今回は短め。
ある意味、「前座」のような回。
2月20日 艦娘技術研究所
大規模改装に伴う一連の作業が一段落し、
通常業務に戻った研究所。
そんなある日、希空の研究室を秋吉が訪れた。
「入るよ」
「はーい」
希空の部屋に入って早々、秋吉は目の前に広がる光景に苦笑する。
「───あれから数日篭りっぱなしって聞いたから来てみたけど、こりゃひどい」
「しょうがないじゃん。やっと予算が下りて思いっきり開発を進められるようになったんだから……」
そう言いながらも、希空の視線はPCのモニターに釘付けのまま動かない。よほど優先したい事がある様子が見て取れる。
希空の部屋は、溜まりに溜まったいくつものゴミ袋が散乱していた。いつかの秋吉の研究室と違って匂いは特に酷くないので、多少はマシだが。
別に希空は特別片付けが苦手と言う訳では無いのだが、そんな彼女が部屋をこんなにしてまで没頭している事は何なのか、と言うと───
「……それにしても良く思い付いたよね、アレ。予算の申請って嘘書いても良いんだ?」
「本当は良くないさ、もちろん。……でも、軍事予算においては昔からの伝統だよ。あの「大和」だって、そうやって予算を確保してたんだから」
「……あー、そう言えば。「陽炎型3隻分の建造予算を架空計上して───」ってやつかぁ。確かにそれも大和型の秘匿のためだった訳だし、目的は同じだね」
「今バレたら絶対マズい事になるけどな」
「でもそれって要は、バレる前に全部終わらせておけば良いだけだよね。既成事実ってやつ?」
「そんなところ。まぁとにかく、確保出来たこの予算で、待ちに待った念願の一歩が踏み出せる訳だ」
「やっとだね!」
「ああ、ようやくだ」
「───ようやく、第二世代艦娘がこの世に……」
国会に嘘をついてまで確保した予算の使い道は、
「次世代艦娘の建造試験」
希空が没頭しているのは、この準備であった。
……だが本来なら、その目的であれば嘘などつかずとも予算確保は可能だし、何ならその建造試験で建造される対象である“ゼロ”の分の予算は、既に確保済み。
この時代、まだ日本では珍しいクラウドファンディングによって、世界中から寄付金を募った結果、大企業や国家レベルでの寄付が相次いだ事もあって、先進国の国家予算級の莫大な金額が集まっていた筈である。
それにも関わらずこうして別個で予算を確保したのは、
今回建造しようとしているのが、“ゼロ”では無いからだった。
同日 国防省 特務艦隊司令部
「───よし、今日の業務終了!お疲れ、鳳翔」
「お疲れ様です、提督。ご飯にしますか?お風呂にしますか?それとも……」
「おいおい、まだ飯の支度は出来てないし風呂も沸いてない。そもそもここは家じゃねぇ」
「ふふっ、冗談です」
今日も洋平と“鳳翔”はいつも通りの執務に励んでいた。
多少の残業はあったが、どうにか日付が回る前に終わらせ一息ついている。
これから2人は、この地下施設内にある家へと向かう予定だ。
プライベートな雰囲気になって来たところで、“鳳翔”が話を切り出した。
「そう言えば、そろそろ引っ越しですね」
「あぁ、そうだったな」
「司令部機能も建御雷へ移設するんでしたよね?」
「海斗と美香がどうしてもって言うからな。面倒くさいけどそうするさ。それに、
近日中に、特務艦隊司令部と第一特務艦隊の司令部機能、そして洋平と“鳳翔”の自宅は「建御雷」へと引っ越す事が決まっていた。
これは2人が国防省に居る事に危機感を募らせていた海斗と美香から提案されたものであり、洋平自身も国防軍のキナ臭さを少なからず認識していたため、スムーズに事が運んだ。
また、スムーズに行った理由はもう一つあった。
「それに、そろそろ俺達に家族が増えるみたいだしな」
「そうですね。楽しみです!」
「そうだな。だからこそ、少しでも安全なところに拠点を構えとくべきだよな。
……にしても、艦娘が本当に母親になれるんだな……。いや、そうあるべきだと前々から思ってはいたが、いざ、実際にこうなると流石に驚くな……」
「実際、以前までの身体では不可能でしたからね。
この前の大規模改装、私にとっては「母親の資格」を得るための改装でもあった訳ですし……」
もう、お気付きの方も居られる事だろう。
今回、希空と秋吉が建造しようとしているのは
『洋平と“鳳翔”の子供』なのだ。
元々、「鳳翔に“ゼロ”の母親となって貰ったら、凄い高性能な艦娘として建造出来るのでは?」との考えにより、艦娘を母として艦娘を建造する事も研究されたのだが、それだと母となる艦娘の艦魂が建造時に制御不能な変数となってしまい、普通の人間同士の場合と比べ、建造の成功確率が極端に低くなる事が判明。
その結果、“ゼロ”の両親の役目は海斗と美香に譲り、洋平と“鳳翔”の子供は、“ゼロ”建造に繋がる技術の確立、より確実な足掛かりを得る事を目的として再度計画されていた。
こうして、どう考えても人道的とは言えない目的のため建造される事となった洋平と“鳳翔”の子供だが、
そこには、ただ純粋に子供を望んでいた2人の想いも間違いなく存在していた。
側から見れば邪悪な実験でしか無いが、少なくとも当事者レベルにおいては、その子供は単なる実験対象ではなく、大切な生命、新たな家族であった。
続く
あ と が き
言うまでもなく、次回物語は進展します。
次回 新たな時代の幕開け