャツカ半島方面には大した戦力を置いていない。その結果、ロシアはオホーツク海における制海権を自ら手放すような形になっていた。

 

対して日本は、そもそもオホーツク海方面の哨戒をあまり重視していなかった。1番の理由は太平洋と日本海の防衛で手一杯だからなのだが、他の理由としては、その辺りに展開する深海棲艦達の拠点であるダッチハーバー基地を奪還するべく、ベーリング海に割と結構な数の米軍が展開しているからと言うのもある。

如何に深海棲艦と云えども、世界最強の米海軍、それもあれだけの数を相手取るなら、こっちに攻めて来る余裕は無いだろう……というのが、国防海軍上層部の考えだった。

 

そんなこんなでオホーツク海一帯は、特に何も起こらない奇妙な平穏を保っていた。だからこの“カ級”は憤慨していたのだ。

 

 

「デモ、コノ文句ヲ姫様ニ言ウノハ違ウ。姫様ハ、ムシロ私ヲ休マセヨウト頑張ッテクレテタ。幼イ見タ目ナノニ、頼モシイ姫様ヨネ……」

「ソレナノニ……。ハァ、コレモ全部“主戦派”ノ所為ヨ、全ク……」

 

考えていたら余計にムカついてきたので、彼女は黙っていられずにそう溢した。

 

 

 

 

 

数時間後

 

午後になり、彼女は日本海との境目である宗谷海峡付近までやってきていた。この後は何も無ければUターンして択捉島方面へと向かう予定だ。

 

(何度モ此処ニ来テイルケド、本当ニ静カネ……。コノ辺ニ住ンデタ住民ガ内陸部ニ逃ゲテ行ッタ……ッテ話、本当ナノカモ?)

 

彼女がそう考えるのは送り込んだスパイやRBD構成員から提供される情報を聞き齧っているからだが、実際その推測は当たっていた。

深海棲艦の出現以降、各国の本土から離れている島々はそこに住んでいた住民のほとんどが本土へと避難していった為に無人島と化していた。幾ら政府が情報統制を行おうとも、実際に深海棲艦の襲撃を受けている島々や大陸沿岸部の住民達にはバレバレだったのである。その結果もぬけの殻となった島々は現在、深海棲艦達にとって格好の前線拠点となっていた。

当然それを人類側が放っておくはずもなく、欧米諸国では艦娘達の手によって島々が奪還されたケースも存在する。

だが今のロシアにはそれだけの作戦行動を取れるだけの余裕は無く、結果として樺太や千島列島、北方領土等の太平洋側のロシアが保有または実効支配する島々は、2005年頃には既に放置されていた。

この状況を見た日本政府はオホーツク海方面の防衛を見返りとして北方領土の返還交渉に乗り出したのだが、途中で国防海軍も北方海域の防衛に割けるだけの余力は無い事が判明。結局北方四島は引き取り手が現れぬまま、現在も放置され続け、北方海域で活動する深海棲艦達の休憩場所のような扱いを受けていた。

ただし、本当に“休憩場所”としてであり、既存の施設等はそのままである。それは、北方海域方面を管轄する姫級の考えによるものだった。実際に利用している下位個体達もこの島々を気に入っており、この“カ級”もいつも択捉島に哨戒の疲れを癒す目的で立ち寄っていた。

 

 

(姫様ハ、人類ト共存シタイ、ト常日頃カラ仰ッテイル。ダカラ、人類ニアマリ酷イ事ハ、シタク無イノカモネ)

 

 

 

と、“カ級”がそんな事を考えながら航行していた時だった。

 

 

(……?)

 

偵察のため顔だけ海面に上げていたところ、彼女の目に、何かが光った。太陽の光が上空を飛ぶ“その物体”に反射したようだ。

 

(アレハ、航空機?)

 

小さい機影だったので初めは相当な高高度を飛んでいるように見えたが、目を凝らして見てみると、その機体は低高度を飛ぶ小さい機体で、複葉機のような姿をしていた。

 

(……マサカ、艦娘ノ艦載機?)

 

 

 

“カ級”の推測は当たっていた。この時彼女の上空を飛んでいたのは、艦娘技術研究所より飛び立ち、“鳳翔”配備前の試験飛行を行っていた新型艦上戦闘機だったのだ。

 

 

 

 

 

上空

 

「いや〜我ながら良い出来だ!これで鳳翔も喜んでくれるだろう!」

 

機体を操縦するテストパイロット妖精は上機嫌だ。現主力の九〇式と比べて高性能なこの機体にとても満足している様子。鼻唄まで歌い出しており、自らを海面から見つめる存在に気付く事はない。

 

「フンフンフーン……っといけね!そろそろ戻らなきゃな!面舵一杯〜!」

 

彼はそのまま機体を旋回させて、陸地へと飛び去っていった。その帰って行く方角さえも、海面の彼女に教えている事に気付かぬまま。

 

 

 

 

 

(…………)

 

 

“カ級”は迷っていた。

 

今、目撃した機体が艦娘関係の機体である事は確信していた。またその帰って行った方角を辿って行けば、その本拠地───艦娘を建造している施設があるだろう、とも考えていた。

 

故にである。

 

(モシ、コノ情報ヲ伝エレバ、間違イナク“主戦派”ニヨッテコノ海域ハ戦場ニナル……。私達ハ本当ハ、タダ静カニ暮ラシタイダケ、ナノニ)

 

 

彼女が“主戦派”という言葉を良く使うのは、彼女達北方海域方面軍が深海棲艦の中でも“穏健派”と呼ばれる者達の集まりだから。

 

実は深海棲艦の戦争目標は、

 

『平穏に暮らせる居場所を作る』という物なのだ。

 

しかし、そこに至るプロセスにおいて意見が別れ、大きく分けると

 

「例え人類を滅ぼしてでも」と考える“主戦派”

 

「可能なら人類と共存したい」と願う“穏健派”

 

に二分される。

 

だが、トップである“女王陛下”が“主戦派”なので、深海棲艦全体としては「人類の滅亡も厭わない」という方針の元で行動していた。

 

そんな中で、戦争遂行において最も邪魔な存在として立ちはだかったのが艦娘。そんな艦娘の本拠地と言える場所が分かったともなれば、間違いなくその場所への攻撃命令は出るし、“主戦派”はそこを攻撃する為にこぞって艦隊を派遣してくる筈だ。

 

“カ級”はもしこの情報を上層部に伝えれば、“戦艦棲姫”率いる“主戦派”の日本方面軍がここオホーツク海を戦場にする可能性があると考えたのだった。

 

(ウチノ姫様ガドンナニ頑張ッテモ、多分無理。姫様ハ見タ目通リ、子供扱イサレテイルカラ……)

 

(デモ、この哨戒ハ「“主戦派”カラノ圧力デ」ヤッテイル訳ダカラ、流石ニ見ナカッタ事ニスル訳ニモ……)

 

“女王陛下”が“主戦派”な為、必然的に弱い立場に置かれている“穏健派”。

故に、同じ上位個体の間でも事実上の格差が存在し、“穏健派”の上位個体はその立場を守る為に“主戦派”の上位個体からの越権的な要求を呑まざるを得ない部分もあった。この哨戒もその一つ。

 

“カ級”がこの哨戒に憤慨している真の理由がこれだった。

 

 

彼女は悩んだ末……

 

 

(航空機ヲ“見タ事”ダケ伝エヨウ。嘘ジャナイシ)

 

 

後で何かあっても追及されない程度に報告する事を決め、休憩地点の択捉島へと去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

時系列は、士と加奈による模擬戦の終了後に戻る。

 

一同が研究室にいたところ、研究所内に設置されている戦闘指揮所から緊急の呼び出しがあった。

 

 

 

艦娘技術研究所 戦闘指揮所

 

 

到着して早々、秋吉が指揮所の責任者に状況を訊く。

 

「何があった?」

 

「はっ、哨戒に出ていた偵察機がオホーツク海方面より接近する敵艦隊を捉えました。距離およそ5万」

 

「数は?」

 

「正確には分かりません。相当な大艦隊、としか……」

 

「そうか。レーダーの方に反応は?」

 

その問いにレーダー手が答える。

 

「若干ですが、先程から反応があります。本来ならまだ探知可能範囲外な筈ですが……」

 

「相当な大艦隊だから反応が大きくて、探知出来ているのかもな」

 

そう言いつつ、秋吉はレーダーの反応を確認する。対深海棲艦用に艦娘の技術を応用して開発した物なので、その性能は第二次大戦時のレーダーに毛が生えた程度。素人では読むのが困難なAスコープ方式なため詳しくは分からないが、まだ遠くに居るにも関わらず反応を示す線が波打っている様子から接近する艦隊のおおよその規模を推測出来た。

 

続いて洋平が質問する。

 

「偵察機はまだ無事か?」

 

「敵戦闘機に追い回されているようですが、何とか」

 

「無理しない程度に触接を継続させてくれ」

 

「了解」

 

偵察機への命令を伝えた後、彼は付いて来ていた3人の艦娘を見た。

 

 

「……行けるか?」

 

 

「はい」

 

「もちろん!」

 

「大丈夫です」

 

敵との戦力差を考え、若干心配そうに見つめてくる洋平を、3人は力強い眼差しで見つめ返した。

 

「ご心配無く。必ず無事に戻りますから!」

 

そう言って、“鳳翔”は洋平の両手を握った。

 

 

「……頼んだぞ、鳳翔」

 

「行ってこい、出雲、磐手!」

 

「頑張ってね」

 

3兄妹からの激励を背に、艦娘達は最近完成したばかりの地下通路へ駆け出した。その先には宗谷海峡付近へ繋がる艦娘用地下水路が整備されていた。

 

 

 

 

 

「大丈夫かな……」

 

「俺達も出られれば、多少は戦力になれるかも知れないのに」

 

出撃して行く艦娘達を、士と加奈は複雑な心境で見つめていた。

そんな2人の姿を見て、秋吉が声を掛ける。

 

「今は我慢の時だよ。“今は”ね……」

 

「「今は……?」」

 

「うん、今は」

 

彼は意味深な発言をしながら、悔しがる2人を慰めた。

 

そして、

 

「……だからこそ、せめて今出来る事はやり切らなきゃな」

 

そう言って指揮所のパネルを操作し、通信を繋ぐ。

 

 

《───もしもし、希空だよ》

 

「こちら指揮所、秋吉だ。敵艦隊の接近を確認した。“アレ”、出せるか?」

 

《ああ、“アレ”?テストはまだだけど、一応調整は済んでるから行けるよ!ただ、トリガーは私が持ってるから、今そっちに行くね!》

 

「頼む」

 

そう言って、通信を切った。

 

 

「何か秘密兵器でもあるのか?」

 

「……まあ、そんなところかな」

 

洋平からの問いに、秋吉は答えを濁した。

 

 

 

 

 

同時刻 オホーツク海

 

 

「敵偵察機、逃ゲテ行キマス」

 

「放ッテオケ。ドウセ、モウ打電済ダロウ……」

 

防空担当の“ヌ級”の報告にそう答えるのは、この艦隊を“戦艦棲姫”から任された旗艦である戦艦“ル級”。この艦隊に上位個体は居ないため、彼女が最高戦力でもある。旗艦の経験はそれなりにある彼女だが、流石に総勢30隻の大艦隊の指揮は初めてだ。

 

「艦隊増速。目標地点ヘ向カウ」

 

彼女の命令に従い、艦隊は敵機の目撃報告のあった宗谷海峡へと向かった。

 

 

 

 

 

3時間後

 

深海艦隊は宗谷海峡へと到着。ここで周辺偵察のため、“ル級”は機動部隊に偵察機の発艦を要請した。

 

 

「偵察機、発艦シマス」

 

 

「了解ダ。…………コノ辺リニ、奴ラノ基地ガアル筈ダ。ソウデ無ケレバ、コンナ場所ヲ艦娘ノ艦載機ガ飛ブ筈ガ無イ」

 

「国防海軍ハ、コノ海域ヲ哨戒セズニ放置シテイルノダカラ……」

 

 

交戦経験とRBDからの情報で、第一・第二特務艦隊の防衛範囲とその哨戒ルートは既に深海棲艦側に筒抜けだった。そのため日本方面軍は、本来この辺りで艦娘の艦載機が目撃される筈が無い、ならばこの辺りに“艦載機を運用可能な艦娘以外の何か”が存在している筈だ、と考えていた。

 

 

その“何か”を探る為、“ル級”は偵察機を出撃させるよう命じたのだ。

あの“カ級”が限られた情報しか伝えていない為にその大体の場所さえも分からないので大規模に探す必要があり、そのため各空母の飛行甲板には偵察装備の艦爆・艦攻がびっしりと並んでいる。

 

 

 

 

 

だが、タイミングが悪かった。

 

一度発艦作業に入った空母は、急な状況変化に無防備だ。

 

 

 

「───!敵機接近!!」

 

「……何ッ!?」

 

 

 

深海艦隊にとって更に不幸だったのは、北海道北部にあると思われるその“何か”を追い求めるあまり、“ここに艦娘が居る可能性”を完全に排除してしまっていた事だった。

 

 

 

「不味イ、コノママデハ……!?」

 

「敵機直上、急降下!!」

 

「グゥ……!」

 

 

偵察機が甲板を埋め尽くしていた為に迎撃機も上げられず、敵機は投弾。その多くは空母を狙った物であり、爆弾の直撃で、また艦載機の誘爆で、次々に火だるまとなっていく空母達。

 

 

 

この瞬間、機動部隊の実に半数の空母が血祭りに上げられた。

 

犯人は、彼女達の追い求める“何か”艦娘技術研究所とは逆方向、樺太方面から飛来し、高高度より空中分解ギリギリで直角に降下して来た───

 

 

 

 

 

「見たか!これが我ら鳳翔艦爆隊の実力よ!!」

 

 

 

新鋭機『九四式艦上爆撃機』による奇襲攻撃であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く





あ と が き

今回の“カ級”は本当にモブキャラ。
一応また出るかもしれないけど。


余談ですが、今回やらかしたテストパイロット妖精、一応擁護は出来ます。
他の海域で激戦が繰り広げられる中、オホーツク海だけは数年に渡って平穏が続いていた為に、そんな海域にまさか深海棲艦が来ている訳ないだろう、または来れないんじゃないか?という“国防海軍全体の油断”が彼をそうさせたのです。
実際は北方海域方面軍を指揮する姫様の考えの元で、放置されていただけだったのですが。

一方でダッチハーバー襲撃に始まり、ベーリング海方面が緊迫しているのは、そこが北方海域方面軍にとって『守るべき居場所』となったからです。
アメリカとしてはたまったものではありませんが。


次回 “質”vs“量”の戦い
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