自我持つ兵器の英雄譚   作:Nyappy-

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修理と共に“改”になる3人。
どちらかと言えば“改”になるまでの話。



24. はじめての大規模改装

 

その日の深夜

 

一度は敗北ギリギリまで追い詰められた夜戦も

希空の尽力によってなんとか勝利を収め、

日付が回った頃、“出雲”と“磐手”は研究所へ帰還した。

 

 

 

2時間後 艦娘技術研究所 修理用ドック

 

 

ここは艦娘が修理のため入渠するドックの一室。

“ドック”とは言っても当然艦娘のサイズに合わせて作られているため、その見た目はまさにお風呂。

ただし浴槽を満たしているのは、ただのお湯ではなく修理用の特殊な液体。それに含まれる成分が艦娘の身体と反応し、数時間掛けて損傷部分を再構成する事で傷を治している。

 

 

現在、このドックには先の戦闘で傷付いた“出雲”と“磐手”が入渠している。

 

 

「……………………」

(出雲……)

 

修理液で満たされた浴槽に深く浸かりながら、不安そうな顔で隣を見ている“磐手”。

彼女の隣には、“elite”深海棲艦との戦闘で深く傷付き意識も失ったままの“出雲”がいる。意識は無いが、傷が深すぎて目覚めるまで入渠を待つ訳にもいかないため、こうして2人で一緒に入っている。

当然服を脱いで入っているため素肌が露出しており、戦闘で受けた傷の数々が嫌でも目に入って来る。

肘や膝から先が失われている右半身が、それが途轍もない死闘であった事を物語っていた。

 

 

 

しばらくして

 

(……?痛みが、引いていく……。なんか、面白い……)

 

時間が経つにつれて、“磐手”は傷が塞がり、痛みが消える感覚を覚える。彼女や“出雲”にとって入渠はこれが初めてであり、不思議な感覚が彼女の好奇心を刺激した。

 

 

それから3時間程が経ち、“磐手”の傷は後少しで全快といった所まで来た。横で眠っている“出雲”の擦り傷や切り傷も治って来ている。

……しかし、いつまで経っても肝心な部分は治らない。いや、正確に言えば欠損した右の腕や脚の断面は塞がっているのだが、そこから先が一向に“生えて来ない”のだ。

 

「出雲……?大丈夫、だよね……?」

 

「艦娘の入渠システムは革命的だ!」と常日頃から聞いておりその性能に全幅の信頼を寄せていた為に、ここまで“磐手”は全てが元通りに治ると信じ切っていた。

だがここに来てその信頼は、グラグラと揺らいでいた。

 

そんな彼女に止めを刺すかのように、ドックの入口から声が響いた。

 

「……多少のケガは治せても、欠けた身体は戻らない」

 

そう呟いたのは、

入渠状況の確認(&自身のメンテナンス)のためにドックへ入って来た希空だった。

 

「───どういう、こと?」

 

希空に聞き返す“磐手”。

その声は上擦っていて動揺が隠せていない。

 

「これが今の技術的な限界。メカニズムを根本的に変えない限り、これ以上性能は上げられないんだ……」

 

希空は2人の隣に来て並ぶように浸かると、

痛々しかった断面が塞がり全てが皮膚で覆われている“出雲”の右肘をさすりながら、悔しそうに呟く。

 

現在の艦娘修理システムは発想元に因んで“新陳代謝式”と呼ばれている。

生物が当たり前に行う新陳代謝を応用して発明されたこの方法は艦娘の非常に早い戦線復帰を可能にしており、通常艦艇との修理スピードの差は比べるまでも無い。

しかしながら“新陳代謝式”である以上、

当然と言えば当然だが元となった新陳代謝で治せないような傷(四肢の欠損など)にはどう足掻いても効果が無いのだ。

 

 

「次世代型の修理システムも開発中ではあるけど、

まだまだ実用化には程遠いんだ……。

 

……ごめんね」

 

希空はそう言って2人に謝る。

実際、その次世代型修理システムが完成すれば欠損だろうと何だろうと、例え身体の99%が失われようとも艦魂が宿るコアユニットさえ無事なら元通りに治る、

究極の修理システムになる筈なのだ。

 

───だが、流石の希空も研究に行き詰まっていた。

何せ、それは“艦魂の『記憶』を元に身体を再構築する”などと言う荒唐無稽な代物なのだから。

『記憶』と言う形の無いものを使いこなすのは、どんな高度な科学技術の実用化よりも難しい事だった。

 

 

 

その後、希空は“出雲”が目覚めるまで2人に寄り添い、彼女が目覚めた所で事情を説明した。

 

「あの時は意識が消えかかってたから、

ちゃんと分かってはいなかったけど……。

 

───そっか。無くなっちゃったか、私の手足」

 

意外にも“出雲”は動揺する事無く、現状を受け入れた。

 

 

 

修理が終わった後、ドックから出た3人は秋吉達の待つ研究室へ向かった。“出雲”は希空が持って来た車椅子に乗り、“磐手”が押して行った。

研究室に着くと皆が一斉に謝ってきたので、“出雲”は笑ってしまった。だが同時に、如何に自分が“人間として”大切にされているかを再確認する事が出来た。

 

 

一通り謝罪を受けた後

 

「───正直、これでもうお別れかな……とか思ってはいたから、嬉しい。こんな身体でもまだ必要とされてるんだ、って思えたから」

 

「何言ってんだ、出雲。お前の代わりなんて誰にも務まらないだろ」

 

「私達は出雲ちゃんの事を、1人のかけがえの無い仲間、家族だと思っているんだから」

 

珍しく不安そうな顔で弱音を吐いた“出雲”を、海斗と美香が抱きしめる。

 

彼らにとって、“出雲”は単なる撃沈王(エース)では無く、大切な“家族”の一員であった。例え艦娘として戦えなくなっても、その扱いを変える気など無かった。

 

 

 

だが、現実から目を逸らす訳にはいかない。

 

“出雲”は日本艦娘のトップエース。貴重な戦力だ。

現状、そんな彼女は艦娘としては死んだも同然の状態。

少なくとも今までと同様の力を発揮するのは間違いなく不可能だ。

 

 

30分ほど経って、その現実について考え始めたところで秋吉が言った。

 

「四肢欠損レベルのダメージを負った艦娘は、

その身体で戦い続けるか、退役するか、選ぶ事になる。

でも大体は強制退役さ。

あんまりこういう言い方はしたくないけど……

壊れた“兵器”は、ゴミでしか無いから。

 

そうやって生まれた元艦娘は世界中に存在する。

もちろん補助金とかは支給されるけど。じゃなきゃ今頃非難轟々だよ」

 

酷い物言いだが、これが現実だった。

特に欧米では、実際にこのようにして使い捨てられた少女は数え切れないほど存在する。

そんな状態なのに批判が集まらないのは、秋吉の言う通り補助金などのサポートが付くからと言うのもあるが、最大の理由は元艦娘達が「生きて退役出来ただけラッキー」と思っているからだった。

そう思うくらいには、大西洋戦域は地獄だった。

敵艦の数が多い事や、それ故に戦力が足りなくなった結果、旧式も旧式の装甲艦や、果ては帆走の戦列艦までも艦娘化して運用されていたために、その分被撃沈も増加していた事が主な理由だった。

この事態は、戦列艦や装甲艦が主力だった時期に鎖国状態にあった日本では起き得ない事であった。

 

 

 

 

「退役したら、艦娘の数が減っちゃうんじゃ……?」

 

当然出てきた疑問を、士が口にする。

だがその答えは、艦娘関係者の間では周知の事実。

 

残酷な現実であった。

 

「壊れたなら、また造れば良いんだ。

退役時にその艦娘の身体から

コアユニット───艦魂をサルベージして、

それを基に“同名の艦娘”を“別の少女”を用いて建造しているのさ」

 

これこそ、少女を使い捨てに出来るカラクリであった。

退役時はもちろん、撃沈されて未帰還になったとしても、再建造は可能だ。最初の建造の時とやっている事は同じなのだから。

 

またこの事が、艦娘の修理システムの進化が止まっている最大の理由でもあった。

基本的に中破以上は即退役なため、大規模な修理を可能とするシステムは必要無かったのだ。修理システムの開発を熱心に行っているのは、世界でも希空くらいのものだった。

 

 

結論を言えば、「出雲の修理は不可能」という事であった。分かってはいたが、その答えに皆一様に顔を曇らせる。───しかし。

 

だが、と前置きをして、秋吉は話を続ける。

 

 

「入渠では欠損は治せないってだけで、方法が無い訳じゃない」

 

その言葉に、“出雲”と“磐手”が反応を示す。

 

「……えっ?」

 

「方法があるの!?」

 

「ある。たった一つだけ」

 

研究者だけあって、希空は彼が何をしようとしているのか勘付いた。

 

「それって、まさか……」

 

「うん。想像通り、大規模改装だ。治せないなら、いっそのこと全部新しくすれば良い」

 

秋吉がやろうとしているのは、大規模改装であった。

 

「大規模改装は、“新陳代謝式”が確立される前、艦娘の修理方法として考案されていた“外科手術式”を応用しているんだ。その名の通り、普通の人間と同様の手術によって修理を行う手法さ。通常艦艇の修理方法を人間にそのまま置き換えた、とも言えるかな。

 

当時は艦娘を修理するにはこの方法しか無かったんだ。だからなんとしても実用化させようと躍起になって倫理観も捨て去った結果、再生医療なども発達して最終的に生きてさえいれば完全に治せるレベルまで行ったんだ。内容的には、ほぼほぼクローン技術みたいな物だよ。

 

大規模改装もその過程において身体を全面的に造り替える必要が出てくるから、やっている事は実はあまり変わらないんだ」

 

「でも、それだったらさっきの話と矛盾しない?そんな事が出来るなら、艦娘を使い捨てにしなくていいじゃん」

 

“磐手”が疑問を口にするが、そんな事は秋吉も、他の艦娘関係者達も分かっている。でもそれをしないのには大きな理由があった。

 

 

「大規模改装、というより“外科手術式”は、とてつもなく高いコストが掛かるんだ。だから、“出雲”が実戦投入された頃には修理範囲の限定と引き換えに遥かに安価に修理可能な“新陳代謝式”が確立されて、姿を消していたんだ」

 

「コスト、かぁ……」

 

あまりにも分かりやすい理由だったので、“磐手”が納得するのに時間は掛からなかった。いつの時代も、軍隊と予算問題は切っても切れない関係にある。それは艦娘においても同様だった。

 

だが、その金の掛かる大規模改装をやろうと言ったのは他でもない秋吉だ。

そこにはある理由があった。

 

「……でも、その対象が出雲なら、話は別なんだ」

 

「私なら……?」

 

「多くの艦娘達が使い捨てにされているのは、別人を素体に再建造しても戦闘力に大きな変化が無いからだ。だから、高コストな方法でわざわざ治してまで戦線復帰させようとはならない。

 

……じゃあ仮に、その対象が他の艦娘と隔絶した強さを持ったトップエースだったとしたら?それでも、同じように使い捨てるかい?」

 

「それは……」

 

「そういう事さ。つまり、出雲。

君は、この使い捨ての理由の埒外に当たる存在なんだ」

 

“出雲”がエース、それも圧倒的な強さを持ったトップエースだからこそ、秋吉は大規模改装を提案したのだった。

 

「政府に掛け合ってみる。出雲のためなら、改装の予算が下りるかもしれないし、ダメ元でやってみるよ」

 

 

その後、秋吉は数日掛けて提言書を纏め、国防省上層部の信頼出来る高官に提出した。

 

提言書はそのまま政府へと届き、首相の元へ。

洋平と“鳳翔”の結婚式以降、更に艦娘へ友好的な考えを持つようになっていた首相はこれを承認し、国会へ。やがて国会でも可決され、早急に予算が組まれる事となった。

 

普通なら、次世代艦娘研究に集中しているタイミングで旧式巡洋艦の大規模改装の予算など降りる筈も無い。

結局それが焼け石に水な事が判っているからこそ、次世代艦娘を建造しよう、という流れになったのだから。

 

だが、“出雲”の持つ類稀なる実力と実績は、軍や政府の決定に微塵も迷いを与えなかった。

金で性能は買えても、その性能を発揮する技量やセンスは、素体となった少女に依存するのだから。

流石に国会は紛糾したが、「じゃあ出雲を使い捨てるのか?誰が代替出来るんだ?」という首相からの問いにまともな答えを出せた者は、誰一人として居なかった。

 

『トップエース“出雲”』の根幹を成す少女を使い捨てる事など、出来るはずも無かった。

 

 

……なお、艦娘関係者しか大規模改装の必要金額の相場を知らないが故に、秋吉は提言書に書いた

「“出雲”改装の必要予算」の中に

“磐手”と“鳳翔”の改装予算(&とある事の予算)もこっそりと仕込んでおいたのだが、誰にもバレる事は無かった。

 

 

 

 

 

2月11日

 

およそ1ヶ月という速いスピードで予算も下り、

建国記念日に合わせて、3人の改装は実施された。

 

この改装により、“出雲”と“磐手”は火力、防御力、速力と全てにおいて強化され、重巡洋艦と言えなくもないレベルの性能を手に入れた。

また“鳳翔”も全面的に強化され、特に艦載機の搭載数が増加した事で更なる攻撃力を持つ事となった。

艦戦、艦爆、艦攻の同時搭載も現実的なものとなり、更に戦術の幅が広がった。

 

そして何より、この改装によって“出雲”の身体は完全に治り、彼女は1ヶ月振りに戦線へ復帰した。

 

 

 

また、秋吉と希空は確保した“とある事の予算”を使い、共同で準備に取り掛かって行く。

 

 

その“とある事”とは──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く





あ と が き

“ヴィクトリー”がロイヤルネイビーの指揮を取り、
ロシア沿岸では“ノヴゴロド”が回る───

これが現在の大西洋戦域です。


“鳳翔改”は艦載機がまだ九六式艦戦以前の代物ですが、
本人のスペックはゲーム内と同等のイメージです。


次回 建造試験開始
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