前回の続き、と言うよりはやむを得ず分割した残り。
(鳳翔がママですが子供は一航戦では)ないです。
彼女達の登場はもうちっとだけ待つのじゃ。
3月10日
この日、特務艦隊司令部の関係者一同は、再び艦娘技術研究所へと集結していた。その目的はもちろん、洋平と“鳳翔”の子供の誕生を見届けるため。
建造作業は、正午の開始を予定していた。
集合は30分前であったが、
実際は2時間前には全員集まっていた。
「来たぞ、秋吉」
「待ってたよ。こっちの準備はもう整ってる。そっちの準備は大丈夫そうかい?」
「心構えなら、もう出来てるさ……」
「はい。いつでもどうぞ」
洋平も、その後ろから顔を出す“鳳翔”も、準備は出来ている様子だった。
少し離れた所では、出雲型姉妹と士、加奈が話している。
「どんな子か楽しみだな」
「女の子なのは確定なんだっけ?」
「そうらしいわ。何でも艦魂から錬成すると女の子しか産まれないんだとか。今回は鳳翔の艦魂の作用ね」
「元々船が女性的なものとして扱われているのが関わってる……とかって話だったね」
産まれてくる姪の事が気になっている2人に、
“出雲”と“磐手”が海斗達から聞きかじった情報を教えていた。
そして海斗と美香はと言うと、今回の建造に合わせて開発された、新型の密閉型建造装置を見に来ていた。
「へぇ……これが新しい建造装置か。なんか、でっかい容器って感じだな」
「その形から“釜”ってあだ名が付けられてるらしいわ。確かに、横に倒した釜って言われればそれっぽいかも」
この建造装置は、第二世代艦娘建造における最重要品。
艦魂から取り出したデータから肉体を錬成する工程を担っており、これが無ければ建造は不可能である。
希空の頭脳をフルに使って開発されたこの装置に使われている科学技術のレベルは、第一世代艦娘の建造装置から段違いに上がっている。本来なら何度かの技術的ブレークスルーの果てに辿り着くような代物であり、希空が生み出した物の中でもトップクラスの傑作品と言えた。
しかしながらそれだけの超高性能の実現と引き換えに莫大な電力を必要とするため、この為だけに融合炉も新型の物を新たに設置している。
余談だがこの融合炉も、約1年半前に開発された試作一号機と比べて桁違いの高出力。ただし、希空が言うには「もうこれ以上の性能上昇は大型化以外では不可能」との事であり、現在彼女は融合炉を超えた新型エンジンの開発に取り掛かっている。
「今回のデータを踏まえて、次はコイツで“ゼロ”の建造を行うのか」
「その予定ね。でも、今日はそれよりも大事な事があるでしょ?」
「───そうだな。今日は兄貴と鳳翔の日だもんな」
1時間後
各々が気になった区画を見て回っている内に、建造試験の準備が整った。よって、本来の予定より30分ほど前倒しでの試験開始となった。
「───建造、開始!!」
秋吉の号令と共に、研究員の妖精達が作業を開始する。
建造装置の中に必要な資材を決められた量だけ投入して、建造は始まった。
やがて艦魂に刻まれた情報を基に肉体を錬成するべく、建造装置が激しく稼働し始める。
その様子は既存の第一世代艦娘のものとは全く異なっており、明らかに建造プロセスが違うのが見て取れた。
「第一フェーズ、無事に終了。続いて第二フェーズへ移行します」
「そうか、分かった。そのまま安全に気を付けながら作業を進めてくれ。
───最初の作業は無事に終わったみたいで良かった。後は、建造が終わるまでひたすら待つだけだな」
妖精からの報告を受けた秋吉は頬が緩み、何処かホッとしているように見えた。だがすぐに顔を引き締め直し、引き続き建造作業を見守っている。
「艦娘としての規模を考えれば、建造に掛かる時間は…………ざっと2、3時間ってとこかな?」
「一応まだ多少は短縮出来そうではあるけどな」
隣で見守る希空と、今後の課題についても議論を交わしていた。
約3時間後
建造作業が終了したと報告を受けた一同は、建造装置の前に集まっていた。
「全員集まった事だし、開けるよ。ロック解除!」
秋吉の言葉に従い、1人の妖精が建造装置のロックを解除する。その様子を、皆が固唾を飲んで見守った。
やがて、建造装置が左右に分かれ開かれる。密閉が解かれたと同時に、中からは白煙が吹き出してきた。
数秒の後に煙が晴れ、内部がくっきりと見えて来た。
そこに居たのは、2人の赤ちゃんであった。
1人は小さく口を開けてボーッとしており、
もう1人はムスッとした顔つきをしている。
とても対照的な2人だ。
「──────うぇっ?双子?」
そう素っ頓狂に呟き驚く秋吉の姿が、
2対の眼が見た初めての景色となった。
数分後
あれから、秋吉と希空は建造装置に付きっきりで何か作業に取り掛かっていた。その様子からはとても建造が成功したようには見えず、一同は不安を募らせていた。
だが、洋平が秋吉に理由を聞いたところ、(洋平達から見れば)別に大した問題では無い事が分かった。
「産まれるのは1人だけな筈だった」
それが、
研究者である秋吉と希空が素直に喜べない理由だった。
取り敢えずは無事に産まれたのだから、
次は名前を付ける番。
当然、洋平と“鳳翔”は数週間掛けて娘に名付ける名前を考えていたのだが、中々良い案が思い浮かばず、未だに決めかねていた。
2人とも決して語彙が無いとか、そういった理由で思い付かない訳では無いのだが、分類上は艦娘でありながら実際にはほとんどその力を持たずして産まれてくる子供の事を考えた時に、無意識のうちに「兵器に付けるような名前・文字」を避けていた結果、良い案が思い付かず決めかねていたのだった。
そんな2人の様子を見た“磐手”が言った。
「ほわわっとしてるのが『
キュッとしてるのが『
それぞれの赤ちゃんの様子を見てこの場で考えた即席案であったが、見て決めただけあってしっくりと来たため反対する者はいなかった。
人間としては洋平と“鳳翔”の愛娘であり、
艦娘としては“ゼロ”建造の布石の意味を持つ存在は、
『神崎 穂乃果』
『神崎 凛』
として、この世に舞い降りる事となった。
こうして、
艦娘の歴史にまた新たな1ページが刻まれた。
この日が、後世において『戦争終結への大いなる一歩』として評価される事を艦娘関係者達は願った。
第二世代艦娘がこの世界に何をもたらし、
変えて行くのか……。
それはまだ、誰も知らない。
───だが、一つだけ確かな事がある。それは、
『希空にとっては、
穂乃果と凛はあくまでも“第一世代艦娘”である』
という事。
元々艦娘の世代区分は、艦娘そのものの開発者である秋吉が提唱したものだった。
彼の区分基準は、その建造方式によって分けられている。人間の少女を素体として使うのが第一世代、艦魂から錬成するのが第二世代、といった具合だ。彼の教えを受けた希空も、当然その基準に倣っている。
───だが、その思いは別だった。
第二世代艦娘の特徴の一つに、「第一世代とは隔絶した性能を持つ」と言う物がある。これは元々、秋吉が2000年代前半当時構想していた第二世代艦娘の特徴であり、その基準は当時の第一世代艦娘が基準となっている。故に当時彼が考えていた性能は今ではそれほど大それた物でも無く、事実、大規模改装を経た“出雲”達が既に到達していた。
だが、希空はその「隔絶した性能」を第二世代艦娘の基準として捉えていた。よって、彼女にとって第二世代艦娘とは、それまでの艦娘を過去の物とするような高い性能を誇る存在である。
だから、彼女はそれを自ら実現する予定である“ゼロ”の建造をもって、第二世代艦娘の誕生としたかった。
だが、これは当然秋吉の考えとは異なる完全な独断であった。
ただ秋吉もその事は知っており、かつこれまでの戦訓を通じて将来的にはそれだけの性能が必要になると感じたため、最終的には希空の考えに沿う形で計画を切り替えていた。
───だが、その結果希空が作り上げた物の何処までが秋吉の想定内であっただろうか?
大人なため、様々な制約を気にしてブレーキを掛けられる秋吉と違い、希空は単に優れた頭脳を持つように造られただけの子供。
ブレーキの無い天才ほど怖いものも無いだろう。
研究所には最新の設備が揃っているため、研究開発には困らない。
資金は世界中から余るほど集まってくるため、湯水のように使えてしまう。
更に完全秘匿なため、倫理観から止める者も居ない。
施設も、金も、感情も。ありとあらゆる問題さえも取っ払った先に出来上がる物は、常人には想像も出来ない。
そうして彼女は作り上げた。作り上げてしまったのだ。
最早新たな学問を作れる程に、
既存の科学からは逸脱した技術を。
SFアニメと見紛う程、高度に洗練された化け物を。
彼女はそれを間もなくこの世に生を受ける予定である、自らの妹に余す事なく注ぎ込むつもりである。
全ては、自身の全てを掛けて造り上げた
『JK-2-X-00 “ゼロ”』を
最初の第二世代艦娘───長姉とする為。
そして、万物を撃ち貫く最強無敵の艦娘にする為に。
“ゼロ”と、彼女に続く数多の第二世代艦娘達の性能は、
1人の特異点によって、数世紀分は進んだのである。
だが、それによって生じる歪みもまた、
決して無視出来るものでは無かった──────
続く
あ と が き
“鳳翔”の子供が双子なのは、“縁の力”的なアレが原因です。彼女と親子的な形で良く描写される空母艦娘達は、皆2人セットなので。
建造装置のデザインイメージは、
ガンダムAGEの『AGEビルダー』です。
“釜”というあだ名もそこから。
次回 2人の娘と新生活