自我持つ兵器の英雄譚   作:Nyappy-

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(比較的)ほのぼの回。



27. 新たな日常

 

3月25日 横須賀 「建御雷」執務室

 

 

特務艦隊司令部の司令部機能移設日まで、残り1週間。

 

書類上は新年度と共にここ「建御雷」へ移る予定だが、

実質的には既に引っ越しは完了していた。

 

その理由はもちろん───

 

 

「おー、パパだぞ〜。いないいない……バァ!!」

 

「……」ムスッ

 

「キャ〜〜!!」キャッキャッ

 

 

新たに加わった、大切な家族を迎え入れる為。

 

洋平は執務の傍ら、2人の娘をあやす。

“鳳翔”は艦娘、それも日本唯一の空母であるためどうしても家を留守にしがちであり、必然的に洋平の方が育児への関わりは深くなっている。

そのためか、産まれてまだ2週間にも関わらず、彼は子育てに順応しつつあった。

また、研究所の預かりとならずにこうして親子共に過ごせているのは、建造後の成長過程なども含めての実験対象であった希空と違って、穂乃果と凛はあくまでも建造そのものが目的であったため、その後の経過観察の必要性が薄かったからだった。

 

2人の赤ちゃんはとても可愛く癒されると横須賀では評判であり、ここ数日は毎日のように誰かしらがやって来ている。それは今日も同じだった。

 

 

「空いてるか?」

 

「邪魔するぞー」

 

「小林司令官に田村艦長……。

一昨日来たばっかりじゃないっすか……」

 

「許せ。上層部に無理難題押し付けられて、俺達も癒しが欲しいんだよ……」

 

今日の客は小林司令官と田村艦長。

訪問回数はこの数日だけでもう2ケタに達していた。

 

「おー、やっぱり赤ちゃんは良い物だな」

 

「こんにちは。……おおっ、ハイタッチかい?元気だね〜」

 

2人が近寄ると、穂乃果と凛も反応を示す。凛はムスッとした顔ながらも満更でもなさそうにし、活発な穂乃果は小林司令官に手を伸ばし、ハイタッチをしている。

 

「なんだかお2人とも、爺さんみたいっすね」

 

「実際そんな感覚だよ、私にとっては。何せ、共に戦った親友の孫なんだからな」

 

爺さんみたいと洋平に言われた小林司令官は、そう呟き笑った。だがすぐに、その顔は寂しそうな表情へと変わる。

 

 

「……だが、こうして毎日のように癒されに来れるのも、あと少しの間だけか」

 

「それは……どう言う事です?」

 

「異動だよ。

今度、呉に引っ越す事になったんだ。艦隊丸ごとね」

 

 

彼ら2人の率いる横須賀警備艦隊は、来年度より実施される国防海軍の再編に伴い、その母港を呉に移す事が決まっていた。

 

「唐突ですね……?それとも俺が知らないだけで何かあったんです?」

 

「単純に、ここ数年の間に沈んだ艦艇の穴埋めが必要なだけさ。現状、どの管区も艦隊編成が空きだらけだからな」

 

「上層部は生き残っている艦を振り分け直して、定数通りに艦隊を編成しておきたいんだろう。私の艦隊がその最たる例だよ」

 

「……そうか、あれから一度も、艦艇は補充されていないんでしたね」

 

数年前壊滅的な被害を受けた時以降、横須賀警備艦隊へ新たに配備された艦艇はいない。元々が新型艦の登場で一線を退いた旧式艦の行き着く場所なため、主力艦隊の再建でさえ四苦八苦している現状では補充されないのも仕方ないのだが。

その結果、横須賀警備艦隊は今では大破から奇跡的に復活した「那珂」ただ1隻のみの艦隊となっている。

真っ先に再編されるべき存在な事は確かだった。

 

「けれど、それで俺達も納得した訳じゃあない。再編するにしても横須賀(ここ)ですれば良いだろ、なんで呉に送るんだ、って言ったさ」

 

「呉の警備艦隊は今のままでも定数通りだからね。そりゃ納得できんよ」

 

そう文句を垂れる2人を見て、洋平はある可能性に辿り着く。最近弟夫婦から口酸っぱく言われていた事を思い出したからだった。

 

「……艦隊再編は“建前”だと?」

 

「そうかも知れん、と言うだけだが……。もし事実だったとして、その者達の“本音”を推測するなら……君たちと我々を少しでも引き離したい、と言ったところかな。まだ若い君達は、いくら神崎家と言えども政治への影響力は低い。

そんな君達にとって我々は政治面を支える後ろ盾だ。各方面にかなりの影響力を持っていた君のお父さんとの親交もあって、それなりに私達もその恩恵を受けられているからな。

……だからこそ、そんな私達を邪魔に思う者がいたとしても、不思議ではない」

 

「……無論馬鹿らしい考えな事は百も承知だ。だが、近頃の上層部の事を踏まえれば、な」

 

「そんなに酷いんですか?」

 

「ああ。以前よりもあからさまになり始めたように感じるな。恐らく、開戦から10年が経過して当時から居る高官が高齢化し、引退を余儀なくされたのが響いているのだろう……」

 

「その爺さん達が、艦娘推進派の中核なんだしな。少なくとも、これから先、今までのようには行かなくなるのは間違いない。……君のお父さんが生きていたなら、また違ったのだろうけどな……」

 

 

そう聞いて、溜め息を吐く洋平。政治面において影響力を失う事は、つい先日実施した大規模改装などの「莫大な予算を必要とする物」が実現し難くなる事を意味しているからだ。

そしてそれは、次世代艦娘の建造計画に遅延をきたす事をも意味していた。

 

 

「どうにかならないんです?」

 

「異動はもう取り消せない。だが、心配するな。決してそれだけで後ろ盾としての役目を果たせなくなる訳では無い事は分かっているだろう?当面の間は大丈夫だ」

 

「……まぁそれに、着任予定の役職を考えれば左遷どころか充分栄転だしな。何せ司令官は呉鎮の提督、俺はその副官に任命されたんだからな。だから、中枢への影響力自体は問題無いはずだ」

 

「あぁ、そうなんすね。……なら大丈夫か?」

 

これからどうなるのか不安に苛まれつつあった洋平だったが、事態は思っていたよりも深刻ではなさそうだったので胸を撫で下ろした。

 

 

「そう言う訳だから、呉に行く前に目一杯この可愛さを摂取して行かねばな!」

 

「そう言う事だ」

 

 

(これ、異動するまで毎日来る気か……?)

 

すっかり赤ちゃんに夢中な2人のおじさんの姿に、洋平は苦笑いを隠せなかった。

 

 

 

 

 

その日の夜

 

「〜〜〜♪」

 

鼻歌を歌いながら穂乃果を抱っこしてあやしている洋平。

定時で執務を終わらせ、自室へと戻ってきた。

 

既に“鳳翔”も帰宅していて、現在夕飯の支度中。

その間、彼は赤ちゃんのお守りを担当する。

ただし凛は寝ているため、抱っこしているのは穂乃果だけ。

 

「んん……」

(もう少し腕動かしてゆらゆらするか?いや、やめとくか?)

 

試行錯誤しながらも、彼は穂乃果を楽しませるべく抱っこを続ける。

 

「キャ〜〜!」

 

幸い穂乃果は嬉しそうに笑っている。

 

 

「ご飯出来ましたよー。

 

……ふふっ、日が経つごとに様になっていきますね」

 

「毎日やってるからな」

 

そう話しつつ、2人はテーブルに移動する。

穂乃果と凛は赤ちゃん用の椅子に座らされている。

 

 

食べ始めてから少し経った時、“鳳翔”が困ったような顔で呟いた。

 

「……すみません、本当は私がやるべき事なのに」

 

「良いんだよ。前線で戦う艦娘と、後方で指示飛ばすだけの俺達じゃあ、負担が圧倒的に違うんだから」

 

「ですが……」

 

「それに、非番の時に他の家事全般はやってくれてるんだ。これくらいの事はしなきゃ、釣り合わないだろ?」

 

「そういうもの、でしょうか」

 

「……まぁ、こういう言い方はしたくないが、仕事の一環でもあるしな。2人の様子を逐一報告してくれ、って秋吉と希空から頼まれてんだよ」

 

「艦娘研究のため、ですか?」

 

「ああ。希空の時と比べれば重要度は低いけど、

それでも次世代艦娘の雛形ではあるからな。

 

データは欲しいだろうよ」

 

 

「仕事としてやってる部分もあるんだから、気にするな」と言い、“鳳翔”をフォローする洋平。

だが、穂乃果と凛の世話を率先してやっている1番の理由はやはり、2人の見せる表情や行動などなど、何もかもが可愛くて仕方ないからだった。

 

 

その後は一緒に風呂へ入り、そのまま寝室へ。

 

寝室には、2人用のベビーベッドが置かれている。誕生祝いとして希空が軍事用の3Dプリンター(性能は言わずもがな)で製作した物だ。

 

疲れていたのか、2人ともすぐに寝てしまった。

 

「取り敢えずこれで大丈夫そうだな。絶対一回ミルクの時間は来るだろうけど」

 

「その時は一緒にやりましょうか」

 

「おう、でも無理すんなよ?眠ければ寝てて良いからな」

 

「心配は無用です。そのくらい出来ます」

 

「なら良いけど」

 

そして、洋平と“鳳翔”もまた、いつも通りにベッドへ入る。

 

「……じゃあ、電気消すぞ」

 

そう言って洋平は、枕元の電気を消す。

 

 

「おやすみなさい」

 

「おやすみ」

 

そう言い合ったのち、2人の今日は終わりを告げた。

 

 

 

 

 

4月1日

 

特務艦隊司令部及び第一特務艦隊、

 

司令部機能を艦娘母艦「建御雷」へ移設

 

 

横須賀鎮守府警備艦隊、解体

 

呉鎮守府警備艦隊と共に、『太平洋方面警備艦隊』へ

 

 

また他の艦隊でも同様の再編が実施され、国防海軍は新たな時代を迎えた。

 

人事面においても高齢化した高官に代わり新たな人物がその座へと就き、それまでとは少し異なった雰囲気を醸し出している。

選ばれた者がいずれも意外な人物であったため当初は異例の人事などと騒がれたが、新体制となった国防軍は様々なメディアを通じて国内外に「年功序列からの脱却」をアピール。そのフレッシュ感や実力主義的なやり方によって、国防軍のイメージはそれまでよりも格段に良くなったと言える。

 

 

 

 

 

それらはまるでこれからの未来、

2010年代の行く末を暗示するかのようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く





あ と が き

当然ながら、私は子育てをした経験はありません。
実体験する時は来るのか。全くもって未定です。


次回 “本当の第二世代”へ
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